「坂本龍一」と一致するもの

Robert Gerard Pietrusko - ele-king

 現代を代表するアンビエント作家ローレンス・イングリッシュが主宰する〈Room40〉からリリースされたロバート・ジェラルド・ピエトルスコの『Elegiya』(https://room40.bandcamp.com/album/elegiya)は、10年代以降の「高密度な音の粒の持続によるドローン/アンビエント作品」の中でも、ひときわ質が高いものに思えた。
 例えばステファン・マシューの10年代以降のドローン作品やヤン・ノヴァクのアンビエント/ドローンに匹敵すると書けばよいだろうか。音が空気の粒子のように心身に浸透する感覚が満ちていたのだ。電子音の海に溶かされていく弦楽器のような音響の持続と変化。ミニマルでドラマチック。相反する要素が、音の空気と時間に溶け合っている。

 ロバート・ジェラルド・ピエトルスコは1979年生まれ、米国出身の音楽家、デザイナー/サウンド・アーテイストである。ハーバード大学大学院デザイン研究科のランドスケープ・アーキテクチャーと都市計画の助教授でもあるという。彼はこれまで「ニューヨーク近代美術館」(MoMA)、「サンフランシスコ近代美術館」(SFMOMA)、パリの「カルティエ現代美術館」など、さまざまな美術館やギャラリーでの展示をおこなってきた。
 音楽家としてのロバート・ジェラルド・ピエトルスコは、エクスペリメンタル・シューゲイザー・ロックの Mahogany としての活動でも知られている。電子音楽家としては2019年に Six Microphones 名義で、ケンブリッジを拠点とするサウンド・アート・レーベル〈Counter Audition〉(https://www.counter-audition.org/000ca-six-microphones)とリチャード・シャルティエが運営する現代サウンド・アート・レーベルの老舗〈LINE〉から『Six Microphones』(https://lineimprint.bandcamp.com/album/six-microphones)を発表した。『Six Microphones』は、2013年にニューヨークの「ストアフロント・フォー・アート・アンド・アーキテクチャー」で発表されたインスタレーション作品の音源を編集したアルバムで、硬質かつ無機質な持続音が展開される美しいサウンド・アート音響作品だ。

 本作 『Elegiya』は、『Six Microphones』に比べると柔らかなアンビエント感覚が濃厚な作品に仕上がっている。シューゲイズ的ともいえる快楽的なノイズ・アンビエントを展開しているのだ。心地よく、つい何度も聴いてしまいたくなるような中毒性がある。
 『Elegiya』には全9曲が収録され「5つのピアノのモチーフ」の変奏と展開で構成されている。じっさい聴いてみるとピアノの音は溶け合うように消失してしまっており、淡い響きのドローンへと変化を遂げていることもわかってくる。そのサウンドはロマンテイックかつシンフォニックだ。坂本龍一とクリストファー・ウィリッツが2007年にリリースした『Ocean Fire』に近いムードといえばわかりやすいかもしれない。ステファン・マシューとデヴィッド・シルヴィアンの傑作『Wandermude』の音響に近いムードも持っているようにも聴こえた。

 ともあれ『Elegiya』において音の実体(ピアノの原音)は緻密かつ大胆な加工と編集によってはぎ取られ、別の音響へと変化を重ねていくさまをわれわれは耳にすることになる。かつて00年代のマイクロスコピックな音響は、ミニマリズムの極限へと向かっていったが(『Six Microphones』はそれに近い)、本作『Elegiya』においては世界の不安定や破滅への予感を孕んだムードを聴き手の心理に「効かせる」ごときサウンドを生みだしているのだ。
 この変化は「世界」に「破滅への予感が充満してきた」ことと無縁ではないかもしれない。じじつ『Elegiya』には、「破滅への予感」というべき非劇的なトーンが全編に横溢している。それゆえ「Elegiya=エレジー=悲歌・哀歌」なのだろう。むろん、ここには「声」や「歌」はない。メロディですら音響の海に溶け切ってしまっている。しかしそれらの残滓のような響きは音の残像の向こう側に微かに「ある」のだ。
 『Elegiya』には失われてしまったものを希求するロマンティシズムと「いまここ」の喪失を鳴らすリアリズムが溶け合っている。世界への「エレジー」のように。まさに黄昏色のごとき深いノスタルジアを内包するアンビエント作品といえよう。

Phew - ele-king

 先日ニュー・アルバム『New Decade』のリリースがアナウンスされた Phew ですが、嬉しい続報です。10月22日に発売される日本盤CDと輸入盤LP、それぞれにTシャツ付きの限定盤が登場! ディスクユニオンのみで購入できます。どちらもS、M、L、XLの4サイズあり。数に限りがあるため、早めに予約しておきましょう。

Phew、ニュー・アルバム『ニュー・ディケイド』のTシャツ付限定盤をディスクユニオン限定で発売!

Phewのニュー・アルバム『ニュー・ディケイド』(New Decade)のTシャツ付限定盤がディスクユニオン限定で発売されることとなった。Tシャツのデザインは、ニュー・アルバムのアートワークを手掛けた鈴木聖、写真は塩田正幸によるもので、対象商品は日本盤CDと輸入盤LPとなり、オリジナル商品と同様10月22日に発売される。

Traffic / MUTEレーベルよりワールドワイド・リリースされるニュー・アルバム、現在は第一弾先行シングル「Into The Stream」が公開されている。日本盤CDには、20分以上にも及ぶドローン作品「In The Waiting Room」がボーナス・トラックとして収録される。

■ディスクユニオン 予約リンク
https://diskunion.net/jp/ct/news/article/0/98955

■第一弾先行シングル「Into The Stream」ミュージックビデオ
(青木理紗監督)
https://youtu.be/K060lQ7sEAU

■ニュー・アルバム詳細
https://trafficjpn.com/news/phew-2/

■プレスリリース抜粋
「感傷的なものは排除したかった」と語る、約30年ぶりにMuteから発売されるアルバム『ニュー・ディケイド』は、世界の、自己陶酔する偽物たちへの彼女からの断固たる反撃なのだ。「今の状況を考えると、私はラッキーだったのかもしれません。昨年は特に、生きているだけでもある意味、幸運という状況でしたから。ミュージシャンやアーティストとして、自分の気持ちを率直に語ることができるのは、このような状況下においてはある種の特権であり、それを濫用してはいけないと感じました」

「30年前には、“ニュー” という言葉は、進歩や物事がよくなることの同義語でした」と、80年代のバブル期の日本が熱狂した拡大主義を思い出して、Phewがいう。「今はもう、そんな事は信じていません」そして、このアルバムを通して、時間の認識についての、緩いコンセプトが流れているのだという。「80年代、そして90年代までは、物事が過去から現在、未来へという流れで進行していましたが、特に21世紀が始まって以来、その流れが変わってしまったと感じます。個人的には、現在から連なる未来というものが、見えなくなってしまいました」

*プレスリリース全文
https://trafficjpn.com/news/phew-pr/

■商品概要

アーティスト:Phew (Phew)
タイトル:ニュー・ディケイド:Tシャツ付限定盤(New Decade: Limited Edition with T-Shirts)
発売日:2021年10月22日(金)

Tracklist
1. Snow and Pollen
2. Days Nights
3. Into the Stream
4. Feedback Tuning
5. Flashforward
6. Doing Nothing
7. In The Waiting Room (日本盤CD:bonus track)

