「E E」と一致するもの

Andy Stott - ele-king

 アンディ・ストットが一介の優れたテクノ・プロデューサーから、確固たるオリジナリティを持った作家として認知されるようになったきっかけは、彼の出身地であり、いまも住み続けるマンチェスターの〈Modern Love〉からリリースされた2011年作の『Passed Me By』であると誰しもが同意するだろう。同年はジェイムズ・ブレイクサブトラクトのファースト、ジェイミー・XXとギル・スコット=ヘロンの『We’re New Here』、ハイプ・ウィリアムズも健在で……。とにかく、それらと肩を並べて、電子音楽の集合的記憶には、あの煙をあげるテクノ・アルバムは大きな足跡を残している。当時、僕はスコットランドのグラスゴーにいて、彼の地の名門テクノ・レコード店、ラブアダブで『Passed Me By』のジャケットに魅了され、試聴せずに盤をそのままレジへ持っていった。店員はスコットランドなまりで「This is a beatiful record」と呟いた。
 同じ年に出たEP「We Stay Together」と同作がコンパイルされたCD盤も発売され、三田格は同じ時期に〈Type〉から再発されたポーター・リックスの名盤『Biokinetics』と並べてストットを論じている。当時21歳だった、ダブステップとそれ以降の音楽に熱を上げていた僕にとって、ベーシック・チャンネルと彼らが残したものは十分に吸収できていたわけではない。同レヴューで三田がいう「新たなリスナー」とは自分のことだなと思い、両者の音を比較し、ダブテクノの旅へと足を踏み出した(ちなみにストットはヴラディスラフ・ディレイの “Recovery Idea” を2008年にリミックスしていて、ここには『Passed Me By』の姿はまだない)。
 空間表現や流動的なサウンドイメージ、DJユース/フロアでの機能性という尺度において『Biokinetics』に軍配が上がるかもしれないが、過去を想起させるというよりは、油絵のブラッシュ・ストロークのごときあのスモーキーでダビーでヴァイレントに歪み、幻想的ですらあるサウンドはいまだに個性を放っている。同じ年に出たベリアルの名EP「Street Halo」もリピートしまくっていた時期だったこともあり、リズム的にもテクスチャー的にも、当時は僕は完全に『Passed Me By』の世界の方に引き摺り込まれた。あの音にはたしかに「いま」があったのだ。このような経緯を辿った「新たなリスナー」たちは、けっして少なくはないだろう。

 今作『Never The Right Time』は『Passed Me By』から10年という節目にリリースされたアルバムである。この間、デムダイク・ステアのマイルズ・ウィテカーと組んだミリー&アンドレア『Drop The Vowels』(2014)ではハードコア/ジャングルをスマートに換骨奪胎。コンスタントに二、三年の周期でリリースされた3枚のアルバムと1枚のEPでは、『Passed Me By』で植え付けたイメージに縛られることなく、エレクトロからグライムにいたるまで、実に多くの手法やテクスチャーにストットは挑戦している。
 結論を先に記せば、今作にはそのようなサウンドにおける彼の冒険が凝縮されているといっても過言ではない。2012年作『Luxury Problems』以降、彼の作品にたびたびシンガーとして登場してきた彼のピアノ教師でもある、アリソン・スキッドモアにも今作では多くのスポットライトが当てられている。もちろん、サウンド・アイデンティティを保持しつつ、スタイルのアップデートにも余念がない彼のアティチュードも健在である。
 具体的にサウンドを見てみよう。冒頭 “Away not gone” はギターからはじまる。マイクで拾われたというよりは、オーディオ・インターフェイスにシールドを直挿ししたかのようなテクスチャーが、淡いリヴァーブで広がっていき、高音域の弦はフロントカヴァーのカモメたちのように鳴いている。クレジットにギタリストの名前はないが、この表現方法は去年デムダイク・ステアとアルバム二作を発表したギタリスト、ジョン・コリンのものにも通じる。そこにシンセ高低域をカヴァーするシンセと、スキッドモアのヴォーカルが重なっていく。
 二曲目の表題曲では引き続きスキッドモアがマイクの前に立つが、それよりも印象的なのがリズム・プログラミングだ。左チャンネルで淡々とリードを取るクローズドハットが一貫したリズムを刻むなか、ストットのシグネチャー・サウンドでもある歪んだシンバルやクラップが別方向から飛んでくる。冒頭のメインを飾るヴォーカルは、楽曲中盤をすぎるころにはこのリズムと完全に入れ替わっていた。
 左右のチャンネルに広がるサウンドステージを最大限に活用したプロダクションは、ダークなアルペジエイターとダンスホールのようにも響くリズムが交錯する “Repetitive Strain” でも顕著だ。ストットの手腕はエコーとリヴァーブを駆使するダブエンジニアのそれというよりも、マテリアルのミキシングに長けたトータル・プロデュースの方向に成長を遂げたようで、レヴォン・ヴィンセントのトラックの上でジ・XXが歌っているような “Don’t know how” は、各パートがバンドのように非常にバランスよく組み合わさっている。壮大なピアノ・アンビエント “When It Hits” を挟んだ後の “The Beginning” は、ポストパンクからマッシヴ・アタックをも射程においたようなヴォーカル曲で、次はFKAツィッグスともストットは仕事ができるんじゃないかとも思わせる。
 ここまで楽曲のエネルギーは、過去作と比べると透明度の高い川のように流れているが、7曲目の “Answers” でストットのダークサイドが表出する。アタック感がほぼ消去されたかのようなキック/ベース連続体が、上下にバウンスするようなイメージを伴いながら、エコーで乱反射するリズムと転がり続けるチューンの律動感は、拍子のカウントすら困難なほど跳ね上がる。ブレイクごとにベースのテクスチャーは切り替わり、サウンドはかなりヴァイオレントに生成変化を遂げたあと、天上のごときゆるやかなエンディングが待っている。ベースとシンセリードで成り立つウェイトレス・グライムの手法にも通じつつ、ブリストルのバツが率いる〈Timedance〉のような恐るべきテクニックを持った若手世代とも共振するような、最高にエクスペリメンタルな一曲である。
 欲を言えばこのダンス・バイブをアルバム最後にかけて聴きたいところだが、ストットは不意打ちをするかのように、今作二度目のアンビエントである “Dove Stone” をラストの前に投下。坂本龍一が愛機のプロフェット5を奏でているかのような、穏やかで荘厳なオーケストレーションだ。坂本の17年作『Async』のリミックス集『Async - Remodels』にアルカやワンオウトリックス・ポイント・ネヴァーらと参加しているストットだが、彼の影響は自身の楽曲においても表出しているようである。
 そこからアルバムは最後のスローなヴォーカル・ナンバー “Hard to Tell” に漂着し、ギターとシンセ・ストリングスで幕を閉じる。

 ダンス・フロアでストットを知ったリスナーにとって、『Never The Right Time』は同じアーティストであると思えないほど異色に映るはずだ。僕が彼のライヴを最後に見たのは2018年6月15日、ロンドンのオヴァル・スペースにおいてだが、そのときは他の出演者であるアイコニカ、デムダイク・ステア、そしてリー・ギャンブルと比べても、非常にパワフルでバウンシーなダンスセットを披露していた。2019年のEP「It Should Be Us」も、穏やかであるといえども、フロアを意識したプロダクションを保持していた。
 2021年、『Biokinetics』は〈Mille Plateaux〉からまた再発される。そのような回帰とは異なり、10年前の地点からは予想し得ない方向にストットは向かった。先ほど、本作にはこれまでの10年が凝縮されていると書いたが、それは単なる繰り返しを意味するのではなく、彼は自身の学びと培ったサウンド・マナーを保ちつつ、シンガーとともにそこで生まれた可能性をさらに肥大化させている。同年代である盟友のデムダイムのふたりや先のリー・ギャンブルが、アンビエントなどと並行して、ダンス・ミュージックのあくなき探求も止めないことを鑑みれば、同じことをストットにも期待しないではいられない。でも、世界のダンス・フロアが閉まった2020/2021年という時代を考えれば、『Never The Right Time』には我々に寄り添う最高のリアリティがある。ここではむしろ、その時代との同期性にこそ評価を与えるべきなのだろう。
 「真っ暗な窓からは街灯も車の明滅も見えない/あるのは冬のような容赦のない冷たさ」。本作を締め括るスキッドモアの歌詞は、緩やかな演奏とは対照的に痛烈に現実をすくい上げている。

きれはし - ele-king

いま話題のピン芸人、ヒコロヒーって何者?

独特の世界観と言語センスでブレイク中、いまやテレビにラジオはもちろん、ウェブメディアや雑誌などへの執筆でもひっぱりだこの女性芸人ヒコロヒーが初のエッセイ集を刊行!

noteに発表されたエッセイから厳選して加筆したものに書き下ろしを加え、下積み時代の情けなくも可笑しいエピソードから、急激に注目を集めるようになった最近の心情までがユーモラスかつシャープに綴られています。

著者略歴
1989年生まれ、愛媛県出身。近畿大学の落語研究会に所属し、学園祭で松竹芸能にスカウトされる。松竹芸能大阪養成所を経て、2011年デビュー。世界観や台詞で魅せるコントを中心に活動するピン芸人。趣味は映画鑑賞、絵画鑑賞、読書、酒、煙草、麻雀、イラストなど。テレビ朝日「キョコロヒー」、文化放送「大竹まことゴールデンラジオ!」、TBSラジオ「24時のハコ」(7月パーソナリティ)などに出演中。主な執筆活動は、かがみよかがみ「ヒコロジカルステーション」(朝日新聞社)、水道橋博士のメルマ旬報「ヒコロヒーの詩的で私的な無教養講座」(BOOKSTAND)、BRUTUS「直感的社会論」(マガジンハウス)など。

目次

はじめに
まるこ
宇宙
方言
タイムリープ
岐阜営業
コリドー前編
コリドー後編
サマージャム
彼女たちについて
バイト
ドンキのジーパン
電子書籍
春はスピッツ
お客
2020
香水
チェックリスト
おわりに

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interview with Kaoru Sato - ele-king

