「!K7」と一致するもの

The Vision (Robert Hood) - ele-king

 祝30周年。ということで、当時URを去りジェフ・ミルズとともにニューヨークへと移ったロバート・フッドがザ・ヴィジョン名義で送り出したアルバム、『Waveform Transmission Vol. 2』がリイシューされることになった(ちなみに「Waveform Transmission」はハード・ミニマルを展開するシリーズで、「Vol. 1」と「Vol. 3」はミルズが手がけている)。新たにリマスタリングが施され、デジタルとヴァイナルの2形態で発売される。Tシャツ付きのセットもあるようなので、要チェックです。

artist: The Vision
title: Waveform Transmission Vol. 2
label: Tresor Records
release: May 26, 2023

tracklist:
1. K-Force
2. Liquification
3. Weapons
4. Gamma Scale
5. Chrome
6. Projectile Darts
7. The Protector
8. Magnetic Storm

interview with Shuhei Kato (SADFRANK) - ele-king

 成功したバンドのフロントマンがソロでレコードを作るとき、あるいはパンクを出自にするミュージシャンがその表現を深化させ変化させていくとき、どのような道筋が考えられるのか。そんな正解のない難題に対して、NOT WONKの加藤修平は、エルヴィス・コステロやポール・ウェラーの例を引きながら答えてくれた。加藤によるソロ・プロジェクト、SADFRANKのファースト・アルバム『gel』は、2023年におけるその回答として差し出されている。

 それにしても、SADFRANKの音楽やここでの加藤の表現は、NOT WONKのそれとはまったく異なっている。いま日本で最も忙しいドラマーの石若駿、ゆうらん船などで活躍するベーシストの本村拓磨、そして映画音楽からファッション・ショー、舞台芸術、インスタレーションなどの領域を横断する音楽家の香田悠真の3人を中心にしたバンドの演奏も、印象的なストリングスのアレンジメントもそうだし、なにより加藤は日本語で歌っている。それでも、NOT WONKがこの数年で遂げてきた変化を踏まえると、突飛なものには思えない自然さと説得力がここにはあって、それはNOT WONKのリスナーをけっして拒絶するようなものではなく、むしろ迎え入れる懐の深さと両者の表現を結びつける確信が感じられる。そして加藤は、SADFRANKとNOT WONKとでやっていることはまったく同じだ、とまで言い切ってみせる。

 くるりの岸田繁からthe hatchの宮崎良研、松丸契、んoonのYuko Uesu、NABOWAの山本啓まで、新旧の仲間たちがひとつの点に合流した『gel』は、加藤が新しい海に飛び込んだよろこびが詰められたみずみずしい果実のようでいて、「目の前にどかっと座って歌っている」ような親密な作品でもある。この豊穣な音楽は、どのようにして生まれたのか。加藤にじっくり聞いた。

日本語で歌いてえな、というザックリした欲求があって(笑)。ただ、日本語で歌詞を書いたことは一回もなかったので、どうしたらいいかわからなかったんです。

SADFRANKというプロジェクトのはじまりはいつなのでしょう? 2020年10月11日にリリースしたエディット・ピアフの “愛の讃歌” のカヴァー “Hymn To Love (Hymne à l'amour CM Version)” ですか?

加藤:その前からSADFRANKという名前で、ひとりでライヴをしたことは何度かあったんです。苫小牧でのライヴだったり、jan and naomiが札幌に来たときのサポート・アクトだったり。カヴァーや、ギターを即興で弾くパフォーマンスを僕ひとりでやるときの名前でしたね。それでLevi’sの広告の音楽を担当することになって、“Hymn To Love” をカヴァーしたんです。でもじつは、石若くんや悠真くんと最初にレコーディングしたのはそれより少し前ですね。

ドラムに石若駿くん、キーボードに香田悠真さん、ベースに本村拓磨さん、というのが今回の「コアメンバー」とされています。そのメンバーでセッションをはじめたきっかけは?

加藤:日本語で歌いてえな、というザックリした欲求があって(笑)。ただ、日本語で歌詞を書いたことは一回もなかったので、どうしたらいいかわからなかったんです。それを形にしようと思ったときにパッと思い浮かんだ人たちに声をかけた、というシンプルな流れでした。

NOT WONKで日本語詞を歌うことは考えなかったのでしょうか?

加藤:言われてみたら、NOT WONKでやるイメージは、そのタイミングではまったくなかったですね。そんなわけねえなと。NOT WONKは僕だけのバンドじゃなくて、他のふたり──フジとアキムありきで3人でやっているバンド、というのがまずあって、年々、その気持ちが高まっているんですね。「日本語で歌ってみたい、日本語で表現したい」という気持ちは、もっと私的でプライヴェートな気持ちだという気がしているんです。それをバンドで消化することに、そのときは違和感があって。

石若くん、香田さん、本村さんとの共演経験はあったんですか?

加藤:本村くんはもともとGateballersというバンドをやっていて、その頃から好きで演奏を見ていました。共演したときにちょっと話す程度でしたね。石若くんと悠真くんとは面識がなくて、石若くんは演奏が好きだったから自分からメールしたんです。悠真くんは、当初一緒に制作する予定だったエンジニアの葛西敏彦さんの紹介で知りました。ピアノを弾ける人や自分のやりたいことを音楽的に汲み取ってくれるような人が僕の周囲のバンドマンでは思い浮かばなくて、スタジオ・ミュージシャンに頼むのも違和感があったので、葛西さんに相談したんです。葛西さんの推薦で初めて悠真くんの作品を聴いて、「もう、この人だろう」って感じて。

「僕がUKジャズのつもりで書いた曲を石若駿が叩いたらどうなるんだろう?」という興味がめっちゃあって。

『gel』を聴いていると、石若くんや本村さんはもちろんですが、香田さんの役割は大きいのだろうなと感じました。

加藤:ハーモニー担当みたいな感じで関わってくれたんです。悠真くんはアカデミックな道を通ってきてはいるけれど、音楽に対する姿勢は僕とかなり通じるところがあって。僕は和声の理論とかはまったく勉強してこなかったので、そこをふたりで話し合ってアレンジメントや曲のカラーのつけ方を決めていきました。ストリングス・アレンジを岸田さんにやってもらった曲が一曲ありますが(“I Warned You”)、それ以外の楽器のアレンジは悠真くんとふたりで詰めていったんです。僕がいままで「理由や根拠はないけど、これがいいと思う」と感覚的にやっていたことを、悠真くんに根拠づけしてもらいました。悠真くんは、メンター的な感じでいてくれましたね。やっぱピアニストというか、楽譜を書く人にしかわからない音の見え方があるんだなって、彼の仕事を横で見ていて思いました。

“肌色” や “最後”、“the battler” では、加藤さんがピアノを弾いていますよね。ピアノはもともと弾いていたんですか?

加藤:幼稚園や小学校の頃、教室に通ったことはありましたが、教則本がつまらなくてやめて(笑)。なので、ぜんぜん弾けないんです。SADFRANKをはじめたいと思ったとき、「ピアノを弾けるようになったらいいな」くらいの気持ちで鍵盤を買って、白鍵に「ドレミファソラシド」とマジックで書いて練習をはじめました。ギターを持ちながら和音を探す作業を3年くらい続けましたね。ギターとピアノはそもそも構造的にちがうから、別の考え方をしないといけないんだなって。

このアルバムの曲は、ピアノで書いているんですか?

加藤:ギターで作った曲は3曲目(“I Warned You”)と4曲目(“per se”)くらいですね。そもそも「ギターと距離を取りたい」みたいなことが今回、裏テーマ的にあったんです。それは「ギターが嫌だ」とか、そういうことじゃなくて。自分自身のキャラクターとして「NOT WONKでギターを弾いて歌っている」というのがあるので、「自分の音楽の表現ってそれだけでいいのかな?」と疑問があったんです。なので、普段使っている方法を手放すとか、あるいは「歌わない」とか、そういうことは自分から離れる手段として選んだって感じですね。

個人の表現をするにあたって得意なことを全面化せず、そこから離れて新しいところを開拓した、というのはおもしろいですね。

加藤:そもそも自分は何が得意なのかとか、たいしてわかっていないのかもしれなくて。得意なことを活かそうとすると、楽なことを選択しがちじゃないですか。でも、必ずしも得意なことが楽なこととは限らない。それに、ピアノを弾いてみたら、そっちのハーモニーのほうが好きだった、ということも多かったので。「加藤くんは声がいい」とか「NOT WONKはギターがデカくてかっこいい」とか、他人の印象やイメージを自分で自分に貼り付けちゃうのは危険だな、とも思っているんです。自分を定義しないでやっていくほうが、自分を殺さないで済むかなって。