●仕様: 日本盤 CD+T-SHIRTS

定価:5,450円(税抜)
サイズ:S、M、L、XL

●仕様: 輸入盤 LP+T-SHIRTS

定価:6,264円(税抜)
サイズ:S、M、L、XL

*Tシャツ・サイズ、品盤など詳細
https://trafficjpn.com/releases/phew-new-decade-shirts/

[ディスクユニオン 予約リンク]
https://diskunion.net/jp/ct/news/article/0/98955

■プロフィール

伝説のアート・パンク・バンド、アーント・サリーの創設メンバーであり、1979年解散後はソロとして活動を続け、1980年に坂本龍一とのコラボレーション・シングルをリリース、1981年には、コニー・プランク、CANのホルガー・シューカイとヤキ・リーベツァイトと制作した1stソロ・アルバム『Phew』を発売。1992年、MUTEレーベルより発売された3rdアルバム『Our Likeness』は、再びコニー・プランクのスタジオにて、CANのヤキ・リーベツァイト、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンのアレックサンダー・ハッケ、そしてDAFのクリスロ・ハースと制作された。2010年代に入り、声と電子音楽を組み合わせた作品を次々に発売し、エレクトロニック・アーティストとしても世界的評価を高めた。ピッチフォークは「日本のアンダーグラウンド・レジェンド」と評している。また、アナ・ダ・シルヴァ(レインコーツ)、山本精一(ex. ボアダムス)等とのコラボレーション作品も発売。2021年10月、最新ソロ・アルバム『ニュー・ディケイド』はTraffic/Muteより世界発売。

https://www.instagram.com/originalphew007/
https://twitter.com/originalphew
https://www.facebook.com/Phew-508541709202781
https://phewjapan.bandcamp.com/merch

interview with 食品まつり a.k.a foodman - ele-king

 早口である。食品まつりはとにかく早口である。同じ副詞を繰り返しながら異なる内容に切り替わっていくしゃべりはさながらジュークにも等しい。ジュークみたいにしゃべるからジュークをつくるようになったのか。それともジュークをやっているうちに話し方もジュークみたいになったのか。副詞を多用せず、主語と述語の結びつきをもう少し明確にすれば黒柳徹子のようなしゃべり方になるのかもしれないけれど、そのようにする必要は感じられない。黒柳徹子のようにしゃべると音楽性が変わってしまう気がするということもあるけれど、慌てたようにしゃべり、人と話をするときに焦りがちな食品まつりが、今回のように「やすらぎ」というコンセプトを掲げることには自然と説得力を感じるからである。ジュークなのに「やすらぎ」。このような矛盾した命題をクリアーしていく、その特異な音楽性。あるいは変革の予感。そして、何よりも食品まつりはいま、日本のアンダーグラウンドから世界に向けて独自の音楽的ヴィジョンを発信し、日本からオリジナルな音楽が生まれるという実績を積み重ねている最中なので、黒柳徹子にかまけているヒマはないのである。サン・アロウのレーベルからリリースされた『ARU OTOKO NO DENSETSU』から2年10ヶ月、〈ハイパーダブ〉から新作をリリースした食品まつりに換気のいい部屋で話を訊いた。

コロナになって、ライヴもあまりできなくなって〔……〕深い意味もなくて、アジフライをSNSにアップしたりして、そういう日常の楽しみの比重が大きくなってきたというかな。身の回りの楽しみというか。

チャレンジャーですよねー。

食品まつり(以下、食まつ):そう言っていただけると。

真価がわかるのは2~3年後かなという気がするぐらい、戸惑いもあります。

食まつ:ああ、そんな。

こんなに変えちゃうものかなという……思い切りが良すぎて。

食まつ:はい。

これは制作期間は? 『ARU OTOKO NO DENSETSU』が終わってから?

食まつ:そうですね。『ARU OTOKO』が終わって、制作をはじめたのが去年の7月ぐらいからなんですけど、だいたい1ヶ月ちょいぐらい。

早いんですね。『EZ MINZOKU』はコンセプトを決めてつくり込んだもので、『ARU OTOKO』は何も決めないで思いつくままにつくったということでしたけど、今回は?

食まつ:今回はコンセプトがあって、まず音的な面は、自分が20代前半にギターとパーカッションで友だちと名古屋の路上で演奏していた時期がけっこうあったんですけど、友だちがギターをじゃかじゃか鳴らして、僕がそれに合わせてパーカッションというか、小さなタイコを合わすみたいな。そんな感じでやっていて、たまに自作の曲もやったりして、あんま考えもナシに路上で遊んでただけなんですけど、お酒を飲みながらやっているとセッションみたいになって、パカパカやってると通りすがりの酔っ払いも入ってきたりして。

(笑)。

食まつ:それが楽しかったという記憶があって。そんな大して上手くもないんですけど、やっているうちにトランス感が産まれる気がして。

トランスということは、人が聞いてるとかじゃなくて……

食まつ:自分たちがただ楽しくなって。上昇していく感じになって。それが面白いなって。で、これを打ち込みでやったら面白いんじゃないかなというアイディアはけっこう前からあったんです。そういうのがボンヤリとあって。それがひとつ。で、コロナになって、ライヴもあまりできなくなって、最初はちょくちょく名古屋のクラブには遊びに行っていたんですけど、そういう機会もなくなって。

うん。

食まつ:で、家の周りとかしか行くところがなくなって、自分は名古屋の外れに住んでるんですけど、その辺をうろうろしてたら、高速道路の入口があって、パーキング・エリアに裏から入れるというのを発見したんですね。「裏から入れるじゃん」と思ってパって入って、で、食堂があったんで、ちょっと入ってみようと思って、なんとなく頼んだのがアジフライで……

あー、ツイッターであげまくってましたね。

食まつ:「アジフライ、美味しい」ってなって、そこからハマっちゃって。週5ぐらいの勢いでパーキング・エリアに行っちゃって。

週5(笑)。

食まつ:そう。で、まあ、深い意味もなくて、アジフライをSNSにアップしたりして、そういう日常の楽しみの比重が大きくなってきたというかな。身の回りの楽しみというか。

今回のアルバムで意識したのは全曲同じように聞こえるということなんですよ。〔……〕自分の好きなアルバムというのは、似た感じの曲が並んでるのが多いなというのがあって。ベーシック・チャンネルとか。

なるほどコロナの影響なんですね。

食まつ:そうですね。そっから入っていって、そんなことやってるうちに、やっぱアルバムをつくんなきゃいけないなってなって。なんとなくボンヤリと自分の中で2~3年に1枚つくんなきゃいけないかなというのがあって。

けっこう空きましたもんね。

食まつ:そうなんですよ。それでパーカッションとギターのアイディアと、今回、いろいろと日常で経験した楽しいことを合わせた感じは面白いかなって。

20代前半に感じたことを振り返るというノスタルジーではなく?

食まつ:そうですね。ギターとパーカッションを使うということだけ決めて。

確かに “Yasuragi” “Shiboritate” “Parking Area” “Minsyuku” といったあたりはギターありきの曲だと思いました。

食まつ:そうですね、ギターのじゃかじゃかした感じやパキパキした感じで。

自分で弾いて?

食まつ:いや、プラグ・インとサンプリングを分解して組み替える、みたいな。自分ではぜんぜん弾けないので(笑)。押尾コータロー、ヤバいなとかも思ってたりしたので。バカテクの。

全部、リズム・ギターですよね。リズム・ギターに対する強い関心が?

食まつ:そうですね。まさにリズム・ギターですね。

『ARU OTOKO』がすごくいいと思っていたので、最初は「え?」と思ったんですけど……

食まつ:(笑)。

一番違うのはなんだろうと思ったら、メロディがなくなってるんですね。シンセが入ってなくて、そのせいなのか、シュールな感じがしないと思ったんですよ。『ARU OTOKO』にあった凄みがなくなって、即物的になってるんだと。音だけが置かれていて、精神的な部分を膨らませる気がないなって(笑)。

食まつ:かもしれないですね。音自体はフィーリングでつくってるだけだったんですけど、今回のアルバムで意識したのは全曲同じように聞こえるということなんですよ。

全部同じ? そうだったかなあ(笑)。

食まつ:そういうイメージだったんですよ(笑)。

自分ではそうなんだ? “Sanbashi” はまったく違うと思うけど。

食まつ:ああ、あれはそうですね(笑)。自分の好きなアルバムというのは、似た感じの曲が並んでるのが多いなというのがあって。ベーシック・チャンネルとか。大体、似た感じじゃないですか。

一堂:(笑)

パラノイアックにやりたいんだ?

