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Soccer96

ElectronicUK Jazz

Soccer96

Dopamine

Moshi Moshi

小川充   Oct 04,2021 UP
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 今年もサンズ・オブ・ケメットの新作『ブラック・トゥ・ザ・フューチャー』のリリースなど活躍が続くシャバカ・ハッチングス。そのシャバカが在籍するユニットの中で、ザ・コメット・イズ・カミングも彼中心に捉えられることが多いが、実際にはキーボード奏者のダナローグことダン・リーヴァースと、ドラマーのベータマックスことマックスウェル・ホーレットのふたりが土台となっている。
 ダンダナローグとベータマックスは2010年代初頭よりサッカー96というユニットをやっていて、そこにシャバカがゲストで共演することもあった。そうした中からトリオという形で発展したのがザ・コメット・イズ・カミングである。サッカー96自体はエレクトロニクス色の強いシンセ・ユニットで、そうした土台があるからこそザ・コメット・イズ・カミングのテクノやニューウェイヴに接続した新しいジャズが生まれてきたのである。
 また、サッカー96はSF志向の強いユニットでもあり、ザ・コメット・イズ・カミングのグループ名(彗星の飛来)もそうした志向に繋がるものだ。なお、サッカー96の名前にどのような由来があるのかは不明だが、イングランドでおこなわれた1996年のユーロ大会が何らかのインスピレーションになっていると思われる。

 サッカー96は2012年のファースト・アルバム以降、これまでに3枚のアルバムをリリースしている。ダナローグによるヘヴィーでアシッドなアナログ・シンセとベータマックスのドラムスによるコンビネーションが軸で、宇宙や未来をイメージしたサウンドを指向している。こうしたシンセ・ユニットの場合、リズム・トラックは大抵プログラミングとなるものだが、サッカー96の場合はベータマックスのドラムスの即興生演奏という違いがあり、それがジャズのフリー・インプロヴィゼイションとの接点でもある。ファースト・アルバムの『サッカー96』はドリアン・コンセプトチド・リムフライング・ロータスフローティング・ポインツリチャード・スペイヴンなどに通じるエレクトロニック・ジャズという趣の作品。そして、エレクトロニック・ジャズやビート・ミュージック、人力ダブステップや人力ドラムンベース調のナンバーなどのほかに、極めてポスト・パンク~ニューウェイヴ的なナンバーもやっていて、そのあたりがサッカー96ならではの特徴でもあった。

 セカンド・アルバムの『アズ・アボヴ・ソー・ベロウ』(2016年)にはシャバカもゲスト参加していて、ジャズ・ファンクやシンセ・ブギー、ニューウェイヴ・ディスコなどが合体したダンサブルなサウンドとなっていた。サード・アルバムの『リワインド』(2018年)はそれからするとアブストラクトで実験的な側面が強くなっており、モーリッツ・フォン・オズワルド・トリオあたりに通じるダブ・テクノのようなナンバーもあった。『リワインド』以降はエクスペリメンタル・ロック色を強め、スポークンワード・アーティストのアラブスター・デプラムと共演した「タクティクスEP」(2020年)をリリース。こうしたテイストはザ・コメット・イズ・カミングの活動にも影響を与え、『トラスト・イン・ザ・ライフフォーズ・オブ・ザ・ディープ・ミステリー』(2019年)の破壊性や衝動性へと繋がっている。

 その『リワインド』から3年ぶりのニュー・アルバムとなるのが『ドーパミン』である。先行シングルとなったタイトル曲の “ドーパミン” にはヌーハ・ルビー・ラーというアーティストがフィーチャーされるが、ムーア・マザーイヴ・トゥモアなどとも比較される最近のロンドンの異形の新人である。また、〈ブレインフィーダー〉から『デンカ2080』(2019年)をリリースして話題を呼んだサラミ・ローズ・ジョー・ルイスも “シッティング・オン・ア・サテライト” という曲に参加している。その『デンカ2080』には「2080年のディストピア(反理想郷、暗黒世界)な地球」というテーマがあったのだが、『ドーパミン』にも “パーフェクト・ディストピア” という曲があり、“プレリュード・トゥ・ジ・エイジ・オブ・トランスヒューマニズム” という曲では最新科学技術によって人体能力を進化させる「超人間主義」を描くなど、近未来における人類の明と暗がテーマとなったアルバムである。ジョーダン・ラカイの『オリジン』(2019年)もAIシステムの発達が引き起こすディストピアを描いていたが、昨今のアーティストがこうしたテーマをいろいろ用いているのも興味深い点である。

 “サイキック・メカニックス” はコズミックなシンセ空間とトライバルなドラムが融合した、まるで未来と太古がひとつになったような世界。“レッド・スカイズ・オブ・ジ・アントロポセン(人新世)” も同様に、抽象的でどこかアラビア音楽を思わせるシンセとアフロセントリックなリズムによって、重厚かつサイケデリックな世界へと誘う。ヴォコーダーを用いたディープなダウンテンポ・チューンの “エンタングルメント(物理学における量子のもつれの意が転じ、人間関係のもつれや鉄条網の意味でも用いられる)”、電化クルアンビンとでも評したいエレクトリックなジャズ・ファンクの “シッティング・オン・ア・サテライト”、アンドロイドなヴォイスが逆にソウルフルなムードを醸し出すエレクトロ・ファンクの “キャリー・アス・ホーム” など、同じSF志向でもダフト・パンクの対局にあるような世界がサッカー69である。宇宙空間を浮遊するような “インタープラネタリー・メディテーションズ” の一方で、“プレリュード・トゥ・ジ・エイジ・オブ・トランスヒューマニズム” はクラフトワークを数百倍もヘヴィーにしたような楽曲で、その重苦しさはブラックホールを連想させるかのようだ。そして、“ユーズ・ミュージック・トゥ・キル” の絶望的な暗黒感は “パーフェクト・ディストピア” と共に暗い未来を暗示する。この “ユーズ・ミュージック・トゥ・キル” や “ドーパミン” にはスロッビング・グリッスルやサイキックTVなどに繋がるムードが流れており、サッカー96のパンキッシュな精神を象徴する楽曲と言えるだろう。


小川充