ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. 七尾旅人 - Stray Dogs (review)
  2. Georgia Anne Muldrow - Overload (review)
  3. 山下敦弘監督『ハード・コア』 - (review)
  4. interview with Colleen 炎、わたしの愛、フリーケンシー (interviews)
  5. Columns アンダーグラウンド・レイヴの生き証人、Jeff23 (SP23 ex.Spiral Tribe) (columns)
  6. Felicia Atkinson/Jefre Cantu-Ledesma - Limpid As The Solitudes (review)
  7. tamao ninomiya - 忘れた頃に手紙をよこさないで(tamao ninomiya works) (review)
  8. Neneh Cherry - Broken Politics (review)
  9. Norhern Soul ──『ノーザン・ソウル』、この最高な映画を見たらスリムのデニムを履けなくなる (news)
  10. Irmin Schmidt - 5つのピアノ作品集 (review)
  11. Blood Orange - Negro Swan (review)
  12. Northan Soul ──ついに『ノーザン・ソウル』の一般上映が決定です! (news)
  13. Makaya McCraven - Universal Beings / Makaya McCraven - Where We Come From (Chicago × London Mixtape) (review)
  14. interview with GillesPeterson UKジャズ宣言 (interviews)
  15. 七尾旅人 - @東京・キネマ倶楽部 (review)
  16. Yves Tumor ──イヴ・トゥモアが来日 (news)
  17. Panorama Barの初代レジデント“Cassy“ が年末の日本を襲撃 (news)
  18. 日本のテクノ・アンダーグラウンドにおける重要DJのひとり、KEIHINが〈Prowler〉レーベルをスタート (news)
  19. 『別冊ele-king フライング・ロータスとLAビートの革命』 ──刊行のお知らせ (news)
  20. Columns 坂本龍一の『BTTB』をいま聴いて、思うこと (columns)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Yussef Kamaal- Black Focus

Yussef Kamaal

Club JazzJazz

Yussef Kamaal

Black Focus

Brownswood Recordings/ビート

Tower Amazon

小川充   Nov 30,2016 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加

 ユセフ・カマールというイスラム系の名前に、アルバム・ジャケットもアラビア文字を使ったものなので、ジャズ・ファンの中にはブラック・ムスリム系のスピリチュアル・ジャズを連想する人も多いだろう。恐らくそうしたイメージは間違っていないし、このユニットは意図的にそうした方向性を打ち出している。ただし、ユセフ・カマールは1960年代後半から1970年代前半のアメリカのスピリチュアル・ジャズではなく、現在のイギリスの若手ジャズ・ユニットである。だから、カマシ・ワシントンのようなロサンゼルス~米国西海岸スピリチュアル・ジャズの伝統を引き継ぐ存在ではなく、クラブ・サウンドとしてのジャズが根付くUKらしいユニットである。彼らが提示するスピリチュアルなフィーリングやブラックネスも、やはりクラブ・ミュージックとしてのフィルターを介したものであり、純粋な意味でのスピリチュアル・ジャズやフリー・ジャズとは少々異なる。むしろフュージョンやジャズ・ファンクの部類に属するもので、アフリカ色の強かった初期ハービー・ハンコックやアース・ウィンド&ファイアから、1970年代中盤のゲイリー・バーツやカルロス・ガーネット、そしてロニー・リストン・スミスやロイ・エアーズなどに繋がるものだ。

 ユセフ・カマールはユセフ・デイズとカマール・ウィリアムスによるユニットで、ユセフはアーマッド、カリームら兄弟とともにユナイテッド・ヴァイブレーションズというバンドで活動している。ドラマーの彼はほかにもルビー・ラシュトンというユニットにも参加しているが、そのどれもがブラックネスやアフリカニズムに富むジャズ・サウンドを作り出している。一方、カマールは本名がヘンリー・ウーという中国系プロデューサー/鍵盤奏者。ルビー・ラシュトンのリーダーであるテンダーロニアスの主宰する〈22a〉ファミリーのひとりで、Wu15(ウー15)というユニットで〈エグロ〉からEPを出し、そのサブ・レーベルの〈ホー・テップ〉からも作品リリースがある。それらの作品はジャズ・ファンク~フュージョンとディープ・ハウスやビートダウンの融合によるエレクトロニック・サウンドで、セオ・パリッシュからフローティング・ポインツに繋がるような作風だった。彼らはボイラー・ルームでのワンナイト・セッションで意気投合し、本格的なユニットとして活動を開始した。アルバム制作に関しては、アデルのバック・バンド・メンバーでもあるベーシストのトム・ドライスラーをサポートに招き、トリオ態勢で楽曲制作・演奏をおこなっている(楽曲によってトランペットなどのホーンも交えている)。

 『ブラック・フォーカス』というタイトルが示すとおり、アルバム全体は1970年代のアフロ・アメリカン・ミュージシャンが志向したトーンの影響を受けている。特にハービー・ハンコックやロニー・リストン・スミスなどの方向性に近く、土着的でポリリズミックなアフロ・ジャズというより、スペイシーでミスティックな質感のもの。表題曲でのユセフのドラムはアフリカ的なモチーフに富むが、カマールのフェンダー・ローズは極めてクールなもの。彼の鍵盤がアルバム全体にコズミックなフィーリングをもたらしている。“ストリングス・オブ・ライト”は、かつてディーゴやIGカルチャーらがやっていたウェスト・ロンドンのブロークンビーツ・サウンドに近い。ユセフのドラムは不定形ながらソリッドでグルーヴに富むビートを作り出し、その上で浮遊するカマールのシンセがトリップへと誘う。“リメンバランス”は〈CTI〉時代のボブ・ジェームス作品あたりに近い質感で、彼がプロデュースしたアイドリス・ムハマッドの“ピース・オブ・マインド”を想起させる導入部だ。都会的でモダンな方向性を打ち出すことにより、黒人のコズミックなフィーリングやブラックネスを体現したのが1970年代のジャズ・ファンクやエレクトリック・ジャズだったが、それと同じベクトルを持つ曲である。“ヨー・シャヴェズ”は柔らかな浮遊感に包まれ、カマールの持つアンビエントな側面がよく表われている。この曲から“アイラ”、“O.G.”へと繋がる展開は、フローティング・ポインツの傑作『エレーニア』にも匹敵するだろう。

 そして、カマールのダンス・ミュージック・プロデューサーとしての才能は“ロウライダー”に見てとることができる。1970年代後半のロイ・エアーズやジェームズ・メイソン、そのメイソンや川崎燎も参加したタリカ・ブルーを想起させるブギー・フュージョン的なリズムを持ち、それと同時に前述のウェスト・ロンドン・サウンドやその当時2000年前後のクラブ・ジャズの流れを汲むものと言えよう。“ジョイント17”はクールなジャズ・ファンクを基調としつつ、ユセフのドラム、カマールのキーボードがインプロヴィゼイション感覚に富むプレイを繰り広げ、最後はボイラー・ルームでのギグにポエトリー・リーディングを交えたような展開で締め括る。アルバム全体のコンセプトやイメージ構築、流れや展開の持っていき方、各楽曲のモチーフの集め方など、ジャズ・ミュージシャンではなくクラブ・サウンドのプロデューサー的な編集感覚で作られたアルバムであり、そうしたエクレクティックな作業はUKクラブ・シーンならではのものだ。

小川充