食まつ:今回は統一感を持たせたくて。『ARU OTOKO』がいろんな世界に行ってたんで、つくってる期間も今回は短めだったし、夏だったので、汗かきながらいろんな場所に行って集中してつくっていたということもあるのかなって。記憶としては曲をつくってるというより汗だくになって自転車で走ってるという記憶の方が残ってるんですよ。めちゃくちゃ日焼けして。曲つくってるのに、肌が黒いっていう。

一堂:(爆笑)

食まつ:「どういうこと?」っていう。

いいじゃないですか(笑)。

食まつ:体も引き締まってきて(笑)。つくりながら面白いなって思ってて。

コロナっぽくないですねー。

食まつ:そうですね。健康的になって。

僕は、今回はコンセプトがあるとしたら日本の伝統的なリズムをテーマにしたのかなと思ったんですよ。

食まつ:それに関してはなんも考えてなくて。

そうなんだー。“Michi No Eki” がお経を読むときのリズムに聞こえたり、“Numachi” はまた三三七拍子やってるなーとか、“Food Court” は聴くたびに印象が変わるんだけど、チンドン屋っぽく聞こえたりね、〈ハイパーダブ〉からリリースするにあたって日本のリズムを海外のリスナーに意識させてやろうと考えたのかなって。

食まつ:無意識に出たのかもしれないですけど、手癖というか、自分がよく使うパターンというか、あと、けっこう、間(ま)を意識したところはあったかもしれないです。

日本のリスナーよりもイギリスの人にはどう聞こえるのか興味あるというか。

食まつ:ああ、確かに。

コロナで困ってるミュージシャンは多いと思うんですけど、ユーチューブで楽器の弾き方や解説をはじめた人がたくさんいて、そのなかでロサンジェルスに住んでる日本人のジャズ・ドラマーの人が日本のリズムについて解説していた動画あったんですよ。

食まつ:はい。

いろんな国から来てる人たちと演奏する機会が多いから、みんな自分の国のリズムについて話すのに自分だけ日本のリズムがわかっていなかったと。悩んじゃったらしいんですよ、「お前の国のリズムは?」と訊かれて。

食まつ:なるほど。

それで、その人が見つけたのが千葉県のお寺でお経を読んでいる動画で、言われてみるとヘンなリズムなんですね。カカッカッカッ……みたいな。

一堂:(笑)

確かに面白いリズムなんですよ。西洋のリズムではないしね。食品さんもジュークから入って、洋楽のリズムでスタートを切ってるわけだから、日本のリズムを意識すると、今回の作品みたいになるのかなあと思って。

食まつ:ああ。そう言われるとそんな気もして来ますねえ。

でも、意識的ではなかったんですね。

食まつ:そうですね。日本のビートを意識したのは三三七拍子だけでした。つーか、あんまり意識してしまうと、そのままになってしまうというか。

パラパラとか阿波踊り的な。そこが日本的だなって。上半身だけで踊る感じ。

食まつ:そうかもしれないですね。

ベースを入れないせいもあると思うんだけど、そのことにはアンビヴァレンツな感情もあるんですけど(笑)。

食まつ:このアルバムをつくる前にUKの CAFE OTO っていうヴェニューがあって、ロックダウンで困っているミュージシャンを救済する意味もあるんですけど、そこがやってる〈タクロク〉というレーベルから去年、僕も「SHIKAKU」というEPを出していて。それがちょっと今回のアルバムの青写真的な意味もあって、カクカクとしたビートをつくりたいというコンセプトで。全体にカクカクしてて(笑)。それをつくったことがアルバムに影響してるなあと自分でも思うんですけど。

うん。「ODOODO」みたいなEPとはぜんぜん違いますよね。よくこんなにつくり分けられるなって。

食まつ:あれは〈マッド・ディセント〉から出てるし、もうちょい広い層に聞いてもらいたいなというものなので。あんまりやってなかったような曲もやってみたりして。ハウスとか。実験で。

そうでしたね。

食まつ:いままで聞いてなかった人からも「よかったよ」って声かけられたんですよ。

広がりがあったんだ。最後に入ってた “Colosseum” というのは何かのサンプリングなんですか。あのメロディは個人的にツボだったので。

食まつ:あれはサンプルを細かく切って並べる感じです。

ああ。じゃあ、ああいうメロディの曲があるわけじゃないんだ。

食まつ:そうですね。

でも、今回は『YASURAGI LAND』から完全にメロディをなくすと。それは初めから決めてたんですね。

食まつ:あんまり意識してなかったですけど、言われてみると確かにメロディはあんまりないか……

まったくないですよ。意識していないなんてスゴいなー。

食まつ:言われてみるとそうですね。

一堂:(笑)

食まつ:自転車で走ってたのが必死だったという記憶の方が濃くて。

一堂:(笑)

そうかもしれないけど、最後に家でトラック・ダウンとかするわけですよね。そのときに物足りないとは思わなかったと。

食まつ:そうですよね(笑)。

満足してるんですよね(笑)。

食まつ:そうすね(笑)。

一堂:(笑)

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「休んで下さい」という感じですね。座敷とかで寝転んでお茶でも飲んで……みたいな。

タイトルが「やすらぎ」じゃないですか。いま、脳内物質はドーパミンじゃなくてオキシトシン志向だというトレンドというか、傾向がありますけど……

食まつ:いや、なんか、「やすらぎランド」とかありそうじゃないですか。地方には。

東京以外の雰囲気は僕はぜんぜんわからないんだけど、そうなんだ?

食まつ:ありそうなんですよ。「やすらぎランド」って響きもいいし、あとまあ、ゆったりした曲もあるし。だったら『YASURAGI LAND』かなあって。

実際に「やすらぎランド」を建てちゃったらいいんじゃない?

食まつ:そうすね(笑)。

僕の印象だと東京の中心よりも、その周辺の方がシャレた名前を店につける気もするんだけど。「シャトレーゼ」とか。

食まつ:ああ、地方とか田舎の方ががんばっちゃうのかもしれないですね。

東京の方がダサい名前が多いような……名古屋だとなんのイメージもないんだけど。

食まつ:ああ。わけのわかんない名前の店もいっぱいありますよ(笑)。

まあ、でも、そのタイトルにするということは、「ここに来て安らいで下さい」ということなんですよね。

食まつ:「休んで下さい」という感じですね。座敷とかで寝転んでお茶でも飲んで……みたいな。

最初、タイトルだけ見たときに、『ARU OTOKO』からシンセが醸し出す雰囲気が受け継がれてるのかなと予想したんですよ。アンビエントっぽいような。でも、実際にはリズムがチャカポコ来たなっていう(笑)。

食まつ:確かにそうすね(笑)。

まあ、でも、それが和風のリズムに聞こえたところで、まったく違うアルバムだなと思って。それこそYMOが出てきたときに「テクノお神楽」と評されたことがあったんですよ。それに倣うと「ジュークお神楽」みたいだなあというか。実際にはどこもお神楽じゃないんだけど。

食まつ:ああ、なるほどー。

まあ、日本っぽいニュアンスがあるということですよ。でも、それで「ジューク感」があるのがスゴいというか。

食まつ:今回は割にあるかもしれないですね。

意識しなくても「和風が滲み出るのはいい」と、コムアイさんも理想のように言ってたけど。

食まつ:そうですね、意識的に出すんじゃなくて、やっているうちに自然に出るみたいなものはあるのかもしれないですね。そこの部分のコントロールは自分でも意識してるところで、無理に出そうとするとよくないから。

無理に出さないということは、日本の伝統的なリズムの音楽も聞いたりはしてるということ?

食まつ:詳しくはないですけど、割と好きで聴いたりはしてます。津軽三味線とか。

ああ、聞くんですね。“Michi No Eki” でフィーチャーされている Taigen Kawabe(ボー・ニンゲン)のヴォーカルも祝詞っぽく聞こえたりね。あれも偶然?

食まつ:歌い方はこちらから少し指示させてもらったりしたんですけど、メロディとかは自由にやってもらいました。あれは、歌が入ってからトラックはつくりかえたんですよ。

あ、そうなんだ。

食まつ:毎回、そうなんですよ。歌もの系は、歌に合わせてトラックは変えちゃうんです。

へー、そういうもんなんだ。

食まつ:毎回、そうすね。

細かいんですね。ちなみに物足りない面があるとすれば、全体にダイナミズムがもうちょっとあってもよかったかなというのはありますね。

食まつ:あー、海外のレヴューでは「ライト」とか「フュージョン」という風に書かれていたので、そういう風に聞こえるのかなとは思いました。「ジャズ・フュージョン」に聞こえるとか。

YMOに近づきましたね。

食まつ:(笑)確かに。最初にコード9にデモを送った段階で坂本龍一の『エスペラント』の雰囲気があると言われて。

ああ、それは素晴らしい。坂本龍一がやりきったと言ってたアルバムですね。あれはいい。

食まつ:それと、映画のサントラで、なんちゃらスカイ……

『リキッド・スカイ』?

