Home > Interviews > interview with Fieh (Sofie Tollefsbøl) - 北欧インディ・ポップの新星
日本のメディアでインタヴューができるなんてとても嬉しい!
2017年にノルウェーから登場してきた7人組バンドの FIEH(フィア)。リード・シンガーのソフィー・トレフスビョルの柔らかなヴォーカルをフロントに立て、都会的でジャジーな肌触りの演奏やドリーミーな雰囲気を醸し出すコーラスをまとい、2019年にリリースしたデビュー・アルバムの『コールド・ウォーター・バーニング・スキン』は、ハイエイタス・カイヨーテやムーンチャイルドに続く新世代のネオ・ソウル・バンドと評価された。その後、このアルバムのUKでの発売元が〈デッカ〉だった関係で、〈ブルーノート〉のカヴァー・プロジェクトの『ブルーノート・リ:イマジンド・2020』に参加してウェイン・ショーターの “アルマゲドン” をカヴァーするなど、注目を集める存在へ着々と進んでいく。そうして発表したセカンド・アルバムが『イン・ザ・サン・イン・ザ・レイン』である。
『イン・ザ・サン・イン・ザ・レイン』には前作にあったネオ・ソウルやヒップホップ/R&B的な路線も存在するが、ほかにもインディ・ポップやポップ・ロック、シンセ・ポップ的な要素もあり、全体としてとてもヴァラエティに富んだカラフルなアルバムとなっている。タイプとしてはハイエイタス・カイヨーテのアルバムに近い印象なのだが、バンドとしての進化や音楽性の拡大を感じさせる作品である。そして、そこにはプロデューサーとして参加したジャガ・ジャジストのラーシュ・ホーンヴェットや、エンジニアとして参加したラッセル・エルヴァド(ディアンジェロの『ヴードゥー』はじめザ・ルーツの作品などを手掛けてきた)の存在も見え隠れする。今回のインタヴューはそんなフィアの誕生から現在に至る道程、そして『イン・ザ・サン・イン・ザ・レイン』についてなどを、グループの中心人物であるソフィー・トレフスビョルに訊いた。
シーンの全員が全員を知っている感じね。ジャガ・ジャジストのラーシュ・ホーンヴェットは私たちのアルバムをプロデュースしてくれたし、もちろん繋がりを感じる。
■フィアは日本ではほぼ初めて紹介されるバンドですので、まずはバンドの結成から伺います。いつ頃、どのようなメンバーがどのように集まり、フィアは結成されていったのですか?
ソフィー・トレフスビョル(以下ソフィー):そうね、日本のメディアでインタヴューができるなんてとても嬉しい! 最初フィアがスタートしたときは私ひとりだったんだよね。もともとガレージバンドやロジックなどの音楽ソフトを使ってひとりで曲を作っていたんだけど、それらの曲をほかのバンドをやってる友だちとかに聴いてもらって。そのなかにいまフィアでベースとドラムを担当しているアンドレアス(・ルーカン)とオラ(・エーヴェルビィ)もいたんだよね。それで彼らが組んでた別のバンドで出演したライヴで私が作った曲を数曲演奏して。そのライヴがとっても良い感じだったから、これはもうバンドにするしかないでしょ! って感じではじまった。
■フィア(Fieh)という名前はどこからきているのですか?
ソフィー:最初の曲を配信しようと考えたときに、アーティスト名が必要だと気づいたんだ。この名前についてはラッパーのナズに影響を受けたと思う。彼の本名は「Nasir」って言うんだけど、私も彼のように自分の名前からもじろうと思って。私の名前は「Sofie」だから「Fie」はそこから取って、残りの “h” がエリカ・バドゥを真似たんだ。彼女の本名は「Erica」だけど、アーティスト・ネームでは “h” が「Erykah」の最後についてるでしょ。だから私も “h” を付け加えて、「Fieh」にしたってわけ(笑)。
■ソフィーさんはバンドのリード・シンガーですが、あなた自身の音楽キャリアはどのようにはじまりましたか? 幼少のころに好きだった音楽や影響を受けたアーティストなどについても教えてください。
ソフィー:私がピアノをはじめたのは10歳のときだった。私には兄がいるんだけど、当時その兄はギタリストでブルースをよく弾いていたのね。ブルースのコンサートやフェスティヴァルにも連れてってもらった。彼はほかにもソウルを教えてくれた。アレサ・フランクリンとかレイ・チャールズとかをね。だから私は子供の頃はブルースやソウルが好きだった。それから小学校を通してカニエ・ウェスト、ファレル、スヌープ・ドッグ、アウトキャストとかのヒップホップにも夢中になった。その後高校生のときにレッド・ツェッペリンとかザ・ドアーズとかのロックにハマった時期があったし、ほかにも高校時代はレッド・ホット・チリ・ペッパーズの大ファンになった。いまでも大好きなんだけどね。私が歌いはじめたのはバンドと出会った頃だから17歳くらいかな。その頃は同時にディアンジェロ、J・ディラ、エリカ・バドゥ、ザ・ルーツのようなR&Bやネオ・ソウル、ヒップホップのアーティストにもとても興味があったんだけど、それからオスロ音楽アカデミーに通いはじめてジャズの沼にハマりはじめたのよね。特にジョン・コルトレーン、アリス・コルトレーン、セロニアス・モンク、ジャッキー・バイアードとかがお気に入りかな。いままであげてきたアーティストはいまでも大好きだし、ほかにも最近だとビョーク、ケイト・ブッシュ、シュギー・オーティスやソランジュとかにハマってる!
