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Album Reviews

KOHH

Hip Hop

KOHH

YELLOW T△PE 3

gunsmith production

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泉智   Oct 06,2015 UP
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E王

 KOHHのミックステープ・シリーズ『YELLOW T△PE』のパート3。すべての曲が、瞬間ごとに更新されていく、からっからに乾いた初期衝動の連続。聴きながら何度も爆笑した。実際、これを最初から最後まで吹き出さずに聴き終える人って、たぶんいないんじゃないか。
 アメリカ滞在を経たKOHHのボキャブラリはますます直感的。谷川俊太郎とジョン・ライドンのマッシュアップじみた、ストレートな言語感覚だ。日々のフラストレーションも幸福感も、夏休みの絵日記みたいな素直さで次々に殴り描きされていく。MOMAの現代アートとコンビニの前にたむろするヤンキーの落書きが並べられ、ジョアン・ミロの絵画と『世紀末リーダー伝たけし』が楽しげに衝突し、パリのシャトレ座とソウルの路上、ハーレムの喧噪とサウス・シカゴのビル風がグチャグチャに混ざりあって、北区王子の団地に吸い込まれる。アメリカ発のグローバル・カルチャーのカンバスに、日本の土着的な祝祭感覚がカラフルに塗りたくられ、絵の具まみれのKOHHが大きな笑い声を響かせている。
 ポップとアヴァンギャルドのめまぐるしいミックス。即興的なひらめきをフリースタイルでパックした、異文化ブリコラージュのドキュメント。才能あるアーティストが本気で遊んでいる現場を目撃することほど、感動的でスリリングなことはない。これはマジでとんでもない実験作だ。

 本作でも1曲目にぶちこまれた“IT G MA” が、いまのKOHHを取り巻くすべての状況の発端だ。今年の元旦、明らかにUSのマーケットを意識して無料配信で放たれたこの曲は、日韓の新鋭アーティスト5人が、とくに平和や国際親善を歌うわけでもなく、ギンギンに尖ったトラックのうえそれぞれの母国語で暴れまくる怪作だ。歴史問題をめぐって衝突の絶えない両国のアーティストの共作タイトルが「イッチマ(韓国語:忘れるな)」。憶測を呼ぶタイトルとは裏腹に、金やドラッグ、セルフ・ボースティングといったラップ・クリシェがえんえんと続いたかと思えば、最後に登場するKOHHはラスト・ヴァースで「過去の話すんのダサいから昔のこと忘れちゃったらいい」とキックする。さらにはその曲がUSで「エイジアン・トラップ」として爆発的にヒットし、おそらくは韓国語と日本語の区別もつかないであろうアメリカのオーディエンスがクラブで「IT G MA!!」と合唱するにいたっては……これだけでも文化現象として完全にイカれてる。それに本作でも告白されるKOHHの出自も考えあわせれば、どこか感慨深いことでもある。
 そして、なによりサイコーなのは、やってる本人たちがその錯綜する文化的コンテクストにあまり自覚的でないところだ。ようは当日その場に集まったメンツで、本能のおもむくままにクールであろうとした結果が、この怪物的なオリジナリティだったということ。コデインやグリルズといった現在のUSラップの様式美を換骨奪胎して、アジア人の身体性を動物的にデフォルメする表現は、日本や韓国はもちろん、アメリカのシーンにとっても新鮮だったようだ。