食まつ:あ、そう、そう。そのふたつのフィーリングがあると彼は言っていて。

『リキッド・スカイ』ねー。なるほどね。

食まつ:『エスペラント』も聴いてみたらなるほどと思ったし、『リキッド・スカイ』もめちゃくちゃシンパシーを感じる音でしたね。ヘンな音がずっと鳴っていて。

わかる、わかる。映画は観ました?

食まつ:いや、観てないです。

映画も面白いよー。ロードショーで観たんだけど、監督が音楽もやっていて、これはヘンと思ってサントラを探したんですよ。コード9も面白い聞き方しているなあ。そもそも〈ハイパーダブ〉から出ることになった経緯は?

食まつ:デモを送ったっていう。ジュークをつくりはじめたきっかけが〈ハイパーダブ〉のDJラシャドだったし、ジェシー・ランザのリミックスをやったりして多少の交流もあったので。で、メールで送ったら、これいいじゃんていうことになったという。返事が早かったんですよ。

なるほど。どこにもない音をつくったという感じもあるし。

食まつ:いや、いや。

そういう野心はあるわけでしょ。

食まつ:毎回、それはそのつもりです。「これが自分です」という感じでつくろうと思ってて。

仲間がいない感じって、どんな気分?

食まつ:ほかにないものをつくりたいという気持ちは最初からずっとあるので……ずっと同じことをやっているというか。

アルバムはそうしようということですよね?

食まつ:そうです、そうです。

「ODOODO」や「DOKUTSU」といったEPはそこまでじゃないというか。

食まつ:そうですね。あの辺はライヴでやって反応が良かった曲を録音してる感じですね。ライヴでやる曲はあんまりアルバムに入れなかったりして。リズムがバシバシというか、ライヴとアルバムの印象は変えてるかもしれないです。

それだけアルバムは特別視してるということですよね。

食まつ:めちゃくちゃしてますね。洋服のブランドみたいに、コレクションというか、何年から何年までの方向性をアルバムが決めるという意味で自分のなかではいちばん重要ですね。

やっぱり陽気な要素もありつつ気持ち悪いというのがけっこう好きというか。ユーモアがあって、シリアスになりすぎないのが好きですね。

もう次に考えてることはあるんですか?

食まつ:やっぱりアフリカですかね。〈ニゲ・ニゲ〉の人たちも聴いてくれてるみたいなので。シンゲリのセットをやったこともあるんですよ。やっぱり陽気な要素もありつつ気持ち悪いというのがけっこう好きというか。ユーモアがあって、シリアスになりすぎないのが好きですね。

『YASURAGI LAND』を誰かにリミックスしてもらうとしたらどの辺が?

食まつ:ああー。考えてなかったなあ。誰だろう? 今まで自分の曲をリミックスしてもらうという経験が……

ない?

食まつ:1回だけありますかね。2012年に広島の CRZKNY(クレイジーケニー)さんていうジュークをやっている方が1曲だけやってくれたことがあって。

それだけですか? じゃあ、コード9にやってもらおう!

食まつ:そうですね。踊れる感じにしてもらうとか。

ぜんぜん違う感じの人がいいですよね。昨日の夜、それを考えていてオールタイチとか名前が浮かんじゃって、それじゃ同じになっちゃうなって。

食まつ:(笑)ちょっといま、思ったんですけど、ベースとかキックが入っているのを想像して聴いてもらうのもいいかなって。

頭で音を足す?

食まつ:そういう聞き方もできるかなって。そうすればいくらでも頭のなかでヴァリエーションがつくれるというか。やっぱり想像の余地を残したいなっていうのがあるんですよ。

70年代に、数寄屋橋に日立ローディープラザというライヴハウスというか、音楽教室みたいなハコがあって。

食まつ:ええ。

バンドが目の前で演奏するんですけど、聴いている人には全員、卓があって、自分の好きなミックスでそのライヴを録音してカセットで持って帰れたんですよ。ベースをカットしたい人はベースのメモリはゼロにしてしまうみたいな。

食まつ:へえー。

パンタ&HALの演奏を録音した覚えがあるんだけど、最初にひとりずつ楽器の音を鳴らしてくれるので、ギターとかドラムを自分の好きな音量に調節してね。誰も真剣にバンドを見ないから、演奏している人たちはやりにくかったらしいんだけど。オーディエンスはずっと卓と格闘してて。

食まつ:(笑)。

そういう感じで好きな感じで聴いて欲しいと。ちょっと違うか。

食まつ:すごいですね、それ。自分で揚げれる揚げ物屋さんみたい。

“Aji Fly” に繋げたな。

食まつ:それぐらい自由に聴いて欲しいのはありますね。こんだけスカスカなんで、ベースとキックを入れるだけですべての曲の印象が変わると思うんですよ。

そうですよね。最後に、課外活動が多くてぜんぜん追いきれてないんですけど、課外活動でやった自信作はなんですか?

食まつ:いろいろあるんですけど、アイドルで金子理江さんの、2017年に出た trolleattroll 名義のやつなんですけど、相対性理論の真部(脩一、現・集団行動)さんと一緒にやった “lost”(https://www.youtube.com/watch?v=qcTBIw8ux00 )ですかね。パーカッシヴな曲で、いま聴くと『YASURAGI LAND』に繋がるなって。メロディは真部さんなんですけど。あと、去年、釜山ビエンナーレっていう芸術祭があって、コロナの時期でもなんとか開催されて、10人のミュージシャンが曲を提供したんですけど、僕も参加して、それはけっこう好きですね。

そこでしか聴けない曲?

食まつ:レコードにもなってるんですけど、韓国語なんですよ。

調べてみます(……と言ったものの、さっぱりわからず)。

〈Hyperdub〉からの最新作『Yasuragi Land』発売を記念したリリース・パーティー
“Local World x Foodman - Yasuragi Land - Tokyo 2021”の開催が決定!

昼のコンサート(8月8日開催)とサウナと水風呂の2フロアに別れた夜のクラブ・ナイト(9月11日開催)の2部構成

名古屋在住のエレクトロニック・ミュージック・プロデューサー、食品まつり a.k.a foodman。〈Hyperdub〉より最新作『Yasuragi Land』を発売したことを記念し、リリース・パーティーの開催が決定! 今回のイベントはクラブ&モードなアドベンチャー・パーティ Local World と SPREAD での共同開催となる。土着、素朴、憂いをテーマに南は長崎、北は北海道、Foodman に纏わるアーティスト含む全国各地からフレッシュな全20組が集まる昼のコンサート(8月8日開催)とサウナと水風呂の2フロアに別れた夜のクラブ・ナイト(9月11日開催)の2部構成、2021年の湿度と共に夏のボルテージを上げるサマー・イベント。

Local World x Foodman - Yasuragi Land - Tokyo 2021

SUN 8 AUG Day Concert 16:00 at SPREAD
ADV ¥3,300+1D@RA *LTD70 / Club Night DOOR ¥1,000 OFF

LIVE:

7FO
cotto center
Foodman
machìna
NTsKi
Taigen Kawabe - Acoustic set -

DJ: noripi - Yasuragi set -

SAT 11 SEP Club Night 22:00 at SPREAD + Hanare
ADV ¥2,500+1D@RA *LTD150 / DOOR ¥3,000+1D / U23 ¥2,000+1D

- 70人限定 / Limited to 70 people
- 再入場可 ※再入場毎にドリンク・チケット代として¥600頂きます / 1 drink ticket ¥600 charged at every re-enter

・サウナフロア@SPREAD

LIVE:
Foodman
JUMADIBA & ykah
NEXTMAN
Power DNA
ued

DJ:
Baby Loci [ether]
D.J.Fulltono
HARETSU
Midori (the hatch)

・水風呂フロア@Hanare*

LIVE:
hakobune [Tobira Records]
Yamaan
徳利

DJ:
Akie
Takao
荒井優作

artwork: ssaliva

- Hanare *東京都世田谷区北沢2-18-5 NeビルB1F / B1F Ne BLDG 2-18-5 Kitazawa Setagaya-ku Tokyo
- 150人限定 / Limited to 150 people
- 再入場可 ※再入場毎にドリンク・チケット代として¥600頂きます / 1 drink ticket ¥600 charged at every re-enter

