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Flying Lotus

Flying Lotus

Cosmogramma

Warp/Beat

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磯部 涼   Jun 28,2010 UP
E王

 やはり、アニマル・コレクティヴの『Merriweather Post Pavilion』がティッピング・ポイントということになるのだろうか、ここ数年、USインディ・ロックはすっかりサイケデリックづいていて、今年に入ってからも、MGMT『Congratulations』のビッグ・ヒットを筆頭に、ザ・ウッズ主宰〈Woodsist Records〉周辺のローファイ・リヴァイヴァルや、ザ・フレーミング・リップスとスターデス・アンド・ホワイト・ドワーフスによる、そのものズバリな『The Dark Side of The Moon』のカヴァー・アルバム等、ますます勢いを増している。しかし、それらの音がオリジナル・サマー・オブ・ラヴ世代と趣を異にしているのは、その深いディレイが、現実に対してかけられるのではなく、自分たち自身に対してかけられているというか、実に現実逃避的で、しかし、内省的というよりは、そう、母体回帰的な響きを持っているということだ。そこには、バラク・オバマでさえ焼け石に水だった政治への圧倒的な不信感が表れているのだろうが、彼らが現代のヒッピーだったとして、Pファンクやスライ&ザ・ファミリー・ストーンといったブラック・サイケデリアの役割を反転させつつ担っているのが、キッド・カディの『Man on The Moon』であり、トロ・イ・モワの『Causers of This』であり、この、フライング・ロータスの『コスモグランマ』だ。何しろ、母体回帰的という点で言うならば、スティーヴン・エリソンは本作を、母の死から受けた精神的なショックを芸術的に昇華するため、ジメチルトリプタミンでファックト・アップしながらつくったという。これ以上の例があるだろうか。

 あるいは、本作のタイトルである、ギリシャ語で"文字"を意味する"gramma"と、やはりギリシャ語で"秩序"や"美"を意味する"kosomo"より派生した"cosmo"を合わせた造語を下に、母体を、スター・チャイルドを包み込む宇宙と読み解けば、自身の生まれた年を掲げた06年の『1983』から、自身の生まれ育った街を掲げた08年の『Los Angeles』、そして、本作へという飛躍は、彼が敬愛するMC、NASの初期三作のジャケットにおける三段活用(少年→青年→ツタンカーメン)を思わせるし、つまり、この26歳のトラックメーカーは、サン・ラにはじまり、ジェフ・ミルズを経由して脈々と続くアフロ・フューチャリズムーーその世界認識では、ホーム・タウンと、宇宙として象徴化されたアフリカ大陸という失われた故郷が、媒介なしに繋がっているーーの歴史に名を連ねることになったのだ。または、"空飛ぶ睡蓮"というアーティスト・ネームがすでに予告していたように、彼の身体の中に受け継がれていたジョン・コルトレーンとアリス・コルトレーンのスピリチュアリズムが、いよいよ花開き、空へと舞い上がったのだと。

 00年代版『エンドトロデューシング...』として多くのフォロワーを生んだ前作の、そのリミックスを纏めた『LA CD』は、言わばLAを中心とした新たなシーンの見取り図だった。しかし、本作で、故郷を背に、宇宙へと旅立ってしまったフライング・ロータスは、フォーマット化されたグリッチ・ホップなど見向きもせず、早くも新たな領域に踏み込んでいる。ただし、かつて、音楽的な成長を求めて、同じ様にスピリチュアル・ジャズを模倣しようとしたものの、イージー・リスニングに成り下がってしまった所謂クラブ・ジャズやいち部のドラムンベースの轍を踏んでいないのは、生演奏を意欲的に取り入れつつも、全体の軸となっているのが、初期のジャングルを連想させる、チープで高速な、奇妙極まりない打ち込みのビートであるというところが大きいだろう。そんなハリボテ感は、一見、サイケデリックを演出する上では邪魔になっているように思えて、サーラーとスーサイダル・テンデンシーズという、LAが生んだ両極端なふたつのバンドに参加するスティーブ"サンダーキャット"ブラナーの蛇のように撓うベース・ラインや、自らの手による狼のように唸るサイン波ベースと絡み合いながら、深いエフェクトのブラックホールへと吸い込まれて行く時、えも言われぬトリップを生む。実際、サイケデリックを体験したことある人ならば、それが、子供騙しと深遠さが共存する感覚であることをよく知っているはずだ。その試みは、スクエアプッシャーの『Feed Me Weird Things』の時期や、我が国の誇るべきアンダーグラウンド・ダンス・ミュージック・シーンを引き合いに出せば、DJ Shhhという注目すべき才人とリンクしているようにも感じられる。あるいは、『鉄男』のヴィジュアルが浮かぶ、鋼鉄がグニャグニャと変化していくかのごとく、ヘヴィなのに軽やかなリズム・アプローチは、グッチ・メインの『The State vs. Radric Davis』をリキッドでヒタヒタにしたようにも。つまり、この、馬鹿馬鹿しくも崇高なアルバムは、伝統的であると同時に実験的であり、すでにグリッチ・ホップという文脈で語ることはできないどころか、同時代のサイケデリック・ミュージックの中でも頭ひとつ抜きん出ているのだ。政治性の欠落という点ではご他聞に漏れないが、いや、それこそが現代的なのだし、この空飛ぶレコードは、あなたをお望み通り、高く、遠く、そして奇妙な場所へと連れ去ってくれることだろう。

磯部 涼