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Ambient Jazz Ensemble

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小川充   Jan 29,2018 UP

 ジャズとアンビエントの結びつきを見ると、1950年代や1960年代のマーティン・デニー、アーサー・ライマン、レス・バクスターといったエキゾティック・サウンド、ジャン・ジャック・ペレイ、ガーション・キングスレイ、モート・ガーソンといった電子音楽にまで遡る。アンビエントは流動性のある概念なので、ジャズ系でもアリス・コルトレーン、ビル・プラマー、デヴィッド・アクセルロッドなど、さまざまなアーティストの中にその要素を見出すことができる。そして、アメリカよりもヨーロッパで発展する傾向が見られるが、それはクラシックやミュジーク・コンクレートとの結びつきが強いヨーロッパのジャズならではだろう。当然、ジャズ・ロック、プログレ、クラウト・ロックなどもそこに絡み、エレクトロニック・サウンドの発展と同調してニール・アードレイ、ラルフ・ルンドステンなど幅広いタイプのアーティストが登場する。ドイツの〈ECM〉は、こうしたアンビエント性の高いジャズを多く発信してきたレーベルでもある。クラブ・ジャズ以降を見てみると、やはりイギリス勢が強い。そもそもマイク・ウェストブルックやニール・アードレイなどのジャズ・オーケストラの歴史があり、ジョン・テイラーやノーマ・ウィンストンなどアンビエント性の高いアーティストを輩出してきたので、そうした伝統がクラブ世代のアーティストにも受け継がれてきた部分がある。そこへトリップ・ホップはじめ英国ならではの先鋭的なエレクトロニック・サウンドの要素が加わり、シネマティック・オーケストラやクリス・ボウデン、ヘリテッジ・オーケストラ、ヒドゥン・オーケストラなどが登場する。その多くがオーケストラ編成、もしくはそれに類する形態のプロジェクトというのが特徴で、ジャズに多いインター・セッションや即興演奏よりも、理論的かつ構築的な作曲技法をもとにしている。近年登場したアーティストでは、アンビエント・ジャズ・アンサンブルがこうしたアンビエントな英国ジャズ・オーケストラの系譜に属する。

 アンビエント・ジャズ・アンサンブルは英国ミッドランド生まれのベーシスト兼マルチ・ミュージシャン、コリン・バルドリーを中心とするスタジオ・プロジェクトである。バルドリーはオックスフォード近郊で長らくスタジオ・ミュージシャン/コンポーザー/プロデューサーとして活動し、ライブラリーや映画音楽の仕事もいろいろ行っている。そこにピアニストのニール・カウリー、サックス&フルート奏者のフィン・ピーターズが加わって、2013年にアンビエント・ジャズ・アンサンブルが誕生した。カウリーはブラン・ニュー・ヘヴィーズやゼロ7、ピーターズはマシュー・ハーバート・ビッグ・バンドや2バンクス・オブ・4などで演奏してきたほか、それぞれリーダー・アルバムも発表している。この3人のほか、ドラマーのベン・レイノルズ、ベーシストのクリス・ヒルなどを交え、2014年にファースト・アルバムの『スイート・ショップ』をリリース。このアルバムは映画『フィフス』のサントラとして作られたものでもあり、長らく映画音楽の仕事をしてきたバルドリーの作曲技法が生かされている。アンビエントやエレクトロニカな要素を持ち込んだ英国ジャズ・バンドには、近年でもゴーゴー・ペンギンポルティコ・カルテットなどいくつかあるが、3、4人などミニマムな編成のそれらに比べ、アンビエント・ジャズ・アンサンブルはホーン・アンサンブルやストリングスを交えた大掛かりな編成により(もしくはスタジオ・ワークでそれに準じる演奏を作り出している)、ダイナミックでスケールの大きなサウンドスケープを生み出している点が特徴だ。エレクトロニクスも用いているが、あくまでアコースティックな楽器群のアンサンブルを補助するもので、そうしてでき上がった作品はシネマティック・オーケストラあたりに近いだろう。

 その後、2015年の『スイート・ショップ』のリミックス集を挟み、3年ぶりのニュー・アルバム『AJE』が完成した。今回はニール・カウリーの代わりに、ジャズ・ロック・トリオのトロイカなどで活動するキット・ダウンズがピアノ/キーボードを担当するが、全体的にアンサンブルを拡大してクラリネットやパーカッションなど楽器が増え、本格的なストリングス・アンサンブルのほか、ヴォーカリストとしてドナ・ガーディアーも加わっている。アシッド・ジャズ時代にはロウ・スタイラスでも歌ったベテラン女性シンガーだ。内容としては『スイート・ショップ』を発展させ、それぞれミュージシャンの演奏やアンサンブルがより濃密なものとなる一方、そのスケール・アップした演奏に沿うべく、作曲面でもさらに緻密さや洗練度に磨きが掛かっている。そして、自らが歌として前面に出ることはなく、あくまで楽器の一部として機能するヴォーカル&コーラスが、作品に彩りや生命力を与えている。ブレイクビーツと美しいピアノのアンサンブルが印象的な“ブレス・イット・イン”でのコーラスは、どこか民族音楽的な風合いを感じさせるものだ。それに対し、“エングレイヴド”でのコーラスはゴスペル的なスピリチュアルなものを感じさせる。“アグファカラー”の導入部は、ブラインアン・イーノとジョン・ハッセルがやっていたようなアンビエント・ミュージック的なもので、そこから次第にアンビエント・ジャズ・アンサンブルらしいオーケストラル・ジャズへと展開していく。“フェルト”と“マイ・ファイナル・シーン”はネオ・クラシカルな曲想で、特に前者においては静と動の切り替えが鮮やかである。重厚なモーダル・ジャズの“イレヴン・デイズ”やバレアリックなムードの“サマー・スリップス・アウェイ”は、英国らしいダークでメランコリックな色彩を帯びている。哀愁のメロディを奏でつつ、次第に疾走感を帯びていくジャズ・ロックの“ザ・シークレット”には、ファースト・アルバムからさらに向上した作曲のスキルが反映されている。クラブ・ジャズの観点では、全盛期の4ヒーローを思わせるフューチャリスティックな趣の“シー・ザ・スカイ”が素晴らしい。そして、ギター、ソプラノ・サックス、オーケストレーションの見事なアンサンブルが飛翔感を放つ“ワン・オブ・ザ・ベスト・デイズ”。なお、アルバム・ジャケットはマリオン・ブラウンの『ヴィスタ』(1975年)を彷彿とさせるものだが、このアルバムもハロルド・バッドの作品を演奏していた。ブラウンはパリ時代にエリック・サティの作曲技法の影響を受けており、そうした点でジャズとアンビエントを結びつけた先駆者でもあったのだ。

小川充