アルバムの制作に関しては、Bigfish Soundsの柏井日向さんが録音とミキシングを担当していますね。

加藤:NOT WONKの『Down the Valley』を一緒に作ったのも、柏井さんからの「俺にやらせて」という提案がきっかけだったんです。次の『dimen』はイリシット・ツボイさんと主にやったんですけど、一曲(“slow burning”)は柏井さんにミックスしてもらいました。柏井さんは以前から「何かやれることがあったら言ってね」と言ってくださっていたので、その言葉にありがたく甘えさせてもらった感じですね。

サウンド面の印象や音楽的なトライは、NOT WONKとはだいぶちがっていますよね。パンクやロックからかなり離れていますし、ジャズなどの要素が入っています。

加藤:もともと、「これはNOT WONKではできないな」と感じる曲はいっぱいあったんです。でも、「これは3人でやるおもしろさがあるだろう」っていう曲にトライしていくのがNOT WONKの基本理念でもあって。それでもあぶれちゃったものは、ひとりでも活動するようになってからは「SADFRANKでやったほうがいいだろう」と判断したり。あと、メンバーが固まってからは彼らに当て書きした曲もあって、いろいろですね。NOT WONKと差をつけようという気持ちはなくて、アレンジ次第でどっちでもできると思っています。基本的には一緒ですね。

現在のUKジャズやコンテンポラリー・ジャズとの繋がりを感じる曲がありますよね。5曲目の“瓊 (nice things floating)”は石若くんのビートを編集したものだそうですが、マカヤ・マクレイヴンジェフ・パーカーの姿勢に通じるところがあります。

加藤:そうですね。僕、ドラマーがめっちゃ好きなんです。石若くんのプレイって、本人は意識していないでしょうけど、そのへんのドラマーと比べたら圧倒的に勝っちゃうじゃないですか。完全に確立されていて、ああだこうだ言う必要がない。そういうことを考えていたので、「僕がUKジャズのつもりで書いた曲を石若駿が叩いたらどうなるんだろう?」という興味がめっちゃあって。“offshore” は、そういう意図で書いた曲ですね。“瓊” は、そもそも全然ちがう拍子の曲をレコーディングしていて、途中で飽きちゃったので、ちがう曲にしようと思って作った曲です。石若くんのドラムをチョップしたり、キックに音色がついているからキックの音をキーにしたりして作っています。この2曲は、石若駿ありきで作った感じですね。

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ボサノヴァって当時のことを考えると、めっちゃパンクじゃないですか?

先ほどドラマーが好きだとおっしゃっていましたが、どんなドラマーが好きなんですか?

加藤:2018年頃にユセフ・デイズにハマって、ゴスペル・チョップス系のドラマーをインスタとかで超見ていたんです。ジャズ・ドラマーじゃなくても「スネアがめっちゃいい感じにポケットに入ってくる」みたいな人とか、無名でもいいドラマーがいっぱいいるんですよ。それを「この感じさ〜」とか言って、NOT WONKのメンバーに聴かせて曲を作ることもしていました。

SADFRANKには、ユセフ・デイズがやっていたユセフ・カマールのフィーリングを感じました。

加藤:あ〜。ジャズをダンス・ミュージックとして捉えたときの揺らぎ、みたいな……。シャッフル(・ビート)って、そもそも揺らぎじゃないですか。それを、キックを4つにしたり硬くドラムを叩いて人間味を殺したり、そのバランスをうまいことやれる人が好きで。ユセフ・デイズも「最初からサンプリングされたドラム」みたいな感じで叩ける人ですし、そういうフィールがある人が好きですね。ハイエイタス・カイヨーテのドラマー(ペリン・モス)も好きで、ソロ作もいいですよね。

もうひとつ音楽的な面では、『gel』ではストリングスが重要な役割を果たしていますよね。

加藤:ストリングスは、けっこう必然性を感じましたね。(エルヴィス・)コステロがもともとめちゃくちゃ好きで、バート・バカラックと一緒に作ったアルバム(『Painted from Memory』)がすごく好きなんです。ファースト・アルバムから考えたら、彼って信じられないような音楽的な変遷をたどっていますよね。たとえば、ポール・ウェラーがスタイル・カウンシルをやったのもいい例だと思うんですけど。でも、日本の音楽で考えると、売れたロック・バンドのヴォーカルのやつがソロ活動をはじめたら大層なストリングス・アレンジが入っていて台無しになっている、みたいな歴史ってあるじゃないですか。ストリングスってそういう感じでしか使われてこなくて、しかもクラシックの人がJポップを大味に捉えたものが多いので、よかった試しがあんまりないなと思って。でも、コステロとバカラックのアルバムではすごくうまいことやっていて、ちゃんとかっこよくなっているよなって。それで、自分もトライしてみたくなったんです。

なるほど。

加藤:“I Warned You” は、わりと最初のほうに作っていた曲ですね。くるりの岸田さんが「NOT WONK、いいね」と言ってくれて、ライヴに招待してくださったことがあって、札幌のライヴを見に行ったあと、音博(京都音楽博覧会)にも遊びに行って、打ち上げの席で岸田さんとふたりで話す機会があったんですよ。それで「SADFRANKっていうのをはじめるんです」と話したら、「ストリングスのアレンジ、俺やるで!」と言ってくださったので、「じゃあ、お願いします!」と頼んだんです。アレンジメントをする人と作曲者が分かれているっていうのはやってみたかったことでもあったので、このアルバムはわりとストリングスありきで最初からイメージしていました。

ロック・バンドをやっていたやつが急にソロをはじめたと思ったら、バンドではやっていなかった私的なことや優しい音楽に手を出したり、ちょっと色気を出してみたり──そういうのは、いままで繰り返されてきた失敗の歴史だろって僕は感じていて。絶対にそういうことをやりたくなかった。

徳澤青弦さんのカルテットによる演奏もあって、Jポップ的なベタッとしたストリングスとはちがうスリリングで豊穣なものになっていますね。

加藤:そうですね。“Quai” は悠真くんのストリングス・アレンジで、“per se” は基本的に僕がアレンジしました。“per se” のストリングスはNABOWAの山本(啓)さんが入れてくださったんですけど、遠隔で録音していて「思いついたから入れてみたよ」と弾いてくださったのがすごくよかったから、そのまま使っているパートもあります。弦が入っているとはいえ、3曲ともアレンジした人はちがうんですよね。

一方で “最後” にはフィールド・レコーディングやオブジェクト音、ノイズが入っていて、それがかなりおもしろいです。これは、yoneyuさんが入れたものなのでしょうか?

加藤:基本的には僕が全部やっていて、エディットも僕がやっています。yoneyuは札幌のDJなんですけど、ほとんどすべてのアレンジが終わった段階でyoneyuに聴かせて、「この2ミックスに対して、yoneyuのプレイを録ってみて」と投げて、戻してもらったのを僕が再エディットしました。

非楽音を入れる発想は、どこから出てきたんですか?

加藤:“最後” は、曲自体はけっこう前からあって、弾き語りでやったりしていたんですけど、レコーディング自体は制作の終盤にやったんですね。だんだんPro Toolsで普通に録ることに飽きてきて、「せっかくみんなで集まっているのに、デモどおりに演奏するのっておもしろくねえな」と思って。それで一発録りすることにして、歌も演奏も「せーの」で録ったテイクを使ったんです。音楽を作るうえで絶対的なパワーを持っている権威的なもの──小節とかグリッドとかトニックとかキーとか、そういうものから離れたい気持ちがあったんですね。だから、自然とメロディがついてない音が入ってきたり、メロディがついているものとついていないものを並列に扱ったり、そのこと自体が自分にとってわりと大事でした。

自分が何かを受け取ったときの気持ちを再現するためには、必ずしもそれとまったく同じものを作る必要がないと思っているんです。何かを再現することと、何かを写実的に綺麗にデッサンするっていうことは、まったくちがうことだと思っているので。

では今回、ギタリストとしてはどうでしたか? プレイや音色は、ピューマ・ブルーのトーンに近いものを感じました。

加藤:ジャズについてはもう門外漢どころの話じゃないくらい何もわからないし、あまりにも「ジャズ、ジャズ」って言われるのも嫌だな、みたいな感じもありつつ。ただ、録音物としてのロック・バンドの音源があんまりおもしろく感じなくなってきている事実も、自分の中にあるんです。それは、おおよそギターのせいだなって(笑)。というのも、いいギターが録音されている音源って、ギターがはっきり聞こえるんだけど、レンジを食っていないぶん、他の楽器にパワーを割けている側面があるんですね。ビッグ・シーフの新作(『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』)なんかもそうで、アコギも入ってるけど、エレキの音色がじつはピューマ・ブルーの質感に近かったりするんです。そういう音の鳴らし方、エレキ・ギターの置き方、音のスペースの作り方を意識したので、ギターがミッド・レンジをガッツリ食っちゃって他の楽器の音の置き場がなくなる、みたいにはしたくなかったんですね。そういうサウンド・デザインのイメージが、先立ってありました。ギターの録音っておおよそいちばん最後なので、自分で作ったスポットにハマるようにギターを弾いていったっていう感じですね。

あくまでも他の楽器のほうが主役、ということですか?