■フィアはノルウェーのオスロを拠点に活動していますが、オスロ及びノルウェーの音楽シーンの状況はいまどんな感じですか? 日本にはリンドストロームやプリンス・トーマスといったニュー・ディスコ系のDJ/プロデューサーの情報などは断片的に入ってきますが、全体としては情報量が多くはないので、あなたたち周辺の音楽シーンの状況を教えていただければと思います。
ソフィー:リンドストロームとプリンス・トーマスは最高! ノルウェーには世界的に活躍しているポップ・アーティストとしてオーロラとシグリッド、ガール・イン・レッドがいて、有名なエレクトロニック・アーティストとしてはいま言ったリンドストロームとプリンス・トーマスのほかにロイクソップがいる感じかな。オスロのジャズ・シーンは世界でも私が知る限りでベストだと思う。とにかく多様性があって、いろんなバンドがジャンルの垣根を超えた音楽を作ってて。例えばジャズと伝統的なノルウェーの音楽をミックスしたりして、ジャズとポップ、ジャズとロック、ジャズとエレクトロニカとかいろいろなジャンルが混じってるのがオスロのジャズ・シーンの特徴だと思う。マサヴァ(Masåva)とホワイ・カイ(Why Kai)は特にお気に入りだからチェックしてみてね。フィアのメンバーもそれぞれクールなバンドをほかにもやっていたりする。ソルウァイ(・ワン)はナッシング・パーソナル(Nothing Personal)というエレクトロ・トリオ、アンドレアス(・ルーカン)はタイガーステイト(Tigerstate)というインディー・バンド、さっきも紹介したホワイ・カイは(『イン・ザ・サン・イン・ザ・レイン』のレコーディング後にフィアに参加した新メンバーの)カイ(・フォン・ダー・リッペ)のジャズ/エレクトロニカのソロ・プロジェクトだし、オラ(・エーヴェルビィ)はダマタ(Damata)というジャズ・トリオでもプレイしていて、リーデ(・エーヴェレオス・ロード)は彼のソロ・ジャズ・アルバムを2019年にリリースしてる。
フランク・オーシャンの “ピラミッズ” とかかな。あの曲の変調の仕方と完全にふたつの別のパートが一曲のなかで混合している感じがめちゃくちゃ最高で。リリースされたときバンドのみんなと一緒に聴いたのを覚えているんだけど、めちゃくちゃ衝撃的だった。全然予想もしていなかった、見知らぬ場所で突然に旅がはじまる感じね。
■周りに仲のいいアーティストやバンドなどはいますか?
ソフィー:もちろん! オスロを拠点にしている友達だとポン・ポコ(Pom Poko)、モール・ガール(Mall Girl)、テア・ウォン(Thea Wang)、ベハーリ(Beharie)、ホワイ・カイ、ナッシング・パーソナル、タイガーステイト、ダマタとかいて、みんなクールなアーティストだよ!
■トランペットのリーデ(・エーヴェレオス・ロード)さんはほかにもいろいろなバンドやプロジェクトで活動していますね。モザンビークというジャズ・バンドで演奏していたり、〈ジャズランド・レコーディングス〉から先ほど話されたソロ・アルバムを出すなど、メンバーのなかでは比較的ジャズのバックグラウンドが強い人のようですが、彼はどんなプレーヤーですか?
