ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Loraine James ロレイン・ジェイムズの“ポップ”な冒険 | ——来日直前インタヴュー
  2. Vladislav Delay Quintet - Vd5 | ヴラディスラフ・ディレイ
  3. Columns Boards of Canada ボーズ・オブ・カナダの帰還  | ──その軌跡、その影響、そして13年ぶりの新作『Inferno』をめぐって
  4. UKインディ・ロック入門──ポスト・パンク、ギター・ポップ、スカとダブ編
  5. Fusion Core ──1999年のデビュー・ミニ・アルバムがアナログ化
  6. Columns Boards of Canada ボーズ・オブ・カナダの帰還 | ──その軌跡、その影響、そして13年ぶりの新作『Inferno』をめぐって(後編)
  7. Columns Jeff Parker ジェフ・パーカー・ETAカルテットの挑戦 | ──原雅明と蓮沼執太による対話
  8. R.I.P. 横田進  | Susumu Yokota / ススム・ヨコタ
  9. Crack Cloud ──カナダのインディ・バンド、クラック・クラウドの来日公演が決定
  10. Brian Jackson - Now More Than Ever | ブライアン・ジャクソン
  11. interview with Mouse on Mars 僕たちはダブを、ジャンルではなく社会的なものとして捉えたい | ——リー・ペリーとの共作を発表したマウス・オン・マーズ、インタヴュー
  12. Loraine James - Detached from the Rest of You | ロレイン・ジェイムズ
  13. 異次元の常識──パンク/ハードコアの思想とメッセージ
  14. Cornelius ——コーネリアスのライヴ・ドキュメンタリー映像「“Dream in Dream” Tour Document Episode 1」公開
  15. EACH STORY -THE CAMP- 2026 ──自然のなかで「深く聴く体験」を追求するイベントが今年も開催
  16. Tocago、恵比寿KATAにて待望のワンマン・ライヴ開催を決定
  17. The Leaf Library - After the Rain, Strange Seeds | ザ・リーフ・ライブラリー
  18. GEZAN - I KNOW HOW NOW
  19. FESTIVAL FRUEZINHO 2026 ──気軽に行ける音楽フェスが今年も開催、マーク・リーボウ、〈Nyege Nyege〉のアーセナル・ミケベ、岡田拓郎が出演
  20. interview with Silent Poets 12年分のエモーション

Home >  Reviews >  Album Reviews > Power Animal- Exorcism

Power Animal

Power Animal

Exorcism

Human Kindness Overflowing / Crash Symbols

Cosmic Sound

Cosmic Sound

VHS Vision

Crash Symbols

iTunes

竹内正太郎   Dec 06,2012 UP

 それは、はじまりのはじまりなのか? それとも、終わりのはじまりなのか?
 そう、昨今のポップ・ミュージックをめぐる膨大な情報量は、すでにひとりの人間が取捨選択できる量を物理的に超えている。極めて原始的な状況だと言えるが、もちろん、ある意味ではこの上なく健全な状況になったとも言える。そう、底が完全に抜けてしまった焼け野原のような場所で、わたしたちは自分たちの現在地を新しい方法で確かめつつあるように思う。ここで重要な機能を果たしているのが、(いまさらながら)レーベルだ。星の数ほど存在する無数の音楽を最低限のサイズの輪のなかでグループ化する、中間的なコレクティヴとして、それは間違いなく復権している(2012年、欧米の先進的なウェブ・メディアでは「レーベルズ・オブ・ジ・イヤー」が積極的にセレクトされている)。
 たとえば、ヴェイパーウェイヴのセル化で話題を呼んだ〈ビア・オン・ザ・ラグ〉、その母体とも言える〈AMDISCS〉、ジュークにハマっている日本のトラック・メイカー、食品まつり a.k.a. foodmanのリリースを行ったことでも知られる〈オレンジ・ミルク・レコーズ〉など、ウェブ・レーベル以降の流れを踏まえつつ、日本のレコード・ショップでもフィジカル作品が流通するレーベルはいまや少なくない。もちろん、他に挙げだしたらキリがないが、そこに一貫しているのはその「一貫性/整合性のなさ」である。ほとんどのレーベルが、最初からオムニバス的なセレクト・ショップとして立ち上がっている。
 〈クラッシュ・シンボルズ〉も、2010年の創設以降、「Dope F**k」を標榜しているアメリカの新興(在宅)レーベルだが、ヒップホップからガレージ・ロック、テクノ、サンプリング・ポップ、その他アヴァン・ポップなどをカセット/ヴァイナル/MP3でリリースし、そこに整合性らしい整合性はない。インタヴューも何本か発表されているが、「〈クラッシュ・シンボルズ〉は、わたしたち(複数のオーナー)の美意識の重なり合いなんだよ」という言葉が象徴的だろう。いいと思ったら何でもやる、というわけだ。