加藤:う〜ん。とはいえ、最終的にギターが入ってくるよろこびって、かなりデカいんですよ(笑)。だから、重要度ではもしかしたら他の楽器のほうが単純にレヴェルの面で勝っている部分はあるんですけど、画竜点睛として最後に僕のギターを入れておしまい、みたいなところはある。だから、欠かせないパーツではありながらも、あからさまに目立っていたり、大きなレヴェルで入っていたりすることはない。でも今回、ギターは絶対に必要だったと思います。

“per se” は異色な曲で、ボサノヴァがベースになっているじゃないですか。ブラジル音楽は、加藤さんの音楽的なヴォキャブラリーとして持っていたものなんですか?

加藤:なんとなく好きで聴いている音楽がブラジルの音楽だった、みたいなことがけっこうあったんですね。ケイトラナダがガル・コスタをサンプリングしている曲(“Lite Spots”)があるじゃないですか。それで「これがガル・コスタか」と思って聴きはじめたら、かっこよくてハマっちゃったんです。最初は、そういう「どこをサンプリングできるか」みたいな感じで聴いていたかもしれません。でも、シンプルにどんどんハマっていって、ジョアン・ジルベルトやカエターノ・ヴェローゾを聴いたりして。あと、バッドバッドノットグッドのアルバム(『Talk Memory』)にアルトゥール・ヴェロカイが参加していて、そのへんを聴いたのも自然な流れでしたね。それに、ボサノヴァって当時のことを考えると、めっちゃパンクじゃないですか?

当時、既存の音楽に対する「新しい潮流(ボサノヴァ)」だったわけですからね。

加藤:あの軽快さとか優しさとか室内楽的に聞こえる感じとかって、何かに抑えつけられていたからこそのものじゃないですか。それで、小さい音しか出ないガット・ギターと小さい音のドラム、小さい声の歌にみんなが耳を傾けているっていう。そういう音楽の強さみたいなものをめっちゃ感じていて、それを自分でやってみたかったんです。

リリックについてはいかがですか? かなり抽象的に感じましたが、NOT WONKよりも生活感やパーソナルな感覚があると思いました。ラヴ・ソングも印象的で、優しさが通底しているように感じます。

加藤:日本語詞を書いたことがなかったので、どういう詞を書きたいとか、どういう歌を歌いたいとかって、最初はあんまりイメージがなかったんです。でも、“肌色” や “Quai” を作っていたとき、日本語の歌詞とメロディが一緒に出てくることがあって。「この言葉の意味は一体なんなんだろう?」って、出てきたものをあとから考えていきました。嫌な言葉や歌いたくない言葉は、自分から出てこないはずじゃないですか。だから、「なんでこの言葉をいいと思えているんだろう?」と理由を探っていって、「この言葉がいまの自分の考えや気持ちを表現するにあたっていちばん適切な言葉だと思える」という確信をもって歌ったので、個人的にはめちゃくちゃ具体的な歌詞が並んでいると思っています。それが、今回のアルバムの肝でもあるんですよね。ある人が聴いたときに抽象的に思えても、それがすべての人にとって抽象的かどうかは別の話じゃないですか。「ストレートに感じられる」とされる歌詞の意味がわからないっていうことが、むしろ僕はあったりするんです。「メッセージを額面どおりに捉えていいのか、これは?」と思うようなことがあって、言葉とその意味や内容が必ずしもイコールにはならない気がするんです。とはいえ、表現なので、僕が何を伝えたかったかという以上に、聴いた人が受け取った意味のほうが正解だと思う。ただ、僕はこの言葉がいいと思ったし、歌詞を書いたタイミングで思ったことを如実に表すためにはこの言葉が必要だったと感じますね。

当時の感情やその時々の出来事が直接反映されているのでしょうか?

加藤:そうかもしれないですね。でも、内省的なものでもないし、独り言を書いているつもりもなくて。言いたいこと、歌いたいことは、NOT WONKと変わらないかもしれないですね。

「NOT WONKもSADFRANKも元のハートが一緒」(https://twitter.com/sadbuttokay/status/1602985525174218752?s=20)とツイートしていましたよね。

加藤:それは、ありがちな話になったら嫌だなっていうのがあって。ストリングスの話にも似ていますが、ロック・バンドをやっていたやつが急にソロをはじめたと思ったら、バンドではやっていなかった私的なことや優しい音楽に手を出したり、ちょっと色気を出してみたり──そういうのは、いままで繰り返されてきた失敗の歴史だろって僕は感じていて。絶対にそういうことをやりたくなかった、っていうのが先立ってあったんです。NOT WONKでやりたいことのひとつに、自分が最初にパンクを好きになった瞬間の気持ちを再現する、みたいなのがあるんです。それは、過去の音楽を再現するとか、「70sの感じを出したいからギターをこういうふうに歪ませる」とか、そういう話じゃなくて。自分が何かを受け取ったときの気持ちを再現するためには、必ずしもそれとまったく同じものを作る必要がないと思っているんです。何かを再現することと何かを写実的に綺麗にデッサンするっていうことは、まったくちがうことだと思っているので。そういう意味では、今回のSADFRANKのアルバムもNOT WONKの作品と同じなんですね。最初にパンクのライヴを見に行ったときの感覚とか、メガ・シティ・フォーの歌詞の意味を調べていたら「これはまちがいなく俺のために歌っている」って確信したときの気持ちとか──そういうことを再現しようと思ったときに僕がいま使いたかったのが、ストリングスだったり日本語詞だったり歌のない曲だったりピアノだったりしたっていう。だから、NOT WONKのファースト・アルバムで表現していることや、NOT WONKの普段のライヴでギターを爆音で鳴らしていることと、ピアノを優しく弾いて歌うことは、本来の意味では同じなんです。まったく同じことをやっていると思いますね。

いままではミックスで「ギターより下にしてください」なんて言っていたんですけど、今回は「歌っているやつの顔をデカくしてください」というオーダーをしたんです。相手の胸ぐらをつかんでいる感じが出ましたね。

なるほど。では、日本語詞を書くにあたって、何か参考にしたものはありますか?

加藤:それこそele-kingの取材で野田(努)さんにインタヴューしていただいたときに(『ele-king vol.24』)、「加藤くんって好きな日本語の歌詞あるの?」と聞かれたんですけど、答えられなくて(笑)。もちろん、日本語で歌われている曲で好きな曲はいっぱいあるんですよ。当時の所属レーベルだった〈KiliKiliVilla〉の与田(太郎)さんにも「(bloodthirsty)butchersとか札幌のバンドのKIWIROLLとか、なんかあるでしょ」って言われたんですけど、聞かれたときにパッと出てこなかった理由も自分にはそれなりにあるはずだなと思って。なので、butchersやKIWIROLL、あとGEZAN踊って(ばかりの国)もカネコアヤノも中島みゆきも歌詞は大好きだけど、参考にするというより、とにかく彼らと似ないようにしようって気にしていましたね。

日本語詞で歌うことで、宛先が変わった印象はありますか?

加藤:鋭くなった感じはしますね。「お前に言ってます」って感じがある(笑)。NOT WONKの歌詞はもうちょっとレンジが広いような気がするけど、日本語詞は「これで伝わらなかったら嘘だな」という感じがするので。目の前にどかっと座って歌っているような感じがあるんです。

SADFRANKの歌詞は、言葉が生々しいですよね。すっと切り出されものが、そのまま差し出されている感じで。

加藤:自分は意外にそういう人間なんだなって思いましたね。大事なことから話していく、みたいな。せっかちなのかもしれない(笑)。

その意味では、SADFRANKはリスナーにより近くて、加藤さんというひとりの人間の姿が強く表れている感じがします。

加藤:このアルバム、ヴォーカルがデカいじゃないですか。デカくしたいなって思ったんですよ。いままではミックスで「ギターより下にしてください」なんて言っていたんですけど、今回は「歌っているやつの顔をデカくしてください」というオーダーをしたんです。相手の胸ぐらをつかんでいる感じが出ましたね。

ヴォーカリゼーションの面でもストレートに朗々と歌っているシーンが多くて、それが歌の大きさと近さに寄与していると思いました。

加藤:そもそも、これまでと全然ちがうメロディが出てきたんです。それは、たぶん言葉に引っ張られたんだろうなって。いままでNOT WONKでは絶対にできなかったメロディが急に歌えたりとか、ナシにしてきたことがアリになったりとか、そういう裏返しが起こったので、自分は意外に奥深いんだなって思いましたね(笑)。

今後もSADFRANKとしての活動は継続していくんですか?