 「過去をコントロールするのは誰だ」と言ったのはジョージ・オーウェルだが、音楽作品における未発表曲集というのは、ときに過去の意味を変えることができる。じっさいはもっと違った音楽がプロデューサーやレーベルの意向によってひとつの局面にのみ焦点が当てられた場合は、とくにそうだ。1980年に大阪の〈Vanity〉から『R.N.A.O Meets P.O.P.O』なるアルバムをリリースしたR.N.A.オーガニズムという佐藤薫がプロデュースしたプロジェクトの未発表音源集を聴いていると、思い通りに発表できなかった過去が現在において新鮮に聴こえることもありうるのだと、あらためて思う。高価に取引されている1980年の〈Vanity〉盤をユーチューブで聴いてみると、なるほどたしかに時代を感じさせて面白いのだが、棚からキャバレー・ヴォルテールの“Nag Nag Nag”を引っぱり出していることは明白で、しかし佐藤薫のレーベル〈φonon〉からリリースされる未発表音源集『Unaffected Mixes ±』においては、より抽象的で、このプロジェクトの遊び心と実験性がより際立っている。ときには(それこそその後のEP-4に通じるところの)露骨なまでの政治性もあり、R.N.A.オーガニズムのラディカルで、アイロニカルな表情は際立っている。暗い時代に虚飾の明るさを描くのではなく、むしろ悪夢を描いて逆説的に夢を見るというメソッドは、それこそ70年代末のUKポスト・パンクの多くがやったことだった。

 以下のインタヴューは、今年の2月にZOOMにて収録したもので、R.N.A.オーガニズムや今回リリースされる『Unaffected Mixes ±』についての話以外にも、ぼくにとって佐藤薫は近くて遠い人だったこともあって、作品のこと以外にも、個人的に知りたかったことも脈絡なく訊いている。散漫になってしまったことをお詫び申し上げるとともに、その全貌がいまだ不明瞭なままの日本のポスト・パンク期における重要な記録(ドキュメント)に注目していただけたら幸いである。(敬称略)

ティアックのカセットマルチトラックレコーダーが79年に出るんですよね。それによってかなり状況が変わりました。まず、スタジオではなく家でも自由な時間に音を作れるようになった。それで、どんどん断片を作っていった。

R.N.A.オーガニズムのことはまったく知らなかったんですけど、今回聴かせていただいてまず思ったのは、いまの音だなと。たとえば〈Edition Mego〉や〈Diagonal〉みたいなレーベルから出ても全然不自然ではない音ですよね。佐藤さんもそう思ってリリースするのでしょうけれど、まず、この作品をお出しになることの経緯みたいなところから教えてください。

佐藤:ちょっと複雑でしてね。基本的にこれらは〈Vanity〉での音源なんですよ。〈Vanity〉で録った1枚目のアルバム(『R.N.A.O Meets P.O.P.O 』)の音源をもとに、ぼくたちが自分たちで勝手に作っていたやつなんですよね。要するに、阿木譲が諸々の事情によってリジェクトし、出さなかった音源です。

もともとは〈Vanity〉で出すつもりで録音したものだったということでしょうか?

佐藤:いや、〈Vanity〉で出した作品を録ってるときに、仮落としとかの音源をカセットコピーしていろいろ自分たちでカットアップ/ダビング/編集などアレンジしていたんです。でも一応〈Vanity〉でスタジオも用意してもらって録ったものですから、好き勝手にするつもりはなかった。阿木譲との関係がもっとうまくいってれば早いこと出せてた気もするんですけどね。まあ、当時出たアルバムのほうは、阿木譲の好みによってストレートな感じのミックスのアルバムになってるんですね。その意味ではボツテイク集ということになります(笑)。

今回この未発表音源を出すにあたって、佐藤さんのほうである程度リマスタリングはされたと思うんですけど、若干の、音の加工みたいなことはされたんですか?

佐藤:曲の頭出しで削ったりしたほかには加工はほとんどしてないです。あと断片を多少つなげたりしたトラックも入ってますね。で、カセットで残っていたので、すべて一度しっかりアップコンバートしてからリマスタリング的作業をしただけです。

R.N.A.における佐藤さんの役割は、全体のプロデュース、サウンドのプロデュースですか?

佐藤:そうです。録りはじめたのが78年くらいで、初期の音源も入ってるんですけど、みんなでリハーサルスタジオで遊びで録ってた音源も含まれています。〈Vanity〉で出すという話になった段階で録音したものもありますし、大阪でのレコーディング中に録音したものもあります。

佐藤さんはもともとは京都でずっとDJをされてたんですよね。R.N.A.の人たちは佐藤さんのDJに来るような人たちだったんですか?

佐藤:ではないです。美大の学生であったり、ひとりはディスコの従業員というかそんな感じで(笑)。みんな音楽家ではない。好きに集まって遊んでいた一部がユニット名を名乗ってやりはじめた感じですね。

いまだとこのサウンドはグリッチとかミニマルとかインダストリアルとか呼ぶと思うんですけど、冒頭にも言ったように、いま聴いて充分に魅力があるサウンドだと思いました。だからこの先駆的作品が、佐藤さんとバンドのメンバー3人のあいだでどうやって作られていったのかを知りたく思います。

佐藤:アルバムのリリースが決まったころ、ティアックのカセットマルチトラックレコーダー(CMTR)〈タスカム244〉が79年に出るんですよね。初代ウォークマン発売と同じ年です。それによってかなり状況が変わりました。まず、スタジオではなく家でも自由な時間に音を作れるようになった。それで、どんどん断片を作っていった。あらかじめ曲があって作っていたわけじゃないんですよ。それまでは、オープンテープやカセットテープを再生しながら音を重ねてダビングしたりと、面倒で涙ぐましい作業を練習スタジオで繰り返していたわけです。宅録黎明期の到来です。大音量のアンプ出力や繊細な生音はスタジオにCMTRを持ち込んで録音。それを自宅であれこれいじりまくるという。それにCMTRだと、ちょっとした過大入力でサチッたり特定の音源で隣の別トラックに音漏れしたりと、ピグマリオン効果というか実験者効果がおもしろくて。CMTRはプロやプロの卵の音楽家に貢献したのはもちろんですが、アマチュアや非音楽家にとっては革命的ツールでした。

ちょっとエキゾティックな感覚のコラージュも試みていますよね。1981年にはイーノとデヴィッド・バーンの『マイ・ライフ・イン・ブッシュ・オブ・ゴースツ』が出て来ていますが、ああいうの出たとき俺らのが早かった、とか思いませんでした(笑)?

佐藤:そこまでは思いませんでしたけど(笑)。ただ、ぼくはDJでそういうことをやっていましたね。

クラフトワークやカンと同時にフェラ・クティやブラジル音楽なんかもかけたりしていたそうですね。

佐藤:そう。それ以外にも、かけ方であったりとか、BPMを合わせるとかそういう単純なことではなく、エフェクトを入れたり、LチャンとRチャンで違う曲を流したり、そういう遊びをぼくは70年代から相当やっていたんです。だからサウンドをコラージュするということに関しては、ぼくのなかでは自然だったんですよね。

DJだったということが大きかったんですね。

佐藤:いまから考えるとそういう気はしますね。

率直にいってキャバレー・ヴォルテールからの影響を強く感じたんですけど、実際はどうでしたか?

佐藤:みんな好きでしたからね。アイドルと言ってもいいくらい(笑)。

〈Vanity〉から出ているアルバムはキャブ色が強いですよね?

佐藤:そうですね、それは阿木さんの好みも大きい(笑)。〈Vanity〉のアルバムでは、曲の体を成さないような感じのミックスやDJ仕様のビートトラックを使ったものは、全部リジェクトされてしまったんです。今度出す未発表トラック集にはたくさん入ってるんですけどね。

今度〈φonon〉から出るアルバムの音源は、かなりアブストラクトですもんね。

佐藤:そうですね。

阿木さんがボツにしたという今回の未発表のほうが圧倒的に尖ってます。

佐藤:阿木さんはライヴもしてほしかったんで、最初のアルバムではわかりやすい曲をピックアップしたということだと思いますよ。

でも、当時じっさいのライヴはやらずにカセットテープだけ流したんですよね?

佐藤:そう、そうなんですよ(笑)。なにも説明せずに流れるもんだから、インターミッションのBGMのように通り過ぎて、メンバーが客席にいても誰も気づかないし気にも留めないという事態となりました(笑)。

それはもう、佐藤さんらしい発想じゃないですか?  いかにもEP-4的な。

佐藤:そうですね(笑)。まあ、本人たちもまったく音楽家でも何でもなかったんでね。だったらそういう形でやってみようかと。

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佐藤さんの場合はシステムに対するテロリズムじゃないですけど、音楽のメタなところから揺さぶりをかけるみたいなことをしてきたと思います。R.N.A.にもその感覚があるのかなと思いましたが、先ほども言いましたが、DJだったことが大きかったように思います。

佐藤:非常に大きいと思います。いろんな箱でまわしましたから。六本木でもやっていたし、関西に移ってからはパートタイムで何件か回るみたいなことをやってたんです。だから、ほかのDJがやっていないようなこと、違うことを意識して、工夫してやるようになった。いまでは当たり前ですけど、当時はあまりそういう考え方はなかったと思います。選曲もそうですけど、どういうミックスをするか、そういうことには人一倍気を使ってたところはありますね。

当時の佐藤さんの選曲リストとかみたいですね。

佐藤:75年くらいまでは基本的にブラック・ミュージックばかりだったんですけどね(笑)。

しかしなぜ佐藤さんは、ディスコから離れてパンクやポスト・パンク、あるいはクラウトロックみたいなとこにいったのでしょうか?

佐藤:ひとつ大きかったのはアフリカ音楽とブラジル音楽でした。それに当時のディスコには制約があって、70年代前半からかけたいけれどかけられないというフラストレーションがずっとあったんです。同時にアメリカのリズム&ブルースがどんどん判で押したようなディスコ・ミュージックになっていってしまった。そういうことが重なったんでしょうね。

佐藤さんにとって、クラフトワークやポスト・パンク的なものの魅力とは何でしたか?

佐藤:黒くないのに踊れることと、汗をかかないこと(笑)。単純にダンス・ミュージックとして新しいという直感。そこがいちばん惹かれたところじゃないかな。

失礼な言い方になってしまいますが、ぼくのなかで佐藤さんはリチャード・カークとすごく重なっているんです。

佐藤:ははは。

だって、あの人たちはもともとブラック・ミュージックが大好きですよ。それがああいうインダストリルなサウンドになった。インダストルになってからも、キャブスには強いビートがあるじゃないですか。同じように、ブラック・ミュージック的なものは佐藤さんにもずっとあるんだと思います。だからEP-4にはファンクがあるわけだし、じっさい数年前にユニットでやったライヴでもパーカッションを取り入れてリズムには注力されていた。決してホワイティ―な音楽とも思えないんですけど、ブラックネスがないところに共感したとはどういう意味でしょうか?