 今日はそのうち、2012年にフィジカル・リリースされたアルバムを2枚、紹介しよう。まずはテキサスのトラック・メイカー、スティーブン・ファリスがコズミック・サウンド名義で(元々は2010年に)発表した『VHSヴィジョン』だが、簡潔に言うなら、これは〈ノット・ノット・ファン〉と〈ニュー・ドリームス・リミテッド〉のミッシングリンクである。ゴーストリーなローファイ・ファンク(ディスコ)と、1990年代的な終末論とインターネットへの期待感を反省的に仮視する、ヴェイパーウェイヴ的なシンセ・ポップ、あるいはスクラップ処分されたローファイ・ハウスのような音を立ち上げる。2012年によって発見された、2010年の知られざる問題提起、いわば早すぎた2012年の断片である。
 また、キース・ハンプソンと兄弟/友人によるユニット、パワー・アニマルの『エクソシズム』は、アニコレ以降のインディ・ポップに、サンプリングと生演奏をチャーミングに結びつける。自身のレーベル(と言ってもバンドキャンプのアカウント?)からリリースされている前作『ピープル・ソングス』(2011)も、よりバンド演奏に重心を置いた素晴らしい内容で、少し前なら「音楽の編集能力」などと言ってもて囃されたであろうセンスが、いまや「name your price」でゴロゴロしていることを知る。そしてそのことを、他でもなく彼自身が理解しているがゆえに、わかりやすい「アガリ」を設定しないのだろう。『エクソシズム』は、飽和した音楽の情報網がバグとして排出した、あるいは不要になったMP3データが山ほど突っ込まれた、デスクトップの片隅に配置されたごみ箱が奏でるシンフォニーである。

 「コンピュータ、インターネットなどは、音楽へのアクセスを簡単にしたし、音楽を作るのを簡単にした。だから、ひとつの音楽に支配されることは、わたしたちが生きているあいだはきっとないと思う。それは悪いことかしら? いいえ、いいこともたくさんあると思う。」――米音楽メディア『ピッチフォーク』の編集者、エイミー・フィリップは、本誌のインタビューにかつてそうコメントしている。音楽流通の革命的な合理化は、様々な物語(時代を象徴するカリスマ? とか)をわたしたちから奪った、ということにされているが、わたしたちがたどり着きつつあるのは、島宇宙の乱立による物語なき閉塞などではない。そこには希望とも取れる新たな風景が広がっている。
 わたしたちが卒業したのは、多数決という野蛮なシステムであり、いま、時代を定義づけるような大衆文化の社会現象というものが、音楽の担うべき役割から完全に離れつつある、それを何年かかけて確認したに過ぎないのではないか。かつて成立していた「ポップ(多数)」は瓦解し、その残滓が「サブ(下位)」へ細かく再分配されるのは、もう避けられない。それは、より端的に言えば、「良い/悪い」の話ではなく、単に踏まえるべき圧倒的前提である。だとすれば、私たちリスナーに求められるのは、ポップの捏造的な再興を望むことではなく、どれだけ細部にまで愛をもってコミットできるかではないか。たとえそれが、どんなに小さい世界であっても。
 いい時代が来たなと、私は心から思っている。

竹内正太郎