加藤:まだやりたいことが結構ありますね。NOT WONKでも同じくらいやりたいことがありますし。いままで12年間、苫小牧で、ライヴハウスで偶然出会ったやつらとしか音楽をやったことがなかったので、今回、風呂敷を一気に広げて、これだけすごいミュージシャンたちと音楽を一緒に作れたのはすごくよかったんですよ、やっぱり。でも、フジとアキムがSADFRANKに参加してくれた凄腕プレイヤーたちに比べて劣っているとか、そんなことはまったくなくて。最初はSADFRANKでの制作のフィードバックをNOT WONKに持ち帰れるんじゃないかなって考えていたんですけど、レコーディングを進めていったらフジとアキムのめちゃくちゃいいところを改めて再確認して、「あれはあのふたりにしかできないな」って思った瞬間がいっぱいあったんです。だから、フィードバックっていうよりは、単純に……。

別の表現?

加藤:うん。別の表現として生きているんだってわかりましたね。あと、NOT WONKに対する考え方や捉え方がより鮮明になったというか。3人で10年以上ぼんやりやってきてたけど、NOT WONKにはNOT WONKのよさがかなりあるっぽいぞと(笑)。「もうちょっとやれるはずだ」みたいなことが、もっともっと見えてきたって感じますね。

Matt Kivel × Satomimagae - ele-king

 人と人がつながり、点が線になって、新たな関係が生まれていく──カリフォルニアはサンタモニカ出身、現在は(おそらく)テキサス州オースティンを拠点とするギタリスト、2013年のファースト『Double Exposure』がピッチフォークで高く評価されたシンガー・ソングライターのマット・キヴェル。温かなアコースティック・ギター・サウンドで魅せる彼(以前はプリンストンというバンドでも活躍)は、東京のアンビエント・フォーク・シンガー、サトミマガエが『Hanazono』(2021)を出したとき、彼女にコンタクトをとったのだそうだ。どうやらそこから交流がスタートしたらしく……というわけで、USの注目のSSWによる初来日公演と、サトミマガエのパフォーマンスを一度に楽しめる夜がやってくる。5月19日(金)@七針。すでに予約が埋まりつつあるとのことなので、お早めに。

Matt Kivel初来日公演@七針〜共演Satomimagae
カリフォルニア州サンタモニカ出身のギタリスト、シンガー・ソングライターで、かつては双子の兄とバンド、Princetonで活動し、ソロになってからはOESB、Woodsist、Driftless Recordings、Cascineなど様々なレーベルから作品をリリースしてきた才人、Matt Kivelの初来日公演が決定致しました。

共演はSatomimagae。彼女が2021年にRVNG Intl.から『Hanazono』をリリースした際にMattが連絡したことをきっかけに交流が始まったとのことです。

Poster artwork: Glen Baldridge | Poster design: Sterling Bartlett

Matt Kivel ~ Satomimagae

日程:2023年5月19日(金)
会場:七針 (map: https://www.ftftftf.com/#map)
時間:OPEN 19:00 / START 19:30
料金:予約 ¥2,300 / 当日 ¥2,800(ご予約が定員に達した場合は当日券の販売はございません)
※チケットのご予約は以下のご予約フォームからお願い致します。

出演:
Matt Kivel
Satomimagae

予約フォーム:https://www.artuniongroup.co.jp/plancha/top/news/matt-kivel-20230519/


Matt Kivel:
カリフォルニア州サンタモニカ出身のギタリスト、シンガー・ソングライター。双子の兄Jesse Kivelとバンド、Princeton(自分たちが育った通りの名前から)を2005年に結成しLAを拠点に2000年代に活動、並行してガレージ・ポップ・バンドGap Dreamのギタリストも務めていた。そして2011年頃、他のバンド活動を休止し、ソロ活動に専念するようになる。最初の作品は限定生産のカセット・テープだったが、2013年にOlde English Spelling Beeレーベルからリリースされたフル・アルバム『Double Exposure』(日本ではRallye Labelから国内盤化)で本格的に活動を開始した。このアルバムのミックスはBonnie “Prince” BillyことWill Oldhamの弟で、Palace BrothersのメンバーであるPaul Oldhamが手がけているが、翌年には彼と共にレコーディングをし、WoodsのJeremy EarlとJarvis Taveniere等が参加したアルバム『Days of Being Wild』をWoodsistからリリースし、2016年には、美しく生々しい『Janus』と、Bonnie “Prince” BillyやFleet FoxesのRobin Pecknoldとのデュエットを収録した長尺の『Fires on the Plain』という2枚の作品をJoel FordとPatrick McDermottが運営するDriftless Recordingsから発表した。そして彼は西海岸からテキサス州オースティン、さらにはニューヨークと頻繁に移動し、オースティンにて5枚目のアルバム『Last Night In America』制作し、2019年にCascineからリリースした。その後はPyl Recordsから2020年にインストゥルメンタルのアンビエント〜ニューエイジ的作品『that day, on the beach』、2022年には再びBonnie “Prince” Billy等が参加した『bend reality ~ like a wave』を発表し、現在も精力的に活動をしている。


Satomimagae:
東京を中心に活動しているアーティスト。ギター、声、ノイズで繊細な曲を紡ぎ、有機的と機械的、個人的と環境的、暖かさと冷たさの間を行き来する変化に富んだフォークを創造している。
彼女の音楽的ルーツは中学生の時にギターを始めたことから始まる。父親がアメリカからテープやCDに入れて持ち帰った古いデルタ・ブルースの影響もあり、10代の頃にはソング・ライティングの実験をするようになる。その後PCを導入したことで、より多くの要素を加えた曲を作ることができるようになり、彼女の孤独な作業はアンサンブルへの愛に後押しされるようにななった。大学で分子生物学を専攻していた時にバンドでベースを弾いていたことから、様々な音の中にいることへの情熱と生き物や自然への情熱が交錯し、それが彼女の音の世界を育んでいったのである。
この間、アンビエント音楽、電子音楽、テクノなどの実験的でヴォーカルのない音楽に没頭するようになり、聴き方の幅が広がっていった。サンプラーを手に入れ、日本のクラブやカフェでのソロライブを始めた。苗字と名字を融合させた「サトミマガエ」は、彼女の独特のフォークトロニックな考察を伝える公式キャラクターとなった。
初期のアンビエント・フォーク・シンセサイザーを集めたファースト・アルバム『awa』(2012年)は、ローファイ/DIYのセルフ・レコーディング技術を駆使した作品である。2枚目のアルバム『Koko』(2014年)では、彼女は控えめでライヴ感のあるパフォーマンスと、フォークの伝統に馴染んだ温かく牧歌的なエネルギーの冷却を追求した。続いて、『Kemri』(2017)では、より豊かな和音とリズムで伝えられる人間的な感覚に触発されて、この効果をバランスよく調整している。彼女の2作品をリリースしたレーベル、White Paddy Mountainとそのディレクター畠山地平の影響を受けて、スタジオ環境の中でよりコンセプチュアルな方向に進むことができたが、彼女の作曲やレコーディングのプロセスは、自分で作ったものであることに変わりはない。
そしてNYの最先鋭レーベル、RVNG Intl.へ移籍してのリリースとなる『Hanazono』では、URAWA Hidekiのエレクトリック・ギターとバード・コールが加わったことで、子供のような魅力を持つSatomiの微細なヴィジョンが融合している。Satomiの姉であり、アルバムやウェブサイトのすべての作品を担ってきたNatsumiの直感的なビジュアルが、温かみのあるものとクールなもの、手作りと機械で作られたものが混ざり合うというSatomiの夢を、彼女の別世界への窓のように機能する木版画で見事に表現している。
2021年には最新アルバム『Hanazono』に由来する繊細な周辺の花びらの配列である“コロイド”を構築した。自身の楽曲から4曲を選曲しリアレンジした『Colloid』を引き続きRVNG Intl.から発表した。2023年には、2012年にセルフリリースしていたデビュー・アルバム『Awa』のリマスター・拡張版『Awa (Expanded)』をRVNG Intl.よりリリースした。

Todd Terje - ele-king

 少しずつ暖かくなっていきますね。春の予定は決まっていますか? そろそろファースト・アルバム『It's Album Time』から10年が経ちそうですが、きたるゴールデンウィーク、ノルウェイからニューディスコの王者トッド・テリエがやってきます。5月3日から6日にかけ岡山、東京、大阪の3都市を巡回するツアー。今回はDJとしてのプレイです。詳細は下記をご確認ください。