佐藤:おそらく黒さって言い方がちょっと違うのかもしれませんが、どういったらいいかな……、ビートがこう埋没していくような音楽が、まぁいわゆるブラック・ミュージックのなかから生まれてきたら面白いなと、いまそう思ってるんですけどね。波形としては明らかなリズムを持たない音楽がブラック・ミュージックのなかから出て来たら面白いんじゃないかと、ぼくはずっとそう感じているんです。わかりやすい音の例だと、サン・ラや電子マイルスの弾くシンセサイザーかな。クラフトワークにはそれがあった。ノイにもそれを感じたんです。これで踊ったら気持ちいいなと。まあどちらも現代音楽的遺伝子の濃い音ですから、特殊なウイルスが情報交換に関与したのかも──というのがR.N.A.オーガニズムのスタートアップコンセプトの中核です(笑)。

やっぱり、佐藤さんにはダンス・ミュージックというコンセプトはひとつありますよね?

佐藤:それはありますね。だから、ダンスにはけっきょくビートがなくてもいいんじゃないかとなってきたんですよね。70年代の終わりから80年代くらいにクラブ・モダーンでDJをしていたとき、その前後にはいろいろ違う曲もかけましたけど、完全なノイズ・ミュージックでも人が踊りはじめたんですね。そのときの状況をみて、やっぱりそういうことだったんだと確信しましたね。まあ、外から見ると異様な光景でしたけどね。

でもひょっとしたらそれが20年早いことをやってたかもしれない。

佐藤:ははは、まぁそうですね(笑)

メビウスとコニー・プランクの『Zero Set』が1983年だから、アフリカ音楽とヨーロッパ的なるもののミクスチャーは70年代末から80年代初頭にかけてあったひとつの共通感覚なんでしょうね。京都では佐藤さんがそれを実践されていて、ほかの都市でもそうしたことが起きていた。

佐藤:そう思いますね。ただぼくの場合は、踊りを突き詰めて電子パルスに行ってしまった。リズムを切り刻んだり圧縮/伸長してるうちに、人間の技では認識不可能なハイパーポリリズムや、数年に一拍刻まれるような日々の生活に埋没したリズムというか、リズムではなくパルスに行きついたというね。『Zero Set』の名が出たので補足しておきますが、オーネット・コールマンの『Dancing In Your Head』なんかも複雑なバイアスのかかったミクスチャーとしての共通感覚を感じますね。『Zero Set』のひと時代前の作品ですが、オーネットは母国よりヨーロッパで圧倒的人気があったし、特にドイツでは現代音楽を学んだりしていてクラウトロック周辺には影響力があったと思います。

でも当時これを出していたらやっぱり厳しかったなっていう感じはします。アナーキックなパンクのように受け取られて、そのままでは理解されなかったんじゃないかな。やはり適切な時間というのは必要かと。長いか(笑)。

佐藤さん個人としては今回R.N.A.オーガニズム出すにあたって、どのような感想を持ってますか?

佐藤:けっきょく記憶との戦いになっていて、俺ほんとにこんなんやっていたのかなっていう(笑)。まったく記憶にないものもあったり面白い。でも当時これを出していたらやっぱり厳しかったなっていう感じはします。アナーキックなパンクのように受け取られて、そのままでは理解されなかったんじゃないかな。やはり適切な時間というのは必要かと。長いか(笑)。

でも〈Vanity〉って、当時3〜400枚とか、そのぐらいの枚数しかプレスしていないじゃないですか。しかも海外には熱を入れてプロモーションしたようですが、おそらく国内ではほとんどされていませんよね。こういう音楽がもっとしっかりした流通のもとプロモートされてリリースされていたら、日本の音楽シーンも少しは違ったものになっていたんじゃないかなと思いますけどね。ぼくなんか全然知らなかったし。佐藤さんにとっては、いまこうやって評価されることは複雑だったりしますか?

佐藤:阿木譲は意図してなかったと思いますが、はなから〈Vanity〉は日本の音楽シーンに向けて音を発信していたレーベルではなかったように思います。R.N.A.の場合も明らかに海外からのオファーが多くて、R.N.A.は〈Vanity〉のなかでも特殊なのかなという感じはしますけどね。だいたい〈Vanity〉はいろんなものを出していて、それこそプログレからパンクまで。ヴァイナル・コレクター向けのショーケースみたいな。そこでもR.N.A.はちょっと特殊だったと思います。

この時代の佐藤さんにとってなにか大きな影響ってありましたか?

佐藤:このころは本当に目まぐるしい時代だったので、とにかく場所のことや音のこと、そういうものを支えるための組織を作ったりだとか、そっちのことをより考えていましたね。自分たちでオーガナイズして演奏できる場所をもっと広げていくということですね。音楽に関しては、ぼくは自分でやる音楽と聴く音楽があまりに違うので人は驚くんですけど、聴いていたすべての音楽から影響されているんじゃないでしょうか。

それでは別の質問にいきます。佐藤さんにとって阿木譲さんとはどういう存在でしたか?

佐藤:ぼくと阿木さんの関係は、あんまり触れちゃいけないと思われているみたいです。でもじっさいは、ぼくと阿木さんと特別なにかあったわけでもなんでもないんです。むしろいい関係にあったんじゃないかな、とぼくは思っているんだけど。ただ、周りからはね、阿木さんからこうされた、ああされたという話ばかりでね(笑)。

佐藤さんがそこであいだに入ったりしたんですか?

佐藤:それでぼくが煙たがられる存在になってしまった。だから『ロック・マガジン』にはEP-4のことはまったく書かれていないんです。

ポスト・パンク時代に日本からは良い作品がたくさん生まれているんですけど、いくつかのレーベルに関しては問題があったという話は聞きますね。UKの〈ラフ・トレード〉みたいなレーベルはアーティストとの契約の仕方まで公平にするよう変えましたけどね。

佐藤:阿木さんはもともと歌手だったから、歌手時代に自分がやられたことと同じことをやってしまったんでしょうね。ただね、亡くなるちょっと前にも同じようなことがあったんですよ。〈Vanity Records〉の音源に関しては全部自分だけのものだって言い張るわけです。歌謡界と同じ発想で日本初を謳うインディー・レーベル運営しちゃうのはまずい。いくらなんでもそれはない、少なくともアーティストとレーベル半分半分だと思います。

少なくとも著作権は曲を作った人のものです。

佐藤:基本はアーティストのものですが、阿木さんはスタジオ代を払っているから、そういう意味では一緒に作ったようなものじゃないですかと言ったんだけど、死ぬまで譲らなかったですね。だから曲が切り売りされていたこともあったりして。しかも無断でやるんです。ほかのアーティストも同じことをさんざんされている(笑)。いくら音楽を聴く耳が先端でも、そんな態度では音楽もDIYもへったくれもないですからね。まあ晩年はずいぶん落ちついたようですが。

今回、R.N.A.についての当時の阿木さんの文章(https://studiowarp.jp/kyourecords/r-n-a-organism-%E3%83%86%E3%82%AD%E3%82%B9%E3%83%88-1980/)を読ませていただいたんですけど、何を言いたいのかぼくには理解できない文章でした。ただ、熱量は感じますけどね。

佐藤:音楽の紹介誌としては先端をいっていたとは思います。

それはたしかにそうですね。それでは、松岡正剛さんは佐藤さんにとってどんな存在ですか?

佐藤:松岡さんはもう、お兄さんみたいな存在ですね。

松岡さんは佐藤さんのことが大好きなんですよね。いまでも佐藤さんのことを話しますから。

佐藤:77〜78年ぐらいですかね、松岡さんが京都に遊びに来てらしたときに初めて会いましたね。別人だと思っていたDJをやっている人間と音楽を作っている人間が同一人物だったことが松岡さんには面白かったそうです。松岡さんが京都に来るといっしょに遊んでもらって、ぼくが東京にいたときには泊めてもらったりしていました。

佐藤さんは一時期音楽活動から遠ざかってましたが、この十年間は精力的に動いています。レーベルも始められていたり、活動を再開されていますけど、現在のようにはじめた理由はなにかあったんですか?

佐藤:いちばんの理由は居所を探し出されてしまって、音源を形にしてくれる〈ディスク・ユニオン〉がアーカイヴとしてちゃんと取り上げてくれたことがきっかけです。以前にもそういう話はぽつぽつあったんだけど、一切応じなかったんです。自分で作ってきた音は自分たちでやりたい形で表に出したかった。EP-4以外の仕事を形にしてくれるんだったら活動を再開しましょうという話で始まったんです。

2018年から〈φonon〉もスタートされていますが、レーベルをはじめたのはどんなきっかけがあったんですか?

佐藤:2013年くらいからレーベルのやり方をいくつか考えていました。アナログがやりやすくなってきたということで、当初はアナログ盤のレーベルを考えていたんです。同時にEP-4の新作を作りたいと思っていましたから、アーカイヴがひと段落したところで、そういう作業に入りつつあったんですけど……、一身上の都合というか、家族の介護にシフトしなければいけないことになって、いま信州に住んでいます。だから、移動しないでレーベルをやる方法を考えはじめたんです。ネットと知り合い関係をうまく繋いで、制作費基本ゼロの現物支給でという最低限のシステムを考えて、これだったら電子系の人たちとか、すでに音源を持っている人に声を掛けたらなんらかのかたちでやっていけるんじゃないかなと。それで始めたのが〈φonon〉です。
 だから、一般的なバンド形態の音はちょっと無理なんです。制作費もないから、録音スタジオを使うのも難しい。フィジカルで出したいと思うものがあれば聴かせてもらって、ぼくの方でも面白いと思ったら出すという。レーベル側でのネット配信による販売は基本ありませんし、すべての権利はアーティストが持つので配信したい場合は自由にしてもらっています。お金をかけないで、最低限の流通は確保して、なおかつアーティストは現物支給で手売りすれば、最低限の収入にはなる。だいたいそういうシステム・モデルができたので、なんとかここまで続いてます。

もうそろそろEP-4の新作が出てもいいんじゃないかなと(笑)。

佐藤:いまのところどうしようもないです。EP-4の命運は家族の案配にかかっているとよく言われます(笑)。

そうですか、でもシングルぐらいはそろそろ聴きたいですね。今日はどうもありがとうございました。

(2月26日、ZOOMにて)

