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借りパク音楽反省会

借りパク音楽反省会

第1回:「借りパク」は鳴り止まないっ

アサダワタル Sep 16,2015 UP

借りパク:

借りパクとは、人から借りた物をそのまま自分の物にすること。
借りパクとは「借りてぱくる」「借りた物をぱくる」の略である。「ぱくる」の意味のひとつに「盗む」がある。要するに借りパクとは人から借りた物を盗ってしまうことである。ただし、万引きや泥棒のように始めから盗ることを前提にしていることは少なく、借りたことを忘れ、結果的に私物になった(主にマンガなど安価な物の貸し借りに見られる)、当初は返すつもりであったが返せなくなった(主に金銭の貸し借りに見られる)といったものが多い。貸した側が忘れていることも多い。また、エリアによっては借りパチともいう。(引用元:インターネットサイト「日本語俗語辞書」)

 僕はよく引っ越しをする。ここ20年で数えたところ計9回。そして毎回荷造り荷解きのたびに、段ボールに詰まった本やCD、VHSやDVDなどを眺めながら、幾ばくか作業の手を止めて、その文化的な財が誘う記憶の旅へと出向いてしまうのだ。とりわけ長きに渡って残っているのはCDで(それは僕がミュージシャンであり、かつ1979年生まれという世代的理由も含めて)、思わずコンポに入れて流してみたり、忘れられた名曲を発見してはiTunesにせっせと入れたりして、ついに片付けはまるではかどらない状態になってしまうのだが。

 中でも、当時の記憶がとりわけ鮮やかに蘇ってくるのは、人から借りているCD。もっと正確に言うと、借りたまま半ば自分の物として存在してしまっている……すなわち「借りパク」したCDだ。これまで引っ越しや進学、転職などを機に、友人や先輩、かつての恋人から数多くのCDを借りパクし(その数およそ50枚。ごめんなさい)、また同時に同じくらいの品々を借りパクされてしまったり。程度の差こそあれ、このような経験は音楽ファンの多くがお持ちではないだろうか。

 そして思い出すだけでもあれやこれや。ハードロックから渋谷系、ニューウェイヴからテクノ、映画音楽や歌謡曲などなど、洋・邦楽、ジャンルもそれなりに多岐に渡り、ひとつひとつに「ああ、あの時そう言えばあいつに返しそびれたな……」と、その時代時代にお付き合いのあった大切な人の顔を思い出すのである。そんなほろ苦い思い出とともに耳元にじんわりと立ち籠めてくる素晴らしい名曲の数々。

 手始めに一枚、紹介しよう。


(注:手書きポップに書かれているイニシャル「W.A」とは僕のこと。このポップを書いた2012年当時は33歳だったか現在はもう少し歳をとっている。以後すべて同。)

 あれは確か大学一回生の時。僕は家庭教師のアルバイトをしていて、大阪南部に住む高校3年生の女子生徒Sの家まで毎週原チャリで通っていたのだ。Sは長身のスラリとした女の子でちょっと人見知り。っていうか、今思えば歳も2つしか(僕は浪人して大学入ったから)離れてなかったのだから、こっちもなんだか妙に緊張して教えていたなぁ。当時、爆発ツイストパーマをかけていた僕の髪を見ながら、毎回半笑いでお出迎えしてくれたお母さんの存在もあわせてよく覚えている。

 そんなSともちょっとずつコミュニケーションが取れてきて、英語と現代文の授業の合間に入る休憩時間に、お母さんが出してくれたカルピスとパンケーキを食べながら、最近聴いている音楽の話をしたっけ。そこで、彼女の机の上に置かれていたのがこのUAの記念すべきファーストアルバム『11』だ。どうやらこのCDを学園祭でかけながらダンスをしたとのこと。UAのファッションにも関心があったそうで、当時の雑誌のインタヴュー記事なども熱心に見せてくれた。もちろんUAの名前は知っていたがちゃんと聴いたことがなかった僕は、彼女に薦められるがままに「じゃあ、すぐに返すからね」と言って借りて帰ったのだ。

 その後、受験勉強は佳境に差し掛かりほとんど無駄話することなく試験当日へ。無事、第一志望の大学に合格してくれたのでよかったものの、そのまま契約も終わって会うことがなくなってしまって……。彼女も僕に感謝の気持ちがあったのか、わざわざ「返して」って言い出しにくかったのかもしれない(まぁ、完全に僕が悪んだけどね)。あるいは、単純に貸していたことを忘れていたのかかも(そんな都合のいいことはありえないか)。後日、シングルカットの「リズム」を聴きながら、“今、返せないのは そう永遠のリズム〜♫”、だなんてどうしょうもない替え歌を歌って、そのCDの供養に代えたのであった。

みなさんの“借りパク”音楽大募集!

