ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Grouper - Shade (review)
  2. Interview with Phew 音が導く、まだ誰もみたことのない世界 (interviews)
  3. Saint Etienne - I've Been Trying To Tell You (review)
  4. interview with BADBADNOTGOOD (Leland Whitty) 彼らが世界から愛される理由 (interviews)
  5. interview with Parquet Courts (Andrew Savage) 都市の喧騒が聞こえる (interviews)
  6. Columns 進化するクァンティックの“ラテン” ──雑食的な魅力たっぷりの新作をめぐって (columns)
  7. Phobophobes - Modern Medicine (review)
  8. Moritz Von Oswald Trio - Dissent (review)
  9. Lucrecia Dalt & Aaron Dilloway - Lucy & Aaron (review)
  10. Autechre × Humanoid ──オウテカがヒューマノイドのレイヴ・アンセムをリミックス (news)
  11. Abstract Mindstate - Dreams Still Inspire (review)
  12. Cleo Sol - Mother (review)
  13. Dub Meeting Osaka Soundsystem Special ──大阪で大型サウンドシステムによる重量級低音ダブのイベント開催 (news)
  14. interview with Jeff Mills + Rafael Leafar 我らは駆け抜ける、ジャズとテクノの向こう側へ (interviews)
  15. Ryoji Ikeda ──東京では5年ぶりのソロ・ライヴ開催、作品「superposition」の上映もあり、さらにCDも限定リリース (news)
  16. interview with Lucy Railton 〈モダーン・ラヴ〉からデビューした革新的チェリストの現在 (interviews)
  17. Little Simz - Sometimes I Might Be Introvert (review)
  18. Marisa Anderson / William Tyler - Lost Futures (review)
  19. Pa Salieu - Send Them To Coventry (review)
  20. Tirzah - Colourgrade (review)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Hollie Cook- Vessel Of Love

Hollie Cook

Lovers RockReggae

Hollie Cook

Vessel Of Love

Merge

Tower HMV Amazon iTunes

小川充   Mar 15,2018 UP
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 サイレント・ポエツの12年ぶりの新作『ドーン』に収録された“シャイン”という曲にもフィーチャーされていたのだが、ホリー・クックの新作『ヴェッセル・オブ・ラヴ』もその少し前にリリースされた。『ドーン』は5lackやNIPPS、Daigo Sakuraiなど日本人MCやシンガーのフィーチャーされた曲が多く、かつてのポエツとは異なる面も見せていたのだが、そうした中で“シャイン”は1990年代のポエツが持っていた雰囲気に近く、ダブの影響が色濃く表われたマッシヴ・アタック的な世界でもある。同時に深く沈み込むモノトーンなサウンドが多いポエツの作品群にあって、華というか彩りを感じさせるのがホリー・クックの歌声でもある。レゲエ~ダブ・シンガー特有のフワフワした浮遊感もある。

 ホリー・クックはご存じの方も多いように、セックス・ピストルズのドラマーだったポール・クックの娘である。アリ・アップに見出されてザ・スリッツのセカンド・シンガーに抜擢され、その後2011年にソロ・デビューした。ファースト・ソロ・アルバムの『ホリー・クック』はプリンス・ファッティのプロデュースで、デニス・ボーヴェルも参加している。フィリス・ディロンやジャネット・ケイを意識したようなラヴァーズ・ロックが中心となり、可愛らしい彼女の歌声にうまくマッチした内容だった。このアルバムは2012年にリミックス・アルバムも出ていて、こちらはエイドリアン・シャーウッド張りの強烈なダブ処理が施されていた。こうしたダブ・アルバムを聴くと、ホリーの歌にはアリ・アップに通じるところがやはりあるなと感じるし、アリも参加していたニュー・エイジ・ステッパーズを彷彿とさせたりもする。その頃は、一方でサイキック・ダンスホールという実験的なガレージ・パンク~シューゲイズ・ユニットもやっていたりと、実に神出鬼没なキャラを持っている。2014年にはセカンド・アルバムの『トゥワイス』をリリース。プリンス・ファッティが引き続いてプロデュースしており、アリ・アップに捧げたその名も“アリ・アップ”を収録していた。ストリングを交えたサウンドはゴージャスになり、ピュンピュンマシーンなどエフェクトも増えて、全体的にカラフルで遊びが感じられるアルバムとなっている。メロウなラヴァーズ色の濃いものからレゲエ・ファンク的なものとヴァリエーションも豊かで、そうしたもの全てに適応するホリーの歌の本領発揮されたものだった。

 その後、ロンドンでのライヴ・アルバムをリリースしたり、クァンティックのフラワリング・インフェルノに客演したりしていたが、『トゥワイス』から4年ぶりとなる通算3枚目のオリジナル・スタジオ・アルバム『ヴェッセル・オブ・ラヴ』がリリースされた。今までの〈ミスター・ボンゴ〉からUSの〈マージ〉に移籍しているが、録音そのものはロンドンと変わっていない(一部スペイン録音もある)。今回のプロデュースはキリング・ジョークのベーシストで、ジ・オーブにも参加したユース。そして、ミュージシャンではジャー・ウォブル、キース・レヴィンという元パブリック・イメージ・リミテッドの面々から、ジ・オーブのアレックス・パターソンまで参加している。ユースはジ・オーブでリー・スクラッチ・ペリーと組んだ過激なダブ・アルバムを出したこともあり、また近年はジャー・ウォブルらと共にエスニック&トライバルなダブ・トリーズというプロジェクトにも参加していた。『ヴェッセル・オブ・ラヴ』のミュージシャンの顔ぶれはそのダブ・トゥリーズと結構被っており、エンジニアのマイケル・レンドールも共通する。しかしながら、今回のプロダクションはとてもポップな仕上がりで、実験的な部分を抑えたものとなっている。あくまでホリーの歌が主役で、路線としては『トゥワイス』をより洗練させ、全体的にはレゲエ・ディスコの“トゥゲザー”やレゲエ・ファンク的な“エンジェル・ファイア”“ゴーストリー・フェイディング”あたりに示されるように、ダンス色がより強くなった印象だ。ステッパーズ・ビートの心地良いグルーヴに包まれた“ステイ・アライヴ”は、昨年リリースされたザラ・マクファーレンのアルバムにも近い雰囲気。“サヴァイヴ”にはカリビアンやレゲエならではのピースフルなムードが漂っており、それがアルバム全体のトーンとなっている。UKレゲエらしいラヴリーな表題曲や“フリーフォーリング”、ジャケのイラストさながらに海中を夢見心地で揺らめく“ルナー・アディクション”に、現代版ニュー・エイジ・ステッパーズのような“ターン・イット・アラウンド”。レゲエやラヴァーズ、ダブの最大の魅力である気持ちよさを前面に出し、そうした軽妙なサウンドにホリーの愛らしい歌がピッタリとハマった作品だ。

小川充