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Tamaryn

Tamaryn

Waves

Mexican Summer

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橋元優歩   Dec 08,2010 UP

 タイトル『ザ・ウェイヴス』に対してジャケットの写真は切り立つ石山の斜面。厳しい自然による造形は、石の表面をどことなく波打たせ、海面のように見せている。左隅の方にたたずむひとりの女性が、タマリンだ。
 場違いに黒くゴシックな装い。細い肢体。ミステリアスな景観とよく響きあっている。5曲目の"サンドストーン"を聴くと、私にはこの風景がありありと思い浮かべられる。ちらちらと輝くギター・リフはさしずめ上空の気流。彼女は風を待っている。それに乗って一気に上昇しようと思っている。というのは完全に妄想だが、そう外れたイメージでもないだろう。鈴とタムが遠くから迫り、ベースが呼応して唸りはじめる。そしてやや低めのウィスパー・ヴォイスがワン・コーラスを歌い終わると、力強いタムとともにワン・ストロークの大きな風が巻き起こるのだ。目の眩むようなフィードバック・ノイズ。音像としてはマイ・ブラッディ・ヴァレンタインに近い正統派シューゲイズである。岩肌を駆け上がってくる風に、タマリンは黒鳥のように飛び乗る。
 こうしたストレートなシューゲイズ・アクトは久々だ。見渡せば相当数存在するのだが、ネオ・シューゲイザーとかニューゲイザーなどと呼ばれ、オリジナル世代のコピー的な音が人気を博したのはもう2、3年前の話だ。その後はリヴァービーなサイケ・ポップやドリーム・ポップ全般にシューゲイズという言葉が濫用されるようになり、トレンドも全体としてはそちらに移っていった。だから後者にとっての重要レーベル〈メキシカン・サマー〉から、いまこのような音がリリースされることには不思議な気持ちを抱く。機を同じくしてノー・ジョイのフル・アルバムも出している。こちらはもう少しジャンクなサウンドだが、やはりオリジナル・シューゲイザーの面影が強い。

 タマリンはニュージーランド生まれの女性アーティストだ。2008年に自主リリースしたミニ・アルバムは翌年〈トラブルマン・アンリミテッド〉から、本作収録のシングル『マイルド・コンフュージョン』を〈トゥルー・パンサー〉から発表し、これがデビュー・フル・アルバムとなる。
 プロデューサー、コンポーザー、またギタリストとして深く関わっているレックス・ジョン・シェルバートン(ハードコア・バンド、ポートレイツ・オブ・パストやガレージ・サイケのヴュー在籍)とはニューヨークで出会い、その後レックスの活動拠点であるサンフランシスコへと移っている。彼の音楽性が本作の基調となっているとみて間違いなさそうだ。デビュー・シングルではややゴシック・サイケな音が聴かれるし、好きなアーティストとしてもキュアーやエコー・アンド・ザ・バニーメンを挙げている。だが、タマリンのイノセンスと倦怠が入り混じるヴォーカルはシューゲイズなプロダクションと相性が良い。冒頭の"ザ・ウェイヴス"や終曲"マイルド・コンフュージョン"などは、"サンドストーン"同様に大気の流れや風といった、大きな空間的広がりを感じさせる。コーラスとリヴァーブをきかせたベースの存在感、ドラマチックで演出的なギター、スネアも印象的だが、よく整理がついていて妙にすっきりと聴くことができる。このあたりのレックスの手腕が、立ち姿からして魅惑的なタマリンという存在を本当によく引き立てている。
 暗く拒絶的な音ではない。"コアーズ・オブ・ウインター"や"ドーニング"などはジーザス・アンド・メリー・チェインに近く、温もりのあるノイズが聴こえてくる。冬の寒い街頭で白くくもる窓、そのなかのほっとするような温度がしのばれる。人の街に落ちてきて、また風を待って飛び上がる。ストーリーや映像をたっぷりと想像させる、美しいドリーミー・シューゲイズだ。

 それにしても〈メキシカン・サマー〉には、サイケ/ドリーミー/アシッドというテーマとともに、女性ヴォーカルへの審美的なこだわりが感じられる。リンダ・パーハックスの再発にもにじみ出ているが、女性ヴォーカルにある種の超俗性を求めるているように見える。透明感はあっても、純真無垢、天真爛漫であってはならない、この世への隔絶感や忌避の感覚を重視しているようだ。

橋元優歩