ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Moodymann ──ムーディーマンの来日公演が決定、今年は東京と京都をツアー
  2. The Alchemist ──現代USヒップホップのキーパースン、ジ・アルケミストが来日
  3. Eden Aurelius - Entre Nous / emer ft. Ugnė Uma - You and Me | エデン・オーレリウス、エメル、ウグネ・ウマ
  4. Marcellus Pittman ──デトロイト・ハウス珠玉の逸材、マーセラス・ピットマンの来日ツアーが開催
  5. Boy Harsher - GET MEAN | ボーイ・ハーシャー
  6. Helen - Linda's Head | ヘレン
  7. aya × Violent Magic Orchestra ──初来日を果たす〈Hyperdub〉のアヤと、ブラックメタル・テクノ・プロジェクトVMOによる共同ツアー
  8. interview with Adrian Sherwood and Nightmares On Wax UKダブ・“トーク”・セッション | ――エイドリアン・シャーウッド×ナイトメアズ・オン・ワックス特別対談
  9. 別冊ele-king パンク50周年記念号──それは何だったのか、何でありえるのか
  10. AMBIENT KYOTO ──2027年春、レイ・ハラカミの展示が決定
  11. 細野晴臣 - Yours Sincerely | Haruomi Hosono
  12. Freddie Gibbs & The Alchemist - Alfredo  | フレディー・ギブズ、ジ・アルケミスト
  13. The Bug vs Ghost Dubs - Implosion | ザ・バグ、ゴースト・ダブズ
  14. Black Marble - Life in Small Spaces | ブラック・マーブル
  15. Columns ♯17:もしもパンクがなかったら ——その基礎知識と『パンク50周年記念号』刊行のお知らせ
  16. アンビエント/ジャズ マイルス・デイヴィスとブライアン・イーノから始まる音の系譜
  17. Gaku Kiishi ──『サイコ』『オーメン』『シャイニング』『リング』から『8番出口』『バックルームズ』まで、ホラー映画の音楽を分析する1冊が刊行
  18. R.I.P. 鷲巣功
  19. interview with Actress UKテクノ界の奇才が語るみずからの哲学 | ──アクトレス、インタヴュー
  20. Cornelius - Refractions | コーネリアス

Home >  Reviews >  Album Reviews > Lykke Li- Wounded Rhymes

Lykke Li

Lykke Li

Wounded Rhymes

LL

Amazon iTunes

野田 努   Mar 23,2011 UP
E王

 彼女は音楽家の父と写真家の母のあいだ、南スウェーデンで生まれた。一家はモロッコに住み、ポルトガルの山頂で暮らし、そして多くの時間をインドで費やした。現在24歳のリッキ・リーは、いわばヒッピー的な環境で幼少期を送っている。「自由がありあまっていたわ」と彼女は『オブザーヴァー』の取材に答えている。「それはまったくもって有害だったわ。飽き飽きしたし、だから私には故郷という感覚がないのよ。そう、私にはルーツがないの。世話をされたという感覚がないのよ。私は人を信用しない」
 「そして私は生存者なのよ」......こう続ける彼女の言葉がその記事の写真のキャプションとなった。リッキ・リーのバイオはどこかミシェル・ウエルベックの『素粒子』のようでもあるが、彼女は村上春樹を愛読しているらしい。ミケランジェロ・アントニオーニの『赤い砂漠』にも強く影響されたらしい。モニカ・ヴィッティは美しい。そして、彼女は初期のナズと2パックとビギーとMFドゥームに親しんでいる。

 2008年に発表されたリッキ・リーのデビュー・アルバム『ユース・ノヴェルズ』も、僕は『ビッチフォーク』で紹介するかどうか迷った挙げ句に最終的にリストから落としてしまった1枚である。アルバムが出た当時『リミックス』のレヴューでも書いたように、彼女はいわゆる"コケティッシュ"な女だと受け止めていた。そう、じれったい態度で男をたぶらかす女だろ、あれはと。すると彼女はこの新しいアルバムでこう挑発している。「私はあなたの売春婦よ」と。「それは男が、とくにジャーナリストが女性アーティストについて書いた記事に対する私のコメントよ」と彼女は『オブザーヴァー』に話している。そうした彼女の性の文化に挑む態度はたしかにデビュー当時のマドンナのようである。そして、その他方では、彼女はBBCでこうも話している。「誤解されているけど、それは村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』にインスピアされた言葉なの。セックスについては何も言っていないわ。それなの過度に性的なこの社会ではあらゆる性的な言葉はセックスを意味してしまう」
 そう、彼女は確信犯としての"コケティッシュ"だったというわけだ。

 ビヨーン・イットリングがプロデュースした『ユース・ノヴェルズ』はいわゆるメランコリックなポップだった。ファッショナブルだが悲しいその調べは欧米で大きな成功を収めた。セカンド・アルバムにあたる『ワウンドディッド・ライムス(傷ついた韻)』は、同じくビヨーン・イットリンによるプロデュースだが、録音はストックホルムではなくロサンジェルス。そしてメランコリックだがロマンティックな彼女のポップは、ビヨーンのレトロ趣味(というかフィル・スペクター趣味)とともにより際だっている。大胆になっている。『ユース・ノヴェルズ』は大人しいアルバムだったが、『ワウンドディッド・ライムス』には動きがある。ダンスもある。キャッチーな"サッドネス・イズ・ア・ブレッシング(悲しみは天の恵み)"、バラードの"アイ・ノウ・プレイシズ"や切ない"アンリクワイティッド・ラヴ"、そして魅惑のメロドラマ"ラヴ・アウト・オブ・ラスト"やダンサブルな"リッチ・キッズ・ブルース"や"ユース・ノーズ・ノー・ペイン"......スタイルはすべてシックスティーズだが、「私は、愛がすべてを征服するという純粋な考えを信じているその時代が好きです」と彼女は話している。
 僕は彼女がまた新しいアルバムを作ったら買うだろう。もちろん金があればだが、しかし迷わずに。

野田 努