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竹内正太郎   May 10,2012 UP

遠くで沈む太陽
昇ってくるブルーでループ
ゆっくり死んでくいつでも
まったく悲しくならない"Come Together"

 当然の話、いかなるインディ・ミュージックも、それがただ単にインディである、というだけの理由で称賛することはできない。それは単に、権威主義に負号を付した形式主義に過ぎないからだ。とはいえ、結果として、そこに一定の傾向があるのも否定しがたい事実だろう。「彼ら」は身を挺して、いまでもポップ・ミュージックの試行錯誤を繰り返している。しかも、誰よりも楽しそうに。先月4日に発売された本誌の紙版『vol.5』で、〈Maltine Records〉を軸とした、この国のインディ・ポップの一場面について書いたが、それは、ゼロ円音楽がいくつかの意味で決してメジャー・レーベル・ミュージックに劣っているわけではないこと、そして、このダウンロード文化が欧米の専売特許ではないことを証明している、そういう話だ。したがって、未練がましく昨年のアルバムを紹介するのはなるべく控えようと思う。もっとも、これに関しては『ele-king』的にもスルーをしてはいけないインディ・ポップだと思うので、どうか大目に見てほしいのだが(発売は半年以上前!)。

 さて、本稿の主人公であるウィークエンドは、90年代のリアル・タイマーとして、あの時代の遺産を引き継ごうとする。メンバーの泉水マサチェリー(@masacherry)、MC転校生、MCモニカは、90年代をほぼきっかりとティーンとして過ごし、20代を折り返したゼロ年代の後期から活動を本格化させている。あるいは遅咲きの部類かもしれないが、そのポップ・センスにはまだフレッシュな輝きが宿っている。活動拠点は世田谷、ということだが、音楽的には、ファンクやディスコのカラフルなミックスで、あまり好きな表現方法ではないが(ウェブ上で接触できる音源が少ないので仕方がない)、"スチャダラパー×フィッシュマンズ×□□□(クチロロ)"となるだろう。ヒップホップ、ブレイクビーツ、レゲエ・ポップ、チープ・ディスコ、J-POP、アイドル・ポップ、そこにおセンチなメロディ、それを乗せる歌とラップがラフに、だがしっかりと撹拌/混合される。端的に言って、センスを感じる。レコード中毒者特有の、ヒップでドープでポップな、「製作者である以前にマニア・リスナーだ!」というあのセンスだ(彼らのmyspaceで過去曲を参照のこと。"また夏が来る"は再音源化希望!)。

 とはいえ、90年代的な雑食趣味が、ポスト・ゼロ年代の焼け野原において、そのまま素朴に復権されるほど単純な時代でないこともたしかだろう(そのためには細分化/複雑化しすぎている)。実際、ツイッターにおける書き込みを見ていると、トラック・メイクなど、グループの根幹を担う泉水は、チルウェイブにもさしたる関心はないようだし、ベタともいえるポップ・メロディに対して、今なお大きな信頼を寄せている。その点からすれば、ウィークエンドを単に保守的なポップスと一蹴することも、あるいは不可能ではないだろう。だが、自分の出自とは関係のないトレンドよりも、自らの音楽体験に忠実であろうとする泉水の態度を、私は好ましく思う。とくに、この世代のミュージシャンがファンク/ディスコに対してこれほどまでに執着を見せる点は興味深い(これまた山下達郎の影響?)。なお、それは前作にあたる総括盤『Pet Sounds』(2011)においてより顕著で、サマー・ポップのお約束をひとつひとつ消化しながら("PINK"はクラシック!→http://www.myspace.com/music/player?sid=80086212&ac=now)、ディスコの軽薄さを思う存分に満喫するその姿は、奇しくもベッドルーム・ディスコによる共犯的なナイーヴィティを愛したチルウェイブに対するコインの表裏のようだった。

いつだって僕らこんな風に
錯覚ばかりのデイバイデイ
くりかえされるこんなミュージックに
またあの夏を感じているのさ "夏をくりかえす~Playback Summer, ENDLESS~"

 そして、昨年発表されたのが本作、『LEISURE』である。その開放的なタイトルを裏切るように、これまで描いてきた恋、夏、海、女子というクリシェの無根拠なアッパーさを捨てて、彼らはある種のダウナーさを選んでいる。少年期の延長を断念せざるを得ないような憂いが漂い、そのせいかメロディは甘さ控えめの微糖仕様となり、サウンド・プロダクションには砂糖やミルクの代わりに、なにかケミカルなものが混入されている。そう、スケベなヒップホップ・ディスコから、バッド・トリップ上等の、ドラッギーなヒップホップ・ダブへ。ファンク・ギターとスクラッチがビンビンに跳ねるヘビーなアシッド・ファンク、"Come Together"はその変化の象徴だ。
 また、夏休みの最終日が持つ焦燥感を無限にリピートするようなサマー・ディスコ、"夏をくりかえす"。そして、元フィッシュマンズの柏原譲(アルバムのマスタリングにも携わっている!)がベースを弾くスペイシーなメランコリック・ダブ、"オトナのビート"は本作最高のチル・アウトで、さらにはすぐに彼のものとわかるの浮遊感が心地いい、トーフビーツによる半覚せい的なティーン・ポップ、"SKIRT"は、彼らのポップ・ポテンシャルをまざまざと見せつける。情感に富む詩作も良いが、それをそのままでは聴かせない、どこか茶化したような3人の声色、キャラ立ちまくりのマイク・リレーがまた良い。言わばそのどれもが、遠ざかる思春期への悪あがきとして花咲いているのだ。

 おそらくは、と留保して言えば、彼らには現行のシーンに対する不満があり、おそらくは相応の野心もあるはずで、それはかつてゴールデン・エイジを築いた優れたポップ・ミュージックが、いまやマーケットのニッチ・ゾーンに追いやられ、言わばセミ・ポピュラーの領域に甘んじてしまうことへの憤りのようでもある(本作にはフラストレーションが通底している)。だからこそ、(悪く言えば)未練のようなその頑固な愛情が、彼らの音楽を歴史に繋ぎ止めようとしているのだろうし、過去への敬意は尽きないのだろう。とはいえ、彼らの先輩格に当たる□□□がたどり着けた場所と、たどり着けなった場所とを思うと、いまの時代は彼らに冷徹に振る舞うかもしれない。だが、そんな悲観に先回りした上でも、これは応援したくなる存在だ。更新されるべき現在と、引き継がれるべき過去とがあるのなら、いっそどちらも背負ってしまえ。こんなに遅れて取り上げておいてなんだが......今後の展開に期待したい。グッド・ラック!(いま現在、最新のプロジェクトはこちらを参照。→http://www.youtube.com/watch?v=NoUolfbyn5E

竹内正太郎