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Album Reviews

ERA

ERA

Jewels

rev3.11

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二木 信   Jul 03,2012 UP
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 僕がエラの音楽にハマったきっかけは"Feel"のミュージック・ヴィデオだったのだ。たった......そう、たった3分弱のこの映像と音にすべてが詰まっている気がした。淡い恋心、一晩のアヴァンチュール、仲間との連帯、未来への不安と期待、都市生活者の憂鬱と倦怠、ストリート・カルチャーや音楽、グラフィティへの愛情、東京への愛憎、町を吹き抜ける風、反抗心と内省......それらがデトロイトのプロデューサー、アンドレスの甘いブラック・ソウルを思わせるヒップホップ・トラックのなかに溶け込んでいた。

 不思議なことに、この映像を観た僕は、梁石日のハードボイルド小説『タクシードライバー日誌』で描かれなかった、彼の目には映らなかった東京の深い夜の表情や情念を浮き彫りにしていると感じた。まあ、それはいい。僕はくり返しミュージック・ヴィデオをYouTubeで再生して、その心地良さに浸り、そしてリリックに耳を傾けた。「あの娘が俺にKISSしたような気分/上がるメモリーたどりまあ充分/スタイル変化させたい気分/どこまで遠く行っても自分/1人街灯のした光/光ばかり伴う度々」。何も主張していないって? いやいや、ストリートの哲学というには曖昧で緩い、エラと彼の仲間の態度や振る舞い、さりげない感覚が素晴らしいのだ。

 "Feel"が収録された、今東京のアンダーグラウンドを騒がせるラッパー、エラのファースト・アルバム『3 WORDS MY WORLD』(2011年)は、ハードコア・パンクのインディ・レーベル〈WDsounds〉からリリースされる初のヒップホップ・アルバムとして、巷で随分と話題を呼んだ。実はエラは20代前半から中盤までWOBというハードコア・パンクのバンドで活動し、そのシーンで知る人ぞ知る存在として人気を獲得したという。そのいっぽうで、ヒップホップ・グループ、ペイパー・ソルジャー(PAPER SOLIDER$)のラッパーとしても活動している。そのときのMCネームは、ヤング エラズ(YOUNG ERAS)。なんというか、そのMCネームからしてハードコアとヒップホップの幸福な出会いを感じさせるではないか。エラがラップをはじめたのは10年ほどの前のことである。いまは、ラッパーのO.I.と組んだD.U.Oというグループの一員でもある。と、僕はこの辺りのプロフィールのいくつかは、文芸誌『新潮』で都築響一が連載している「夜露死苦現代詩2.0」を読んで知った。彼のプロフィールがさらに知りたければ、読むことをお勧めする。

 『3 Words My World』を特徴付けるのは、ウィズ・カリファやカレンシー、ケンドリック・ラマーといったUSのストーナー・ラップとの親和性である。ブッシュマインドやトノ・サピエンス、DJハイスクールといったエラの仲間のDJ/トラックメイカーはそこに、荒々しいレイヴ・サウンドや80年代ディスコの煌き、洗練されたアシッド・ジャズやスウィート・ソウルのメロウネスといった要素を彼ら流のやり方で調合することで、煙くて、洒落た東京産のオリジナル・シットを創造した。そして、エラが次の一手と言わんばかりに、インターネット・レーベル〈rev3.11(revision three-one-one)〉から発表した8曲入り(+ボーナス・トラック1曲)のセカンド・アルバム『Jewels』はさらにその"先"へ向かおうとしている(8月15日に未発表曲なども加わりCDで発売される)。つまり、クラウド・ラップ/トリルウェイヴに接近している。いや、接近という言葉は的確ではない。この作品は、クラウド・ラップ/トリルウェイヴのこの国における独自の展開でもある。

 嘘だと思うならば、アルバムの最後にドカ~ンと用意された7分近くに及ぶ"Get A"を聴いてみて欲しい。前作に引き続き、凶暴なミキシングで本作に多大な貢献をしているイリシット・ツボイがプロデュースしたこの曲は、オールドスクール・マナーのプリミティヴなビートやチョップト&スクリューの手法、70年代フュージョンめいたシンセ・サウンドやシューゲーザー的なエフェクトが混在した、プログレッシヴなクラウド・ラップである。ちなみに、同じくイリシット・ツボイが手がけたECD『Don't Worry Be Daddy』の最後に用意された"Sight Seeing"に至っては、クラウド・ラップとビートルズ"レボリューション9"の融合だった。最近リリースされたキエるマキュウの新作のナスティ・ファンクの暴走といい、最近のツボイ氏は凄いことになっている。

 少し話が逸れた。他には80年代初期のニューヨーク・ディスコのピッチをダウンさせてエディットしたかのような"Money&Dream"があり、コズミックなクラウド・ラップ"Planet Life"をプロデュースするのはリル・Bにもトラックを提供しているリック・フレイムだ。ロッカセンのラッパー、トナンをフィーチャーし、ブッシュマインドがトラックを作った"Sesami"は、酒の力をかりて女の子をナンパして「あちゃ~」と失敗して、煙いクラブの楽屋で咳き込んで、踊るというナイトライフの甘酸っぱいムードを見事に音楽化している。ラッパーのOS3やO.I.も参加しているし、トノ・サピエンスはますますそのグルーヴに磨きをかけたファンク・サウンドを披露している。

 だがしかし! 当然のことながら、主役はエラなのである。そのあっけらかんとしたフロウと声、達観と倦怠、憂鬱や不安、未来への淡い期待をさらりと表現するリリック、それらはとにかく心地良く、中毒性がある。そのリズム感や間合いは俳句のようでもあるし、エラのこのフワフワした感覚を表現するのにクラウド・ラップ/トリルウェイヴほどしっくりする音もないのではないだろうか。

 拳を振り上げて声高に何かを主張するでもなく、すべてに諦め絶望するでもなく、社会から完全にドロップアウトするでもなく、ここではないどこかだけを夢想するでもなく、エラの音楽は現実逃避とニヒリズムとデカダンス、そしてエヴリデイ・ストラグルな毎日のなかで鳴っている。「アッアッッ~」というエラの間の抜けた、脱力したお決まりの発声は、言葉のない、ストリートからの核心を突いた声明に僕には聴こえる。もう、この感じが最高に気持ち良い。ということで、最後に、"Money&Dream"、つまり「カネと夢」のなかからエラの厭世の一句を。

 まだここにいて/また適当やってて/そのままじゃ変わんないEveryday/目をあければ現実/瞳閉じちまうか/そのまま眠るか/そんな毎日嫌気がさしてるのさ

二木 信