ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Eiko ishibashi 音をはこぶ列車/列車をはこぶ音 (interviews)
  2. Amen Dunes - Freedom (review)
  3. Jamie Isaac - (4:30) Idler (review)
  4. Jim O'Rourke - sleep like it’s winter (review)
  5. Autechre - @恵比寿 LIQUIDROOM (review)
  6. Sigur Rós - Route One (review)
  7. 食品まつり a.k.a Foodman ──ニュー・アルバム『ARU OTOKO NO DENSETSU』をリリース (news)
  8. Brandon Coleman ──ブランドン・コールマンが〈Brainfeeder〉と契約、ニュー・アルバムをリリース (news)
  9. The Sea And Cake - Any Day (review)
  10. Columns PSYCHEDELIC FLOATERS そもそも「サイケデリック・フローターズ」とはなんなのか? (columns)
  11. KANDYTOWN ──キャンディタウンがついにメジャー・デビュー (news)
  12. 編集後記 編集後記(2018年7月17日) (columns)
  13. Random Access N.Y. vol.101:USインディにおける手作りのフェスの良さ (columns)
  14. Ben Khan ──エレクトロニック・ファンクの新鋭、ベン・カーンがデビュー・アルバムをリリース (news)
  15. Brainfeeder ──〈ブレインフィーダー〉日本初のポップアップ・ショップが登場&フライング・ロータス監督映画作品が上映 (news)
  16. Derrick May デリック・メイよ、だからもう来なくても……いや来てくれてありがとう (news)
  17. interview with Jim O’Rourke 私は音楽を楽しみのために作っているわけではありません(笑) (interviews)
  18. ゲッベルスと私 - (review)
  19. Silent Poets - @渋谷WWW (review)
  20. interview with Eiko Ishibashi 音の回廊、二面の歌 (interviews)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Lea Bertucci- Metal Aether

Lea Bertucci

ExperimentalFree Improvisation

Lea Bertucci

Metal Aether

NNA Tapes

Amazon

野田努   Feb 16,2018 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加

 ここに物語はない。アルトサックスの音が静かに重なり、描かれるのは真っ白いカンバスだ。何も描かれていない真っ白いノート……いや、何も描かれていないはずがないノート。ぼくたちはもう何十年も生きてきた。何回も描き続け、何重にも塗り続けてきた。迷い、疲れ果て、なんども魂を失いそうになった。買ったばかりの画用紙のように、真っ白であるはずがない。

 昔ニューヨークには、路上で暮らす目の不自由な、そして耳が豊かなミュージシャンがいた。自らをムーンドッグと名乗ったその男は、ミニマリストたちから尊敬された真の“オルタナティヴ”、境界線上のアーティストだった。フィリップ・グラスはスティーヴ・ライヒとともにムーンドッグから影響を受けたひとりだが、1970年代にグラスの楽団でサックスを吹いていたリチャード・ランドリーという男がいる。のちにローリー・アンダーソンやトーキング・ヘッズの作品にも参加しているランドリーだが、当時は配管工をやりながら活動を続けていたそうで、ソロ作品はわずか数枚しか制作していない。そのレアな彼の代表作『Fifteen Saxophones』が数年前にNYの〈Unseen Worlds〉というレーベルから再発されている。

 NYの女性サックス奏者、リー・バートゥチのアルバム『Metal Aether(メタル・エーテル)』はランドリーのソロ作品を継承している。サックスによるドローン(持続音)という点において。
 あらゆるものが並列に出揃っている今日では、自由を求めたフリー・インプロヴィゼーションなるジャンルも、「自由を求める」というクリシェから逃れられないのかもしれないが、『メタル・エーテル』はタイトルが暗示するように、軽い。この軽さこそ、グラスやランドリーが憧れたムーンドッグの身軽さとも似ているように思える。それは何かを背負っているかのような音楽ではないし、専制的にもなり得ない、社会の垢にもまみれない。なによりも彼女の音楽は描くのではなく、描いたものを消しゴムのように消していく。
 反抗的な音楽が信じられなくなるときは誰にでもあるだろう。あるいは過剰さから遠ざかりたいとき、そして過剰さへの反動としての静けさからも遠ざかりたいとき、未来のことも過去のことも考えたくないとき、ロバート・ラウシェンバーグの「ホワイトペインティング」のような音楽=『メタル・エーテル』は必需品だ。これは、いまぼくがもっとも気に入っているアルバムである。

※それにしても、アメリカ合衆国のバーモント州バーリントンの〈NNA Tapes〉もつかみどころのないレーベルで、有名になる前の初期OPNのコラボ作品を出していたり、コ・ラやネイト・ヤングなどの作品を出していたり。ブームになるずっと前からアナログ盤/カセットテープのリリース形態にこだっていたレーベルだが、音楽的にどんな信念/コンセプトがあるのかはわからない。ポップや流行というもののいっさいに関与しないことぐらいしか。

野田努