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Arthur Verocai

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Arthur Verocai

No Voo Do Urubu

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小川充   Feb 09,2017 UP

 2016年の末、アジムスが5年ぶりの新作『フェニックス』で復活した。そして、同じくブラジルの伝説的アーティストであるアルトゥール・ヴェロカイも、新作『ノー・ヴー・ドゥ・ウルブ』を発表した。2016年にアルトゥール・ヴェロカイはジェイムスズーの『フール』にゲスト参加し、また2014年にはUKの〈ファー・アウト・レコーディングス〉のディスコ・プロジェクトであるファー・アウト・モンスター・ディスコ・オーケストラにフィーチャーされるなど、ところどころで彼の名前は目にしていた。しかし、自身の作品となると、2010年にUSの〈モチーラ〉からリリースされた『タイムレス』(録音は2009年)より7年ぶりのレコーディングである。ロサンゼルス録音の『タイムレス』は、アジムスのメンバーやアイアートなどブラジルの大物ミュージシャンから、ミゲル・アトウッド・ファーガソンまで幅広い面々が参加したライヴ・レコーディングだが、純粋な新曲に取り組んだ内容ではなかった。よってさらに遡れば、2007年に〈ファー・アウト〉から発表した『アンコール』以来の待望のスタジオ録音盤、およびブラジル録音となる。

 全てブラジル人のミュージシャンによるレコーディングで、メンバーも充実している。アジムスからアレックス・マリェイロスとイヴァン・コンチが参加するほか、ロベルチーニョ・シルヴァやダニーロ・カイミなどミナス出身の名ミュージシャンたち、映画俳優としても活躍するセウ・ジョルジらが集まっている。ちなみに、アジムスは『アンコール』でも演奏していたヴェロカイの盟友的存在であり、ロベルチーニョ・シルヴァも1972年のファースト・アルバム『アルトゥール・ヴェロカイ』と『アンコール』の参加メンバーである。従って『ノー・ヴー・ドゥ・ウルブ』は『アンコール』から繋がるところもあり、その『アンコール』が『アルトゥール・ヴェロカイ』の世界を2000年代に発展させた部分を持っていたので、この3作品にはどこかで通底するところがあるのではないだろうか。

 ヴェロカイの音楽的才能は、作曲家およびアレンジャーという部分に集約されるだろう。特にオーケストラの指揮・編曲の手腕が素晴らしく、TVや映画音楽から歌手やさまざまなアーティストの作品を手掛けた。イヴァン・リンス、セリア、マルコス・ヴァーリ、エリス・レジーナ、ガル・コスタ、アナマリア&マウリチオ、キンテート・テルヌラなどがその代表で、オーソドックスなブラジル音楽だけでなく、サイケ・ロックやアシッド・フォーク系のものまで幅広く手掛けた。フォークロアなアフロ・サンバに、ジャズ、ソウル、ファンク、ロック、ポップスなど欧米音楽の影響を取り入れた『アルトゥール・ヴェロカイ』は、ジェイムスズーやミゲル・アトウッド・ファーガソンがそうであるように、現代の多くのアーティストに影響を与え続けている。さまざまな音楽性を融合し、美しくもどこか屈折した感覚、グルーヴィーさとプログレッシヴさが入り混じった独特の音像、サイケデリックでスペイシーな空気を生み出すそのサウンドは、ヴェロカイのアレンジャーとしての才能があってこその産物なのである。

 『ノー・ヴー・ドゥ・ウルブ』を見ると、表題曲はまず秀麗なクラシック風のオーケストレーションに始まり、セウ・ジョルジの歌を女性コーラス隊が盛り上げていく。映画音楽などを手掛けてきたヴェロカイのコンサート・マスターとしての本領発揮と言える作品だろう。トランペット・ソロがフィーチャーされるインストの“スネーク・アイズ”では、ジャズ・アレンジャーとしてのヴェロカイの魅力が生かされている。例えるなら、〈CTI〉でデオダートがアレンジしたアントニオ・カルロス・ジョビンの『ストーン・フラワー』のようだ。ダニーロ・カイミが歌う“オー・ジュリアナ”、自身でヴォーカルをとる“オ・テンポ・エ・オ・ヴェント”は、まどろみのようなメロディが美しいドリーミーな作品。ギターやピアノに寄り添う優美なストリングスが印象的だ。古典的なサンバのスタイルに沿った“ミーニャ・テハ・テン・パルメイラス”はルー・オリヴェイラの歌で、ブラジル音楽が古来受け継ぐ哀愁が露わになっている。そうした哀愁は「サウダージ」という言葉で表現されるが、オーセンティックなボサノヴァ・スタイルの“デサンブロシャンド”からも「サウダージ」は滲み出る。

 一方、ヴィニシウス・カントゥアリアの歌とハーモニカをフィーチャーした“ア・オウトラ”にも、別の形で「サウダージ」な感覚は流れる。サンバにメロウなブラジリアン・ソウルが結びついた“オ・タンボール”も同様で、これらは欧米のメロウ・ソウルやジャズ・ファンクとブラジル音楽の融合である。『アルトゥール・ヴェロカイ』の“プレゼンテ・グレゴ”や『アンコール』の“ビス”といった人気曲に匹敵する作品と言えるだろう。マノ・ブラウンが歌う“シガーナ”はヒップホップ的なビートを取り入れた作品で、ヴェロカイが若い世代の音楽も柔軟に取り入れている証である。“ナ・マランドラジェム”はインストのジャズ・ファンクで、クラブ・ジャズとしても秀逸なナンバー。これらを聴くと、なぜヴェロカイが現在のアーティストや若い世代のリスナーからも高い評価を受けているのか、がわかるだろう。ヴェロカイは1945年生まれなので、既に70歳を超えているが、そんな年齢を感じさせないモダンな感覚は驚くべきことである。

小川充