試聴リンク(シェア可):https://audiomack.com/sp4non
φononレーベル・サイト:www.skatingpears.com

Sam Prekop - ele-king

 ザ・シー・アンド・ケイクサム・プレコップの最新EP、デジタルのみで配信されていた「In Away」が、日本限定でCD化されることになった。宇波拓によりCD盤専用のマスタリングが施されており、また完全未発表のボーナス・トラックも追加収録されているとのこと。これはフィジカルで持っておきたいアイテムです。

Sam Prekop(サム・プレコップ)
『In Away』(イン・アウェイ)

企画番号:Prekop-JP 1 / HEADZ 252(原盤番号:なし)
価格:1,800円 + 税(税込定価:1,980円)
発売日:2021年7月30日(金)※(配信の海外発売:2021年5月7日)
フォーマット:CD
バーコード:4582561395406
原盤レーベル:The Afternoon Speaker

1. In Away イン・アウェイ 5:23
2. Triangle トライアングル 3:54
3. Quartet カルテット 3:30
4. Community Place コミュニティ・プレイス 3:17
5. So Many ソー・メニー 4:52
6. Sunset サンセット 3:06

Total Time: 24:19

※ Track 6…日本盤のみのボーナス・トラック

Recorded and mixed in Chicago, February - April 2021 by Sam Prekop
All songs written by Sam Prekop
Mastered by Taku Unami
Photographs by Sam Prekop

A collection of recent tracks from my home studio, of which I've spent plenty of time in this past year or so! These pieces arrived in a similar fashion as the works on my last record "Comma". Basically culled from long rambling recording sessions where the more interesting elements hopefully emerge and present as starting points for further development. These five pieces are the most recent results of this process, I hope you enjoy and thanks for listening!
Sam

セルフ・タイトルの1stソロ・アルバムが永遠の名盤として再評価される中、The Sea and Cakeのフロントマン、サム・プレコップが、彼のインスト・ソロ作史上、最もポップでメロディアスな作品を日本のみでCD化。
Bandcamp以外、配信サービスの取り扱い無し、全曲CD用のマスタリングされ、完全未発表のボーナス・トラックも追加収録。
常に刺激的な電子音楽と美しい写真を追求し続けるサムの現在地がここにある。

昨年(2020年)夏に日本先行でリリースされた、最新ソロ・アルバム『Comma(コンマ)』(THRILL-JP 52 / HEADZ 247)が、彼のトレードマークでもある魅惑的なウィスパー・ヴォーカルを封印した、アナログ・シンセをメインに制作されたインスト・アルバムであったにも拘らず、高評価を獲得し(ピッチフォークも8点越え)、これまでのファン以外にも広くアピールしたザ・シー・アンド・ケイクのフロント・マン、サム・プレコップ。
1999年に発表された1stアルバム『Sam Prekop(サム・プレコップ)』(THRILL-JP 21 / HEADZ 42P)の日本での紙ジャケCD化に続き、Thrill Jockey盤でのLPのリプレスされることになり(Pale Pink盤の限定カラーLPもあり、間もなく日本のレコード・ショップにも並びます)、サムの新旧作品に注目が集まる中、(この1年ほど掛けて作られた)サムの自宅スタジオで今年の2月から4月の間に制作され、Bandcampのみで配信リリースされた最新音源(5曲入りEP)が日本盤のみでCD化されます。

近年海外でも再評価が進む清水靖晃、尾島由郎、吉村弘、イノヤマランド他の80年代の日本のニューエイジやアンビエントの名作群にもインスパイアされた『Comma』の延長線上にありながらも、ビートは控えめに、よりポップでメロディアスなサウンドに仕上がっており、サム本人の撮影による美麗なジャケット写真のイメージ通り、爽やかで透明感のある電子音楽集となっています。

自ら録音・ミックスを手掛けた、サムにとって初のセルフ・リリース作品で、日本盤のみ完全未発表の新曲「Sunset」をボーナス・トラックとして追加収録。
(CD化に際し、David Grubbsのコラボレーターでも知られる、HOSEの宇波拓によって、全曲リマスタリングされており、厳密にはBandcamp音源とも違っております)
ライナーノーツは、編著『シティポップとは何か』(河出書房新社)の刊行を控える、柴崎祐二が担当。
現在、Bandcamp以外、海外も含め配信サービスでの取り扱いの予定はございません。

Sam Prekop is an artist whose music is painted in hues all his own. Both solo and as part of The Sea and Cake, Prekop’s distinct and lithe compositions distill his ceaseless curiosity into bracingly sublime music. In Away follows Prekop’s 2020 LP Comma and takes the next steps into his new compositional approach to crafting more overtly rhythm-based modular synthesized pieces, deftly whittled into vivid pop prisms. Working this time with both modular synthesis and keyboard-based synths, Prekop obscures the line between architectural sequencing and subtle performances. The resulting pieces levitate effortlessly from delicate atmospheres to rippling dances with Prekop’s guiding hand gently leading each movement towards the stirringly unfamiliar.

The six buoyant pieces on In Away were developed through Prekop’s daily practice of manipulating new systems of modular synthesis, recording, and deep listening. Acting as a curator to his own museum of sounds, Prekop poured over hours of improvisations using different modular combinations to select compelling moments which could act as a framework for his arrangements. His unique approach to shifting texture and juxtaposing timbres then layered each frame with minute details and potent melody. The Buchla 208c scintillates and plucks with near-acoustic tones atop a bed of warm drones. Lightly sizzling percussion throbs beneath coursing cascades. Each moment strikes a meticulous balance between captivating surprise and gratifying outcome.

サム・プレコップは、自身の音楽を全て独自の色彩で描き出すアーティストです。ソロでも、The Sea and Cakeのメンバーの一員としても、プレコップの個性的でしなやかな作曲群は、彼の絶え間ない好奇心を刺激的で崇高な音楽に精製しています。『In Away』は、2020年に発売されたプレコップのLP『Comma』に続く作品で、彼の新しい作曲アプローチの次のステップとして、よりあからさまなリズム・ベースのモジュラー・シンセサイザーを使って、鮮やかでポップなプリズムを巧みに削り出した作品を制作しています。モジュラー・シンセシス(シンセサイザーによる音の合成)とキーボード・ベースのシンセサイザーの両方を使った今回の作品では、構築的なシーケンス(配列)と繊細なパフォーマンスの間の境界線が曖昧になっています。その結果、作品は繊細な雰囲気から波打つようなダンスまで楽々と浮遊し、Perkopの手助けによってそれぞれの動きを刺激的で聴き慣れないものへと優しく導きます。

『In Away』に収録されている6つの作品は、モジュラー・シンセシス、レコーディング、ディープ・リスニングなどの新しいシステムを操作するという、プレコップの日々の演習を通して開発されました。自らの音の博物館の学芸員のように、Perkopは様々なモジュラーの組み合わせを使った即興演奏を何時間も掛けて行い、アレンジのフレームワークとなるような魅力的な(感動的な)瞬間を選び出しました。テクスチャーを変化させたり、音色を並置したりする彼のユニークなアプローチは、その結果、それぞれのフレームに微細なディテールと強力なメロディを重ね合わせました。(米Buchla社製のアナログシンセサイザー)「Buchla 208C」が輝きを放ち、暖かいドローンのベッドの上で、音響に近いトーンを弾きます。素早く進むカスケード(直列)接続の下では、軽やかに揺れるパーカッションが鳴り響きます。一瞬一瞬が、魅惑的な驚きと満足のいく成果の間で、細心のバランスを取っています。

Sound Patrol - ele-king

夏といえばダンスの季節です。いくつか注目のシングルをピックアップしてみました。ワクチン接種が進んでいるUKでは来週19日からクラブが通常営業を開始するとのことですが(問題なきことを切に願います)、たとえ緊急事態宣言下であっても、ダンス・ミュージックはいつだって我々にとってのエネルギー源であり、かけがえのない音楽なのです。

Overmono - BMW Track / So U Kno Poly Kicks

https://overmono.bandcamp.com/album/bmw-track-so-u-kno

TesselaとTrussによる期待の兄弟ユニット、オーヴァーモノ(https://www.ele-king.net/news/008102/)によるニュー・シングル。彼らの才能は、“BMW Track”を聴くとよくわかる。音数少なめのブレイクビーツ・テクノによるリズムの格好良さ。ダンサーたちを魅了すること間違いない。早送りのヴォーカル・サンプルを使った“So U Kno”に至ってはレイヴの季節にぴったり。よし、踊るぞ(どこで?)。


Eomac - Cracks Planet Mu

https://eomac.bandcamp.com/album/cracks

ベルリンからアイルランドはダブリンに移住したプロデューサー、Eomacによる〈Planet Mu〉からのアルバム。内省的で、じつに多彩な内容だが、とにかく、“What Does Your Heart Tell You?”という曲を聴いてほしい。素晴らしいでしょう?


LSDXOXO - Dedicated 2 Disrespect XL Recordings

https://lsdxoxo.bandcamp.com/album/dedicated-2-disrespect-ep

フィラデルフィア出身ニューヨークからベルリンへ、LSDXOXOによる〈XL Recordings〉からの一撃。ボルチモア・クラブおよびゲットー・ハウスの猥雑さとパワーを咀嚼した4曲入り。まずは“Sick Bitch”でも。ダンスフロアの次期スターは彼か?


One Bok - Zodiac Beats Volume 1 & 2 AP Life

https://aplife.bandcamp.com/album/zodiac-beats-volume-1-2-003

〈Night Slugs〉で知られるBok BokによるOne Bok名義でのEPで、グライム、トラップ、ドリル、ダブ、ベース・ミュージックの混合。ダンス・ミュージックだが、この虚しい夏にはぴったりの荒涼感覚が見事で、家でリスニングも楽しめる。


RP BOO - All My Life. Planet Mu

E王


https://soundcloud.com/rp_boo/all-my-life

RP BOO9月リリース予定のニュー・アルバムからの先行曲(配信で購入可)。シカゴのフットワークの重鎮、オールドスクールを意識しつつ、ディープ・ハウスに接近か。これはもう、アルバムを期待しないわけにはいかないでしょう。


Jon Dixon - The New Tomorrow EP Visions Inc

https://visionsrecordings.bandcamp.com/album/jon-dixon-the-new-tomorrow-ep

デトロイトからはアンドレスの新譜(Sweetest Pain / Sweetest Moaning)も良かった。しかし、ここはGalaxy 2 GalaxyやTimelineの鍵盤奏者でもあり、ハイテック・ジャズ・テクノのプロデューサーでもあるジョン・ディクソンの最新シングル、ソウル・ミュージックとしてのテクノをどうぞ。落ち込んでばかりの毎日でも、なんかやる気にさせます(何を?)。

Isayahh Wuddha - ele-king

 去る2020年、『urban brew』で鮮やかなデビューを飾った京都のシンガーソングライター、イサヤー・ウッダ。年末にはセカンド『Inner city pop』を発表、そして来る8月11日には早くもサード・アルバム『DAWN』をリリースする。ちょっと早すぎない? で、今回は果たしてどのような展開を見せているのでしょうか? 気になる方はぜひチェックを。

2020年代のポップ・アイコン=イサヤー・ウッダ 夜明けの3rd アルバムリリース!