Todd Terje Japan Tour 2023

北欧NUディスコシーンの牽引者、Todd Terje (トッド・テリエ)の来日ツアーが決定!
代表作「Inspector Norse」を始め、「Eurodans」「Ragysh」「Snooze 4 Love」「Strandbar」といったヒット作で知られ、米ローリングストーン誌の「世界のトップDJ25人」のひとりに選ばれた。
アルバム『It's Album Time』収録曲「Alfonso Muskedunder」がテレビドラマシリーズ『Better Call Saul』シーズン3・エピソード3で使用されている。
2020年にはイラストレーター、Bendik Kaltenbornによる短編映画『LIKER STILEN』のサウンドトラックを担当した。

Todd Terje Japan Tour 2023

5.3(水/祝) 岡山@YEBISU YA PRO

DJ: Todd Terje (Olsen Records / from Norway) and more

Open 22:00
Advance 4000yen
早割チケット 3/14(火)10:00~ 3/24(金)23:59まで
一般チケット 3/25(土)10:00~
Door 5000yen
早割 3000yen
※ドリンク代別途要

Info: Yebisu Ya Pro http://yebisuyapro.jp
岡山市北区幸町7-6ビブレA館 B1F
TEL 086-222-1015

5.4(木/祝) 東京@ZEROTOKYO
- B4 Z HALL -


Todd Terje (Olsen Records / from Norway)
SPECIAL SECRET GUEST
CYK


REALROCKDESIGN

Open 21:00
Close 4:30
Advance 4500yen
Door 6000yen

Info: ZEROTOKYO https://zerotokyo.jp
東京都新宿区歌舞伎町1-29-1 東急歌舞伎町タワー B1-B4

5.6(土) 大阪@CLUB JOULE

=2F=
DJ:
Todd Terje (Olsen Records / from Norway)
AKIHIRO (NIAGARA)
SSSSSHIN

PA: Kabamix
Lighting: Gekko Abstract

=4F=
DJ:
SISI (Rainbow Disco Club / Timothy Really)
GUCHI (WALLS AND PALS)
misty
Ashikaga (C2C)
MIYUU

FOOD: KitchenMUMU

Open 22:00
Advance 3300yen
Door 4000yen

Info: CLUB JOULE https://club-joule.com
大阪市中央区西心斎橋2-11-7 南炭屋町ビル2F
TEL 06-6214-1223

Total Info: AHB Production http://ahbproduction.com

<アーティスト詳細>
TODD TERJE (Olsen Records / from Norway)

ノルウェー、オスロ在住のプロデューサー/DJ/ソングライターであるTODD TERJE(トッド・テリエ)。
数々の傑作リエディットでその名を知られ、本人によるリエディットやリミックス作品で構成されたベスト盤的コンピレーション&ミックスCD 『Remaster Of The Universe』がリリースされている。リエディットだけでなくオリジナル作品でもその才を発揮し、「Eurodans」「Ragysh」「Snooze 4 Love」はクラブアンセムとなった。『It’s The Arps』EP収録曲、「Inspector Norse」は世界的ヒット作となり、彼の代表曲である。
2014年、ファーストフルアルバム『It's Album Time』をリリース。ソロライブやフルバンドTHE OLSENSを率いてライブ・アクトとしても活動してきた。
2016年、TODD TERJE & THE OLSENS名義でのカヴァーEP『The Big Cover-Up』をリリース。
2020年、今回のツアーイメージを描いたイラストレーター、Bendik Kaltenbornによる短編映画『LIKER STILEN』のサウンドトラックを担当した。

● Todd Terje アーティストリンク
Web http://toddterje.com
Instagram https://www.instagram.com/toddterje
Facebook https://www.facebook.com/ToddTerje
Youtube https://www.youtube.com/@ToddTerje

Kassel Jaeger - ele-king

 ステファン・マシューローレンス・イングリッシュティム・ヘッカー、ヤン・ノヴァク、クレア・ラウジーウラなど、2000年代〜2010年代以降、アンビエント・ミュージックは、ドローン、フィールド・レコーディング、モダン・クラシカル、ニューエイジ、電子音楽など、さまざまな音楽的要素を包括しつつ多様化・変化してきた。それは不思議と人の心の浸透するような感覚を持っていた音楽でもあった。聴くほどに没入する。そんな感覚である。
 かつてブライアン・イーノが提唱したアンビエントを「環境型」とすれば、2010年代以降のアンビエントは心身への「没入型」とでもすべきだろうか。もしくはオープンスペースからインナースペースへの移行とでもいうべきかだろうか。
 スイスの電子音楽家にしてパリのINA GRMのディレクターも務めるカッセル・イェーガー(フランソワ・J・ボネ)は、現代音楽畑から出てきた人だが、彼のロマンティックかつシュールリアリズムな音響は、聴く者を夢幻の作品世界に連れ去ってくれる。その意味では、没入型の最たるものといえよう。
 新作『Shifted in Dreams』もまたミニマルな旋律から、ドローン、サウンドのコラージュが交錯し、「機械の情感」とでもいうべき感性を生成していた。まさに最新の没入型アンビエント/エクスペリメンタル・ミュージックである。リリースはフランスの〈シェルター・プレス〉。余談だがこのレーベルはいまや〈エディションズ・メゴ〉を継承するエクスペリメンタル・レーベルにまで成長したと思う。イェーガーは〈エディションズ・メゴ〉からも多くのアルバムも出しているが、〈シェルター・プレス〉からも2016年に、アキラ・ラブレーとステファン・マシューとの共作『Zauberberg』、2020年に、単独作『Swamps / Things』などをリリースしている。

 『Shifted in Dreams』では、『Swamps / Things』以上に「音楽的/旋律的」な要素を全面化した “Shifted in Dreams” ではじまる。
 はっきりとした旋律が聴こえてくるアンビエント・ドローン系の作品は珍しい。メロディが全面化したアンビエントは、下手をするとモダン・クラシカルのようになってしまう。しかしさすがイェーガーの楽曲においてはそうはならない。ある種の曖昧さや、不穏さに満ちているのだ。だが、「音楽的」なムードが1曲目 “Shifted in Dreams” のみなのだ。以降、アルバムは、まるでタルコフスキーの『鏡』や『ノスタルジア』のように掴みきれない抽象的なムードに満ちてくる。
 メロディックな印象を強く残す “Shifted in Dreams” からはじまり、一転して2曲目 “Barca Solare” では壊れた音楽機械が放つような不規則な音階を展開する。続く3曲目 “Dissipation of Light” ではうっすらと光が差してくるような音響が耳と心に浸透する。
 4曲目 “Gullintoppa” ではガソゴソとした環境音(?)に透明な音の波が交錯し、より静謐な音響空間を生成している。このように音楽的な構造を強く印象つけた1曲目から次第に本作のサウンドは、抽象性の深みへと潜っていくように展開する。
 アルバムには全7曲が収録されているのだが、アルバム後半3曲では、〈Shelter Press〉からのリリースでは前作にあたる『Swamps / Things』の雰囲気に近くなってくる。5曲目 “Sôlên I” ではアルバム中、硬派ともいえるドローンを構築している。まるでスティーブン・オマリーが静謐化したような楽曲だ。神経が凍るような音である。
 6曲目 “Allée des Brouillards” もまた静謐な印象のドローン作品だが、まるで遠くから聴こえる複数の「声」のようなコラージュが折り重なり、どこか掴みどころのない悪夢のような音響を生成していた。この曲は簡単な旋律がうっすらと浮かび上がってくるかのように展開し、1曲目 “Shifted in Dreams” との連続性を意識させてくれる仕上がりである(旋律の反復という意味ではドローンからミニマル・ミュージックへと変化したようにも聴こえてくる)。
 アルバム最終曲である7曲目 “Carcosan Cycles” ではアルバム中、もっとも不穏なムードのアンビエント/ドローンが展開する。一定のトーンが持続するというよりは、生成から消滅までを押し殺したような静かに、しかしどこかドラマティックに生成されているのだ。
 この優れた最終曲(ドローン)の、静かでダークなロマンティシズムこそ、まさにカッセル・イェーガーの真骨頂といえる。個人的には2020年の長尺アンビエント・ドローン・アルバム『Meith』を8分に圧縮しように聴こえた。つまりはそれほどの曲なのだ。

