Home > Regulars > 音と心と体のカルテ > 第四回:「夏らしいこと」
最近友だちと、夏になったことを話していて「なんか夏らしいことした?」と言われた。
夏らしいこと……
まだ夏らしいことを、そういえばしていなかった。久しぶりの子供たちとのゆっくりした時間に、小さなプールをベランダに出して、「夏らしい」水遊びをした。太陽の光の温かさを意識的に感じながら、そういう自然のリズムに身を委ねることを、しばらくしていなかったことに気がついた。
Chihei Hatakeyama + Federico Durand Magical Imaginary Child White Paddy Mountain |
そのときに僕らの環境となっていた音楽は、チヘイ・ハタケヤマ + フェデリコ・デュランド『Magical Imaginary Child』(White Paddy Mountain)だった。去年の5月頃、フェデリコが来日したときの録音で、ジャケットは石のお地蔵さん。CDを手にして開いたときに、内ジャケで待っている穏やかなお地蔵さんの写真がリスナーに「落ち着き」を与える。「岩に染み入る蝉の声」といった、日本人特有と言われることの多い「夏の音」を連想させるジャケットが気持ちいい。
そんな静かな音楽に、子供たちのはしゃぐ声と、水の音がこの音楽に混ざり合って、その瞬間にしか聴くことのできない、一期一会の音楽がそこらへんをふわふわしていた。
自分自身の作品も含めて、アンビエント・ミュージックと呼ばれている音楽のほとんどを、僕はアンビエント・ミュージックだとは思っていない。けれど、このアルバムは、アンビエント・ミュージックだと僕は思う。
このタイトルがなぜついたのかは知らない。ちょうどこの録音がされた頃、畠山くんもフェデリコも僕も、子供が生まれる直前だった。2014年は、ウィル・ロング(セラー)の子供も生まれて、アンビエント・チルドレンだねなんて話を冗談でした。タイトルの『マジカル・イマジナリー・チャイルド』って単数だから、誰かの子供を言ってるんだろうか。音楽もタイトルも直球で、何か大きな驚きがあるアルバムではなかったけど、上質なアンビエント・ミュージックだと思う。
夏には夏の光があるように、夏の音がある。環境として流された音楽の上に夏の音が加わると、その音楽はもっと豊かになる。これからも末永く、環境音楽として選ぶことになるだろうアルバム。
(イラスト:吉岡渉)