京都在住、2020年5月英国WOTNOTから1st アルバムをリリース。暮れの12月には2ndアルバムリリースと破竹の勢いの鬼才SSWイサヤー・ウッダ、早くも3rdアルバム降臨。
超ポップさはそのままに、マインドフルネスなアンビエント要素が霧の様に全体を包み込んだ至高のトリップサウンド。観たままに善悪全てを肯定する気狂いトラップ風 “SAY” や、牧神の午後的変態ヒップホップ “RIPPLE” 等全9曲。
聴きどころ満載の新しい『DAWN』(夜明け)、ドーーーンッと登場!!!

本人によるコメント:
コロナが世界中で猛威をふるう事で、今まで隠されていた人間の本性、
悪や善のようなものが顕わになってきたと思います。人間の活動が停滞することでスモッグが減り、
川や空気の汚染が軽減されたことは好ましいことでした。
私はそういったもの善悪全部ひっくるめて肯定しました。
そして居なくなった猫について思いをはせました。
また2004年にイラクで人質になり殺されたバックパッカーの青年について、
私は忘れないと約束していました。人間は利益の為に自然を破壊するし、
利権やお金の為に戦争も起こす。動物たちの方がよっぽど尊い生き物だと思っていました。
しかしこの数年でその考えは変わりました。どうでも良くなったのです。
なぜなら私たち人間は、植物や虫、動物、地面に落ちている石と変わらない存在なのだと気付きました。
すべては同じで、それぞれがそれぞれの使命を持って存在しているように思います。
だから私は音楽を生み出しているのです。
(Isayahh Wuddha)

レーベル:MAQUIS RECORDS
アーティスト名:ISAYAHH WUDDHA
作品:DAWN
イサヤー・ウッダ / ドーン
発売日:8月11日(水)
品番:MAQUIS 011
定価:¥2000+tax

TRACK LIST
01. ES
02. STILLLIFE
03. SUMMIT
04. RIPPLE
05. SAY
06. HIGHER
07. YOUMAKECRY
08. SPACEDRIVE
09. HOLDONME

PV : https://youtu.be/8yvX2LWmVEI

プロフィール:

Isayahh Wuddha / イサヤー・ウッダ
京都在住の鬼才 密室ドラムマシーン・ソウルSSW。ヴィンテージ・カセットテープMTRにて制作された楽曲は中毒性あるビートと浮遊感あるメロディで聴くものをインナー・トリップの世界へ導いてくれる。英DJジャイルス・ピーターソンのラジオでプレイされ、ミュージック・マガジン 2020年9月号 特集「日本音楽の新世代 2020」 の10組に選出される。また2020年12月にリリースした2nd album『Inner city pop』はele-king Vol.26 の「ベストアルバム2020」にてベスト5に選ばれた。
未だ所在不明なサイケデリック・ヒップホップを響かせながら、2020年代ポップ・アイコン最有力アーティストである。
現在までに1st album『urban brew』(2020年 流通:WOTNOT)、2nd album『Inner city pop』(2020年 流通:ULTRA VYBE)、1st single『I shit ill』(2021年 流通:JETSET)をリリース。

Mustafa - ele-king

 アルバム・タイトルの「煙がのぼるとき」は、ムスタファことムスタファ・アーメドが属しているラップ・クルーであるハラル・ギャングの一員であったスモーク・ドーグが銃撃に巻きこまれて死亡した出来事に由来している。トロントの公営住宅で貧しさのなか育ったアーメドにとって暴力と死は日常であり、幼馴染や仲間がいつ死ぬか怯えて暮らすことでもあった。その悪い予感はいくつか現実になり、アーメドは仲間たちに哀悼の詩を詠み、このアルバムは生まれた。
 ムスタファ・ザ・ポエットの名で10代の頃からストリートで過酷な日常についての詩を発表していたアーメドは、同郷カナダのドレイクにフックアップされ、ザ・ウィークエンドの楽曲への参加などで少しずつ知られるようになり、シンガーとなったリリシストである。24分弱しかないこのデビュー・アルバムにはアコースティック・ギターやピアノがすすり泣くようなバラッドが8曲収められている。そこには仲間たちの死の記憶と悲しみが横溢し……アーメドは自身の音楽を、「インナーシティ・フォーク・ミュージック」と呼んでいる。貧しさのなかで多くの男たちがギャングになっていくような環境のなかで、アーメドはジョニ・ミッチェル、レナード・コーエン、そしてリッチー・ヘヴンズの影響を受け、フッドの日々をフォーク音楽に昇華したのである。
 フォーク・ミュージックと言っても、ジェイミーXXジェイムス・ブレイクの参加に象徴されるように、本作にはおもに音響処理において2010年代のエレクトロニック・ミュージックの手法が入っている。多くの論者が「ゴーストリー」と呼んだ初期ジェイムス・ブレイクの音響はオリジナル・ダブステップに由来するものだが、だとすれば、ダブステップにおいて暗喩的に「都市の亡霊」と呼ばれたサウンドはこの『When Smoke Rises』にまで繋がり、ついにメタファーではなくなったと見なすこともできる。アーメドにとって、本作のなかで息をしている死者たちは紛れもなく具体的に顔のある者たちのことだからだ。彼が「あまりにパーソナルでアルバムには入れないと思っていた」という “Ali” はアルバムのハイライトのひとつだが、そこでは、命の危険があるから街を離れるよう友人に懇願したアーメド自身の記憶が綴られている。「お前は街を去るべきだったんだ/俺はお前に行くように言ったんだ/安全じゃないとお前に言っただろう」。だがアリは死に、アーメドはむせび泣くように、祈るように歌を捧げることしかできない。

 しかしながらアーメドの個人的な記憶は、世界で起きていることと無関係ではない……もちろん。穏やかなアコースティック・ギターの演奏とムスタファの柔らかい歌声が寄り添う “Stay Alive” は、故郷のリージェント・パークが再開発で変わりつつあることが背景にあるという。「これらのすべての罠、これらのすべての道路標識は、お前のものでも俺のものでもない/だけど俺がお前の帝国になるから/だから生きて、生きて、生き延びてくれ」──あまりに感傷的な歌と言えばそうだが、そこにはジェントリフィケーションと経済格差によって破壊されゆく都市の風景が映りこんでいる。
 もうひとつ興味深いのは、アーメドにとってギャングスタ・ラップはギャングたちの日常をリアルに描いているという意味でつねに重要なものだったそうだが、ピッチフォークのインタヴューによれば、スフィアン・スティーヴンスの『Carrie & Lowell』がもういっぽうのインスピレーション元になったということだ。同作はスティーヴンスが複雑な関係だった母親の死に際し彼女との記憶を美しい音の連なりへと封じこめたものだったが、アーメドも友たちの死をそのようにしたかったと。「犯罪歴しか残らない者たちの記憶を、自分は結晶化できないだろうか?」と考えたと彼は語っている。
 サンファとジェイムス・ブレイクが参加した曲はゲストの音楽性にやや引っ張られているところもあるが、それでもこれは、何よりムスタファ本人の内側から生まれたものだ。ギャングスタ・ラップの厳めしいリアリティと『Carrie & Lowell』の壊れそうな繊細さが結びついて、『When Smoke Rises』は聴く者の胸を締めつけるフォーク音楽となった。公営住宅の過酷な現実の当事者でない自分が、この音楽を聞いて悲しい気持ちになることにまったくの後ろめたさがないわけでもない。自分は友たちが銃弾に倒れるようなことは経験していないし、アーメドの背景にあるブラック・ムスリムとしての生き方について知識があるとも言えない。それでも「もしお前が許されなかったら?」と仲間の死後の苦しみを悲嘆する(イスラムの信仰を背景とした) “What About Heaven” が突き刺さるのは、これがいま、自分が生きている世界で地続きに起きている悲劇についての歌だと……彼の声を聴くと直感するからだ。バラッド(民衆の詩)として、彼の個人的な悲しみはコミュニティの悲しみとなり、やがて関係ないとされている場所で生きているわたしたちの悲しみとなる。だからこのアルバムは、あまり目を向けられることのない場所で死んでいった者たちへの、文字通りのレクイエムとして鳴っている。そこでは誰もが静かに涙を流し、癒えることのない痛みに浸ることを赦されるのである。

RP Boo - ele-king

 昨年の年末号でマイク・パラディナスが予告していたとおり、フットワーク初期の重要人物、シカゴのRP・ブーのニュー・アルバムが〈Planet Mu〉からリリースされる。タイトルは『Established!』で、9月17日発売。彼にとっては4枚めのフルレングスにあたる。
 同作より “All My Life” が先行公開中だが、いや、これがすばらしいトラックなのだ。こいつはアルバムも傑作の予感がひしひし、かなり期待できるんじゃないでしょうか。2021年の、絶対に聴き逃せない作品がまたひとつ増えそうだ。

Leon Vynehall - ele-king

 フローティング・ポインツやフォー・テットはよく語られるが、それに較べてレオン・ヴァインホールがあまり語られないと感じるのは、僕の気のせいだろうか。全員がUK出身のDJであり、いずれも彼らのアルバムはフロアの枠を超え、すばらしい作品へと実を結んでいる。実際、僕は2019年にリリースされたフローティング・ポインツの『Crush』を何度も聴き込んだし、2020年にリリースされたフォー・テットの『Sixteen Oceans』も安心して聴けた──ハウスに分類できる音楽においてはあまり多くない──フルレングスのアルバムだった。もちろん、同年に重量盤&3枚組の豪華仕様で、名盤『There Is Love In You』が再発されたことも、ささやかだがうれしい出来事であった。

