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Parris

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Parris

Soaked In Indigo Moonlight

can you feel the sun

河村祐介   Dec 27,2021 UP
E王

 まさに新機軸といった感じで、ここからいくつものビートの可能性が解き放たれ、新たなフロアの景色を見せてくれそうな、そんな気分になるエレクトロニック・ミュージックのアルバムだ。もしかしたら数年後に「あの曲が」というような感覚の作品になるかもしれない。DJカルチャー的な「流れ」も意識しながら、そのサウンドはツールの枠には収まらないオリジナリティに溢れている。ポスト・コロナにリリースされた多くのDJたちによる、レイドバックした「リスニング向け」のサウンドとは少々距離感のある、攻めたダンス・グルーヴの遊び心を隅々まで満足させてくれる、それでいて刺激的なリスニング体験を用意した、そんなアルバムでもある。

 ロンドン生まれ、ハックニーとトッテナムを行き来し育ったというドウェイン・パリス・ロビンソンのプロジェクト。ダブステップ~ベース・ミュージックのシーンに衝撃を受け、しかしシーンへの参入の当初は、どちらかといえば裏方で、2010年前後は、レコード店、BM Soho で働きながら、ベース・ミュージックの新たな波を用意したロンドンのレジェンダリーなパーティ《FWD>>》に足繁く通っていたそうだ。そのうちにダブステップの最重要レーベル〈TEMPA〉のスタッフとして2013年から4年間働きはじめる。スタッフをしながらも、WEN とともに〈TEMPA〉からのシングルでデビュー。その後はその折衷的なDJと決して多くないリリースながら、まさに旬の、テクノとベース・ミュージックにまたがる名門レーベルから作品をリリースすることによって評価をモノにしてきた。具体的に言えば〈Hemlock〉、〈The Trilogy Tapes〉、〈Idle Hands〉、〈Wisdom Teeth〉など、2010年代後半のUKを象徴するレーベルばかりだ。ダブのベースラインを基礎に、リズムの冒険によってシンプルにエレクトロニック・ミュージックとしてのうまみを追求しているといった印象がある。DJツールとしての、フォーマットによるある種の機能美と実験性と、ダンス・サウンドのふたつの側面から言えば、やはりジャンルに帰属しがちな前者よりは、折衷的かつ多様なスタイルで、後者に重きがある作品を作り続けている。だからといってDJカルチャーと距離を取った作品はほとんどないのも事実だ。そのへんもあり、それぞれのシングルはひとりの人間が作っているとは思えないほど多種多様な音楽性を持ち、それゆえにどこかミステリアスな魅力に溢れてさえいる。そしてそれは本作の多彩なサウンドと同様、根底で共鳴しながらバラバラながらもパリスというアーティスト象を作っているともいえる。

 最近のトピックでは、本作リリース・レーベルとなる〈can you feel the sun〉の立ち上げではないだろうか。共同設立人は、ファブリックのミックスCDのリリースやセカンド・アルバム『Arpo』の高い評価、同様のベース・ミュージックとテクノやハウスの汽水域から出てきた同世代のスター、コール・スーパーである。本作でもコラボレーターとして、そして彼のサポートも大きな要素となったようだ。

 こうしてベース・ミュージック・シーンの注目株として、じわりじわりとその評価をあげてきたパリスがリリースした『Soaked In Indigo Moonlight』。いや、しかし冒頭に書いたように新機軸の塊といった感じでとにかく刺激的な楽曲が続く。ポスト・ポスト・ダブステップなジェネレーションらしく、分厚いサブべースこそ、その世界の基底を定めるがごとくアルバム1枚を通して鳴り響いているがそのリズムは恐ろしく多様だ。Carmen Villain をフィーチャーした “Movements” では、ウェイトレスなグライムをどこかディープ・ハウス化したようなトラック、そして本作の外側でも一気にブレイクしそうなキラー・ポップ・トラック “Skater's World with Eden Samara” では、女性ヴォーカルを使ったアフロ・スウィングなダンスホールを、続く “Contorted Rubber”、もしくはIDM的な質感の “Sleepless Comfort” ではつんのめったジュークのグルーヴを、ジャングルを解体した “Crimson Kano” “Poison Pudding” といった楽曲たちが続く。こうした刺激的にもほどがあるリズムに対して、テクノ的な繊細なメロディを重ねていく。またリズム・アプローチ以外にもモンド~イージー・リスニング的な感覚をベース・ミュージックに落とし混んだ “Laufen in Birkencrocs” などなど、いやいちいち突っ込んでいると無限に書けてしまいそうなアイディアがそこかしこに点在している。

 本作を聴いて思い出したのは〈リフレックス〉の作品群だ。彼らが1990年代後半から2000年に用意した、テクノの可能性──アートでグリッジなエレクトロニカでも、ストイシズムが貫くミニマルなテクノでもない、ある種のポップさも内包し、DJカルチャーに刺激されたグルーヴを持ちつつ、それでいてベッドルームの自由さを謳歌するスタイルたち。それによって持ち込まれたテクノの多様さの可能性は後に考えれば非常に大きなものだったが、あの感覚と同じものが本作には息づいていると言えるのではないだろうか。と、書いていながら、“Poison Pudding” がプラグ(ルーク・ヴァイバート)の初期作に、“Laufen in Birkencrocs” はマイク&リッチーあたりの作品に聞こえて………。しかし、もちろん、そのサウンドはオマージュというには過ぎるほど、アップデートされた音像と刺激がある。本作にはエレクトロニック・ミュージックの遊戯性とDJカルチャーが生んだグルーヴの喜悦、その間で生き生きと作られたベッドルーム・テクノの新たな姿が描かれていると言えるだろう。


河村祐介