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シャドウとかもレア・グルーヴのほうへいったし、カムはよくわからなくなったし。その中でクラッシュさんだけ我が道を行く感じだったじゃないですか? だから一番好きでしたね。

野田:人前でDJをやるようになったのはいつ頃からなんですか?

E:さっき忘れたとか言ってたけど、ちょうどその頃だから20歳くらいですかね。池袋のマダム・カラスとかに出てました。あのホント怪しいとこで(笑)。BLYYのパーティとかで DJ してましたね。

野田:ENAさんは本質的にダンス・ミュージックのDJというイメージがあるんですが、ダンス・ミュージックにのめり込んでいったきっかけは?

E:うーん、まずバンドってひとりじゃできないじゃないですか? 人が必要だから、それが嫌になってひとりで完結するものをやりたかったんです。その頃はラップトップでライヴをするっていうのいが一般的ではなくて、DJがそれに取って代わる表現方法だった。最初から自分のトラックをかけたりしてました。

野田:曲を作るのとDJをはじめたのが同時期ですか?

E:俺の場合は曲を作りはじめた方が先ですね。

野田:ちなみに最初はやっぱりサンプラーから?

E:そうですね。DJクラッシュが使ってたからアカイのS1000とかですね(笑)。まだ持ってますよ。いろいろ高かったな。メモリが8メガで10万しましたからね。いまはパソコンだけで作ってます。

高橋:それで最初のリリースが2006年になるわけですね。ドラムンベースの作品でした。

E:そうですね。〈FenomENA〉から出た、SoiのDxさんが母体のコンピレーション『Tokyo Rockers: The Best of Japanese Drum & Bass Vol.1』に参加しました。それにはマコトさんも入ってたし、レーベルからはブンさんとかも出してましたね。
 そのころカーズとかと出会ってログ・エージェント名義で出したりしてたかな。

野田:そのころ目標にしていたDJとかはいますか?

E:それはやっぱりクラッシュさんですよ。結局あのあとに続いた人ってだれもいなかったじゃないですか? シャドウとかもレアグルーヴのほうへいったし、カムはよくわからなくなったし。そのなかでクラッシュさんだけ我が道を行く感じだったじゃないですか? だから一番好きでしたね。

野田:ちなみクラッシュさんの作品で一番好きなのは?

E:うーん、やっぱりセカンド(『ストリクトリー・ターンテーブライズド』94年)ですかね。

野田:当時のクラッシュさんですごいと思ったのが、“ケムリ”みたいな遅い曲をセットのクライマックスに持ってくるところですよね。

E:リキッドみたいなキャパのあるハコでもあれでピークが作れるのがすごいですよね。

野田:テクノやハウスのDJにはパーティをサポートするっていう意識が多かれ少なかれあると思いますが、クラッシュさんはそうじゃなくてDJを自分の表現だと捉えていました。

E:だから正式にはDJじゃないかもしれないけど、あのスタイルでレコードを使って表現するっていうことからのインパクが強かったんですよ。

野田:ENAさんの目指すべき方向はいまでもそこにありますか?

E:いまもパーティの一部でDJをしているかって言われるとそうでもないですね。たぶん、いま認知のされ方が好き勝手やる人って思われている節があると思う。

曲を作る人なら誰しもそうだと思うけど、人と違うものを作ろうっていうのが基本のスタンスだと思うから、いわゆるダブステップを作ることはしなかったんですよ。

野田:自分のDJスタイルはダブステップによってできあがったと思いますか?

E:そう思います。ダブステップのダブプレート・カルチャーだったりとか、そこで一気にのめり込んだ感じです。ただ、ダブステップがピークの2008、9年とかも俺は普通にドラムンベースをやっていました。ドラムンベースをやめた時期ってないんですよ。だから、自分のスタイルができつつあったときにダブステップが出てきた印象です。
 去年の『バイラテラル』とか140BPMのダブステップ的なことをしてるけど、その頃もドラムンベースを継続的にリリースしていますね。〈サムライ・ホロ〉から出たEPもドラムンベースのアプローチで作ってます。

野田:自分のスタイルが確立しはじめたのはいつですか?

E:たぶん、〈7even Recordings〉から出しはじめたときからですかね。でもその前にロキシーとかと仲良くなりはじめてから徐々に変わりはじめました。「これって多分、だれもやってないよな」って思うようになったのは2010年くらいです。コンスタントにDJをするようになったのもそのくらいです。

野田:ENAさんは海外にも積極的に出向く数少ないミュージシャンですが、初の海外はいつですか?

