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4人のOPNファンが綴るOPNコラム

4人のOPNファンが綴るOPNコラム

青野賢一、池田桃子、ChatGPT、樋口恭介、若林恵 Oct 06,2023 UP

ロパティン、アゲイン

若林恵(黒鳥社)
by Kei Wakabayashi

編集者、黒鳥社コンテンツディレクター。平凡社『月刊太陽』編集部を経て2000年に編集者として独立。2012年に『WIRED』日本版編集長就任。2018年、黒鳥社設立。著書・編集担当に『さよなら未来』『次世代ガバメント』『働くことの人類学【活字版】』『ファンダム・エコノミー入門』など。「こんにちは未来」「blkswn jukebox」などのポッドキャスト企画制作でも知られる。好きな曲は “World Outside”。

 故・坂本龍一さんに2017年にインタビューした際に、ダニエル・ロパティンのことが話題にのぼった。坂本さんの『async』のリモデル版がちょうどリリースされたばかりで、そこに彼が参加していたことから話題になったのだと思う。

ダニエルの音楽は、数年来好きでよく聴いているんですが、人間的にはちょっと難しいやつですね(笑)。かなり変人。変人だけど、やっぱり相当キレますね。クラシックから、ポップス、ヒップホップ、テクノまで全ての文法を使いながら、そのどれとも違う新しい音楽を作ってると思います。最近はちょっとそれが薄れてきた傾向がありますけど、前作くらいまでのものは、文法的に全く新しいという感じがしましたね。あれは、ちょっと衝撃的です。(『WIRED』日本版別冊『Ryuichi Sakamoto on async〜坂本龍一 asyncのこと』より)

 ここで坂本さんが語る「前作」は『Garden of Delete』のことを指していたはずだ。翌年『Age of...』を携えて来日したダニエルをトークイベントに招いたことがある。その席で彼は「正直、混乱している。この先、自分が何をすべきなのか、わからない」と語った。『Age Of...』がOPNとしての最後の作品になるかもしれないとの言葉も残した。OPNのキャリアが終止符を打たれることはなかったが、続く『Magic Oneohtrix Point Never』には混乱がまだ尾を引いているように感じられた。坂本さんが「衝撃的」と語った無二の混沌力は整理されトーンダウンしつづけた。

 2015年に訪ねた彼のブルックリンのスタジオは窓のない地下の穴蔵だった。ロパティンは、爆音でPanteraをかけながらGang Starrとジェームズ・キャメロンの『ターミネイター2』がいかに最高かをまくしたてる「人間的にはちょっと難しいやつ」だった。『Garden of Delete』そのままの人物だった。最高だな、と思うと同時に、生きづらいだろうなとも想像した。

 2018年に再会した際、彼は穴蔵を引き払って窓のある家に引っ越したと語っていた。それが必要なことだったのだろう。けれども、そうしたことが微妙に音楽に影響を与えたのではないかと思ったりした。自身のウェルビーイングと音楽的出力とが相反する苦しさを勝手に想像して胸が痛くなった。もちろんファンの身勝手な妄想だ。でも彼の行く末は気がかりだった。

 最新作を聴いてロパティンのこの数年が困難な道のりだったことを改めて感じた。そう感じたのは本作で彼がその困難をようやく振り切ったように思えたからだ。最新作のなかに、Panteraを、Gang Starrを、T2を、再び、喜びとともに聴き取った。暴力的で繊細な新しい文法を携えてロパティンは帰ってきた。その作品を彼は「Again」と名づけた。

※本コラムは小冊子「ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーとエレクトロニック・ミュージックの現在」からの転載です。
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