 もし、以上に挙げたいずれかの作品がレコード棚にあるのならば、レオン・ヴァインホールの『Rare, Forever』もコレクションに加えてみてはいかがだろうか? オープナーの “Ecce! Ego!” のダウンテンポ、ボン・イヴェールの『22, A Million』でアートワークを手掛けたエリック・ティモシー・カールソンによるMVから、前作『Nothing Is Still』と地続きのコンセプチュアルなものを予感させる。が、その内実は少し異なる。もちろん、前作にある美しくも幽玄なテクスチャは随所に引き継がれているものの、緻密で一貫した物語は鳴りを潜め、その瞬間における彼の感情が、10曲/38分間へと見事に落とし込まれ、そして、なによりもフロアへのまなざしを感じられる。後悔しないことを保証します。

 まず、彼は抽象画からのインスピレーションについて公言しており、ブラシの自由なストローク、感じたままあるがままに描くというありかたは、まさにその瞬間の感情を捉えた今作の仕上がりに直結している。突如としてザッピングめいた音とヴォーカルの断片が挿入される “Mothra” は、自由でトリッキーな作風をよくあらわしているし、「ただ座って、自分の思いつきに委ねた」と語る “Farewell Magnus Gabbro” では、瞑想的なドローンを展開する。サックスが響き渡る “Alichae Vella Amor” は、配偶者へのシンプルなラヴ・ソングに仕上がっている。多様な感情がめまぐるしく展開していくさまは、液体のように掴みどころがなく、どこか流動的なイメージを想起させられる。一貫したコンセプトや物語からのこの解放が、様式にとらわれない自由な作風に通じている。

 そして、このフリーフォームな作風は、『Rare, Forever』が踊れる方向へ再びフォーカスしたことへつながっている。彼がDJであるだけでなく「アーティスト」であることを証明したコンセプチュアルな『Nothing Is Still』以前のことを思い返してみよう。『Music for the Uninvited』や『Rojus (Designed To Dance)』は、後者が「ダンスのためにデザインされている」と付しているように、まさにフロアのためにチューニングされたサウンドであったし、そもそも彼は、ウィル・ソウルによる〈Aus Music〉やオランダの〈Royal Oak〉といった上質なレーベルから、フロアライクなハウスをリリースしているのだ(僕のお気に入りは “Brother”)。

 今作はいわゆるストレートなハウス・ミュージックではないが、この頃にたずさえていたダンサブルな感覚が注がれており、それが “Snakeskin ∞ Has-Been”、あるいは “An Exhale” や “Dumbo” などの楽曲で結実しているように感じる。ビートが差し引かれた “An Exhale” には独特の高揚感があり、そこからなめらかにつながる “Dumbo” では、せきを切ったかのように踊れるビートが展開される。個人的に、後者のふたつは今作のハイライトだと思っている。このふたつをレオン・ヴァインホールは「楽しげ/楽観的/遊び心のある」といった言葉で表現していることからも、たしかに明確なコンセプトや物語はない。これらのサウンドを聴くと、レオン・ヴァインホールがフロアを志向していたころを思い出させるような、踊れる瞬間を演出しているように感じる。

 『Rare, Forever』を聴いていると、コンセプトや物語はさして重要ではないと思わされる。どこまでも自由であり、その瞬間の感情を切り取ったこのアルバムは、おおよそは落ち着くことを拒むかのようなリズムであふれており、ときおり汗が飛び散るダンサブルな瞬間を思い出させる。DJやフロアの来歴を存分に感じさせるサウンドは、驚くほどのクオリティで、アルバムというフォーマットへ落とし込まれている……だからこそ、彼をフローティング・ポインツやフォー・テットといった面々と並列することは、まったく誇大な触れ込みではないのだ。もう一度言おう、後悔しないことを保証します。

interview with Koreless - ele-king

 コアレスとはいまから10年前、ジェイムス・ブレイクの次はこの人だと期待された、当時はまだ10代だったUKのプロデューサーである。あの頃はちょうど「CMYK」が出たばかりで、同時にマウント・キンビーやラマダンマンにも注目が集まり、じゃあ次は彼だろうと、デビュー・シングル「4D」を聴いた多くのリスナーが太鼓判を押したのだった。
 が、コアレスがベース・ミュージックに定住することはなかった。作品数こそ多くはないが、ひとつのスタイルに固執せず、自由奔放にリリースし続けている。なかでもとくに重要なのは、2013年に〈Young Turks〉から出した「Yugen」だ。もの悲しくも幽玄な音響を持つその「Yugen」もまた彼の才能を世に認めさせた作品で、今回のアルバム『Agor(アゴル)』の起点にもなっている。
 そもそも2011年のデビューEP1枚だけで、『ガーディアン』からは「ジェイムス・ブレイク、フォー・テットに続くのは彼だ」と紹介され、ジャイルス・ピーターソンからは「ほかの素晴らしいデビューと同様、将来も記憶に残るEP」などと讃辞を受けている。そんなシーンの寵児のファースト・ソロ・アルバムがこの度、ようやっとリリースされるとあればシーンはざわつき期待が高まるのも無理からぬことなのだ。しかも先行で発表された曲、“Joy Squad”は出色の出来とくる。

 もっとも『アゴル』には、こんなにも楽しそうな曲ばかりが収録されているわけではない。ウェールズ出身のロマン派による最初のアルバムに収録されたメランコリックなエレクトロニカ風の楽曲には、たとえば“ヨーガ”におけるビョークを彷彿させると言えばいいのか、オーガニックな響きを取り入れた叙情性に心が揺さぶられる。また、アルバムにはレイヴ・カルチャーの残響が断片化されてもいるようにも感じられる。どこまでも広がる牧草地帯、夜空の遠くからかすかに聞こえるダンス・ミュージック──1994年の夏、コーンウォールのレイヴに行き損ねたぼくたちはロンドンから西へ、羊たちが放牧されている一帯をどこまでも車で進んで、そしてコアレスの故郷、ウェールズにまで行った。山道を走ってすっかり迷子になり、ようやく辿りついた一軒のホテルでひと息入れてから眺めた星空は最高だったなぁ。
 『アゴル』は想像力を刺激する音楽であって、踊るための作品ではないが、ダンス・カルチャーの熱狂とも繫がっているようにも感じられる。たとえその音楽がアンビエントめいていたとしても、かの地のエレクトロニック・ミュージックがクラブ・カルチャーと乖離することはまずありえないのだ。しかしながら、ウェールズの田舎で暮らしながらバレアリックを夢見るというのは、まあ、あまりないことかもしれない……。我が道をいくタイプなのだろう。コアレスを名乗るルイス・ロバーツは、指定の時間よりも早く待機するような、天才と言うよりは謙虚で温厚なお兄さんだったと通訳の青木さんが彼の印象を教えてくれた。

学校の進路相談で、音楽プロデューサーになりたいと伝えたんだ。そうしたら先生から「それほど馬鹿げた考えはない」と言われたんだよ(笑)。

2011年にあなたが最初にリリースした12インチを東京のレコード店で購入しました。当時はダブステップ以降のベース・ミュージック全盛で、ぼくはBurialの次に来るような音を探していたんですが、Korelessの「4D」にそれを感じたからです。しかしあなたはその後、ベース・ミュージックとは別の方向に進みましたよね。あなたは自分の音楽の進むべき方向性についてどのように考えていたのでしょうか?

K:素敵な質問とコメントをありがとう。僕は同じことを1回以上やるということが得意じゃないのと、自分がこれから何をやるのかということが先にわかっているとすぐに飽きてしまう性分なんだ。だから自分が続けられる音楽制作のやり方は、自分がイメージしている音を作り出すのではなくて、何かしらの疑問や問いからはじめる。その疑問は技術的なものかもしれない。例えば、「このツールを極限まで使ったらどうなるんだろう?」とか。その過程で何か素敵なものが見つかるかもしれないし、「こんな曲を作ったら面白くない?」と自分に問いかけて、ただのジョークで終わることもある。
 もしくは、夜、何も考えずに何かを弾いてみるというときもある。そういうやり方をしているから僕の音楽は変わり続けているんだと思う。一度何かをやると、もう一度それをやるのが僕にとっては難しいことだから。つまらなく感じてしまうんだよ。だから音楽を作ることはゲーム感覚でやっていて、いろいろと探ってみたりしながら軽い気持ちでやっている。深く考え抜いてやっているわけじゃないんだよ。

あらかじめ求めているサウンドがあるというわけではないのですね。疑問からはじまって、それがどこに向かっていくのか様子を見ると?

K:最初から自分はこれを作りたいと思って制作をはじめても、決してその通りにはならないし、僕はすぐ飽きてしまうんだよね。でもゲーム感覚で制作をしていると、物事に対してもっとオープンになれる。だからどんなものができるかやってみて、予測していないことが起こっても、それはそれでよしとする。だから今回のアルバムの曲も同じようなサウンドの曲がひとつもないんだと思う(笑)。

ほかの仕事で忙しかったんだと察しますが、それにしてもアルバムを出すのにこれだけ(10年)かかった理由には、あなたがアルバムに関して慎重だったことが影響しているんじゃないのでしょうか? そして制作に費やす時間も必要だったと。

K:時間がかかった要因はいくつかある。アルバムを作りはじめたタイミングも比較的遅かったし、そもそもフル・アルバムを作るという予定がなかったからね。アルバムの曲のうち半分は、長い時間を要し、もう半分は2ヶ月でできた。最初の頃長い時間がかかったのは、「Yugen」をリリースした後だったから、すごくいいものにしなくちゃいけないと思って、自分に強いプレッシャーをかけてアルバム制作をしていたから。そう、ノンストップで、ものすごい量の楽曲を作ったんだ。すべてのトラックにつき何百ヴァージョンも作ったりしてね。で、数年後ニューヨークまで行ってポール・コリーという人とアルバムの音源をミックスしたんだけど、そこでアルバムは完成したと思った。自分のなかで祝杯を挙げていたくらいに。「Yugen」の4年くらいあとの話だよ。
 でもそのあとに、やっぱりアルバムは完成していないと思ったんだよ。アルバムには何かが欠けていたし、曲によっては強烈すぎるのもあった。だからやり直したんだ。この時点で僕はかなり落ち込んでいてね、すでにかなりの時間をかけていたからね。でもそこから2ヶ月で、“White Picket Fence”と“Act(s)”と“Stranger”とアルバムに収録しなかった他の音楽が次々と出来上がっていった。いままでのように自分に厳しくし、すべてに対して慎重にやるのはやめて、楽に、リラックスした感じで曲を作ろうと決めたんだ。そうしたらすごく早いペースで曲が仕上がっていった。だからアルバムが出来るまで、なぜこんなに時間がかかったのかはわからないけれど、いま話したような流れで完成したんだ。

アルバムが完成したと最初に思ってから、さらに2年間くらいかかったということですか?