 彼のロマンティシズムには不思議と悪夢のような感覚がある。闇夜に迷い込んでいくような、もしくは沼地に沈みこんでいくのに恍惚としているような。本作もそうだ。甘い旋律の残滓とそこから零れ落ちていく音の残響が交錯した結果、ひたすら夢の底へと落ちていくような感覚が横溢しているのだ。
 ロマンティック、シュールリアリズム、エクスペリメンタル。その感覚の混合こそが彼の音の魅惑でもある。本作は、そんなイェーガーの奇妙なロマンティシズムがもっともわかりやすく結晶したアルバムである。彼の作品を初めて聴く方にもお薦めできる作品だ。

Pardans - ele-king

 時代と場所、タイミング、シーンを構成するいくつかの要素。コペンハーゲン・シーンには遅く、サウス・ロンドンのインディ・シーンには早すぎた。デンマーク、コペンハーゲンのバンド、パーダンスはある意味で時代の隙間に入り込んでしまったバンドなのかもしれない。
 アイスエイジ、ロウアーを中心とした暗く激しい熱を帯びたコペンハーゲンのパンク/ポスト・パンクのシーン、工場を改装したリハーサル・スペースであり同時にヴェニューでもあったメイヘムに集まりそこで小さなコミュニティが作られ流れが生まれた。メイヘムにはまたジャズや 〈Posh Isolation〉のカタログに連なるようなエレクトロニクスやエクスペリメンタル・ミュージシャンたちもいて、それがまたここに集うバンドに影響を与えていった。そんななかで学校を卒業したばかりの、少し年下のパーダンスはシーンが移り変わろうかというようなその時期に遅れて参加してそこでアイスエイジ、マーチング・チャーチ直系のエネルギーに溢れるギター・サウンドとジャズを混ぜたような音楽を作ることを目指したのだ。

 バンドを組んで3ヶ月で録音されたという2016年の1stアルバム『Heaven, Treason, Women』はアイスエイジの暴力的なまでの初動と、暴れ回るそれを制御しようとするロデオのようなフリー・ジャズの要素を合わせ持つ狂気の熱を放ったアルバムで、2023年のいま聴くそれはまるでサウス・ロンドンのインディ・シーンの前夜のような音にも聴こえるような瞬間がある。2018年の2ndアルバム『Spit and Image』はそれよりももっと方向を定めたエネルギーを放っていて、マーチング・チャーチをラウンジ・リザーズに近づけたかのような雰囲気を持つ。吹き荒れるサックス、ピアノにヴィオラ、ブラック・カントリー、ニュー・ロードの登場以降のUKの新人バンドたちが即座に頭に思い浮かべ採用するようなこの編成はこのときすでに形作られていたのだ。

 だがそれはあまりに早すぎた。コペンハーゲンの次のシーンに流れが移り、サックスの時代が来るまでにすでに存在していた彼らの音楽は時代の狭間に吸い込まれ隠されてしまったのかもしれない。だからきっと少しやり方を変えて再発見される必要があった。この3rdアルバム『Peak Happiness』で聴かれるパーダンスの音楽はそれまでのアルバムよりもずっとサウス・ロンドンのポスト・パンク・バンドに近い。ジャズのアプローチを少し弱め、ポスト・パンクの要素を前に出し、そこに自ら破滅の道に向かうかのようなロマンティシズムを混ぜ込む。それは似ているけれど異質なもので、退廃的な色気と狂気がその音楽のなかで熟成され醸し出されていく(それはどこか優等生的で、ともすれば頭でっかちと捉えられかねなかったサウス・ロンドンのバンドたちにはなかった魅力だ)。

 夜の出口の見えない暗闇を手探りで進んでいくかのような “Big Summer” のダウナーなビート、サックスが歌いロード・ムービーのようなムードを作る “Warp Speed” はまるでパーダンス版の “Track X” のようで、その半自伝的な曲の中で “Track X” の作曲者たるブラック・カントリー、ニュー・ロードとロンドンの100Club で共演したというツアーの記憶が語られる。薄暗い、嘘がはびこる街で爆弾が爆発する、彼らは曲のなかでそう表現するが、しかしここでの爆発は火の手があがるようなそれとは少し趣が違う。長回しで淡々と描写するようなサウンドのなかに宿る静かな炎。1stアルバムから7年、2ndアルバムから5年が経ち、もう衝動で突き抜けるような感覚はない。それは押し殺された感情のなかにくすぶり続けた青白い情熱みたいなもので、ひんやりとした冷たいナイフを突きつけられているみたいなそんな感覚に陥る。
「ポスト・パンクのシーンをいくつかリサーチしてみたけど/なんの印象も残らなかった」。夜の色が薄くなり朝へと向かう時間の独白みたいにして紡がれる “The Scene” にしても、シーンから外れた疎外感のその裏に俺たちならもっとうまくやれるという暗く静かな意志を感じてしまう(群衆のなかでピッチフォーク・フェスのステージを眺めるというラインは哀しく、そしてとても美しく響く)。

 コペンハーゲン・シーンの最後に現れそこにろくに参加することのできなかった遅れてきたバンド、彼らはその後に起こったサウス・ロンドンのインディ・シーンのバンドたちと比べると年長で積み重ねた時間も過ごした場所も違がっていて、だから共感するところはあってもそれらをとても自分たちのものだと思うことはできなかったのだろう。だがそれゆえに、この音楽のなかにはどこにも属せなかったアウトサイダーの退廃的な美学が息づいている。野望に燃えていた少年時代の燃えさかるような炎ではない静かに燃やされる情熱、タバコとアルコールの匂いのするオープニング・トラック “Cringe City” から、アイスエイジに憧れたかっての自分たちを取り戻そうとしたかのような最終曲 “Mr. Coffee” に至るまで、ここにはくすぶり続けた情熱と暗く輝くロマンが詰まっている。

RP Boo - ele-king

 2年前、貫禄のアルバム『Established!』を送り出したシカゴのフットワークの偉人、RP・ブーが新作をドロップする。題して『Legacy Volume 2』。どうやら2013年発表のデビュー・アルバム『Legacy』の続編という位置づけのようで、2002年から2007年にかけて録音された13のトラックにより構成されているとのこと。映画や日常生活、機械などからインスパイアされた曲が収録されているそうだ。発売は5月12日。

artist: RP Boo
title: Legacy Volume 2
label: Planet Mu
release: 12th May 2023

tracklist:
01. Eraser
02. Heavy Heat
03. Total Darkness
04. Flo-Control
05. Under'D-Stat
06. Say Grace
07. Knock Out
08. Azzoutof Control
09. B.O.T.O.
10. Pop Machine
11. Porno
12. Off Da Hook
13. Last Night

Luminessence - ele-king

 多くのファンを持つジャズ・レーベル〈ECM〉が新たに手掛けるヴァイナル・リイシュー・シリーズ、「Luminessence」。その第一弾としてトランペット奏者ケニー・ホイーラーの『Gnu High』(1976)と、ブラジルのパーカッショニスト、ナナ・ヴァスコンセロスの『Saudades』(1980)が4月28日にリリースされる。
 発売に先がけ、4月21日金曜日、両作のリスニング・イヴェントが催されることになった。案内人は原雅明、会場はアナログ・サウンドに特化した南青山のレストラン&バー BAROOM とのこと。極上のシステムで1音1音を堪能しましょう。

ECMレコーズが、スタートさせる新しいオーディオファイル・ヴァイナル・リイシュー・シリーズLuminessenceを記念し、発売前にリスニング・イヴェントがロンドン、ベルリン、東京の3都市で開催されます。

東京は、南青山のレストラン&ミュージックバーBAROOMにて、4月21日(金)20時より開催。世界同時リリースとなるケニー・ホイーラーの『Gnu High』とナナ・ヴァスコンセロスの『Saudades』の2枚を、アナログ・サウンドに特化したBAROOMの極上のシステムで再生します。ナヴィゲーターは原 雅明が務めます。

日時:2023年4月21日(金曜日) 20:00〜22:00

Navigator: 原 雅明
会場:song & supper BAROOM(バルーム)
東京都港区南青山6丁目10−12 フェイス南青山 1F
https://baroom.tokyo/
Music charge:free

主催:BAROOM
企画:ECM
協賛:ユニバーサル ミュージック(同)
協力:dublab.jp

■Luminessenceシリーズ

ECMのディープなカタログの宝石に光を当てるエレガントで高品質なヴァイナル・シリーズ。このシリーズの特徴は、唯一無二の刺激的な音楽、想像力豊かな演奏、繊細なプロダクション。ECMの音の世界の広さと多様性を強調する録音で、様々なフォーマットのLPがリリースされる予定だ。