 さてさて。僕は、常日頃から音楽は人々のプライヴェートな記憶をパッケージングするメディアとして大変優れているものだと感じてきた。J-POPひとつをとっても、たとえば、
「ああ、スピッツの“スパイダー”を聴くと、高校の時に付き合っていた彼女のこと思い出すわー」
とか、
「モーニング娘。の“ラブマシーン”を聴くと、日本の未来を考えて受験勉強してたあの頃を思い出すわー……」
とかとか。

 中でも、「その人の所有物を預かってしまっている」状態であり、現物がまさに目の前にある(場合によっては歌詞カードに生々しい手紙が入ってたり)「借りパク音楽」は、その時代ごとの「人との関係性」を一層明確に思い出させるものとして、より具体的にその人との記憶を強く想起させるメディアになっているのではないかと、僕は思ったわけだ。そしてなおかつ「返せなかった」ということはそれなりの理由があるわけで(例えば元恋愛関係だから気まずい/相手が引っ越ししてしまい消息不明/兄弟だからいつでも返せると思ってそのまま/他界した/喧嘩別れした友人だから、などなど)、その悔恨の感情が、一層その記憶の想起へと加担し、「いまあの人は元気にしているのだろうか……!?」と想いを馳せることとなるのだ。

 読者の皆さんから「っていうか、ごちゃごちゃ言ってないで早く返してやれよ!」とお叱りの言葉が聞こえてこなくもないのだが……。しかし、僕は閃いてしまった。どうせいまさら返せないのだ。だったらその「借りパク音楽」を有効活用しようと。すなわち、「借りパク音楽」ゆえに到達できる記憶の旅へとさまざまな人たちを誘い、もちろん反省の気持ちも綯い交ぜにしながら、新しい音楽の楽しみ方へと昇華させてやろうじゃないかと。

 そんなわけでこの連載では、僕が借りパクしてきたCDと、知人友人をたどって取材してきたさまざまな音楽ファンが借りパクしてきたCDとを一挙に紹介してゆく。音楽性や音楽史や音楽理論とはまったくもって関係のない、個々人の極私的な記憶をベースにした、少しヘンテコで楽しい音楽の楽しみ方を提供しつつ、読者の皆さんもおそらく一枚はお持ちであろう(CDラックを綿密に確認してみてほしい!)「借りパク音楽」への関心を引き出し、追憶の旅へと誘おうではないか。

■借りパク音楽大募集!

この連載では、ぜひ皆さまの「借りパク音楽」をご紹介いただき、ともにその記憶を旅し、音を偲び、前を向いて反省していきたいと思っております。
 ぜひ下記フォームよりあなたの一枚をお寄せください。限りはございますが、連載内にてご紹介し、ささやかながらコメントとともにその供養をさせていただきます。

Profile

アサダワタル/Wataru Asadaアサダワタル/Wataru Asada
1979年大阪生まれ。作家、ミュージシャン。2000年代初頭より「越後屋」(NMR)や「SjQ」 (HEADZ)でのドラム担当、「大和川レコード」名義でのソロ活動にて、ライブやリリースを行う。その後、表現活動を"音"から"場/事"に拡張し、スペースの運営や教育・福祉現場における音楽ワークショップの実施、それらに纏わる文筆活動を開始。著書に『住み開き 家から始めるコミュニティ』(筑摩書房)、『コミュニティ難民のススメ 表現と仕事のハザマにあること』(木楽舎)など。2013年に、ドラムを担当する「SjQ++」が、アルス・エレクトロニカ2013デジタルミュージック部門にて準グランプリ受賞。

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