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downstairs J

DubElectronicaTrip Hop

downstairs J

basement, etc...

Incienso

河村祐介   Jul 16,2021 UP
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 思わず、「ちょうど良い」という言葉をひさびさに口走ってしまった downstairs J なるアーティストのLP『basement, etc...』。いわゆるダウンテンポというよりかはテクノで、しかしリズムは強すぎず多様に躍動していて、クリアな音質も相まって初期オウテカあたりをマイルドにしたようなそんな印象を覚える作品です。リリースはアンソニー・ネイプルズと写真家でもあるジェニー・スラッテリー(Jenny Slattery)によるニューヨークのレーベル〈Incienso〉から。

 アンソニーは〈Proibito〉を閉じた後に、この〈Incienso〉を、さまざまな才能をフックアップする、そんなレーベルにしている模様(自身の作品は〈ANS〉から)。もちろんアンソニーという現在のハウス、テクノ・シーンの重要人物のレーベルというのもあるんですが、本レーベルに関していえば、やはりDJパイソンの1st『Dulce Compañia』でその名前を記憶している方も多いでしょう。その他の作品も最高で、ダウンテンポやアートコア・ジャングルなどの絶妙な配合でモダンなテクノの柔軟な音楽性を豊かに提示して見せたベータ・リブレ(Beta Librae)の傑作アルバムや、現在、NYとともにやはりすばらしいアンダーグラウンド・アクトを輩出しまくっているメルボルンの、スリープ・Dの作品、そして本作とほぼ同時期にリリースした、こちらもメルボルンからの新生、ブレイクビーツとディープ・ハウス、テクノの折衷様式がすばらしいビッグ・エヴァー(ex コップ・エンヴィー)のシングルもありました。コール・スーパー、あとは工藤キキの驚きのシングルもこちらのレーベルからでした。どちらかと言うと、そこまでリリースの多いレーベルではありませんが「いま思い返せば」、いつでもそのサウンドがその先の未来(つまるところ現在のシーンの動き)とともに思い出せるようなそんなサウンドをキープしているレーベルといった印象です。つまりセンス良すぎる。アンソニー・ネイプルズは、言われなくてもという感じだと思いますが、〈Proibito〉時代のフエアコ・エスのフックアップとかも含めて、とにかくいい感じなんですね。

 おっと横道にそれてしまいましたが『basement, etc...』にもどると、こちら downstairs J、本名義では初となる作品で、ジョシュ・アブラモビッチというアーティストによる名義。このジョシュはグライフィック・デザイナーのようで、DJパイソンのアルバム2nd『Mas Amable』なんかも手がけています。音楽面では snacs というノスタルジックなエキゾチック・アンビエント〜ダウンテンポを(実は本原稿での下調べで一番の発見だったかも……)、VOSE 106という名義では1作、ドープなビートダウン・ディープ・ハウスをリリース。どちらも Bandcamp を探すと出てきますがなかなか楽しめる作品ですのでぜひ。

 アルバムはテクノ・インフルエンスなヒップホップ・ビートからスタート、2曲目はスキッと爽やかで軽やか、涼やかなテクノ “Solid Air City”、ダブ・ブレイクビーツ的な “Soft Tissue”、アシッドなロウ・ビート “Lab Rat Boogie”、ポコポコとアンダーウォーターなダブ感が心地よい “Adjust”、フローティングでマイルドなダンスホール “Viewing Space”、エキゾチックなダウンテンポ “Wired” と、7曲。と、文字だけだとなんだか1990年代とか2000年代の、すごく凡庸なダウンテンポ・アルバムの原稿を書いているようでげんなりなんですが、でもそこに立ち上がってくるのはモダンでアップデーテッドなテクノの音響的なミックスの音質、そこはかとないダブ感、フローティンなメロディととにかく聴けば聴くほど、その楽曲の素晴らしさがにじみ出てきます。初期オウテカ、もしくはデトロイト・エスカレーター・カンパニー、あのあたりのテクノのチル感を彷彿とさせます。もうちょっと抽象的な言葉で言ってしまえば、IDMなグリッチでも、ドープなスモーカーズ・デライトでもないクリアなチル感といってもいいのではないでしょうか、そうした要素が抽出されていて、それでいて今様な、という。ダンス方面でも1990年代テクノのいわゆるインテリジェンス・テクノ、ないしはエレクトロニック・リスニング・ミュージックと呼ばれる音楽の復古というのがありましたが、当時の音源、いわゆるアンビエント・テクノが一部がトリップホップ的な方向へと舵を切ったあたりのサウンド、だけどドープなブレイクビーツには行っていないあのあたりの感覚がいま顕在化しているんではという感覚もあります。

 で、しかもレーベルが明らかにもう少しフロア寄りのサウンドで、シングルとしてリリースしている前述のビッグ・エヴァーのシングル「Otto EP」での、多様なIDM的なリズムを内包したハウス・トラックとは少なからず本作の音楽は共鳴しています。このあたり、なにか顕在化しつつある動き、単なるトリップホップの、IDMの、リヴァイヴァルと言ってはもったないような動きではないかと妄想が膨らんでしまうような音楽です。もちろんコロナ禍の影響もあるのかもしれませんが、この惹きつけられる感じは、なにかの未来をつかまているそんな作品であるような気がしてなりません。

河村祐介