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Live Reviews

BLACKTERROR

BLACKTERROR

@渋谷clubasia
日時:2010年11月22日(月)
二木 信   Nov 29,2010 UP
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 仮眠を取って21時過ぎに起きると、雨が降っていた。失礼な話だけれど、正直ちょっと嬉しくなった。なぜなら、〈BLACK SMOKER〉が渋谷の〈asia〉で開催するパーティはだいたいいつも混むからだ。焼き鳥屋あたりでいい具合になってから深夜に遊びに行くと、観たいライヴを見逃してしまう。この国でいまもっともアヴァンギャルドなヒップホップ・ポッセのパーティは、とにかくちゃんとライヴを観たい、踊りたいと思わせる。大それた言い方をすれば、時代の音の行く末を目撃したい。そう、そんな気持ちにさせる。ベロベロに酔っぱらって、記憶を飛ばしているだけではあまりにもったいないのだ。僕はオープンの12時過ぎにはクラブに入った。その頃には雨は止みかけていた。

 今回は、DJ NOBUを擁する千葉のハードコアなテクノ・パーティ〈FUTURE TERROR〉と〈BLACK SMOKER〉主催のパーティ〈EL NINO〉のサウンドクラッシュである。界隈では誰もがこの喜ぶべきアンダーグラウンドの邂逅に注目していた。なにより〈BLACKTERROR〉ってパーティのタイトルがまずカッコイイ! そう思わない? 僕はビールを買って、さっそく真っ暗闇のメインフロアに向かった。パキッとした空気の振動が頭のてっぺんから足の爪先までを激しく刺激する。強力なサウンドシステムを導入したのではないだろうかと思わせる凄みのある出音だ。今日のパーティにたいする気合いというものが伝わってくる。THINK TANKのDJ YAZIと〈FUTURE TERROR〉のHARUKAによるユニット、TWIN PEAKSはミニマル・テクノとダビーなハウスのSFホラー・ショーを展開していた。ちなみに僕はDJ YAZIの『DUBS CRAZINESS』というミックスCDが大好きでよく聴いているが、これをウォークマンにセットして新宿のネオン街をサイクリングすれば、一瞬で『ブレード・ランナー』の世界にトリップしてしまう。さあ、黒いテロリストたちの宇宙船に乗って旅に出よう! 

 気づくとまだ1時前だというのに、フロアは身動きするのに苦労するほど人でいっぱいになっていた。僕は人をかき分けて、焼酎の水割りをゲットしに行った。1階のバーカウンターでCIA ZOOのHI-DEFから、12月15日に出すというファースト・ソロのサンプルをもらった。おー、ありがとう! じっくり聴かせてもらうよ! TWIN PEAKSはテンションを保ちながら、フロアの空気をコントロールし、次のTHE SEXORCISTのライヴへとバトンタッチした。

 THE SEXORCISTとは、"ヘンタイのヘンタイによるヘンタイの為のヒップホップ"を合言葉に活動する不定形なヒップホップ・ポッセである。なんと言っても、元ブッダ・ブランドのNIPPSが在籍していることで有名だ。彼曰く、池袋のクラブ〈bed〉を拠点とした「パーティ野郎の集い」だそうだ。代わったDJが一気にBPMを落とし、ジャズ・ファンクからメロウなコズミック・ソウルをスピンする。巨大スクリーンにはモンド映画のような映像が映し出される。ROKAPENISのお馴染みのVJは、アブストラクトな映像に疎い僕みたいな人間でさえ視覚的に楽しませくれる仕掛けがふんだんに盛り込まれている。それまで激しく体を揺らしていたダンサーはその場を離れない。

