ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Masaaki Kobayashi ──小林雅明による書籍『ヒップホップ名盤100』が発売中
  2. K-LONE - sorry i thought you were someone else | K-ローン
  3. Geinoh Yamashirogumi ──芸能山城組『輪廻交響楽』がリイシュー、14日には再現ライヴも
  4. 『ユーザーズ・ヴォイス』〜VINYLVERSE愛用者と本音で語るレコード・トーク〜 第三回 ユーザーネーム:Kang / 中尾莞爾さん
  5. Kazumi Nikaido ──二階堂和美、14年ぶりのオリジナル・アルバムがリリース
  6. ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー『Tranquilizer』試聴会レポート - @原宿・BEATINK Listening Space
  7. NEW MANUKE & Kukangendai ──京都のレーベル〈Leftbrain〉から刺激的な2作品がリリース、ニューマヌケ初のアルバムと空間現代のリミックス盤
  8. Ellen Arkbro - Nightclouds | エレン・アークブロ
  9. Columns 11月のジャズ Jazz in November 2025
  10. Oneohtrix Point Never - Tranquilizer | ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー
  11. claire rousay - a little death | クレア・ラウジー
  12. interview with Kensho Omori 大森健生監督、『Ryuichi Sakamoto: Diaries』を語る
  13. Oklou - choke enough | オーケールー
  14. Geese - Getting Killed | ギース
  15. VMO a.k.a Violent Magic Orchestra ──ブラック・メタル、ガバ、ノイズが融合する8年ぶりのアルバム、リリース・ライヴも決定
  16. Lucy Railton - Blue Veil | ルーシー・レイルトン
  17. Columns なぜレディオヘッドはこんなにも音楽偏執狂を惹きつけるのか Radiohead, Hail to the Thief Live Recordings 2003-2009
  18. TESTSET - ALL HAZE
  19. K-Lone - Swells
  20. アンビエント/ジャズ マイルス・デイヴィスとブライアン・イーノから始まる音の系譜

Home >  Reviews >  Album Reviews > Toro Y Moi- What For?

Toro Y Moi

PsychedelicRockSoul

Toro Y Moi

What For?

Carpark / ホステス

Tower HMV Amazon

デンシノオト   Aug 10,2015 UP

 トロ・イ・モワの4枚めのアルバムにして新作『ホワット・フォー?』を聴いていると、不意にジョージ・ハリスンが遺した70年代中期以降のソロ・アルバム、とくに『慈愛の輝き』(1979)を思い出した。とくにどこが、というわけではなく、アルバム全体を包む陽光のようなイメージゆえだろうか。もしくはアルバム1曲め“ホワット・ユー・ウォント”が、『慈愛の輝き』収録の“ファースター”の冒頭に似ているからだろうか(エンジン音!)。

 いや、もちろんそれだけではない。大切なのは、流行との距離の取り方である。ジョージの『慈愛の輝き』がリリースされた1979年は、ざっくりいえばパンクからニューウェイヴ、ディスコからテクノポップまでも人気を博し、ポップ/ロック・ミュージックが更新され、分岐点ともなった年だ。そんな年にリリースされたにも関わらず、『慈愛の輝き』にそれらの影響は感じられない。彼は時代や流行に左右されず自分自身の音楽を作っていた。
 だが、いま聴き直すとシンセの音色などに不思議なほどに1979年感を感じられるのも事実である。その音色に、AOR感覚が潜んでいるからだろうか。つまり、AOR~ディスコ~初期テクノポップと共通する、あの時代の音色が『慈愛の輝き』にもたしかにある。一聴、それと分からないように。
 この慎ましさ、趣味の良さこそジョージ・ハリスンの魅力だ。同時に彼のソロ作品は、ほかのビートルたちのソロ作品と比べても、意外なほどに時代の音を吸収していることが分かる(ジェフ・リンをプロデュースに迎えた『クラウド・ナイン』など)。
 そもそもジョージはビートルズ時代に、シンセセイザーやシタールなどを導入した張本人ではなかったか。最初のソロのアルバムは誰も望んでいない(であろう)実験音楽風の電子音楽だった。この新しいものへの嗅覚の確かさ。それを直接的には導入せず一捻りする趣味のよさ。

 トロ・イ・モワにも同様のセンスを感じたのだ。私が彼の才能を確かなものと認識したのは、2011年の『アンダーニース・ザ・パイン』であった。当時はチルウェイヴ人気の中で消費されていた印象だが、このアルバムはソフトロック、ブラジル・ミュージック、ソウル、60代後半のサイケロックなどの音楽性を包括した稀有な作品で、過去と現在をミックスする90年代的音楽の後継のようにも思えたものである。
 ゼロ年代は、ポップ・ミュージックの歴史においても80年代と同様に不思議な空白地点になっており、そんな中、『アンダーニース・ザ・パイン』の、ごく自然にポップ・ミュージックの歴史に向かい合う作風は大変に心地良かった。歴史の継続性を重視し、自然に音楽を作る。むろん流行を否定するわけでもないが、積極的に導入しているわけでもない。その趣味の良さ。それは『ホワット・フォー?』でも同様だ。

 流行とはいえば、2015年は、ダフト・パンク『ランダム・アクセス・メモリーズ』(2013)以降の環境が決定的なものになる年ではないか。つまり「1970年代中盤以降のディスコ・ミュージックの2010年代的なリヴァイヴァル」の影響である。たとえばテーム・インパラ『カレンツ』などは、まるで「60年代のサイケバンドが70年代後期にディスコ・ミュージックを取り入れてリリースしたアルバム」のような趣だ。
 この『ホワット・フォー?』は、『カレンツ』と並べられる作品に思えるが、実際はそうはなっていない。一聴してわかるように流行を積極的に取り入れてはいないからだ。オーセンティックなサイケロックそのままに、その音楽性をきちんと成熟させた作品に仕上がっている。その結実が、ビートリッシュな名曲である9曲め“ラン・ベイビー・ラン”だろう。
 むろん、2曲め“バッファロー”などの楽曲、シンセの扱いや、67年のビートルズのような4曲め“エンプティ・ネスターズ”の中間部に挿入されるディスコ調のパート、さらには7曲め“スペル・イット・アウト“などに、「RAM」以降のテン年代的なディスコを咀嚼した要素も感じるのだが、太陽の輝きのようなメロディやサイケデリックな演奏の力が強く、流行との絶妙な距離感がある。

 たしかに初期のチルウェイヴ路線のままであれば、『ホワット・フォー?』も今の時代を代表する作品になったかも知れない。が、彼はそんなことに興味はないのだろう。彼は彼の音楽を作っている。この眩い陽光のような音楽を。ラスト曲“ヤー・ライト“のアウトロ部分のストリングス、それはまさに慈愛の輝き/永遠の愛のようである。

デンシノオト