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 とにかくクールでフレッシュなものをつくる、というシンプルな創作本能は、このミクステ全体にもつらぬかれている。収録曲されたほとんどは、この1年でリリースされた海外勢とのものを含む客演、そして半分ほどはビートジャックのチューン。ミックステープということで、やはり目を引くのは後者だ。
 目立つものをさらっておくと、DRAKEの”6 GOD”にのせて日常のストレスをアートに昇華させる”全部余裕”、FETTY WAPの”TRAP QUEEN”を若干むりやりぎみに日本語に置き換えた”周り全部がいい”、 KANYE WESTの“ALL DAY”の直球カヴァー”毎日だな”、””AYO”のCHRIS BROWNのコーラスとTYGAのラップを一人二役でこなす”IIKO”、BIG SEANの”I DON’T FUCK WITH YOU”のフロウを忠実になぞる”どうでもいい”あたりか。どれもオリジナリティ幻想を吹き飛ばす、徹底したフロウのトレースぶりだ。
 こうしたフロウの模倣は、これまでの『YELLOW T△PE』シリーズでも試みられてきた手法で、リリックの内容も、原曲のキーワードが絶妙なズレとともに踏襲されている。ビートジャックそのものはミクステ・カルチャーとしてはとくに珍しくないものの、KOHHの場合、それが異言語間の翻訳として表現されるところに強みがある。USのシーンから盗みとられた最新のスタイルが、逐一日本語に置き換えられることで、日本語によるラップの文法そのものが書き換えられ、やがて独自のフロウが生み出されていく。同時に、英語と微妙に音を重ねられた異言語のライミングは、日本語をまったく理解しない海外のリスナーにも、新鮮な驚きをもたらすだろう。結果としてこのフロウをめぐる冒険は、単なるトレンドの翻訳を超えた、重要な音楽的実験になっている。そのアウトプットは、最終曲“MOMA”などのオリジナル曲の異彩のクオリティをみても明らかだ。

 コピーライトをガン無視して大胆不敵に他人のアートを奪い尽くし、カスタムした盗品を売りさばいて金や名声を手に入れる。その行為が、創作上の突然変異を生み、音楽的なイノベーションにさえつながる。マルセル・デュシャンがモナリザのコピーにヒゲを描き足し、自分の作品として発表したのと同じメンタリティで、KOHHはこのワールドワイドな文化的侵犯行為を楽しんでいる。ネット社会がどうとか複製技術がどうとか議論したがる賢しらな連中を置き去りにする、やったもの勝ちの美学。『YELLOW T△PE』シリーズは、形態としては国内流通のフィジカルCDだとしても、実質的にはUSを中心としたグローバルなミクステ・シーンの勢力圏で製作されている。ラフなミックスと音質は、この音楽が密輸入品であることの証だ。ファーガソンの暴動でドサクサにまぎれて商品を盗み出していく暴徒にも似た野蛮さが、このミクステにはみなぎっている。

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 著作権の冒涜、アートの略奪、創造的な万引……どう呼んでもいいけれど、こうした音楽的な海賊行為は、ミックステープというメディアの本質でもある。1980年代にDJの小遣い稼ぎ的な副業として隆盛したミクステ・カルチャーは、いつしかラッパーやDJたちの重要なプロモーションのインフラに変化し、2000年代以降には、インターネットでの無料配信を基本とする壮大な音楽の実験場となった。カセット・テープから電子データにかたちを変えても、ミックステープは著作権にかんしてグレーゾーンを歩むことで、有名無名のアーティストの創造性の源泉であり続けている。
 現在プラットホームとなっているいくつかのUSのサイトには、すでに金やキャリアを手にしたビッグ・ネームからまったくの新人によるものまで、無数の作品が毎日のように無料でアップロードされる。その状況がアーティストにとって天国か地獄かはわからないが、適者生存(SUVIVAL OF THE FITTEST)を信条とするラッパーたちがやるべきことははっきりしている。過酷な生存競争であり、共喰いだ。ミクステというメディアはいまや、ラップのクリエーション面でのイノベーションの最前線となっていると言っても過言ではない。
 興味深いのは、こうしたインターネット上の開放的なバトルフィールドの出現が、これまでアメリカの巨大音楽産業を中心に動いてきたラップ・ゲームを、より脱中心的で、グローバルなものへと変質させつつあることだ。“IT G MA”のヒットをきっかけにUSシーンに攻勢をかけているKIETH APEなどの韓国勢が典型だけれど、日本や韓国といったアジア地域は、グローバルなミクステ・シーンにおいて、魅力的なフロンティアとして浮上している。
 いまや非英語圏出身のラッパーにとって、母国語によるラップはハンディキャップではない。というか本来、地元のチンピラが目の前の相手をぶっ飛ばす/自分たちがぶっ飛ぶためにヤバい音を鳴らしたら、それが勢いあまって地球の裏側まで届いてしまった、っていうのがこのカルチャーの醍醐味だったわけで、JAY-ZだってA$APだってケンドリックだって、ようはそういうことだ。よそゆきの不自然なアティチュードでつくられたラップなんてなんの魅力もない。すくなくともラップ/ヒップホップにかんしては、非英語圏のアーティストが全編英語詞の作品でアメリカのマーケットに乗り込む時代は終わりつつある。