K:それくらいかな? コロナの影響もあってリリースが遅れたというのもある。とにかくアルバムの半分はすごく時間がかかって、もう半分はまったく時間がかからなかった。

『アゴル』は、美しいメロディと繊細な電子音による壮大な広がりのあるアルバムですが、ジャンル名に困る音楽でもありますね。『Agor』は物語性がある、コンセプト・アルバムと受け取っていいのでしょうか? 

K:コンセプト・アルバムではないね。ジャンルに関して言うと、音楽には本当にたくさんの聴き方がある。例えば、「踊る」ということは音楽を聴く方法のひとつ。他にも体を動かしながら音楽を聴くことができる。音楽の種類によっては、座ってじっくりと聴くという聴き方もできる。スピーカーから音を流して、それ以外のすべての音を消して、音楽に集中する。また別の種類の音楽だと、そういう聴き方はまったく適していなくて、聴き流しているくらいがベストな音楽もある。

アルバムとしてのコンセプトがあるわけではなく、曲がひとつずつ独立しているということでしょうか?

K:その通りだよ。曲ごとに、そのスタート地点となった「疑問」があった。最初はアルバムというものを念頭に置いていなかったからね。僕はコンセプト・アルバムが作れるほど頭が良くないんだよ(笑)!

作中から聴こえるメランコリーは何に起因しているのでしょう?

K:僕はメランコリックな場所の出身だからね。ウェールズの田舎。ここの景色を見せてあげたいけれど、光の加減がとても奇妙なんだ。美しいところだよ。雑誌なんかでは、「壮大な場所」や「山頂を制覇する」という表現がよく使われていて、男性的で、登山的なマッチョのイメージがある。でも実際ここに住んでいると、そのイメージとはかけ離れている。ここの生活はこじんまりしていて、静かで、悲しい感じがするんだ。ここにいる僕の友人たちはみんなメランコリーな雰囲気があって、すごくシャイなんだ。静かで、引っ込み思案で、まるでホビットみたいなんだよ。そのことに今朝気づいたんだ。いま、じつはいま、1年ぶりくらいに両親の家=実家に戻って来ているんだ。今朝、散歩に出かけたんだけど、とても物悲しい、メランコリックな場所だと思った。だから音楽のメランコリーな感じはそこから来ているんだと思う。メランコリーと山の壮大な感じが共存している。それが僕の音楽に反映されているんじゃないかな。

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ピアノの先生は18歳くらいで、自宅にスタジオがある、オタク気質の人だった。シンセサイザーにめちゃくちゃハマっている人だったんだ。僕はピアノよりシンセの音に夢中になってしまった。

『アゴル』とウェールズの文化との関係について話してもらえますか? 

K:いま話したことと、ウェールズには壮大なイメージがあるということかな。自分でも気づいたのは、僕が作る音楽はいつも壮大になってしまうんだ。それにいつもメランコリック(笑)。それは自分でもどうしようもないことで、とにかくそういう感じにいつもなってしまう。最初はハッピーな感じの演奏をしていても、次第にメランコリーな方へ行ってしまう。毎回そうなんだよ。残念だよな(笑)!
 まあ、だからウェールズのメランコリックな感じと壮大な感じは、僕の音楽に関係していると思うよ。それからもうひとつ関係性が多少あるとすれば、ウェールズは他の世界から少し隔離されているという点かな。独立した国ではないんだけど、別の国という感じもあって、僕の音楽にもそういう雰囲気が少しあるかもしれないね。

ちなみに質者は、ウェールズに行ったことがあるそうです。1994年のことですが、車で山道で迷っていたら馬に乗った男性に会って、親切にしてもらった思い出があるとのこと。標識も英語ではない世界がイングランドと地続きにあるということが驚きだったと。それはともかく、ウェールズ特有のケルト的な世界観はあなたの作品にもあるのでしょうか?

K:僕の父親は昔、山道で馬を乗っていたから、それは僕の父親だったかもしれないね(笑)! 実家には馬が2頭いてね。最初は1頭だったんだけど、父親がドッグフード50袋と馬1頭を交換して、馬をもう1頭ゲットしたんだ。この辺の生活はいつもそんな感じなんだ。動物がたくさん周りにいてさ。1頭目の馬は山のどこかかから拾って来て、もう1頭はドッグフードか何かと交換して手に入れたんだ(笑)。家には昔、馬車があってそれを山で乗っていたよ(笑)。
 ……ケルト的な世界観についてだったね。その影響もあると思う。僕の祖父、つまり父親の父親は、ケルトの祈とう師というかエクソシストだったんだ。地元にある、とても小さな教会の神父で、彼の仕事のひとつは幽霊を追い払うということだったのさ。だから彼は古い家などを訪ねて、幽霊に語りかけたり、除霊したりしていたんだ。それ自体はケルト的ではないんだけど、ケルトの文化や歴史には魔法や神秘的な側面があって、みんなそれを話半分くらいで聴いている。そういう考え方は僕の音楽に共通するところがあるかもしれない。あとは静けさと古さ。ウェールズの山には古代の遺跡や昔からある集落などがあるからね。そういうのが背景としてあるんだけど、実際の町は、古びていて寂れている。 荒れていて、そこに居たいと思うような素敵な場所ではない。ケルト的な古代の壮大な感じと、悲しくて絶望的な感じが対照的なところなんだ。ウェールズの雰囲気をわかってもらおうと、長々と話してしまったね(笑)。

あなたの音楽に、そういったケルト的な感じは含まれていると思いますか?

K:“Black Rainbow”はいま聴くとケルトっぽい響きがあるように感じられる。あのヴィデオは弟と一緒に近くの裏山で撮ったんだけど、ヴィデオが完成してからは、曲の感じが、シンセっぽいバイクみたいな曲から、ケルトっぽい感じに聴こえるようになった。だからそういう風に聴こえることもあるかもしれない。 

サウンドのテクスチャーに拘ってますよね。エレクトロニックな響きは控え目にして、ストリングス系の音やオーガニックな響きを前景化していますよね。この狙いは?

K:アコースティックなサウンドを実際の演奏では不可能な方法で表現することに興味があった。以前、“Moonlight”というベンジャミン・ブリテンの曲をカヴァーしたんだけど、そのときもホルンの実際の音を崩壊させて、爆発させて、石灰化させて結晶化させたかった。けれど同時にその音がホルンの音であると認識できる状態にしたかった。僕はマジック・リアリズムについてそこまで詳しくないけれど、それとの関連性はあるかもしれない。ギターなどの音も同じように扱った。ギターの音として認識はできるけれど、実際に演奏するのは不可能な音。プログラミングの仕方によって、実際のギターでは出せない音にしているんだ。「Yugen」はシンセサイザーのテクスチャを追求した作品だったけれど、今回はまた別のことをトライしてみたというわけさ。

ではオーガニックな楽器を使って、オーガニックではない、非現実的な表現をしていたというわけですね。

K:そうだね。それに僕は音の精確性というものがすごく好きで、じつはオーガニックな感じが好きなタイプではない。音と音をつなげるときも計算機をよく使っているほどだよ。完璧にしたいからね。音を完璧につなげるというところに美しさを感じるんだ。そのつなぎ目が少しでもずれていると魔法は解けてしまう。アコースティックな楽器を使って数学的に完璧な流れにする。その流れが完璧に整う地点に到達すると何かが起きる。それがすごく好きなんだ。その地点に興奮する。その完璧には一切の余白がないから、「完璧に近い」じゃダメなんだ。だから、そういう完璧な状態に持っていくにはかなりの時間がかかるんだよ。

生演奏的な要素も入っていますよね? たとえば、とっても美しい曲のひとつ、“White Picket Fence”の冒頭のピアノはあなたが弾いているのですか? 

K:そう、僕が弾いた。アルバム制作の前半はすべての要素を慎重で高精度に扱っている。すべてを完璧で正確にするために膨大な時間をかけてエディットした。それが前半で、アルバムの後半は先ほども話したように時間がほどんとかからなかった。“White Picket Fence”は僕が一度だけ弾いた演奏がほぼ曲になっている。その夜、僕は落ち込んでいた。アルバムをもう一度最初から作り直さないといけないと思っていたからね。朝5時くらいにピアノの前に座って、“White Picket Fence”で使われているヴォーカルのサウンドがキーボードに入っていたからそれを片手で弾き、もう片方の手でピアノのパートを弾いた。ワンテイクでできたんだよ。自分でもびっくりした(笑)。それからベースの部分を加えて曲が完成した。だからこの曲はある意味、オーガニックな形でできたと言えるね。

その“White Picket Fence”のヴォーカルはシンセの音なんですか? 実在する人なんでしょうか?

K:その中間という感じかな。AIという訳ではないんだけど、実際に存在する人の声でもない。メロディは僕が自分で弾いたもので、声の持ち主は僕がそのメロディを作ったことを知らない。 

ヴォーカルのクレジットは非公開? 秘密ということでしょうか? 次に聞きたいのは“White Picket Fence”でとても印象的な歌を歌っているのはどなたでしょう? ということだったのですが。

K:彼女はセッション・ミュージシャンで「アー」や「イー」という匿名のサウンドを歌って、その音を貸してくれた。僕はその音をサンプリングしてシンセを通して演奏したんだ。こういうヴォーカルが気に入っている。
 僕は若い頃、イビザの『カフェ・デル・マール』(バレアリック系のコンピでもっともヒットしたシリーズ。地中海に沈む夕焼けのメロウな感じが特徴)をよく聴いていたんだけど、僕はウェールズに住んでいたから、まずそんな音楽があるなんてまったく知らなかった。なにせイビザのこと自体も知らなかったからね! 

(笑)。

K:なぜ知ったかというと、僕の叔父がロンドンからこのCDを持ち帰って来たからで、そこにはシンセのように聴こえるテクスチャのような、歌詞がないヴォーカルの音が入っていたんだ。ヴォーカルのクレジットはなし。声を楽器のように使っていたんだ。ヴォーカルもバックトラックの一部というか、そういう捉え方が好きだった。つまり、曲において、ヴォーカルというものに高い優先順位や重要性を与えるのではなく、ひととつの楽器として扱う。パーカッションと同じようなものとしてね。今回の曲でもその概念を適応させたいと思った。だからこのヴォーカルの部分はメロディなんだけど、僕がキーボードで演奏したもので、他の楽器と同じように、声も楽器として扱っている。

彼女の声はほかにも時折入って来ますが、声が表象しているのは、ある種の神聖さ、なのでしょうか?

