ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Kendrick Lamar - GNX | ケンドリック・ラマー
  2. Music for Black Pigeons ──〈ECM〉のジャズ・ギタリスト、ヤコブ・ブロを追ったドキュメンタリー映画『ミュージック・フォー・ブラック・ピジョン』が公開、高田みどりも出演
  3. FKA twigs - Eusexua | FKAツゥイッグス
  4. eat-girls - Area Silenzio | イート・ガールズ
  5. Columns ♯10:いや、だからそもそも「インディ・ロック」というものは
  6. guide to DUB ──河村祐介(監修)『DUB入門』、京都遠征
  7. Brian Eno & Peter Chilvers ──アプリ「Bloom」がスタジオ作品『Bloom: Living World』として生まれ変わる | ブライアン・イーノ、ピーター・チルヴァース
  8. Columns 夢で逢えたら:デイヴィッド・リンチへの思い  | David Lynch
  9. DUB入門――ルーツからニューウェイヴ、テクノ、ベース・ミュージックへ
  10. Columns 1月のジャズ Jazz in January 2025
  11. ele-king presents HIP HOP 2024-25
  12. Panda Bear ──パンダ・ベア、5年ぶりのニュー・アルバムが登場
  13. DREAMING IN THE NIGHTMARE 第1回 悪夢のような世界で夢を見つづけること、あるいはデイヴィッド・リンチの思い出
  14. Waajeed ──デトロイトのワジード、再来日が決定! 名古屋・東京・京都をツアー
  15. ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ -
  16. デンシノオト
  17. パソコン音楽クラブ - Love Flutter
  18. Saint Etienne - The Night | セイント・エティエンヌ
  19. Teebs ──ティーブスの12年ぶり来日公演はオーディオ・ヴィジュアル・ライヴにフォーカスした内容に
  20. 浅沼優子

Home >  Reviews >  Album Reviews > Visioneers- Hipology

Visioneers

Visioneers

Hipology

BBE

Amazon iTunes

Torkelsen

Torkelsen

Torkelsen

Sellout! Music

Amazon iTunes

三田 格   Jun 01,2012 UP

 4ヒーローのマーク・マックによるファンク・プロジェクトが6年ぶりとなる2作目をリリース(オリジナル・フォーマットは最近、流行りの7インチ×5枚組)。前作同様、ドラムスと管楽器以外はすべてマーク・クレア自身による演奏で、あまりにファンキーで、いったい、どこからこんな明るい気持ちが湧いてくるのかと......(今日もDVDでマッテオ・ガローネ監督『ゴモラ』を観てしまった......。ダニー・ボイル監督『スラムドッグ・ミリオネア』やジャン=ステファーヌ・ソヴェール監督『ジョニー・マッド・ドッグ』は仮りにも途上国が舞台だったけど、これは先進国で起きていることだからな~)。

 ......そして、最後まで同じテンションで押し切ってしまったのである。いつか空々しくなるだろうと思っていたのに、聴きば聴くほど引き込まれるw。攻め立てないで低音を溜めるようなベースがいいのか、ジェイムズ・ブレイクは時代の音ではないという確信でもあるのか、だいたい、ニュー・エラでもマキシマム・スタイルの名義でもセカンドはなかったのに、前作のリミックス盤も数えれば3枚もつくっている辺りが「やる気」を感じさせる。半分ぐらいの収録曲で適度にスウィング感があるところもたまらない。

 なぜかカヴァーが多く、ナズやスウィッチ......というよりセカンド・サマー・オブ・ラヴ世代にとってはRSWがサンプリングしまくったインクリディブル・ボンゴ・バンド「アパッチ」(73)やジョニー・ペイト「シャフト・イン・アフリカ」(73)は初期のカーティス・メイフィールドを思わせるスリリングな展開。『フリーフライト』や『アルハンブラ』で知られるジャズ・ベテランのアハマド・ジャマル「スワヒリランド」(74)は一転してしっとりと聴かせ、アメリカのTVシリーズで有名なキース・マンスフィールド「ファンキー・ファンファーレ」(69)も最高にファンキーだし、変わったところではステレオラブ「カム・アンド・プレイ・イン・ザ・ミルキー・ナイト」(99)が予想外に甘ったるいシンセサイザーを響かせる。70年代初頭の雰囲気をいまに伝えようとしてこうなったのか。それともほとんどのミュージシャンと同じく何ひとつ考えていないのか(この時期のものでは、入手不可能とされていたオーウェン・マーシャル『キャプテン・パフ・イン・ザ・ネイキッド・トゥルース』が〈ジャズマン〉および〈Pヴァイン〉から再発されたばかりで、〈Pヴァイン〉といえば水谷社長に顔がそっくりなKRTSもデリック・メイがヒップホップをやっているとしか思えないミニ・アルバム『ホールド・オン』を昨秋、リリースしたですね)。

 そして、ノルウェーのオスロからは世界最大の短時間大量殺人犯となったアンネシュ・ブレイビクだけではなく、オウテカがシューゲイザーに走ったようなクリスチャン・トゥケイセンもアルバム・デビュー。これがまた、ヒップホップのグループに在籍していた経験がそのまま音に出たようで、寂しげなメロディ・ラインを裏切るかのようにリズムがこってりとファンキー・テイスト。それこそエレクトロニカだと言い張るのはとても無理でw、透き通るような質感で貫かれた「シルヴァー」はともかく、「波長」と題された曲のエンディングでシンセサイザーがどこまでも広がっていくような感じは神経症的なIDMファンの逆鱗に触れること間違いないでしょう(その前に聴かないか)。

 表立ってはいないけれど、どうやらクラシック・ピアノの素養があるらしく......ということはオウル・ビーツと似た部分があるかと思えば、それよりはもっと下世話なところでまとめていて、全体的には(まだ)ファンクであることをざっくばらんに楽しんでいるといった様子。気に障る一歩手前で可愛らしく聴こえる電子音が耳から離れない「ア・フレンド」はいかにも北欧的で(フラ・リッポ・リッピとかレクショップとか)、同曲に限らず、リズムがどれだけファンキーになってもドリーミーなムードを絶対に揺るがさないところはけっこうスキルあり。デンマークのタラゲネ・ピジャラーマが「オーシャン」1曲でコンパクトに拾われた例もあるし、このままセカンドまでつなげれば、大化けするかもしれません(?)。

 全曲試聴→http://soundcloud.com/nofearofpop-net/sets/torkelsen-torkelsen

三田 格