 そして、チェックのシャツを着たNIPPSと迫力のある風貌のB.D. The Brobusがステージに登場すると、彼らの代表曲"BLACK TAR"がはじまる。「うおおおぉぉ!」、僕の後方にいたヘッズが雄叫びを上げながら、足元に酒をひっかけてきた。でも、そんなことを気にしている余裕はない。「......黒いダイヤ、黒澤明、黒いジーザス、ブラックマニア、黒いジャガー、シャフトのサントラ、黒い文学、黒い音楽......」、ほんとに黒がお好きですね。NIPPSのリリックは相変わらず意味不明で、どこか可笑しみがある。意味もなく笑いがこみ上げてきた。途中から、TETRAD THE GANG OF FOURのラッパー、VIKNとSPERBが加わる。
 NIPPSはステージの後方で横を向きながら、控え目に、ときおりビールを飲みつつ佇んでいた。最初は悪ふざけをしているのかと思ったけれど、自分のヴァースが来ると不自然なほど真摯にダーティなリリックをスピットしていた。4人は必要以上にお互いに干渉せず、淡々と熱のあるハードボイルドなヒップホップ・ライヴを展開した。「あれ、NIPPS大丈夫かな?」と不安になる瞬間もあったが、近年、第二の黄金期に突入しているベテラン・ラッパーの異形の存在感を体感できたことは嬉しかった。

 その頃、僕の膀胱はなかなか危険な状態だった。だが、次はTHINK TANKだ。急いでトイレに行こうとするが、人だらけでうまく前に進めない。2階のラウンジでは〈BLACK SMOKER〉のアートワークなどを手掛けるアーティスト、Kleptomaniacが一心不乱にライヴ・ペインティングをしている。相変わらず彼女の集中力は凄い。「ドスン、ドスン」という四つ打ちやレイヴィーなライティングに合わせて、いまにも動き出しそうな極彩色の地球外生命体のようなアートに視線を奪われる。ん? 階段の踊り場には奇妙なオブジェまで......、いや、こうしてはいられない。あああぁぁぁ、トイレには長蛇の列ができているじゃないですか。僕はトイレをひとまず諦めて、2階のVJブースにお邪魔してじっくりライヴを観ることにした。「頼む、もってくれよ」、僕は祈った。

 DJ YAZIとサックス奏者/エンジニアのCHI CHI CHI CHEE、そして客演のoptrumの伊東篤宏のフリーキーなインプロヴィゼーションからライヴは幕を開けた。CHI CHI CHI CHEEがソプラノ・サックスを切れ味鋭く吹くと、伊東篤宏が蛍光灯を使って自作した楽器オプトロンが「ビリビリビリッ」と暗闇で激しく点滅し、音の火花を散らす。ビートは変幻自在に伸縮をくり返している。そこにまずJUBEが切り込み、闇を切り裂く。続いて筋肉隆々のBABAがロッキンに乗り込む。そして最後に、ジャングル・ドレッドにサングラス姿のK-BOMBがケダモノのような野太い声にカオス・パッドで目一杯エフェクトをかけた。この渦巻きのようなカオスはいったいなんだ?! フロアのオーディエンスは波打ち、むちゃくちゃに盛り上がっている。彼らは、ロッキンな"EAT ONE"やファンクの感性がうねる"Bbq Style"をやり、いくつもの曲の断片をルーディーに再構築してみせた。

 THINK TANKのライヴは、自らの音楽を含めた既存のアートの脱構築である。まあ、ここでダラダラと分析するのもウザイが少々お付き合い下さい。THINK TANKにおけるジャズやファンクやレゲエやロックは、単なる意匠や装飾として使われているのではない。それらは衒学趣味などではなく、肉体的欲望の結果として引きずり出され、精神の解放をうながす破壊と再生のお祭りをぶち上げる。ヒップホップにお決まりの自己中心主義からは遠く離れている。「これこそアウトサイダー・ミュージックである」と紋切り型を言うのは容易いが、そういう形容には違和感もある。RZAの脱構築の美学とクール・キースの道化趣味の結合と言えるだろうか。あるいは、マイク・ラッドやアンチ・ポップ・コンソーシアムとも異なる前衛の領域へと踏み込もうとしているのではないだろうか。THE LEFTY (KILLER-BONG&JUBE)が山川冬樹と、KILLER-BONGはFLYING RHYTHMSのドラマー、久下恵生やダモ鈴木と刺激的なセッションを行なっていることも記しておく。いや、とりあえずいまはただひとつの事実を言おう、THINK TANKのライヴはいまもっとも注目すべきアヴァン・ヒップホップの極北であると――。

