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東金B¥PASS

Hip Hop

東金B¥PASS

TAILLAMP

WDsounds

小林拓音 Jan 18,2023 UP

 ヒップホップ/ラップ・ミュージックが大衆音楽の中心を占めるようになってひさしい。国内外問わずものすごいスピードで新人が登場し、中堅・ヴェテランたちも活躍をつづけている。日本ではかつての KOHH ほどの求心力を持った存在はいまだ見受けられないように思えるが、逆にいえばまさに百花繚乱、全国各地で多くのチャレンジャーたちが頭角をあらわしている。千葉を拠点とするデュオ、東金B¥PASS (とうがねバイパス)も看過すべきではない存在のひと組だ。
 ラッパーの DF¥ とビートメイカーの sostone からなる彼らが活動をはじめたのは2015年ころ。2017年にはファースト・アルバム『DA THING』を送り出している。ストリート出身らしく、当時はスケートボードばかりの生活を送っていたという。
 レーベルのサイトに公開されているインタヴューを読むと、しかし、今回のセカンド・アルバムは、車を乗りまわす日常生活が創作の源泉になっているようだ。
 試しに検索窓に「東金バイパス」と打ちこんでみる。マップを開き写真を眺めると、どこまでもつづきそうな平野を覆うアスファルトの脇に、かつ丼チェーン店やラーメン屋、ファミレスなどが映りこんでいる。とにかく駐車場が多い。JR東金線と交差するように走る、国道126号。自動車がないとどうにも立ちいかない景色が広がっている。ある意味、日本の田舎を代表する風景ともいえよう。ここが彼らの音楽が生み出されることになった「ホーム」なのだ。

 運転中に夢を見ると大変なことになるからだろう、かわりにドリーミーな感覚を請け負ってくれる2曲目 “Raders” について DF¥ は、「車から見る景色がある」「DRIVE SONGではない」が「ドライブしてる時に湧き出たもの」と説明している。「lights 監視カメラ action」と監視社会にたいする風刺を盛りこんだこの曲には、「俺は希望しか持てない非力」なるキラーなフレーズが登場する。ともすれば閉塞的なイメージでとらえられかねない無限の道路の風景から、ペシミズムとは真逆のことばが出てくるところに東金B¥PASS の魅力がある。
 その姿勢は「残酷な世界からlog out」や「必至に未来に戻る感覚」といったラインを含む “Elevation” にも共有されている。昨年の tofubeats を思わせる、悲観主義との決別だ。この曲がアルバムのクライマックスなのは、CB$ (東金B¥PASS のふたりが所属するコレクティヴ。「田舎最高」を掲げる)の発起人たるラッパー MIKRIS をフィーチャーしているからというだけではない。プロデューサーには RAMZA が起用されている。彼は Campanella などのトラックを手がける名古屋の俊英で、通常ヒップホップとは異なる場所にあると思われているアイディアを持ちこむ才に長けた、個人的にもイチオシのビートメイカーだ。ここでは sostone と共同で、パーカッションの鳴りが独特の音響をつくりあげている。

 ジャジーなサンプルがシネマティックな雰囲気を醸す “Empty cans” を筆頭に、どの曲も基本的にはワン・ループで、分類するならブーンバップということになるだろう。リリックは一見コラージュ風で抽象的だが、ストーリーがあるように感じられなくもない。いずれにせよ、ハスリングやブリンブリンの類からは距離をとった詩作だ。
 これまた催眠的な反復が印象的な “Innocense” では「田舎の野良犬は肝が座ってる」というパンチラインが繰り出される。どこまでも広がる道路の街をホームとする、彼らの本質が凝縮された一節だ。すなわち、 資本力のあるメジャーの業界戦略とも、顔の見えないSNS上でのウケ狙いとも、あるいは素朴なヤンキー賛美とも異なる、地に足のついたサウンドのみが持つことを許される強度が、東金B¥PASS の音楽には具わっているということ。

小林拓音