 たとえば、限定で先行シングル・カットされた、オール日本語の“結局地元”。本人たちがどこまで計算しているのかは不明だけれど、そのミュージック・ヴィデオで、東京郊外北区王子のモノクロの風景が、“PARIS”の夜のパリの路上と接続されていることは、とても象徴的だ。仕事帰りの普段着、スカジャンと和彫りの刺青、エミリンや違法薬物の影……。商品としての洗練からはほど遠い、こうしたアンダークラス的な記号は、いったんグローバルなコンテクストに置かれたとたん、アジア産のラップ/ヒップホップならではの、エキゾティックな魅力を発揮する。サウス・シカゴの鬼才DJ YOUNG CHOPのビートでハーレムのJ $TASHとマイクリレーする“HOOD RICH”も同様だが、やはりこの日本版のゲットー・ファビュラス的なリアリティは、巨大な消費空間としての渋谷や六本木といった場所からはけして生まれないだろう。
 どうせ広告代理店あがりのどっかのインテリが、ひと昔前なら「下流」だとか、最近なら「マイルド・ヤンキー」だとか、ガラパゴス的なマーケティング用語で解説してわかったつもりになるんだろう。そんなものまったく無意味だ。ここには、ケニー・ディクソン・ジュニアが「デトロイトの毎日をもがくリアルなニガーはただ生き、そして食って、息をしている」と呟くときと同じなにかが、たしかに存在している。
 思えば、シリーズ前作のラスト・ナンバーでは、凍てつくようなスクリュード・ヴォイスで母親の生活保護と薬物中毒がカミング・アウトされ、KOHHはそこで「LIFE IS A BITCH/I DON’T GIVE A SHIT /哀しくないでしょ?/普通の話」そうラップしていた。そのKOHHが、本作では「人生最高」と何度となく繰り返している。絶えまなくスタイルを変化させ続けるKOHHに核心があるとすれば、生まれ育った北区王子に対する愛情なのだ。へたをすれば浪花節にもなりかねないその感動や感傷を、きわどいアート表現として提示できるところに、KOHHのアーティストとしての非凡なセンスはある。

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 すぐれたポップはつねに、すぐれたアヴァンギャルドでもある。先鋭的なポップ・ミュージックは、社会に共有されたクールさのハードルを軽々と飛び越えるだけでなく、クールさの基準そのものを前衛的に更新していく。「ナシをアリにする」の言葉通り、破天荒な実験が繰り広げられる本作は、標準化されたポップに飼い馴らされた耳にノイズを呼びこみ、新たな地平を切りひらくものだ。その実験の成果は、すでに告知も出ているサード・アルバムに結実しているんだろう。
 とりあえずこれは、世界中から密輸入したパーツで組み立てられた、現時点での日本製の最高級品。『L.H.O.O.Q.』の刺青をいれた芸術的な泥棒が、真似するんじゃなくて奪いとってきた戦利品だ。オリンピック・エンブレムの盗作問題でお偉いさんがたが右往左往するのを尻目に、21世紀平成日本のアートの最先端は、今日も路上でふてぶてしく危険な遊びを楽しんでいる。アートの略奪。文化の簒奪。リーガルとイリーガルのはざまで、共喰いを繰り返して突然変異するハイブリッド。指をくわえて傍観している場合じゃない。いますぐこの略奪に参加しろ。

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