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Vince Staples

Hip Hop

Vince Staples

Summertime '06

Def jam

Tower HMV Amazon

三田格   Aug 07,2015 UP

 トレイヴォン・マーヴィン射殺事件やファーガソン事件など、フレイヴァー・フレイヴの時計はこのところ勢いをつけて逆回転を続けている。時計の針は50年前のロング・ホット・サマーまで戻るのか、それとも150年前の南北戦争まで後退してしまうのか。今年、5月にはやはりフレディ・グレイが警官に射殺され、ストリーミング・サイトからあらゆる音源を引き上げるなどインターネットとの相性の悪さを強調してきたプリンスがデモ隊を応援するために珍しく“ボルティモア”をサウンドクラウドにアップ、当地でのライヴの模様をジェイ・Zのサイト、タイダルからフリーで中継し、グレイの名にちなんで灰色の衣装を着込んだりしていた (プリンスとの共同作業を喜んだジェイ・Zとビヨンセは同時に遺族の元を訪問も)。

 6月にはサウス・カロライナ州にある黒人たちの教会で9人がディラン・ルーフ容疑者(21歳)によって射殺。州境で逮捕されたルーフの車には南部連合の旗が取り付けられてあったために、公共の建物から南軍旗を引き摺り下ろせという声が広がった。この動きに過剰反応を示した元KKKのメンバーがミズーリ州など近隣の州でも黒人たちの教会に火をつけるという騒ぎが相次ぎ(そのうちのひとつは後に自然発火と判明)、サウス・カロライナ 州議会の建物から南部旗が撤去された後も、モダンKKKとアメリカのしばき隊みたいな人たち合わせて2000人余が衝突、5人以上が逮捕されている。その後もサンドラ・ブランド、サミュエル・デュボーズと黒人の射殺事件は全米各地でいまだ途絶えず、いま、アメリカでは「BLACK LIVES MATTER」(黒人たちの命も大事)というプラカードが掲げられることが増えてきた。あるいは「ザ・ブラック・ライヴス・マター」ムーヴメントの発端は アリシア・ガーザ、パトリス・カラーズ、オパル・トメティによって提唱された明確な政治運動で、8月5日現在、23人の死者を対象としたものだともされている(詳しくは→https://en.wikipedia.org/wiki/Black_Lives_Matter

 このような時代のサウンドトラックは明らかにケンドリック・ラマーだろう。クリーヴランドでは6月に警察のいやがらせをテーマとしたラマーの“オールライト”をデモ隊が合唱し、クリス・ロックが監督した『トップ・ファイヴ』のDVD特典の映像を観ると、ラマーの登場が時代の差を表す象徴のように言及されているシーンもあった(「トップ・ファイヴ」という「タイトルは黒人の男たちが集まるとラッパーのベスト5は誰かを言い争うことが多いことからつけられている。同じく特典映像ではティナ・フェイのシット・コム『30ロック』で名を挙げたコメディアン、トレイシー・モーガンが1位にエミネムの名を挙げ、みんなから大ブーイングを受けるシーンもおもしろい。ちなみに同作のエグゼクティヴ・プロデューサーがまたジェイ・Zとカニエ・ウエストだったり)。

 ……と、ここまで書いてきてなんだけど、僕はどうもケンドリック・ラマーのサウンドが苦手である。同じウエスト・サイドでも笑いを忘れたディジタル・アンダーグラウンドにしか聴こえず、あまり長くは楽しめない。趣味の問題なのでディスりたいわけではないし、盛り上がれる人はそれでいいと思うんだけど、代わりに僕の耳に飛び込んできたのは同じカリフォルニアでもヴィンス・ステイプルズ。すでにオッド・フューチャーの準メンバーのように扱われ、「目標は音楽で人々を不快にさせること」という発言が物議を呼んだこともある。そして、昨年、サウンドパトロールで取り上げた「ブルー・スエード」がすでにして片鱗を漂わせていたものの、思ったより早く届けられたデビュー・アルバムではヴァージン・プルーンズを思わせるエソテリックなサウンド・ループがこれでもかと咲き乱れていた。なんとも呪術的な“ノーフ・ノーフ”やトライバルというにはあまりにオドロオドロしい“ドープマン”など、ヒップ・ホップのプロパーじゃないから楽しめるのかなと思うほど、メインストリームでは見当たらないサウンド・プロダクションばかりが並んでいる。闇の中を蠢くような“ブライズ&ビーズ” のベースラインもじつにカッコいい。アルバム全体を少しばかりスクリュードさせたユーチューブのヴァージョンもけっこうハマる。

 英語で書かれたレヴューを読むと、しかし、「アイス・キューブの再来」などと書いている人もいたので、あれ、もしかすると、コンシャスというにはあまりに暴力的ながら、ファーガソン事件のことにも言及してるみたいだし、ケンドリック・ラマーからものスゴく遠いところにいるわけではないのかもしれない。歌詞カードどころか盤には曲名も記載されていないので、よくわからない。調べてみると生い立ちはかなり悲惨。墓場で流れているようなサウンドにはそれなりの理由がべったりと貼り付いているのかも。


三田格