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Tonosapiens

Tonosapiens

The Presidents Heights

The Presidents Heights/Pヴァイン

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野田 努   May 08,2012 UP

 東京の〈ザ・プレジデンツ・ハイツ〉は、昨年、煙でむせかえるようなブッシュマインドのアルバムに続いたERAのデビュー・アルバム『3 Words My World』によって、強面の男たちが集う池袋のクラブの外の世界からも注目を集めている。ことストリートのロマン漂う『3 Words My World』は、彼らが危険と戯れているだけではないことを証明した。普段はラップを聴かないインディ・ロックのリスナーまでもが『3 Words My World』を耳からぶち込んで通勤している!
 〈ザ・プレジデンツ・ハイツ〉周辺から広がるシーンは、日本ではUKのグライムに相当とすると思われる。このレーベルの音楽的主成分にあるのは、ハードコアとヒップホップという、まあ、ある意味では、分厚い壁に包まれた要塞のようなジャンルかもしれない。愛想よく他者を迎え入れているとは言い難いだろうし、媚びることと平和的な態度との相違が曖昧になるとき、アンダーグラウンドはどこか慎重過ぎるきらいもある。
 そういうなかにあって〈ザ・プレジデンツ・ハイツ〉がこの1年で一歩踏み出していることは注目に値する。それは、世間を気にせずバビロン連中が嫌がらせをできる口実を、まあ覆すとまではいかないまでも、そこに屈しないばかりか、より積極的にやろうとしていることは、充分に前向きな意志表示だと思える。ERAは、どこにでもいるような若者――退屈をもてあまし、金もなく、途方に暮れた青春にアクセスし、トノサピエンスはファンクの力で自分たちを小さく閉じこめているコップを破壊し、宇宙に踊り出そうとしている。ちょうどスラックの音楽がそうであるように、そこが排他的な男社会ではないことを表しているわけだ。彼らの音楽には、ジョワ・ド・ヴィヴル(生きる楽しみ)がある。

 ハイデフとのC.I.A.として活動をはじめたトノは、初期の頃は低音の効いたスモーキーなダウンテンポに彼らの日常風景を重ね、その単調なリアリズム、ある種のミニマリズムによってリスナーを都会の夜の冷えた空気のなかに連れていった。スタイルこそ違えど、ブリアルとも似た真夜中の音楽だった。が、歳月の流れとともにトノはトノサピエンスへと進化すると、ストイックなミニマリズムの世界からコズミックなファンクネスへと向かった。彼のヒーローのひとり、ジョージ・クリントンの空飛ぶ円盤を目指したのかもしれない。10年以上も前の話だが、Pファンク軍団が来日したときに、彼らはステージの上で日本語で書かれた「吸うか!」というプラカードを大々的に掲げた。トノサピエンスは大酒をかっくらって、そしていま、「一緒に瞑想しよう」と笑っている。

 『ザ・プレジンデンツ・ハイ』は、ひと言で言えばご機嫌なアルバムだ。シンセサイザーを多用しているが、その電子音はクラフトワークではなくスライ&ザ・ファミリー・ストーンから受け継がれている。"Can You Feel it"のぼこぼこしたベースラインは見事なグルーヴを創出し、"E.Z.O State Of Mind"のブルース・ピアノは下半身を直撃する。"Fly Navigator"のミニマル・ダブではERAが、"Knock Town"のロボット・ファンクではハイデフが登場する。そして、あたかもロイ・エアーズのレコードを切り貼りしているかのような"Coffee Shop"や"Hell Yeah"では、彼らは、いわゆるジャズ・ラップを披露する。宇宙的なシーケンスがまわる"Flows Slowly2C"ではネオ・ソウル的な表情も見せる。アルバムは、ブラック・ミュージックへの多彩なアプローチでいっぱいだ。
 多くのブラック・ヒップホップはスラム街の現実を描写しているが、『ザ・プレジンデンツ・ハイ』はこの国の都会で暮らしている野蛮人、不良、疎外者、やる気のないダメ人間、酔っぱらい、ちんぴらの毎日を描いている。彼らはあるときはニヒリストだが、あるときは夢見人だ。インターネットよりもクラブを信用し、身近な言葉に耳を傾けている。そして彼らはときとして僕の知らない現実の美しさを見せてくれる。RUMIが"Space Cruising"という曲でトノサピエンスの粋なこのアルバムに祝福を与えているように(彼女のリリックにはどうにも拭いがたいオブセッションを感じてしまうのだが)、『ザ・プレジンデンツ・ハイ』は"東京"の埃まみれの路上から生まれた嬉しい1枚であることは事実だ。ピース。

野田 努