クリエイティヴな音楽制作の概念を変えたアルバムや、今やクラシックと呼ばれるようになったアルバムを取り上げており、また長い間廃盤になっていたアルバムや、ヴァイナル初登場となるアルバムもあるとのことだ。ほとんどの作品はオリジナルのアナログ・マスターテープからカットされ、すべてのLuminessence盤はECMの名声を高めた印象的なオリジナル・アートワークを基に追加した新しいパッケージ・デザインで蘇る。
https://youtu.be/rCW6Vx9okho

■作品情報

4月28日発売
ケニー・ホイーラー 『Gnu High』
https://Kenny-Wheeler.lnk.to/Gnu_HighPR


ナナ・ヴァンコンセロス 『Saudades』
https://Nana-Vasconcelos.lnk.to/SaudadesPR

『Gnu High』はトランぺッター、ケニー・ホイーラーのECMデビュー・アルバムで、ピアノのキース・ジャレット、ベースのデイヴ・ホランド、ドラムのジャック・ディジョネットとの見事なカルテットを率いての演奏。このアルバムは、ホイーラーを叙情的な即興演奏家/ジャズ作曲家として世界に知らしめ、その後に影響力を与え、高く評価された作品の基礎を築いた重要な1枚だ。一方、『Saudades』は、ブラジルの打楽器奏者ナナ・ヴァスコンセロスが、オーケストラの中でベリンバウを聴くという夢をかなえた作品で、エグベルト・ジスモンチが弦楽器の編曲を担当し、共同作曲家、サポート・ソリストとして参加したことで実現したもの。ジスモンチとヴァスコンセロスの創造的なパートナーシップは、多くの録音で強調されているが、このように音楽表現が織り成す魔法のようなオーケストラの録音は二度とないだろう。

■情報ページ
https://dublab.jp/show/ecm-luminessence/

YUKSTA-ILL - ele-king

 すでに3枚のフル・アルバムを送り出している三重は鈴鹿のラッパー、YUKSTA-ILL。これまで名古屋を拠点とするレーベル〈RCSLUM〉で培った経験をもとに、先日自身のレーベル〈WAVELENGTH PLANT〉を設立することになった彼だが、早速同レーベルより彼自身のニュー・アルバム『MONKEY OFF MY BACK』のリリースがアナウンスされた。
 セカンド『NEO TOKAI ON THE LINE』のときのインタヴューで「アタマからケツまで構成があって起承転結がある作品を作りたかった」との発言を残している YUKSTA-ILL は、単曲でのリリースがスタンダードになった昨今、1曲単位よりもフル・アルバムに強い思いを抱くラッパーである。レーベル設立の告知と同時に公開された新曲 “FIVE COUNT (WAVELENGTH PLANT ver.)” がまたべらぼうにかっこいい一発だっただけに、ひさびさのフルレングスにも期待大だ。新作『MONKEY OFF MY BACK』は4月5日(水)にリリース。フィジカル盤には盟友 DJ 2SHAN によるミックスCDが付属するとのこと。確実にゲットしておきたい。

三重鈴鹿を代表する東海の雄YUKSTA-ILLが4年ぶり4作目のフルアルバムリリースへ
自身の新レーベル「WAVELENGTH PLANT」からTEASER動画&トラックリストを公開

東海地方から全国へ発信を続ける名古屋の名門レーベル「RCSLUM RECORDINGS」で15年間培った経験・知識を地元三重に還元すべく、今月1日に自らのレーベル「WAVELENGTH PLANT」の設立を発表したばかりのYUKSTA-ILL。
同日より配信されている彼のローカルエリアを題材にしたシングル「FIVE COUNT」から間髪入れず、4年ぶり4作目となるフルアルバム「MONKEY OFF MY BACK」を4/5(水)にリリースする。
全13曲からなる今作にはBUPPON、Campanella、WELL-DONE、ALCI、GINMENが客演参加、トラックのプロデュースをMASS-HOLE、OWLBEATS、Kojoe、ISAZ、UCbeatsが担当。
ブレないスタンスをしっかりと維持しつつ、これまでリリースしてきたフルアルバムとはまたひと味違った世界観、アーティストとしての新境地を感じさせる内容の仕上がりとなっている。
尚、配信と同タイミングでリリースされるフィジカル盤には、YUKSTA-ILL自らホストを務めた地元の盟友DJ 2SHANによる白煙に包まれた工業地帯をイメージしたMIXCD「BLUE COLOR STATE OF MIND」が購入特典として付属される。
レーベルより公開されたTeaser動画、及びアルバム情報は以下の通り。

MONKEY OFF MY BACK Album Teaser
https://youtu.be/dpeE46hW7bU

【アルバム情報】
YUKSTA-ILL 4th FULL ALBUM
「MONKEY OFF MY BACK」

Label: WAVELENGTH PLANT
Release: 2023.4.5
Price: 3,000YEN with TAX
(フィジカル盤購入特典付)

{トラックリスト}
01. MONKEY OFF MY BACK
02. MOTOR YUK
03. FOREGONE CONCLUSION
04. GRIND IT OUT
05. JUST A THOUGHT
06. SPIT EAZY
07. OCEAN VIEW INTERLUDE
08. DOUGH RULES EVERYTHING
09. EXPERIMENTAL LABORATORY
10. TIME-LAG
11. BLOOD, SWEAT & TEARS
12. TBA
13. LINGERING MEMORY

{参加アーティスト}
ALCI
BUPPON
Campanella
GINMEN
WELL-DONE

{参加プロデューサー}
ISAZ
Kojoe
MASS-HOLE
OWLBEATS
UCbeats

【作品紹介】
ラッパーはフルアルバムを出してなんぼだ。
USの伝説的ヒップホップマガジン「THE SOURCE」のマイクレートシステムはフルアルバムでないと評価対象にすらならなかった。
派手なシングルや、コンパクトに凝縮されたミニアルバム、客演曲での印象的なバースも勿論良い。
だが、そのラッパーの力量・器量を計る指針となるのはやはりフルアルバムなのである。

三重鈴鹿から東海エリアをREPするYUKSTA-ILLは、まさにそのフルアルバムにかける思いを強く持つ“THE RAPPER”の一人だ。
自らの疑問が残る思想への解答を模索した1st「QUESTIONABLE THOUGHT」、
NEO TOKAIの軌道に乗った己を篩に掛けた2nd「NEO TOKAI ON THE LINE」、
世間を見渡しながらも自身のブレない精神力を全面に押し出した3rd「DEFY」、
これらはすべて明確なコンセプトの下、起承転結を意識して作り込まれたフルサイズのヒップホップアルバムである。

そんな彼が約4年ぶりにフルアルバムを引っ提げて戻ってきた。
「MONKEY OFF MY BACK」と名付けられた4枚目のフルとなる今作は、
立ち上げたばかりの自身のレーベル「WAVELENGTH PLANT」から世に送り出される。

「疫病の影響で時間は有り余る程にあった。その結果、楽曲は大量生産された。
只、アルバムを意識せず制作を続けていたので、まとまりを見いだすのに苦労した」、とは本人の弁。
しかし度重なる挫折と試行錯誤の末、やがてそれは本人の望むまとまった作品へと形を成していった。
その期間中に経験した、成長した、変化した、様々な出来事が楽曲に色濃く反映されたのは言うまでもない。

日々の葛藤、金銭問題、目を背けたくなるネガティビティをアートへ昇華する。
ローカルに身を置き、バスケを嗜み、嫁の待つ家へと帰り、リリックを書く。何気ない日常の描写すらドラマチックに魅せる。
適材適所に散りばめられた客演陣、そして夢見心地なサウンドプロダクションが、何かを始めるにはうってつけのSEASONに拍車をかける。
長い沈黙を破り2020年から2022年にかけフルアルバム4枚リリースの記録的なランを見せてくれたレジェンドNASの様に。
無二の境地に到達したYUKSTA-ILLが今、リスナーの鼓膜に向けてSPITを再開する。