ソフィー:その通り! リーデとはオスロ音楽アカデミーでジャズを学んでいたときに出会った。リーデは最高なジャズ・トランペッターね。とにかく名人って感じだし、彼が出すアイデアもいつも最高で。私たちの曲にも間違いなく彼のテイストが色濃く出ていると思うし、ロイ・ハーグローヴ的なジャズのエッセンスは彼のお陰。ちなみに彼はステージ上では素晴らしいダンサーでもあり、パーカッションもできる。一緒にいて楽しいし、彼と一緒に音楽をプレイしているときは最高な気分になれる。
■そうしたジャズの話では、ブッゲ・ウェッセルトフトなどを擁する〈ジャズランド・レコーディングス〉は、いまから20年ほど前に「フューチャー・ジャズ」という新しいジャズのムーヴメントを担うレーベルでした。ほかにもジャガ・ジャジストやニルス・ペッター・モルヴェルが世界的に活躍するなど、ジャズの世界におけるノルウェーは非常に興味深い存在です。リーデさんもそうしたノルウェーのジャズ・シーンの影響を受け、それはフィアにもフィードバックされていたりしますか?
ソフィー:リーデ自身のプレイも、彼のソロ・プロジェクトも、そしてフィアもノルウェーのジャズ・シーンの一部だと思っている。さっきも言ったけどノルウェーのジャズ・シーンが大好きだし、つねにクールなことが起こっている刺激的なシーンだから、その一部になれるのは嬉しいし、クールだけど小さなシーンでもあるから、シーンの全員が全員を知っている感じね。ジャガ・ジャジストのラーシュ・ホーンヴェットは私たちのアルバムをプロデュースしてくれたし、もちろん繋がりを感じる。
■フィアの歩みに戻りますが、2019年にファースト・アルバムの『コールド・ウォーター・バーニング・スキン』を発表します。ジャズ・ファンクやファンク、ソウルなどがブレンドされたクロスオーヴァーな作風で、ソフィーさんの歌を中心としたグルーヴィーな演奏を聴かせてくれます。全体的にはネオ・ソウルの要素が強いアルバムですが、どのようなイメージでこのアルバムは作られましたか? 個人的にはオーストラリアのハイエイタス・カイヨーテとかアメリカのムーンチャイルドあたりに近い印象を持ったのですが。
ソフィー:デビュー・アルバムは何年もプレイしてきた楽曲をまとめたコンピレーションのようなアルバムだったんだけど、ディアンジェロとエリカ・バドゥにかなり影響も受けたアルバムだと思う。言ってくれた通り、ハイエイタス・カイヨーテにも影響は受けていると思うね。このアルバムはなんていうか私たちの最初の子供って感じかな。“25” とかは本当にバンドがはじまった頃からずっと演奏し続けている曲なんだよね。
■“サムライ(Samurai)” という曲が収録されていますが、これは日本の侍が出てくる映画とかアニメにインスパイアされているのですか?
ソフィー:このタイトルはクエンティン・タランティーノの映画『キル・ビル』に出てくるザ・ブライドとオーレン石井の剣を使った戦闘シーンにインスパイアされてつけた。日本の映画からじゃなくてちょっとガッカリさせちゃったかな(笑)。ごめん(笑)。でも、この映画は確実に日本から影響を受けているはず(注:千葉真一はじめ日本の俳優が数名出演するほか、梶芽衣子主演の『修羅雪姫』など日本映画やブルース・リーの『死亡遊戯』など香港映画、台湾映画のオマージュが散りばめられている)。コロナの影響で家にいる時間が多くなったからいくつか日本のアニメを見たりもしたんだけど、私は『食戟のソーマ』が大好き。次のアルバムには『食戟のソーマ』に影響された曲が収録されるかも(笑)。
■その後、2020年に〈ブルーノート〉のカヴァー・プロジェクトの『ブルーノート・リ:イマジンド・2020』に参加しますね。基本的にサウス・ロンドンのミュージシャンが中心となったこのプロジェクトに、どうしてオスロのあなたがたたちが参加するようになったのですか?
ソフィー:そのときはイギリスの〈デッカ〉からファースト・アルバムをリリースしていたから、彼らが〈ブルーノート〉のアルバムに参加できるようにしてくれたのよね(注:現在〈デッカ〉と〈ブルーノート〉は同じ〈ユニバーサル〉グループに属する)。本当にクールなことだったし、〈ブルーノート〉と関連する仕事ができたのは本当に光栄に思っている!
質問・文:小川充(2022年3月04日)
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