食品まつり a.k.a foodman

名古屋出身の電子音楽家。2012年にNYの〈Orange Milk〉よりリリースしたデビュー作『Shokuhin』を皮切りに、〈Mad decent〉や〈Palto Flats〉など国内外の様々なレーベルからリリースを重ね、2016年の『Ez Minzoku』は、海外は Pitchfork のエクスペリメンタル部門、FACT Magazine、Tiny Mix Tapes などの年間ベスト、国内では Music Magazine のダンス部門の年間ベストにも選出された。その後 Unsound、Boiler Room、Low End Theory に出演。2021年7月にUKのレーベル〈Hyperdub〉から最新アルバム『Yasuragi land』をリリース。Bo Ningen の Taigen Kawabe とのユニット「KISEKI」、中原昌也とのユニット「食中毒センター」としても活動。独自の土着性を下地にジューク/フットワーク、エレクトロニクス、アンビエント、ノイズ、ハウスにまで及ぶ多様の作品を発表している。

Local World

2016年より渋谷WWWをホームに世界各地のコンテンポラリーなエレクトロニック/ダンス・ミュージックのローカルとグローバルな潮流が交わる地点を世界観としながら、多様なリズムとテキスチャやクラブにおける最新のモードにフォーカスし、これまでに25回を開催。

Local 1 World EQUIKNOXX
Local 2 World Chino Amobi
Local 3 World RP Boo
Local 4 World Elysia Crampton
Local 5 World 南蛮渡来 w/ DJ Nigga Fox
Local 6 World Klein
Local 7 World Radd Lounge w/ M.E.S.H.
Local 8 World Pan Daijing
Local 9 World TRAXMAN
Local X World ERRORSMITH & Total Freedom
Local DX World Nídia & Howie Lee
Local X1 World DJ Marfox
Local X2 World 南蛮渡来 w/ coucou chloe & shygirl
Local X3 World Lee Gamble
Local X4 World 南蛮渡来 -外伝- w/ Machine Girl
Local X5 World Tzusing & Nkisi
Local X6 World Lotic - halloween nuts -
Local X7 World Discwoman
Local X8 World Rian Treanor VS TYO GQOM
Local X9 World Hyperdub 15th
Local XX World Neoplasia3 w/ Yves Tumor
Local XX0 World - Reload -
Local XXMAS World - UK Club Cheers -
Local World x ether

https://localworld.tokyo

イベント詳細はこちら
Day Concert: https://jp.ra.co/events/1452674
Club Night: https://jp.ra.co/events/1452675

Island People - ele-king

 〈raster-noton〉が、バイトーン(オラフ・ベンダー)の〈raster〉と、アルヴァ・ノト(カールステン・ニコライ)の〈noton〉に分裂し、それぞれの道を歩みはじめたことは、10年代の先端的な電子音響音楽において重要なトピックだった。電子音響、エレクトロニカを牽引していたレーベルが終わりを迎えたからだ。
 その〈raster〉が始動後(再起動後とでもいうべきか)に最初にリリースしたアルバムがアイランド・ピープル『Island people』(2017)である。彼らのアルバムをレーベルのファースト・リリースとしたところに〈raster〉=オラフ・ベンダーの意志を感じたものだ。つまり高品質なエクスペリメンタル・エレクトロニック・ミュージックを送り出していくという意志だ。じじつ〈raster〉は、この4年のあいだ流行に左右されずに、質の高いエレクトロニカをコンスタントに送りだしてした。その原点にアイランド・ピープルがあったのだとは言い過ぎだろうか。しかしわたしが彼らのサウンドが忘れられなかったことは事実だ。折に触れ何度も繰り返し聴き続けた。

 アイランド・ピープルはスコットランド・アイルランド出身の4人の音楽家/サウンド・デザイナーによるグループである。ダフト・パンクやジェフ・ミルズ、リカルド・ヴィラロボスやカール・クレイクなどを手掛けた人気のマスタリング・エンジニアのコナー・ダルトン、グラミー賞受賞プロデューサーのデイヴ・ドナルドソン、シリコン・ソウルのグレアム・リーディー、ギタリストのイアン・マクレナンがメンバーである。先にグループと書いたが、「バンド」といってもいいかもしれない。それほどまでに4人の個性が交錯しているサウンドに聴こえるのだ。
 プロデューサーとエンジニアが在籍するアイランド・ピープルのサウンドは高品質なアンビエンス/アンビエントを実現していた。まるで映画のサウンドトラックを思わせるようなムードである。その音は緻密かつ繊細に設計され、美しくも深淵な音響空間を実現していた。どこかアンドレイ・タルコフスキーのSF映画『惑星ソラリス』を思わせもする。その意味で同じく2017年リリースの坂本龍一『async』との親和性も感じられた。

 前作『Island people』から4年の月日を経て送り出された新作が本作『II』である。待ちに待ったというより、不意に届けられたという印象で、一聴すると基本的に『Island people』のサウンドを継承しているように感じられた。しかしその音は以前よりダークであった。何か世界の変容を捉えようとするように、サウンドの移り変わりは、ゆったりとした映画の長いワンシーン・ワンショットのカメラワークを思わせた。レーベルは「初期のアントニオーニ映画のロング・トラッキング・ショットのように展開され、時間が止まっているようで、その瞬間を巡っている」と書いているが(https://raster-raster.bandcamp.com/album/ii)、まさに言い得て妙である。

 つまり前作に比べて、どこか暗く沈んだムードのアルバムなのだ。しかしそれが不快ではない。流行や時間の流れを超越したかのようなサウンドであり、その静かで、不穏で、「人がいない世界」のような音響空間には心を鎮静するような力すらある。特にドラマチックな流れのサウンドを展開する1曲目 “His Illusion” からインナースペースへと沈み込んでいくような3曲目 “Loneliness Has A Purpose” までの展開には孤独のアトモスフィアがうっすらと漂っていた。アルバムはそんなムードを反復するように展開していく。
 環境音と電子音が深海と廃墟の中で交錯するような4曲目 “Far From Shore” と5曲目 “Ten Green Bottles”、ギターのアルペジオが映画音楽的なムードを彩る6曲目 “Idyll”、緊張感に満ちたアンビエントを展開する8曲目 “Stillness”、環境音楽的なシンセサイザーに濃厚な音色のギターを聴かせる9曲目 “Luna” まで、まるでひとけのない都市を彷徨するような音世界だ。その映画音楽的なサウンドに聴きいっているとコロナ禍でロックダウンされた都市の音響のように聴こえたほどだ。加えて、ヴォーカリストのアリス・ヒル・ウッズを招いたヴォーカル曲 “Stalling”(10曲目)が収録されたことも重要なトピックだろう。アルバム・ラストの12曲目 “Traffic” では、スペイシーな電子音響アンビエントを展開し、地球を俯瞰するようなムードになり、アルバムは幕を閉じる……。

 全12曲、アイランド・ピープルは流行り廃りを超えた普遍的な電子音楽を構築しようとしているのではないか? と感じられた。尖端から深淵へ。流行から普遍へ。モードからスタイルへ。10年代まで切り拓かれてきた電子音響音楽の世界は、いま、聴き手の心に作用するアトモスフィアを得ようとしている。それこそがこのアルバムが獲得した不思議なリアリティの正体なのかもしれない、と思うのだ。

Phew - ele-king

 エレクトロニック・ミュージックにおけるサウンドの加工や異化つまりヴァリエーションによる「異質さ」は、批評家コジュオ・エシュンの「ソニック・フィクション」論でいうところの、従来的な思考法からの逸脱をうながす(参照:紙エレ22号P110、高橋勇人による論考「周縁から到来する非直線系」)。これはアフロ・フューチャリズム理論のなかで記述されているロジックではあるが、いまやエレクトロニック・ミュージシャンとして世界で活躍するPhewの作品から聴こえる電子音を読み解く上でも流用可能だろう。サウンドがうながす非直線的思考──じっさい彼女は新作における資料で、次のように発言している。「80年代、そして90年代までは物事が過去から現在、未来へという流れで進行していましたが、とくに21世紀がはじまって以来、その流れが変わってしまったと感じます。個人的には、現在から連なる未来というものが見えなくなってしまいました」
 反転した「ニュー・ディケイド」が描かれているのであろう、Phewの待望の新作はTraffic / MUTEから10月22日に世界同時発売決定。まずは第一弾先行シングル「Into The Stream」の青木理紗監督によるミュージック・ヴィデオをどうぞ。

Phew (Phew)
ニュー・ディケイド (New Decade)

発売日:2021年10月22日(金)
品番:TRCP-294 / JAN: 4571260591103
定価:2,400円(税抜)/ 解説:松村正人
ボーナス・トラック収録
Label: Traffic/Mute