【YUKSTA-ILL PROFILE】
三重県鈴鹿市在住、その地を代表するRAPPER。
バスケットボールカルチャー、SHAQでRAPを知り、何よりALLEN IVERSONからHIP HOPを教わる。
「CLUBで目にしたRAPPERのダサいライヴに耐えきれずマイクジャックをした」
「活動初期のグループB-ZIKで制作したデモを鈴鹿タワレコ内で勝手に配布しまくっていた」
という衝動を忘れることなく、スキルの研鑽と表現の追求、セルフプロモーションを日々重ねる。
2000年代後半はUMB名古屋予選で2度の優勝を果たし、長い沈黙と熟考を経てMCバトルへの参戦を2022年末より解禁。
地元で「AMAZON JUNGLE PARADISE」と称したオープンMICパーティーを平日に開催。
”RACOON CITY”と自称する地元の仲間達と結成したTYRANTの巻き起こしたHARD CORE HIP HOP MOVEMENTはNEO TOKAIという地域を作り出した。
そのトップに君臨するRC SLUMのオリジナルメンバーであり最重要なMCとして知られている。
RC SLUMの社長ATOSONEと共に2009年に「ADDICTIONARY」と題されたMIX CDをリリース。
立て続けに2011年にはP-VINE、WDsoundsとRC SLUMがコンビを組み1stアルバム「QUESTIONABLE THOUGHT」をリリース。その思考と行動を未来まで広げていく。
2013年にはGRADIS NICE、16FLIP、ONE-LAW、BUSHMIND、KID FRESINO、PUNPEEと東京を代表するトラックメーカーとの対決盤EP「TOKYO ILL METHOD」をリリース。YUKSTA-ILLのRAPの確かさを見せつける。
NEO TOKAIの暴風が吹き荒れたSLUM RCによるモンスターポッセアルバム「WHO WANNA RAP」「WHO WANNA RAP 2」を経て、2017年には2ndアルバム「NEO TOKAI ON THE LINE」、
2019年にはダメ押しの3rdアルバム「DEFY」をP-VINE、RC SLUMよりリリース。さらなる高みへと昇っていく。
OWLBEATS、MASS-HOLEとそれぞれ全国ツアーを敢行し、世界を知り、自身をアップデートしていく。
RAPへの絶対的な自信があるからこそ出来るトラック選び、時の経過と共にそこへ美学と遊び心が織り込まれていく。
ISSUGI, 仙人掌, Mr.PUG, YAHIKO, MASS-HOLEと82年のFINESTコレクティブ”1982S”のメンバーとしてシングル「82S/SOUNDTRACK」を2020年にリリース。
世界を覆ったコロナ禍の中「BANNED FROM FLAG EP」「BANNED FROM FLAG EP2」を2020年にリリース。ラッパーとは常に希望の光を灯す存在である。
2021年には自他共に認めるバスケットフリークであるRAMZAと故KOBE BRYANTに捧げる「TORCH / BLACK MAMBA REMIX」を7インチでリリースし、NBA情報誌「ダンクシュート」にも紹介される。
さらに同タッグはシングル「FAR EAST HOOP DREAM」をリリース。B.LEAGUEへの想いを放り込んだ、HIP HOPとバスケットボールの歴史に残るであろう1曲となっている。

”tha BOSS(THA BLUE HERB), DJ RYOW, KOJOE, SOCKS, 仙人掌, ISSUGI,
Campanella, MASS-HOLE, 呂布カルマ, NERO IMAI, BASE, K.lee, MULBE, DNC,
BUSHMIND, DJ MOTORA, MARCO, MIKUMARI, HVSTKINGS, BUPPON, Olive Oil,
RITTO, TONOSAPIENS, UCbeats, OWLBEATS, DJ SEIJI, DJ CO-MA, FACECARZ,
LIFESTYLE, HIRAGEN, ALCI, ハラクダリ, ILL-TEE, BOOTY'N'FREEZ, HI-DEF, J.COLUMBUS,
BACKDROPS, DJ SHARK, TOSHI蝮, GINMEN, MEXMAN, DJ BEERT&Jazadocument, and more..”

HIP HOPだけでなくHARD CORE BANDの作品にも参加。キラーバースの数々を叩きつけている。

2023年、自らのプロダクションWAVELENGTH PLANTを設立。鈴鹿のビートメーカーUCbeatsのプロデュースでリリースしたシングル「FIVE COUNT」に続き、約4年ぶりとなる4枚目のフルアルバム「MONKEY OFF MY BACK」をリリースする。
その目の先にあるものを捉え、言葉を巧みに扱い、次から次へと打ち立てていく。YUKSTA-ILLはまだまだ成長し続ける。

HP : https://wavelengthplant.com
Twitter : https://twitter.com/YUKSTA_ILL
Instagram : https://www.instagram.com/yuksta_ill/
YouTube : https://www.youtube.com/@wavelengthplant

U.S. Girls - ele-king

 ミーガン・レミーはふざけている。いや繰り返し聴いていると一周まわって大真面目なようにも思えるし、描かれるモチーフはつねにシリアスな社会風刺を含んでいるが、何よりも音自体のあっけらかんとしたユーモア感覚が遊戯性を強調しているのだ。近年の彼女のスタイルはジャンルのクリシェをあえて大げさに引用しミックスするもので、20世紀のアメリカの大衆音楽への郷愁と皮肉を同時に立ち上げつつ、それ以上に反射的に笑える。いまや〈4AD〉とサインして以降のポップなイメージが強いため初期のU.S.ガールズのハチャメチャなローファイ音楽は忘れられがちだが、当時よく言われていたのは「意味がわからん」ということだった。で、現在レミーが探求している思いきりキャッチーなポップ音楽にも「意味がわからん」ところがあり、そこがたまらなく痛快だ。

 8作目となる『Bless This Mess』はディスコやエレクトロ・ファンクの色がやけに強く、ダンスフロアを志向したと思われるアルバムだ。奇しくもパンデミック初期(2020年3月)にリリースされることでセッションの喜びを喚起するようだった前作『Heavy Light』に対し、ダンスの現場が復活していることとタイミング的にリンクしていると言える。イメージとして80年代の音をを引っ張り出していることから感覚的にはビビオの最近作『BIB10』のような無邪気さがあるが、U.S.ガールズの本作の場合レミーがパンデミック中に双子を妊娠・出産した経験が反映されているので、そうした人生の慌ただしい変化が大げさなダンス・サウンドにどうやら表現されているようだ。
 引き続き夫のマックス・ターンブルと共同プロデュースで、ホーリー・ゴースト!のアレックス・フランケル、ジェリー・フィッシュのロジャー・マニング・ジュニア、コブラ・スターシップのライランド・ブラッキントン、マーカー・スターリング、ベイシア・ブラット、そしてベックと多彩なコラボレーターが集まっているものの、全体を貫くファンキーなトーンを統率しているのはあくまでレミーそのひとだろう。ゆったりしたテンポのシンセ・ファンク “Only Deadalus” で幕を開けると、続く “Just Space for Light” ではゴージャスなコーラスを引き連れて眩いステージ・ライトを一身に浴びる。前作がデヴィッド・ボウイ的なら本作はプリンス的で、グリッターでセクシーなファンクやR&Bを参照して妖しく弾けてみせる。子どもを産んだばかりの母親がスパンコールをつけたドレスを着てフロアで踊り出したら世間体を気にする人びとはぎょっとするだろうが、もちろんレミーはそんな窮屈な規範をものともせず、ミラーボールのもとで輝いてみせるのだ。やたらキレのいいパーカッションが鳴らされるエレクトロ・ハウス “So Typically Now” はロボット・ダンスが目に浮かぶ直角的なシンセ・リフだけで可笑しいのに、ソウルフルなコーラスが現れると大仰な盛り上がりとともに腹を抱えずにはいられない。

 ただ、その “So Typically Now” がCOVID-19以降の住宅問題をモチーフにしているように、あくまで生活に根差した政治性が含まれているのがU.S.ガールズの神髄でもある。資本主義に対する異議申し立てはそこここに発見できるし、また、フェミニストして母になったレミーはあらためて「母性」に押しつけられた負担や性役割について想いを巡らせている。80年代R&Bのパロディのように妙にキラキラしたバラッド “Bless This Mess” はタイトル・トラックということもあって示唆的だ。アートワークで妊娠した腹を囲む正方形はインスタグラムの投稿のようで、添えられた言葉は「この混乱を祝福せよ」。すべてがSNSで消費される風潮に対する皮肉と、こんな時代に親になることの不安や混乱が入っているのだ。
 それでも、性規範が根強く残っている現代を風刺する “Tux (Your Body Fills Me, Boo)” がタキシードの視点から不満を語るという突飛な設定になっているように、レミーの社会批評はユーモアをけっして忘れない。しかも激ファンキーなディスコ・ナンバーで、だ。レミーは回転しながら手を叩き、「あんたの身体がわたしを満たす、ブー!」と歌う。やっぱり、ふざけているとしか思えない。けれどもその悪戯心は、メチャクチャな時代を生き抜くための武器なのだ。
 スマートフォンの振動を思わせるサウンドで始まる “Pump” は、そこに太いベースラインが入ってくればたちまち愉快なダンス・チューンとなる。慌ただしい生活も殺伐とした社会も、遊び心さえ忘れなければダンスと笑いの種になる。「何も間違ってない/すべてうまくいく/これはただの人生なんだから(“Futures Bet”)」──そして、けっして捨てられないオプティミズム。U.S.ガールズのひょうきんな音楽はいま、冷笑に硬直しそうなわたしたちをまずは踊らせ笑顔にするところから始めようとしている。

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