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Juan Atkins & Moritz von Oswald

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Moritz von Oswald Trio

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野田 努   Oct 02,2013 UP

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 お店でCDで買おうとしたら、「何でアナログ盤じゃないんですか」と、先日デトロイトに行って来たmeiさんに「ダメでしょう、そんなじゃあ」と、厳しい口調で言われたが、彼女の突っ込みは一理ある。ダブプレート&マスタリングは、いまや世界的にもっとも優れたカッティング技術を保有している。どこにでもあるアナログ盤ではない。アートワークも渋いしな。
 が、結果的に自分はCDで良かった。夏前のリリースだから3か月遅れのレヴューになるが、夏のあいだ僕はこの繰り返しの音楽を繰り返し聴いた。CDは再生が楽だからという怠惰な理由も否めないのだが、繰り返し聴ける新譜に出会えることは素晴らしい。
 20年前からのリスナー諸氏と同様、僕も20年前の、ベルリンとデトロイトのふたりの巨匠(+トーマス・フェルマン)が作り、同じくベルリンの〈トレゾア〉からリリースされた『ジャズ・イズ・ア・ティーチャー』を聴き返した。『ボーダーランド』とどちらが好きかと問われれば、迷うことなく『ジャズ・イズ・ア・ティーチャー』を挙げるが、『ジャズ・イズ・ア・ティーチャー』がホアン・アトキンスにとってのベストかと問われればそうは思わないと答える。それでは『ジャズ・イズ・ア・ティーチャー』が凡作かと問われれば、違うと即答する。そして、『ボーダーランド』が凡作かと訊かれれば、いや、これもやはり良い作品だと言う。
 『ジャズ・イズ・ア・ティーチャー』には、テクノは次にどこに進めばいいのかという議論における明快な回答があった。「ジャズ」とはメタファーである。それは、快楽主義に支配された当時としては、実に思い切った、時代の大きな流れに逆らうメタファーとして機能した。その後に続いたのが"ハイテック・ジャズ"で、つまり『ジャズ・イズ・ア・ティーチャー』は、気持ち良いこと(4/4キックドラム)以上に大切なことがこの世にはあるんだという声明でもあった。

 ところが、『ボーダーランド』は気持ち良すぎる。アルバムにおける最高のトラックは"Electric Garden"だが、コズミックな質感の、流れるように滑らかなシンセのリフは、間違いなくホアン・アトキンスによるものだろうし、空間に広がる音響とダブのベースラインはモーリッツ・フォン・オズワルドによるものだろう。リズムはシンプルで、『ジャズ・イズ・ア・ティーチャー』時代に比べてずいぶんと大人しい。シャカシャカ鳴っていたハットやスネアはなりを潜め、柔らかい音色のメトロノーミックなリズムが淡々と刻まれている。20年分のソフィスティケイション。彼らも僕も20年、歳を重ねたのである。
 "Electric Dub"も"Footprints"も、リズミックで、控え目ながらキラーな低周波が唸っているが、やかましさというものがない。音量をいくら上げても、Kポップのようにうるさくない。押しつけがましさがない。グルーヴはあっても、アゲアゲにならない。そこが、20年分の人生がもたらすソフィスティケイションの素晴らしさだ。"Mars Garden"のリズムは、ホアン・アトキンスだろう。いわゆるエレクトロ・ファンクのリズムだ。が、この響きはマントロニクスよりもイーノの側に近い。聴いているとうっかり寝てしまう。そして起きたら、今度はモーリッツ・フォン・オズワルド・トリオの新作がロンドンの〈オネスト・ジョンズ〉からリリースされていた。この12インチにもホアン・アトキンスは参加している。『ボーダーランド』のいわばダブ・ヴァージョンで、その続編以外の何ものでもない。

 竹内正太郎がハウスで踊っているのは、僕にとってグッド・ニュースだ。あの、北関東の堅物が......、そういえば先日は僕も〈プラネット・E〉から出たテレンス・パーカーの12インチ(しかもリミックスはルイ・ヴェガ)を「何も変わってないナー」と思いながら買ってしまった。「ハウス来てんナー」と思いながら。とはいえ、20年以上も前から僕はUKのメインストリームのダンス・カルチャーがどうにも口に合わない。80年代のUKでは「あー、気持ちいい、やっぱ気持ちいいのが最高だよね~」と踊った子供たちのことをサッチャー・チルドレンと呼んだものだが、少なからず自分にもそういうところがあったので、竹内正太郎をまったく責められないよな......。

野田 努