Tracklist
1. Snow and Pollen
2. Days Nights
3. Into the Stream
4. Feedback Tuning
5. Flashforward
6. Doing Nothing
7. In The Waiting Room (bonus track)

[Pre-order + Listen]
https://smarturl.it/phew

伝説のアート・パンク・バンド、アーント・サリーの創設メンバーであり、1979年解散後はソロとして活動を続け、1980年に坂本龍一とのコラボレーション・シングルをリリース、1981年には、コニー・プランク、CANのホルガー・シューカイとヤキ・リーペツァイトと制作した1stソロ・アルバム『Phew』を発売。1992年、MUTEレーベルより発売された3rdアルバム『Our Likeness』は、再びコニー・プランクのスタジオにて、CANのヤキ・リーベツァイト、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンのアレックサンダー・ハッケ、そしてDAFのクリスロ・ハースと制作された。2010年代に入り、声と電子音楽を組み合わせた作品を次々に発売し、エレクトロニック・アーティストとしても世界的評価を高めた。ピッチフォークは「日本のアンダーグラウンド・レジェンド」と評している。また、アナ・ダ・シルヴァ(レインコーツ)、山本精一(ex.ボアダムス)等とのコラボレーション作品も発売。2021年10月、最新ソロ・アルバム『ニュー・ディケイド』はTraffic/Muteより世界発売。

https://www.instagram.com/originalphew007/
https://twitter.com/originalphew
https://www.facebook.com/Phew-508541709202781
https://phewjapan.bandcamp.com/merch

Yoshiko Sai - ele-king

 70年代に活躍した奈良出身のシンガーソングライター、佐井好子。『萬花鏡』(1975)『密航』(1976)『胎児の夢』(1977)『蝶のすむ部屋』(1978)の4枚のアルバムを残し、00年代にはJOJO広重とのコラボ作『Crimson Voyage』(2001)や、山本精一らを招いた復帰作『タクラマカン』(2008)を発表している。
 去る7月7日に、上記『Crimson Voyage』以外の5枚のアルバムをまとめたボックスセット『佐井好子全集 THE COMPLETE WORKS OF YOSHIKO SAI』がリリースされているが、これが海外で話題となっているのだ。
 同ボックスセットはなんと〈ラフ・トレード〉で販売され、さらにヴァイナル・ファクトリーでは、「今週のお気に入りのヴァイナル・リリース10」として『密航』(1976)が、コアレス坂本龍一&デヴィッド・トゥープココロコシャロン・ヴァン・エッテンらと並んでピックアップされている。
 それだけではない。昨年大きな注目を集めたUSのラッパー、ベニー・ザ・ブッチャーが3月にドロップした曲 “Plug Talk” (EP「The Plugs I Met 2」収録)では、佐井のヴォーカルがサンプリングされているのだ。使用されているのは、夢野久作からインスパイアされた『胎児の夢』収録の表題曲で、儚く妖しいヴォーカルが全篇をとおしてループされている。

 ここへ来て急浮上している佐井好子。今後も再評価の行方を注視したい。

佐井好子、70年代の名作が待望の復刻&『タクラマカン』の初アナログ化!
ファン垂涎の新曲7INCHと直筆サイン、ブックレットを封入したBOXを限定発売!

佐井好子全集
PLBX-1
定価:¥29,700(税抜¥27,000)

※P-VINEオンラインショップ、ディスクユニオン限定
※完全初回数量限定生産

BOX商品内容
① 今回発売のLP5枚
『タクラマカン』、『萬花鏡』、『密航』、『胎児の夢』、『蝶の住む部屋』
② 7inch record
A面:「日本一小さな村」(山本精一が監修/コラボした新曲です)
B面:「暗い旅」(書籍『青いガラス玉』にのみ付けられたCDから日活映画『少女地獄』(1977年)挿入歌のフルヴァージョン。バックはコスモス・ファクトリー)
③ ブックレット(B5判24~30Pを予定)
秘蔵写真や本人による詩、イラストそしてJOJO広重による「佐井好子ストーリー」をまとめたもの
④ 7inchとブックレットを投げ込んだ直筆サイン入りの白ジャケット(直筆ナンバリング付き)

タクラマカン
PLP-7122
定価:¥4,180(税抜¥3,800)

※初アナログLP化

夢野久作/谷崎潤一郎/つげ義春の世界観が! 独自の幻想ワールドでファンを魅了する佐井好子30年振りの新作! 1978年の4枚目を最後に「自分の気に入った歌が出来るまでは」と休止宣言をして、、30年。やっと完成しました。その幻想魅惑の世界をサポートするのは山本精一、早川岳春、芳垣安洋、JOJO広重、片山広明、プロデュースは吉森信。更に渚にての柴山伸二も参加! より熟成し妖艶な佐井好子の世界が堪能できる! ジャケは勿論本人によるイラスト!

萬花鏡
PLP-7123
定価:¥4,180(税抜¥3,800)

極めて耽美幻想的歌手=佐井好子1975年衝撃のデビュー・アルバム。日本的な土着性~民謡的歌唱が幽玄な空想世界へ誘う名作のアナログLPが限定復刻。大野雄二のアレンジも冴えわたる。

密航
PLP-7124
定価:¥4,180(税抜¥3,800)

「密航」をテーマにシルクロードあたりの異国情緒溢れる佐井好子幻想ワールドが炸裂する傑作アルバム。まさに女性にしか描けない世界、、聞くものをゆるやかにインナートリップさせる。眠れぬ夜の脳内に彷徨うシルクロード。

胎児の夢
PLP-7125
定価:¥4,180(税抜¥3,800)

1枚目に続き大野雄二がアレンジャーとして参加しより音楽的要素を支えた夢野久作的怪奇性極まる佐井ワールド。タイトルの「胎児」が示すようにより内なる精神世界への旅。佐井好子弱冠24歳、詩人で画家で歌手としての孤高なる存在。ジャケも傑作。

蝶のすむ部屋
PLP-7126
定価:¥4,180(税抜¥3,800)

山本剛トリオをバックにした極めてジャズ色の強いアルバム。内なる精神世界から外の世界へ出口を見出したかのようなシュールでダイナミズムな世界。この78年のアルバムの後、佐井は「自分が気に入る曲が書けなくなった」と世界に旅に出る、、、、

Andy Stott - ele-king

 アンディ・ストットが一介の優れたテクノ・プロデューサーから、確固たるオリジナリティを持った作家として認知されるようになったきっかけは、彼の出身地であり、いまも住み続けるマンチェスターの〈Modern Love〉からリリースされた2011年作の『Passed Me By』であると誰しもが同意するだろう。同年はジェイムズ・ブレイクサブトラクトのファースト、ジェイミー・XXとギル・スコット=ヘロンの『We’re New Here』、ハイプ・ウィリアムズも健在で……。とにかく、それらと肩を並べて、電子音楽の集合的記憶には、あの煙をあげるテクノ・アルバムは大きな足跡を残している。当時、僕はスコットランドのグラスゴーにいて、彼の地の名門テクノ・レコード店、ラブアダブで『Passed Me By』のジャケットに魅了され、試聴せずに盤をそのままレジへ持っていった。店員はスコットランドなまりで「This is a beatiful record」と呟いた。
 同じ年に出たEP「We Stay Together」と同作がコンパイルされたCD盤も発売され、三田格は同じ時期に〈Type〉から再発されたポーター・リックスの名盤『Biokinetics』と並べてストットを論じている。当時21歳だった、ダブステップとそれ以降の音楽に熱を上げていた僕にとって、ベーシック・チャンネルと彼らが残したものは十分に吸収できていたわけではない。同レヴューで三田がいう「新たなリスナー」とは自分のことだなと思い、両者の音を比較し、ダブテクノの旅へと足を踏み出した(ちなみにストットはヴラディスラフ・ディレイの “Recovery Idea” を2008年にリミックスしていて、ここには『Passed Me By』の姿はまだない)。
 空間表現や流動的なサウンドイメージ、DJユース/フロアでの機能性という尺度において『Biokinetics』に軍配が上がるかもしれないが、過去を想起させるというよりは、油絵のブラッシュ・ストロークのごときあのスモーキーでダビーでヴァイレントに歪み、幻想的ですらあるサウンドはいまだに個性を放っている。同じ年に出たベリアルの名EP「Street Halo」もリピートしまくっていた時期だったこともあり、リズム的にもテクスチャー的にも、当時は僕は完全に『Passed Me By』の世界の方に引き摺り込まれた。あの音にはたしかに「いま」があったのだ。このような経緯を辿った「新たなリスナー」たちは、けっして少なくはないだろう。

