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大野松雄 × 3RENSA

ElectronicExperimentalNoise

大野松雄 × 3RENSA

space_echo by HardcoreAmbience

Pヴァイン

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デンシノオト   Jun 15,2020 UP

 宇宙のエコー、それは聴覚の拡張を夢想する無限のサウンド・ウェイヴか。もしくはイマジネーションが生む音楽の抽象性への生成変化の渦か。そう、本作『space_echo by HardcoreAmbience』には、シュトックハウゼンからディック・ラージメイカーズ、安部公房から樋口恭介、カールステン・ニコライからワンオートリックス・ポイント・ネヴァーまで、20世紀後半以降、つまり最初期から最先端の電子音楽までが夢想、希求してきた「ここにはない未知の音」が横溢している。まるでサウンド・イマジネーションの記録/記憶のように。

 日本のサウンド・デザイナーとして歴史的な存在といえる大野松雄による代表作『鉄腕アトム』の音響デザインの頃から変わらぬ電子音の人なつっこい蠢きに、3RENSA の3人、つまりノイズ・ミュージック神のメルツバウによる硬質なノイズ・電子音が、アンビエント作家ダエンによるアトモスフェリックな音響が、ポップからエクスペリメンタルを越境するナカコーニャントラによる創意工夫に満ちたサウンドが、大胆に、緻密に、繊細に、自由自在に交わっていく。世代も活動領域も超えたアーティストたちが、それぞれのサウンドに反応し、音を出す。3人と1人による電子音の交錯には「反応と非反応の応答」が感じられた。それは他が発している音を聴くこと/聴かないことの往復にも思える。つまりはセッションということなのだが、一回限りということでもある。ここに本作が2020年1月に天王洲アイルにて録音されたライヴ録音のパッケージングという意味がある。われわれはこの4人の反応と応答と無意識の繰り返しを、この銀盤で繰り返し聴くことができるわけだ。

 加えて私には本セッションの大野松雄のサウンドが、本作品/本セッションの「無意識」を規定しているように思えてならない。2曲め “space_echo02” が大野松雄による単独セッションということだが、このトラックを聴くと、本作のオリジンを遡行するような感覚になってくるし、4人のセッションにおける無意識が聴こえてくるかのようだ。このアルバムにおいて大野のテープ・サウンドは、秋田やダエンやニャントラのサウンドレイヤー/演奏に影響を強く与えているように感じられる。いわば20世期的な実験音響、電子音楽の無意識のように作用しているとでもいうべきか。20世紀電子音楽を一気に駆け抜けていくような感覚を得ることすらできたほどだ。言葉を変えればバンドとして次第に洗練化してきた 3RENSA に、大野が異物として介入することで、その音響空間を拡張するような役割を果たしているようにも思えた。それを象徴する演奏が26分10秒に及ぶ1曲め “space_echo01” だろう。20世紀の電子音楽が希求した宇宙の残響のように未知の音が、2020年現在の音響として生成し、融解し、戯れ、衝突する。そこからやがて新たな電子音が生まれ、具体音とコラージュされていく。いつしか無限のような音の渦が巻き起こるのだ。

 本作を聴いて私が想起したのは Dick Raaijmakers/Tom Dissevelt のボックスセット『Popular Electronics: Early Dutch electronic music from Philips Research Laboratories, 1956-1963』と、高橋悠治+佐藤允彦『サマルカンド』である。20世紀中盤、いわばミッドセンチュリーの電子音楽と、電子音とシンセサイザーによる即興演奏の記録でともいえるこの二作を聴くことで、本作『space_echo by HardcoreAmbience』がいかに20世紀的な電子音楽の記憶を継承しているのか、その系譜にあるのかを理解できるのでは、と思う。

デンシノオト