K:天使みたいな感じなのかもしれないね。僕は直接的な何かを象徴するということはしたくない。でも無意識的にそういう意味合いはあると思う。

“Joy Squad”は本当に良い曲ですね。この曲はクラブ・ミュージックを意識して作られたそうですが、あなたがダンス・カルチャーを支持する理由を教えて下さい。

K:僕が初めてカルチャーとしての一部という認識があったのがクラブ・ミュージックだった。ウェールズに住んでいた頃は、音楽の情報が多少入って来てはいたけれど、かなり遠い地域で起こっていたことだから、関与しているという感じはなかった。10代後半、僕はダブステップのイベントをはじめて、その後グラスゴーに移ってから本格的にクラブ・カルチャーに関与する。その頃の僕にとってクラブ・カルチャーはネットに載っている情報ではなく、まわりのみんなや友だちが実際にやっていることだった。週に5回はクラブ通いしていたな! クラブに住んでいるくらいだった。18歳のクレイジーな時期で毎晩違うクラブで違う音楽を聴いて遊んでいたけど、それが自分にとってもっとも大切だった。僕は大学生だったけれど、学校よりクラブのほうが断然重要だったし、その頃の思いがあるから、僕はいまでもダンス・ミュージックをリスペクトしている。
 とにかく、自分にとってこんなに重要なことがあったんだということが信じられなかったんだ。僕はテクノについて何も知らなかったけれど、グラスゴーのRUBADUBというレコード屋さんから「これを聴いてみなよ」と言われてレコードを聴いて、その音に衝撃を受けてね、で、「こんな音楽が存在するなんて信じられない!」なんて興奮しまくっていた。絶対にこのカルチャーに加わりたいと思ったね。

“Shellshock”もかなり好きですね。キャッチーなコアレス流のポップソングだと思うんですが、では、この歌詞は何について歌っているのでしょう?

K:ごめん、僕もわからない(笑)。僕は歌詞に関してはマックス・マーティンの思想に共感していて、「歌詞は語呂がすべて」だと思っている。マックス・マーティンは有名なポップ・ソングの作曲家で、ブリトニー・スピアーズなどの音楽を作った人だ。彼の母国語は英語ではないから、曲の歌詞に関しては言葉が音としてどう響くかということのほうが大切なんだ。「Hit me / baby / one more / time」(ブリトニー・スピアーズの曲)のようにね。歌詞の意味ではなくて、言葉の形や言葉のサウンドに重きを置いている。僕もそっちに興味があるんだ。つまり、言葉の形や言葉の流れに興味がある。だから解釈や意味はその人が好きなようにしていいのさ。

あなた個人のルーツを訊きたいのですが、いつからどのように音楽の世界に入ったのでしょう? 

K:僕の母親は看護師の仕事をしていたから夜遅くまで仕事をしていた。父親は園芸の仕事で外仕事が多かった。だから僕は放課後の時間を近所にある祖父母の家で過ごすことが多かったんだ。祖父母の家には古いピアノがあって、僕はいつもそれを弾いていた。祖母がピアノのスケールを教えてくれて、それが最初だった。
 その頃から曲を作るようになった。とてもシンプルでばかばかしいものだけどね。そうしたら、ピアノのレッスンを受けさせてもらえることになって、ピアノの先生は18歳くらいで、自宅にスタジオがある、オタク気質の人だった。シンセサイザーにめちゃくちゃハマっている人だったんだ。僕はピアノを習いに行っていたけど、そこにあったシンセの方に興味があった。たしかNovation Super Novaだったと思う。90年代のシンセサイザーだよ。それをいじって遊んでいて、「ヒューーーン」というすごい変な音を出して「すごいカッコいいー!!」と驚いていた。彼のスタジオにはシンセがたくさんあったから僕はそれに夢中になった。彼は本当は僕にピアノを教えるはずだったのに、僕はピアノにはお構いなしに、シンセの音に夢中になっていたよ(笑)。だからいまでも僕はあまりピアノが上手くない。それが一番最初のきっかけだね。
 そしてその後に、叔父が僕の家にパソコンをくれて、そこに音楽制作のソフトウェアが入っていた。Cakewalkという昔のソフトだよ。それを使って僕はまた馬鹿げた曲を作っていた。その時点でも僕はあまり音楽を聴いていなかったから、音楽の種類についてもあまり知らなくて、かなり普通の、愉快な曲を作っていたよ(笑)。でもそのときから曲を作るのはすごく楽しいことだと思っていて、それはいまでも思っているよ。

影響について訊かれることは好まないかもしれませんが、あなたの世界に入るひとつのとっかかりとして知りたいので訊きます。もっとも大きな影響は何でしょう?

K:最初のほうで話したことに戻るんだけど、僕の音楽のもっとも大きな影響というのは、音楽を作る前に自分が最初に考える技術的な疑問だと思う。もしくは、自分がやってみたいと思う楽しい試み。僕は音楽を聴くけれど、音楽ついての自分の様々な考え方を融合させるというような高度な技はできないんだ。だから音楽を制作する過程でワクワクするようなことに出会したり、新しい試みをやってみて結果として出来たものに対してオープンであるということが、自分が作る音楽のサウンドにおけるもっとも大きな影響だと思う。
 でも具体的な影響としては、『カフェ・デル・マール』の黄昏感のあるエレクトロニックな音楽。そういうメランコリックで壮大でバレアリックな雰囲気は昔から僕の一部になっていると思う。それから10代の終わりの頃にダブステップにハマってからは宇宙的な雰囲気が好きで、そういうサウンドが影響になっていた。最近ではクラシックをよく聴いていて、とくにベンジャミン・ブリテンに興味がある。
 ベンジャミン・ブリテンは誤解されがちというか、近代クラシックの作曲家としてあまり名が挙がらない。彼の音楽は古風で退屈なものとされていて、近代クラシックの時代の人なのに、ロマン派の音楽を作っていたからモダンではないと思われていた。彼の音楽はいつもメロディックで、それは彼にもどうすることができなかったことなんだと思う。僕もそういうところがあるから。耳障りな音楽を作ろうとしても、それがどうしてもできないんだよ(笑)。彼のそういうところが好きなんだ。
 それから彼の音楽には何かとてもダークなところがある。とてもスイートな音楽のなかにもね。何か合わない感じがする。そういうダークな感じがすごく好きなんだ。同世代の作曲家の多くから聴き取れるようなわかりやすいダークな感じではなく、彼は当時の人たちにとっても古臭いと感じられるような音楽を作っていて、それはロマンティックな響きの音楽だった。でもそこには何か、微妙に間違った感じが含まれている。何か計算が合わないというか、しっくり来ないというか…そういうダークな雰囲気にすごく興味をそそられるんだ。最近はブリテンの音楽について考えることが多かったから、“Moonlight”のカヴァーを作ったんだよ。もちろん、それ以外にも僕はたくさんのエレクトロニック音楽を聴くからその影響はあるだろうね。

ところなぜ海洋学に進んだんですか?

K:実際に学んだのは造船工学。いろいろな種類の船の構造や設計について学んだ。僕はティーンエイジャーの頃、音楽プロデューサーになりたかった。だから学校の進路相談で、自分の進路として音楽プロデューサーになりたいと伝えたんだ。そうしたら進路課の先生から「それほど馬鹿げた考えはない」と言われた(笑)。「その職業を選べないことはないけれど、私はお勧めしません。あなたは数学が得意で、船が好きでしょう?」と言った。たしかに僕は子供の頃から船に乗ったりして楽しんでいた。先生はこう続けた「だから船を作る技術者になればいいじゃない?」だから僕は「じゃあそれでいいです」と言ってその道に進んだ(笑)。
 大学に進んで造船工学を専攻したけれど、あまり面白くはなかった。大学に進学して良かった点は、大学がグラスゴーにあったからグラスゴーに移ることができたということだった。グラスゴーに行ったら膨大な量の素晴らしい音楽に出会うことができたから。
 つまり、造船工学を専攻したのは進路課の先生のアドヴァイスからなんだ。(音楽で成功していなければ)いまでもそういう仕事をしていたかもしれない。僕が最初にレコードを出したときは、船の桟橋で仕事をしていたからね。その仕事をしながら、空いている時間にギグをしたりしていたんだ。

ちなみに“Lost In Tokyo”という曲名の由来は、本当に東京で迷子になったからなんですか? あるいはあなたのなかの東京のイメージ?

K:東京で迷ったことは何度もあるよ(笑)。すごく面白い体験だった! あの曲を作ったのはかなり若い頃だからいまの僕なら、こんなにナイーヴなタイトルは付けないけれど、当時の僕は日本のことが大好きだったからこのタイトルにしたんだと思う。いまでも日本は大好きだけど、僕はもう少し大人になったし賢くもなったから、いま思うと曲のタイトルとしてはベストじゃないのかなと思ったりもする(笑)。

日本で迷っている外国人をしょっちゅう見かけるので、良いタイトルだと思いますけれど。

K:言っておくけど僕が迷ったのはGoogle Mapsがなかった頃だからね(笑)!

Korelessという名義にはどんな意味が込めらているのでしょうか?

K:16歳か17歳の頃、ギグをやることになって、名義をすぐに思いつかないといけなかった。そのときに思いついた名義でそれがいまでも続いているというわけなんだ。だからとくに意味はない。名義についての質問はよく受けるんだけど、これから話すことはいままでに話したことがない。
 きっかけとしては、当時、名義を考えているときにいろいろな言葉の文字の順序を入れ替えて考えていて、アイスランドのオーロラ(aurora borealis)という言葉を入れ替えたり変化させたりしているうちに、Korelessという言葉ができた。ギグ用のポスターを翌日には印刷しないといけないという状況だったから、即座にそれを名義にした。そう決めてから、その名義でずっとやって来ている。
 名前をつけるのは難しいことだといつも思う。名前は長い間続くものだしね。実はアルバムの制作が遅れたのもそれが大きな理由になっていて、作業中のトラックに馬鹿げた仮の名前を付けていたんだけど、正式な名前をつけるときに、すでにその仮の名前が定着していたから別の名前に変えるということができなかった。言葉は僕の得意分野じゃないんだ(笑)。

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