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Arca

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Arca

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木津 毅、橋元優歩   Nov 16,2015 UP
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禍々しい美
木津毅

 faggot、すなわちカマ野郎――という言葉が消えていく。性の多様性が正しいこととなっている現在において、不適切な単語はより無難で口当たりの良いものによって覆い隠されていく。まるで「カマ野郎」への侮蔑も消え失せてしまったかのように……。だが、まだそのワードに出くわすところもある。インターネットと、そしてアルカの新作である。
 アルバムの最後から3曲めに収められた、アルカにおけるアンビエンスがより追求されたそのトラック、すなわち“ファゴット”がなぜそのタイトルとなったのかまず自分は引っかかった。抽象的かつインダストリアルな感触の残るビートと複雑に折り重なっていくように鳴らされるほのかに東洋的なメロディとピアノの単音。アルカの入り組んだ美への探究は明らかにここで繊細な進化を見せている。このトラックを“ファゴット”と名づけずにはいられないところに彼のアーティストとしての姿勢が見て取れるが、これに呼応するのはアルバム・タイトルでもある“ミュータント”だろう。そこで金属音は地を這いずり回っている。それはミュータントなる生命体がもがき苦しんでいる姿が音像化されたようであり、そしてそれはもちろん、前作のタイトル『ゼン』から連なる、無性の生命体――アレハンドロ・ゲルシが変身した姿である。

 その作品においてセクシャリティが抜き差しならない問題となっている点、あるいは進んで異形の者であろうとする点において、アルカは現代のエレクトロニカにおけるアントニー・ハガティである。『ゼン』においてはおもにアートワークからその連想をしたのだが、『ミュータント』においてはむしろ音からそのことを思う……よく歌っているアルバムだからだ。もちろん、相変わらず圧倒的な情報量がおもにビートにおいて分裂的に次々と姿を変えていくのだが、ゲルシが奏でるメロディはトラックによって色を使い分ける彼自身の声のようであり、それらは本作でよりダイレクトに体感できる。4曲め、“シナー”でガシガシした打撃音の上からピアノの音が降り注いだかと思えば、“スネイクス”や“フロント・ロード”のようにはっきりとしたメロディ・ラインが牽引するトラックもある。そしてそれらはとてもエモーショナルだ。内省的だった『ゼン』と対比すれば、ファッション・ショウのために書き下ろされたためある意味で企画ものだった『シープ』を挟み、より外交的でそのポップ・センスが磨かれたアルバムだと言えるだろう。ほぼノン・ビートの“エルス”の静謐さなどに顕著だが、クラシックへの素養をさらに前に出し、その優美さも高めている。チェンバロやハープを思わせる音色。“グラティテュード”から“エン”へと至る、荒々しく吹き荒れるエディットのなかで陶酔的なメロディが宙を回り続けるときの息を呑むテンションこそが、アルバムのピークを描いていく。それはミュータントのエクスタシーだ。
 アルカ本人が出演する本作の一連のヴィデオによく表れているが、身体ごとさらけ出し、自身の深い、そしてたぶんに抑圧されていた官能をゲルシはここで解放し飛翔させようとする。OPNやD/P/I/よりもストレートに感情のひとだろうと思うし、その異物感において、オート・ヌ・ヴの『エイジ・オブ・トランスパレンシー』の狂おしさと並べられるものであるとさえ思う瞬間もある。前提として自らを忌避されるような存在――「ファゴット」と呼ばれるような――と規定し、ときに過度にグロテスクなものとして現れつつ、しかしそこから立ちのぼる禍々しい美でアルカはわたしたちを引きずりこんでしまう。

木津毅


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