E:2008年とかですね。当時はただ行こうっていう感じでした。DMZのアニヴァーサリーとかでハコの前の公演を2周くらいまわって人が並ぶとか、そういう情報だけがネットで入ってくる状態だったからそれを見なきゃダメでしょって思ったんですよ。子供の頃に旅行とかはしましたけど、音楽目的で行ったのは2008年ですね。とにかく現場はすごかったです。コイツらアホだって思いました(笑)。

野田:(笑)。どのへんがですか?

E:やっぱり人のパワーですよね。ディープなものをかけてもベースが入った瞬間のフロアは、はっきり言って狂ってた。それでゴス・トラッドがそこでやっていたりするわけだし。サージェント・ポークスがMCしないで酒ばっかり作ってるとか(笑)。その頃はもうネットで海外と交流もあったから行きやすかったですね。

野田:最初に気に入ったダブステップのプロデューサーは誰ですか?

E:誰ですかね……。エレメンタルとかはずっと好きでした。もちろんスクリームやデジタル・ミスティックズといった定番とされるアーティストも聴いていました。

野田:作っている曲にも表れているように、そういったアーティストの曲にはあまり入れ込んでいない印象でした。

E:曲を作る人なら誰しもそうだと思うけど、人と違うものを作ろうっていうのが基本のスタンスだと思うから、いわゆるダブステップを作ることはしなかったんですよ。ゴス・トラッドも自分が作ったものがダブステップになったわけだし、自分の音楽をやっているという感じですよね。〈サムライ・ホロ〉みたいなディープなドラムンベースも、もちろんオートノミックみたいなものもあったけど俺は前から勝手に作っていて、それがいまシーンから出てきているだけなんですよ。ブームに乗って曲を作ったことはないですね。

野田:ドラムンベースでは誰が好きなの?

E:俺はロキシーがずっと好きですね。DJとしても、プロデューサーとしても。

野田:UKガラージはどうでした?

E:俺はあんまりなんですよね。

野田:ギャングスタ・ラップが好きだったらワイリーみたなのもOKなのかと。

E:もちろん聴くには聴くんですけど、そんなにはまってないんですよね。インストになってからのほうが好きです。アブストラクトが好きだったから、やっぱり音響っぽさを求めてたんですよ。だからピンチやムーヴィング・ニンジャとか初期の〈テクトニック〉が好きです。UKガラージになってくると、音響っぽさがなくなってくるじゃないですか? 

野田:中学時代に聴いていたジミヘンやドアーズから、歌ものとかでなくて音で表現する方向へいってるのはどうしてですか?

E:うーん、全ては話せるわけではないけど、俺は仕事でJポップとかTVCMを作っていたりするんですよ。大物と言われるような人のアレンジとかも担当してます。だからENAとしての活動では歌ものをやりたくないんですよね。
 そういうのもあってギターだったり楽器の音は使い尽くされているって思いはじめて、これは自分が追求する音ではないかなって思ったのもありました。いまのプロダクションの基本スタンスとして、現存する楽器っぽい音を使わないようにしてるんですよ。わかりやすい音を使うのにちょっと抵抗がありますね。

野田:そういうパーソナルなことを抜きにして、能動的にアブストラクトなものが好きだというのもあると思うんですが、アンダーグラウンド・ミュージックはどこがいいんだと思いますか?

E: 音が単純に好きっていうのもありますが、アーティストがコントロールできる部分が多いことにも共感しますね。自分でレーベルをやっているやつもいるし、リリースまでの流れがダイレクトで早いじゃないですか? 

野田:ちなみにDBSに行って踊っていたほうですか?

E:あー、全然踊ってましたよ。汗かいてました(笑)。

一同:(笑)

高橋:想像できないな(笑)。ENAさんといったらいつもフロアの後方で腕を組んで音を聴いているイメージです。

E:もう10年くらい酒は飲んでないんですけど、その前は結構な飲んべえでしたからね。いまは酒もタバコもやらないです。

野田:それは音楽がその代わりになってるってことですか?

E:基本的に音楽がいいときって何もいらないですよね。また個人的な話ですけど、俺はフリーランスなんで急ぎの仕事に対応できるかって重要なんですよ。これをストイックと取るか、急ぎの仕事は割りがいいと取るかはお任せしますけれども(笑)。

取材:野田努、高橋勇人    写真:小原泰広