 今作『Never The Right Time』は『Passed Me By』から10年という節目にリリースされたアルバムである。この間、デムダイク・ステアのマイルズ・ウィテカーと組んだミリー&アンドレア『Drop The Vowels』(2014)ではハードコア/ジャングルをスマートに換骨奪胎。コンスタントに二、三年の周期でリリースされた3枚のアルバムと1枚のEPでは、『Passed Me By』で植え付けたイメージに縛られることなく、エレクトロからグライムにいたるまで、実に多くの手法やテクスチャーにストットは挑戦している。
 結論を先に記せば、今作にはそのようなサウンドにおける彼の冒険が凝縮されているといっても過言ではない。2012年作『Luxury Problems』以降、彼の作品にたびたびシンガーとして登場してきた彼のピアノ教師でもある、アリソン・スキッドモアにも今作では多くのスポットライトが当てられている。もちろん、サウンド・アイデンティティを保持しつつ、スタイルのアップデートにも余念がない彼のアティチュードも健在である。
 具体的にサウンドを見てみよう。冒頭 “Away not gone” はギターからはじまる。マイクで拾われたというよりは、オーディオ・インターフェイスにシールドを直挿ししたかのようなテクスチャーが、淡いリヴァーブで広がっていき、高音域の弦はフロントカヴァーのカモメたちのように鳴いている。クレジットにギタリストの名前はないが、この表現方法は去年デムダイク・ステアとアルバム二作を発表したギタリスト、ジョン・コリンのものにも通じる。そこにシンセ高低域をカヴァーするシンセと、スキッドモアのヴォーカルが重なっていく。
 二曲目の表題曲では引き続きスキッドモアがマイクの前に立つが、それよりも印象的なのがリズム・プログラミングだ。左チャンネルで淡々とリードを取るクローズドハットが一貫したリズムを刻むなか、ストットのシグネチャー・サウンドでもある歪んだシンバルやクラップが別方向から飛んでくる。冒頭のメインを飾るヴォーカルは、楽曲中盤をすぎるころにはこのリズムと完全に入れ替わっていた。
 左右のチャンネルに広がるサウンドステージを最大限に活用したプロダクションは、ダークなアルペジエイターとダンスホールのようにも響くリズムが交錯する “Repetitive Strain” でも顕著だ。ストットの手腕はエコーとリヴァーブを駆使するダブエンジニアのそれというよりも、マテリアルのミキシングに長けたトータル・プロデュースの方向に成長を遂げたようで、レヴォン・ヴィンセントのトラックの上でジ・XXが歌っているような “Don’t know how” は、各パートがバンドのように非常にバランスよく組み合わさっている。壮大なピアノ・アンビエント “When It Hits” を挟んだ後の “The Beginning” は、ポストパンクからマッシヴ・アタックをも射程においたようなヴォーカル曲で、次はFKAツィッグスともストットは仕事ができるんじゃないかとも思わせる。
 ここまで楽曲のエネルギーは、過去作と比べると透明度の高い川のように流れているが、7曲目の “Answers” でストットのダークサイドが表出する。アタック感がほぼ消去されたかのようなキック/ベース連続体が、上下にバウンスするようなイメージを伴いながら、エコーで乱反射するリズムと転がり続けるチューンの律動感は、拍子のカウントすら困難なほど跳ね上がる。ブレイクごとにベースのテクスチャーは切り替わり、サウンドはかなりヴァイオレントに生成変化を遂げたあと、天上のごときゆるやかなエンディングが待っている。ベースとシンセリードで成り立つウェイトレス・グライムの手法にも通じつつ、ブリストルのバツが率いる〈Timedance〉のような恐るべきテクニックを持った若手世代とも共振するような、最高にエクスペリメンタルな一曲である。
 欲を言えばこのダンス・バイブをアルバム最後にかけて聴きたいところだが、ストットは不意打ちをするかのように、今作二度目のアンビエントである “Dove Stone” をラストの前に投下。坂本龍一が愛機のプロフェット5を奏でているかのような、穏やかで荘厳なオーケストレーションだ。坂本の17年作『Async』のリミックス集『Async - Remodels』にアルカやワンオウトリックス・ポイント・ネヴァーらと参加しているストットだが、彼の影響は自身の楽曲においても表出しているようである。
 そこからアルバムは最後のスローなヴォーカル・ナンバー “Hard to Tell” に漂着し、ギターとシンセ・ストリングスで幕を閉じる。

 ダンス・フロアでストットを知ったリスナーにとって、『Never The Right Time』は同じアーティストであると思えないほど異色に映るはずだ。僕が彼のライヴを最後に見たのは2018年6月15日、ロンドンのオヴァル・スペースにおいてだが、そのときは他の出演者であるアイコニカ、デムダイク・ステア、そしてリー・ギャンブルと比べても、非常にパワフルでバウンシーなダンスセットを披露していた。2019年のEP「It Should Be Us」も、穏やかであるといえども、フロアを意識したプロダクションを保持していた。
 2021年、『Biokinetics』は〈Mille Plateaux〉からまた再発される。そのような回帰とは異なり、10年前の地点からは予想し得ない方向にストットは向かった。先ほど、本作にはこれまでの10年が凝縮されていると書いたが、それは単なる繰り返しを意味するのではなく、彼は自身の学びと培ったサウンド・マナーを保ちつつ、シンガーとともにそこで生まれた可能性をさらに肥大化させている。同年代である盟友のデムダイムのふたりや先のリー・ギャンブルが、アンビエントなどと並行して、ダンス・ミュージックのあくなき探求も止めないことを鑑みれば、同じことをストットにも期待しないではいられない。でも、世界のダンス・フロアが閉まった2020/2021年という時代を考えれば、『Never The Right Time』には我々に寄り添う最高のリアリティがある。ここではむしろ、その時代との同期性にこそ評価を与えるべきなのだろう。
 「真っ暗な窓からは街灯も車の明滅も見えない/あるのは冬のような容赦のない冷たさ」。本作を締め括るスキッドモアの歌詞は、緩やかな演奏とは対照的に痛烈に現実をすくい上げている。

Ryuichi Sakamoto & David Toop - ele-king

 大物同士の共演だ。坂本龍一とデイヴィッド・トゥープによる初のコラボ作が7月9日にリリースされる。『Garden Of Shadows And Light』と題されたそれは、2018年の6月、ロンドンはシルヴァー・ビルディングでのパフォーマンスを収録。レーベルは〈33-33〉で、これまで灰野敬二とチャールズ・ヘイワードの共作や、オーレン・アンバーチとマーク・フェル&ウィル・ガスリーらのコラボ作品を出してきたところ。当時の映像は、NTSによって公開されており、下記より視聴可能です。

Aaron Cupples - ele-king

 本年2021年初頭に、ベルリンを拠点とするエクスペリメンタル・ミュージック・レーベル〈PAN〉からリリースされたアルバムを紹介したい。ロンドンのプロデューサー/映画音楽作曲家アーロン・カップルズによる『Island of the Hungry Ghosts (OST)』という作品である。
 このアルバムはその名のとおり同名映画作品のサウンドトラックだが、いわゆる「映画音楽を収録したアルバム」とは趣が異なっている作品に仕上がっている。いわばドローン、環境音、そしてノイズなどが混然一体となった「映画音響作品」とでもいうべき作品なのである。「音による映画」とでもいうべきか。
 とはいえ映画の「音響そのものをサウンドトラックとしたアルバム」というものはこれまでもいくつかの作品がリリースされていた。音楽だけではなく環境音、俳優の声、ノイズなどを収めている、文字通り映画のサウンドのトラックである。この『Island of the Hungry Ghosts (OST)』はその系譜に連なる作品といえる。

