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Wire

Wire

Red Barked Tree

Pink Flag/Pヴァイン

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野田 努   Feb 09,2011 UP

 ワイアーは、頻繁に表に出るタイプではないが、僕の世代にとって重要なロック・バンドのひとつだ。意味不明な攻撃を浴びせる"12XU"もさることながら、初期の(そしていまやアート・パンクの伝説となった)3枚のアルバムにおいて、このバンドは、ワイアー流のミニマリズムを開発した。
 ロックにおけるミニマリズムと言えば、たいていの場合は70年代のカンやクラフトワークといったクラウトロックが思い浮かぶものだが、ワイアーは、それをパンクのふるいにかけて、彼らの"反復"を創出した。名作(......といってもワイアーはすべてが名作なのだが)『154』の有名な"北緯41度西経93度"を聴いていると、僕たちは地図に刻まれた垂直の線のなかにいた。ワイアーの音は、無機質で、直線的で、ときにマシナリーだった。バンドのギタリストであるブルース・ギルバートは、ギターを楽器というよりも発信器のように扱った。彼のアンビエント・プロジェクトであるドームもまた、情緒というものがはいる余地のない抽象絵画のようだった。彼らの美学については彼らのアートワークが雄弁に物語っている。知りたければ、どの作品でも良いから1枚選んで眺めてみるといい。説明過剰なもの、具象的なもの、情緒的なものとは正反対のステージの上で、ワイアーはロック・バンドのふりをし続けているのだ。

 『レッド・バークド・トゥリー』は、ブルース・ギルバートがいないワイアーにとって2枚目のアルバム、2年前の『オブジェクト47』に引き続いて、ギターとヴォーカルにコリン・ニューマン、ベースとギターにグレアム・ルイス、ドラムにロバート・グレイといったオリジナルの3人による録音である。そして『レッド・バークド・トゥリー』はコリン・ニューマンによるアコースティック・ギターのストロークに特徴づけられている。
 それはワイアーの長い歴史において興味深い変化でもある。それは穏やかに展開される『ピンク・フラッグ』(1枚のLPに21曲をぶち込んだ彼らのデビュー・アルバム)のようにも思えるからだ。面白いことにそれは、山本精一のソロ・アルバムにも近い音の作りで、まあとにかくエレクトロニクスを応用した〈ミュート〉時代とはもっとも異なる方向性でアルバムは彩られている。"プリーズ・テイク"や"アダプト"のような曲は、そしてアルバムのクローサー・トラックでありタイトル曲でもある"レッド・バークド・トゥリー"は、つまり、フォーキーなワイアーなのだ。彼らにしては驚くべきほど人当たりが良い音で、僕には自分を耳を疑うほどエモーショナルに聴こえる。しかも、これらの楽曲は素晴らしく美しい。
 それでもファンが最初に熱狂するのは、間違いなく"トゥ・ミニッツ"だろう。ギターのフィードバックからはじまる"12XU"系のパンク・サウンドは、ワイアーにしか演奏できない毒のこもったミニマル・サウンドだ。慈悲のはいる余地のない態度で、世界を疑いの目で見続けているバンドらしい、2分弱のジェットコースターだ。"クレイ"や"モアオーヴァー"といった曲は『154』とXTCの中間を進んでいくようだ。"バッド・ウォーム・シング"をLCDサウンドシステムを好きな若者が聴いたら、このバンドがトーキング・ヘッズと並んでアート・ロックの双璧と言われる理由を理解するに違いない。そして......アルバムのクライマックスの"スマッシュ"は"北緯41度西経93度"の再解釈である!
 "トゥ・ミニッツ"でワイアーはこう歌っている。「知っているかい? コーヒーは食料と幸福の代替物ではない」。これはアレゴリーなのか、バカげたナンセンスなのか、どこまでが冗談なのか、われわれはしばし困惑する......が、そのすべてを知るにはまだ早いのでしょう。『レッド・バークド・トゥリー』でコリン・ニューマンはこう歌っている。「ずっと後になったら、日々僕が誰を嫌っているのかを教えてあげよう」

野田 努