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Don Cherry & Jean Schwarz

ElectronicFree Jazz

Don Cherry & Jean Schwarz

Roundtrip

Transversales Disques

小川充 Apr 06,2023 UP

 ジャズ、現代音楽、電子音楽、映画音楽などの再発(主に未発表音源などの発掘リリース)をおこなうパリのレーベルの〈トランスヴェルサル・ディスク〉。ジャズ方面で見ると、1974、75年にかけてフランス国営ラジオ局のホールで録音されたアーチー・シェップファラオ・サンダースライヴ音源、1971年のアーマッド・ジャマルのパリ公演がディスク化されているが、今回はトランペット奏者のドン・チェリーの音源が発掘された。アーチー・シェップにしろ、ドン・チェリーにしろ、1960年代から1970年代のフリー・ジャズ系のミュージシャンはアメリカを離れ、ヨーロッパを拠点にして活動することが多かった。メインストリームから外れたジャズ・ミュージシャン、特に黒人ミュージシャンにとって、人種差別など人権問題の面でアメリカよりもヨーロッパの方が生活しやすいという状況があった。商業セールスが期待できないフリー・ジャズやマイナーなジャズは、アメリカのレーベルは敬遠することが多く、むしろヨーロッパのほうがリリースに積極的だったということもある。だから、彼らの名盤と呼ばれる作品にはヨーロッパ録音、ヨーロッパ盤が多い。ドン・チェリーは北欧やドイツ、フランスなどを拠点とする期間が長く、〈MPS〉や〈BYG〉などに作品を残している。

 米国オクラホマ出身のチェリーは、1950年代後半にオーネット・コールマンのバンドで演奏するようになって頭角を現わす。ポール・ブレイ、アーチー・シェップ、ジョン・チカイ、アルバート・アイラー、ジョージ・ラッセル、スティーヴ・レイシー、ソニー・マレイらと共演し、1960年代の米国フリー・ジャズ・シーンを牽引するひとりとなる。1966年に〈ブルーノート〉から初リーダー作の『コンプリート・コミュニオン』をリリースし、アルゼンチンから米国に渡ってきたガトー・バルビエリと共演。同年はジョン・コルトレーンと共演した『アヴァンギャルド』も発表している。翌年にはバルビエリに加え、ファラオ・サンダースと共演した『シンフォニー・フォー・インプロヴァイザーズ(即興演奏家のための交響曲)』や、シェップ、チカイらと結成したニューヨーク・コンテンポラリー・ファイヴの『コンシークエンス』もリリースしている。『コンシークエンス』はニューヨークに加え、デンマークでの録音も含まれる。また、アルバート・アイラーの『ゴースツ』(1965年)、ジョージ・ラッセル・セクステット『アット・ベートーヴェン・ホール』(1965年)など、1960年代中盤のチェリーの代表的なレコーディングはヨーロッパ録音、もしくはヨーロッパ発売されたものだ。

 世界中をツアーしていくなか、チェリーはさまざまな民族音楽にも興味を持ち、取り入れるようになる。〈MPS〉からのリーダー・アルバム『エターナル・リズム』(1969年)が代表作で、アフリカ、中近東、トルコ、東南アジア、インドなどの民族音楽のリズムや民俗楽器を取り入れている。それに伴って、トランペット以外にフルートやパーカッションはじめ、民俗楽器なども演奏し、ヴォイスや口笛などを交えたマルチ・ミュージシャンへと変貌していった。そうした集大成と言えるのがスウェーデンでリリースした『オーガニック・ミュージック・ソサエティ』(1973年)で、ここではアフリカ音楽などの要素はもちろん、実際にフィールド・レコーディングした素材も交えた録音となっている。ファラオ・サンダースの “クリエイター・ハズ・ア・マスター・プラン” をカヴァーするなどスピリチュアル・ジャズの名盤としても語り継がれるこのアルバムは、スウェーデン人の妻のモキによるカヴァー・アートも有名で、ちなみに彼らの子どもであるネネ・チェリー、イーグル・アイ・チェリーらもミュージシャンとなっていった。

 自由で縛られることを嫌ったチェリーは、新しいもの、未知のものに対して好奇心の強いミュージシャンで、ジャズや民俗音楽以外に現代音楽、電子音楽にも接近し、またファンクからミニマル・ミュージックなど幅広い音楽を取り入れていった。エレクトロニック・ミュージックの分野では、シンセサイザー奏者のジョン・アップルトンと共演した『ヒューマン・ミュージック』(1970年)、ポーランドの作曲家/指揮者であるクシシュトフ・ペンデレッキとの共作『アクションズ』(1971年)などが記憶に残る。〈トランスヴェルサル・ディスク〉からの未発表音源『ラウンドトリップ』も、こうした系譜に連なる一枚と言えるだろう。
 録音は1977年のパリにおけるフェスティヴァルのもので、フランス人の電子音楽家/作曲家であるジャン・シュワルツとの共演となる。他の共演者はフランスのミシェル・ポルタル(サックス、クラリネット、バンドネオン)とジャン・フランソワ・ジェニー・クラーク(ベース)、ブラジル出身のナナ・ヴァスコンセロス(パーカッション)で、それぞれチェリーとも多く共演してきた面々だ。45年間も未発表となっていた音源だが、ジャン・シュワルツ自身の秘蔵アーカイヴから発掘され、初めて陽の目を見ることになった。

 西アフリカの弦楽器をタイトルとした “ドウッスン・ゴウニ” は、チェリー自身がそれを演奏し、ナナ・ヴァスコンセロスのコンガが土着的なリズムを刻んでいく。ドウッスン・ゴウニはブラジルのビリンバウに似た楽器で、そこにミシェル・ポルタルのフリーキーなサックスが加わってインプロヴィゼイションを繰り広げるのだが、リズム自体はミニマルに展開していく。そうした循環と不協和のなかから、パート2ではチェリーのヴォイスも交えて呪術的な世界を繰り広げる。“ベルズ” はエレクトロニックなビートを刻み、ベルやシンバルなどの鳴り物やノイズ、SEなどによってアヴァンギャルドな音像を導き出す。テリー・ライリーなどの現代音楽に通じるとともに、テクノの原型とも言えるような作品だ。
 “ビリンバウ” はナナ・ヴァスコンセロスのトレードマークであるビリンバウの独奏。そうした民族音楽と電子音楽の融合が『ラウンドトリップ』全体のテーマでもある。“ホイッスルズ” は土着的なクラリネットに混じったヴォイスが祈祷のような世界を作り出す。“バンド” はバンドネオンの即興演奏と電子音のユニークな共演。そして、公演はオーネット・コールマンに捧げた “トリビュート・トゥ・オーネット” で幕を閉じる。ジャズ・ミュージシャンとエレクトロニック・ミュージックの音楽家の即興的な共演では、近年だとファラオ・サンダースとフローティング・ポインツによる『プロミセス』(2021年)が印象深いが、『ラウンドトリップ』は40年以上も昔にそれを先駆けており、さらに民俗音楽も交えたじつに驚異的な作品である。

小川充

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