 ああ、膀胱がまずいぞ、しかしこれを見逃すほうがよっぽどまずい。とにかく、僕はトイレを必死に我慢してライヴに集中していた。たまたま来日中で遊びに来ていた、MITのイアン・コンドリー教授は「あれはカオスの美学だね」と流暢な日本語で評した。「たしかに、そうとも言えますね」と僕は頷いた。いっしょに行った吉増剛造と中原昌也を敬愛する友人は、「これを観れば、もう他のヒップホップはいいや」とまで興奮していた。同意はできないけど、言いたいことはわかるよ。

 しかし、まだまだパーティは終わらないのだ! 2時半ぐらいだっただろうか。10年ぶりの復活を遂げた、七尾DRY茂大と秋元HEAVY武士によるDRY&HEAVYのライヴがあった。この日のひとつの目玉だ。無骨で重厚なリズム・セクションとK-BOMBの地面をのたうち回るようなラップの掛け合いを観ながら、僕はダークなブリストル・サウンドを想起していた。そしてライヴのセッティングがばらされると、いよいよDJ NOBUがブースに入った。その時点ですでにけっこうな深い時間だった。あれだけ濃いライヴが続けば、クラウドもさすがに少しは疲労しているのではないだろうかと思ったが、いやいや僕の考えは甘かった。メインフロアの人はまったく減らない。DJ NOBUが鉛のように重い音をズドンと放ち、ジャブ代わりにEQをいじる。手を頭上でパンパンパンと叩き、クラウドを煽るとクレイジーなダンス・ミュージックによる第二ラウンドのゴングが鳴らされた。あとは書かなくても、みなさんだったらわかるでしょ?

 ティム・ローレンスは「『アンダーグラウンド』という言葉は急進的で秘密めいた響きを持つ」と書いているが、それは〈BLACKTERROR〉にもまったく当てはまる。ただ、創作の独自性を保つために世間の主流から離れた〈BLACK SMOKER〉が、一周回って世間から評価されはじめているとも感じている。〈BLACKTERROR〉は社会的反逆者や変態だらけのお祭り騒ぎと思えるかもしれない。まあ、そういう側面は大いにある。ただ、怒鳴り声や凄む声がパーティを支配しているわけではない。

 実際のところ、フレッシュな音やライヴやアートを求めに来ている人たちが多い。ナンパ目的の客もいる。手に負えない快楽主義と急進的な前衛主義と渋谷の猥雑な夜の文化が、これほどうまく同居した素晴らしいパーティもそうそうないのではないだろうか。いくら渋谷の他のクラブにちょっとしたトラブルがあったとはいえ、あんなドープなパーティに700人近くも集まるなんて! いつかK-BOMBは「オレらのライヴにズボンの細いヤツらが増えたよ」と言っていたけど、ハハハハハ、たしかにそうだ。ちなみに中原昌也は自身初の、素晴らしく狂ったミックスCDを〈BLACK SMOKER〉から近くリリースする。

 この日はほんとにいろんな人たちに会った。ライターの大石始や物販を担当していた〈wenod records〉の面々、RUMIもいたらしいね。それだけこのパーティが注目されていたということだろう。朝方、1階のバーカウンターで心地良く流れるダブに身をまかせ、ロックの氷を溶かしながら友だちとのお喋りに興じていた。〈ワッキーズ〉かホレス・アンディがかかっていたような気がした。結局僕は、DJ HIKARUがはじまってから少ししてリタイアしてしまった。聞くところによると、そのあとがまた凄かったという。それについては、最後まで踊り狂っていたハードコアなパーティ・ピープルが証言してくれることだろう。

二木 信