 例えばデレク・ジャーマン監督の遺作である青画面だけの映画『BLUE』のサウンドトラック・アルバムを思い出しておきたい。この映画はスクリーンにイヴ・クラインの青のような色だけが映し出され、そこにサイモン・フィッシャー・ターナーによる多層的な音響が重ねられていく。イメージを欠いた映画は、その音響の豊穣さによって、観客の聴覚を通して無のイメージを生成する。1994年にリリースされた同作のCD版にはサイモン・フィッシャー・ターナーが手掛けた音響が丸ごと収録されていたのだ。「青画面に覆われたイメージを欠いた映画」を、さらに音だけで聴取することによって研ぎ澄まされた音響体験が可能になる。ちなみにブライアン・イーノやモーマスも参加していたことも記しておきたい。
 そして1997年に〈ECM〉からリリースされたジャン=リュック・ゴダール監督、アラン・ドロン主演の映画『ヌーベルヴァーグ』(1990)のサウンドトラックもそのような「音響映画」とでもいうべきアルバムである。音業技師フランソワ・ミュジーが手掛けた『ヌーベルヴァーグ』の音響トラックすべてをCD2枚に収録し、ゴダールとミュジーの「ソニマージュ」を音だけで鑑賞できるアルバムである。同じくECMから2000年にリリースされたゴダール『映画史』のサウンドトラックCDもゴダール自身が手掛けた全8章に及ぶ『映画史』の音響トラックすべてをCD5枚に収録した豪華なボックスセットだった。
 近年では(映画全編ではないが)、〈Sub Rosa〉からリリースされたアピチャッポン・ウィーラセタクン監督のサウンドトラック『Metaphors』もアピチャッポンの映画に用いられた音響と音楽が収録され、さながら映画の音を用いたアピチャッポンのインスタレーション作品のようなアルバムに仕上がっていた。ありがたいことに日本盤が〈HEADZ〉からリリースされている。

 ここで紹介するアーロン・カップルズによる『Island of the Hungry Ghosts (OST)』もまたこれら映画音響作品と同様にガブリエル・ブレイディー監督による同名ドキュメンタリー映画作品の音響的サウンドトラック・アルバムである。環境音と音楽の境界線を無化させるようなトラックを収録しているのだ。このアルバムを聴くことで「イメージを持たない映画」が、われわれ聴き手のなかに生成されていくことになる。
 映画『Island of the Hungry Ghosts』はオーストラリアのクリスマス島のセラピスト、ポーリンリーが、島にある亡命者収容所に収容されている亡命希望者たちと会話し、その活動を支援していくさまに加えて、島の自然や儀式も同時に写し取っていくというドキュメンタリー映画である。レーベルは同作を「自然界、人間界、精神界の間を移動するハイブリッド・ドキュメンタリー」と表現している。
 映画『Island of the Hungry Ghosts』は、2018年にトライベッカ映画祭で初公開され、最優秀ドキュメンタリー賞を受賞するなどの高評価を得た。アーロンによるサウンドトラックも「超自然的なオーラ」「異世界的で実験的な」と高く評価され、英国のインディペンデント映画賞で「ベスト・ミュージック」にノミネートされた。

 映画『Island of the Hungry Ghosts』のサウンドトラックはガブリエル監督とアーロンによって「島」自体を主人公として音響化していくコンセプトで設計された。まずアーロンたちは13フィートに及ぶ自作の弦楽器を自作し、それが発するワイヤー・ドローンと、フィールド・レコーディングされた環境音によって、音とノイズの境界線を溶かすようなサウンドを生み出した。
 ちなみにフィールド・レコーディングを手掛けているのはサウンド・デザイナーのレオ・ドルガンだ(彼は本作におけるアーロンの共作者に近い存在である)。レオ・ドルガンの仕事は完璧に近く、島の自然が発する音を見事に捉え、さながら森林の交響楽のような音を実現している。あのフランシスコ・ロペス的なフィールド・レコーディングのハードコアとでもいうべき録音だ。
 環境音とドローンの豊穣かつ深遠な交錯。『Island of the Hungry Ghosts (OST)』のサウンドにはそのようなミュージック/ノイズの領域が越境していくような感覚が横溢している。その意味では坂本龍一の名作『async』(2017)に近い作品かもしれない。『async』はサウンドトラックではないが、音(ノイズ)と音楽が交錯し、存在しない「映画」の「音響」のようなアルバムであった。

 『Island of the Hungry Ghosts (OST)』のノイズや環境音もまた同様である。ここでは環境音が音楽の中に融解し、音楽が環境音の中に溶け合っている。アルバム冒頭の1曲目 “Night” では島の自然が奏でる(発する)環境音のシンフォニーのような音響が、まるでオーケストラのアダージョのようにしっとりと鳴り響く。続く2曲目 “The Understorey” でやわらかいワイヤー・ドローンがレイヤーされ、環境音と持続が互いにゆっくりと浸透する。私見ではこの1曲目と2曲目に「間」に起きる変化こそが、『Island of the Hungry Ghosts』特有の「音の霊性」のようなものを象徴する瞬間ではないかと思う。
 3曲目 “Blowholes” では雨や波の音のような音が鳴り、対して4曲目 “The Long Walk” では世界から不意に解離した人の心の中のようなワイヤー・ドローンが鳴る。静謐な持続音がまるでオーケストレーションされるように音量を増していくだろう。このコンポジションはアーロンの作曲家としての力量を示しているように感じられた。音が浮遊するような緊張感に満ちている。
 5曲目 “Trapped Air” では儀式の始まりを告げるような鐘の音を収録している。その背後には透明な音の霧のように鳴っていることにも注意したい。6曲目 “The Hungry Ghost” では微細な鐘と響くような鐘の音が折り重なり、儀式それじたいの音響のように音響空間を支配する。アルバムのクライマックスのひとつともいえよう(アナログ盤ではここでA面が終わる)。
 7曲目 “Fire & Jungle” では文字通り火を燃やす音から始まり、島の森林に鳴る大自然の音(虫の音の大合唱!)へと変化を遂げていく。8曲目 “The Protester” ではその森林の音響が次第に消え、再びやわらかな絹のようなドローンが生成する。
 9曲目 “Ocean & Prayers” では海の音(波)が鳴り、やがて人の声(祈りか朗読のような)へと変化する。そしてアルバム最終曲10曲目 “Sand Return” ではドローンの折り重なりからオーケストラの序曲のような音の積み重ねを聴かせることで、アルバムは終わりを告げる。

 『Island of the Hungry Ghosts (OST)』の全10曲を通して聴くと、ノイズとドローンの反復によって、映画の重要なテーマである「セラピー」と「儀式」の問題を音から浮かび上がらせてくれるかのようだ。まるで心身に浸透する「儀式的音響」のようにも聴こえてくるのである。
 映像から音響へ。音響から環境へ。環境から身体へ。そして身体から心理へ。心身に「効く」音の織物がここにある。そう、『Island of the Hungry Ghosts (OST)』は、稀有な音響設計を誇るサウンドトラックであり、繊細にして豊穣な音響空間を誇る見事な音響作品なのである。

James Blake - ele-king

 この9月にフランク・オーシャンのカヴァー曲を発表、つい先月はEP「Before」をサプライズ・リリースし、きたる12月にはカヴァー曲集EP「Covers」の発売を控えるジェイムス・ブレイクが、新たな試みを明らかにしている。

 去る11月20日、アメリカのラジオ局 RADIO.COM に出演した彼は、「特定のジャンルに縛られたくないんだ」と語り、それを受け聞き手のブライス・シーガルが「そういえばディプロがアンビエント・アルバムを出しましたよね」と返すと、「や、じつは、じぶんにもその用意があってさ」「しかもアルバムでね!」と答えている。

 ストレスや不安に襲われているとき、ブライアン・イーノ坂本龍一の音楽だけが落ち着いた気分にさせてくれた──とブレイクは続ける。だから、じぶんでもそういう音楽をつくってみようと思い至ったんだそうな。ビートにうんざりしてしまい、ちょっとした “ビートの休日” が必要だった、と。

 とはいえアンビエントというのは──ブレイクによれば──繊細で、たんにドラムのビートを省くだけで完成させられるものではない。ゆえに不安だったのだろう、彼はつくりあげた音源をゴッドファーザーたるイーノ本人に送り、助言をもとめた。結果、肯定的な意見~建設的な批判を得ることができ、勇気づけられたという(ブレイクとイーノは2013年の『Overgrown』で共作済み)。

 ただし、いつリリースするかは未定とのこと。ポスト・ダブステップに出自を持つシンガーソングライターが奏でるアンビエント・ミュージックとは、いったいいかなるものに仕上がっているのか? 楽しみに待っていようではないか。

https://omny.fm/shows/radio-com-audio/james-blake-new-arrivals

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