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三田 格   Aug 21,2012 UP

「セレブ」という言い回しは英語圏だと少しバカにしたニュアンスを含んでいるので、社会に影響力があると認められつつも、そこには様々な留保もつけられている。米フォーブス誌が今年のベスト・セレブに選んだのもジェニファー・ロペスだったし、アンジェリーナ・ジョリーやジョージ・クルーニーがそれほど高すぎない位置にいたのも、彼らの政治活動に対する評価があってのことだろう(3位にジャスティン・ビーバー、8位にケイティ・ペリーw)。そして、100位以内にけっこうな数を占めていたのが右派のディスク・ジョッキーで、なるほど、アメリカにはみのもんたがわんさかいるんだなーと(ボブキャット・ゴールドスウェイト監督『ゴッド・ブレス・アメリカ』に現代のボニー&クライドを気取るふたりがついでのように右派のTV司会者を撃ち殺すシーンがあった)。とはいえ、ラジオの強さは、欧米社会でははよく言われることで、クリア・チャンネル以後の音楽プログラムはともかく、ディスク・ジョッキーの地位が低下したという事実はないらしい。つまり、バグルスは間違っていた! 『ラジオ・スターの悲劇』でもなんでもなかった!(MTVが開局して最初に流した曲もこれでしたが)

 バグルスとしてのリリースが絶えてからも(解散はしていない)、アート・オブ・ノイズやイエスのメンバーになるなど、ミュージシャンとしての活動も諦めたわけではなかったトレヴァー・ホーンが31年ぶりに新たなポップ・グループを結成した。元デル・エイミトリのアシュリー・ソーンやロル・クリーム(元10cc)らと組んだプロデューサーズがそれで、それこそ非の打ち所のないポップスのオン・パレードである。どこかにまだ未来が残っているかのような屈託のなさと、それだけで前に進んでいたともいえる80年代を正確に再現した職人仕事。ポーズだけの苦悩や「感性」という言葉で人を差別できた過去があまりにも懐かしく蘇ってくる。50年代のアメリカ映画が極端に明暗を分けていたように、80年代のアンダーグラウンドにはそのすべてを疑う視点が広く偏在していた。しかし、メジャーはどこ吹く風で、ひたすら耳に優しいメロディを量産し、消費することが善だった。それに反発するのではなく、むしろ、アンダーグラウンドに引き入れたとき、レイヴ・カルチャーが急浮上したとも考えられる。だって、ここに再現されているような「屈託のなさ」を拒む理由はなかったから。1986年のクラブ・カルチャーを評して「それはマインドレスだった」という告発が僕の頭から離れたことがない。アンダーグラウンドがいつも正しいとは限らない。いまは......どうなんだろうか。

 現在進行形で同じように屈託のないポップ・アルバムをつくれるのは、おそらくエアリアル・ピンクしかいない。彼にはシッツ・アンド・ギグルズのような裏の顔があることも知っているだけに、なおさらその韜晦性と職人ぶりには驚かされる。『フェアウェル・アメリカン・プリミティヴ』改め『メイチュア・テーマ』(邦題表記は『マチュア・シームス』。エアリアルをアリエルと記すなら「メイチュア」を「マチュア」はわかるけど、「テーマ」だけはなぜ「シームス」と原音に忠実になるのか。教えてアエロスミス!)では「ピンク・スライム」のような社会問題も、それこそトレヴァー・ホーンを思わせる甘いメロディにのせて歌われていく(どんな神経なんだ......)。そして、エアリアル・ピンクのバックから独立したゲイリー・ウォーことグレッグ・ダルトンが(サンバーンド・ハンド・オブ・ザ・マンのテイラー・リチャードスンと結成したヒューマン・ティーネイジャーとしてのデビュー作に続いて)リリースしたソロ3作目もポップ・アルバムの歴史に名を連ねようとするスノッブなヴァリエイションである。

 前作『ホリブルズ・パレード』がエアリアル・ピンクをそのまま宇宙に連れ出したようなヴァージョンであったことを踏襲しつつ、かなり一本調子だったそれに強弱や変化をつけ、遊園地を駆け回っていくような音世界を構築していく。スピード感あふれるアレンジの連打はエアリアル・ピンクの磁場から飛び出そうともがいているかのようであり、エレクトロのリズムに新境地を見出している部分は〈ノット・ノット・ファン〉との共振も予感させる。ここでもいい意味で屈託のなさが功を奏している。リバーブではなく、単純なエコーが冴えているというか(底辺にはいささかクラウトロックが透けて見える)。ダルトンの屈託のなさは、アメリカにモーグ・シンセサイザーのブームが吹き荒れた60年代にも通じ、トム・ディッセルヴェルトやブルース・ハークがこのところ活発に再発されていることとも符号は合っている。現実逃避するなら、これぐらい遠くまで行ってしまえよということなのだろうか。ズンズンタッタ、ズンズンタッタと機械的に刻まれるベースはとにかく先へ進むことしか考えていない。そう、アメリカのあさってに向かって......(いままでデタラメだったアートワークもようやく内容と一致してきた。クレジットを見てびっくりだったけど!)。

三田 格