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ミツメ

ミツメ

eye

mistume

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竹内正太郎   Nov 19,2012 UP

 夢を見ることがあまりにも困難になった時代における、とてもささやかな、擦り切れたような、くたくたになったドリーミー・ポップ。「次に住むなら火星の近くが良いわ」("fly me to the mars")、その言葉の主はSF趣味を披露するとともに、ノスタルジックなまどろみの中で少しずつ推進力を得ていく。その原動力は、強さや責任や倫理では、ないと思う。彼らはとても迷惑そうにしながら、それでも春のあたたかい夢が終わったことを知っても、それを渋々と受け入れたり、やっぱり拒んだりしようとする。「思い出を残らず洗い流そうよ」――川辺素の、歌が不得意になった草野マサムネのような不安定なファルセットで、ミツメはふらふらとどこかへ飛んでゆく。とても頼りなく、寂しげに。

 彼らはどこに向かおうというのだろう? いや、どこにも向かっていないのかもしれない。この国の抽象表現に、「以前/以後」という極端な文脈が敷かれたのだとして、筆者がミツメをどうしても憎めないのは、「以前」への未練のようなものを、そのサイケデリック・ギターの裏に、あるいは輪郭の薄い言葉の陰に、そっと忍ばせているように思えるからである。あるいは、「以後」の表現が、抑圧されてか無意識にか、なんとなく遠ざけてきた倦怠の気分を、ミツメはふわっと拾い上げている気がする。いわば『eye』は、「以前」と「以後」のあいだにできた溝に滞留した残ガスである。あとには、柔らかいリヴァーブの温もりが――。
 また、「以後」の表現では、旅立ちや船出といった図がその中心的な遠心力として機能していたと思うが、奇遇にも、『eye』でも旅が、ひとつの皮膚感覚として通底している。が、ミツメには最初からどこにも行く気がないように思える。ウトウトした白昼夢を稲妻のようなサイケデリック・ギターが襲う"春の日"の残響は、『homely』(2011)以降のオウガ・ユー・アスホールと合わせ鏡になってキラキラ響き合っているが、そこにあるのは後悔や諦念や終末観では、ないだろう。「長い夢を見ていた/春の朝に/私は遠い日の事を思った」――ここにあるのは、ひとつの季節が終わったことをぼうっと眺める、抵抗に近い平静さだ。
 
 春の朝に目覚めた主人公はその後、とくに目的地の設定もなく、豪快なジャム・セッションや、カントリー風味なチルアウトをゆらゆら楽しんでいく。そう、ぼーっとしているといろいろなものを聴き逃しそうになるが、『eye』がここまで聴き手を飽きさせないのは、その気ままさゆえである。ガレージ・ロック、フォーク・ポップ、ニューウェイヴ、シューゲイズなどを自在に混合し、"hotel"ではヴェルヴェット・アンダーグラウンドのバラード曲に愛を囁くが、ここには同時代のチルウェイヴから拝借したダンス・トラックめいたシンセ・ポップさえある。
 それにミツメは、単なる教養豊かなフォーク・ポップのバンドではない。彼らは歌の入っていない時間を思い思いに楽しむことができる。"cider cider"や"towers"の終盤における、春の嵐のようなノイズ/ギター・ジャム。"fly me to the mars"が携えるコズミックなシンセ・ストームや、ニューウェイヴな"Disco"が見せつける輝かしいギター・ソロ。繰り返しになるが、オープニングの"春の日"は、オウガ・ユー・アスホールと双璧を成すスロー・テンポなトランス・ロックだ。そして、オウガが新たな進路に選んだのが"夜の船"や"記憶に残らない"のメランコリアだったとすれば、ミツメが選ぶのは"煙突"のひしゃげたノスタルジアだ。彼らは夢と追憶の狭間で、それでも微睡もうとする。

 夢を見ること、ある種の現実に対して目を閉じてしまうことはいま、間違いなく大きなリスクだろう。ミツメと言えども、それを悪戯に奨励している風ではない。そのあとには余計な空白が残るだけだ......。『eye』はしかし、夢を見ることそのものがひとつの夢となってしまった2012年の空気を、そうだと知りつつも深く吸い込み、また、ふうっと吐いている。少しだけ色を変えたスモークとして。
 そう、ここにあるのは、いわばリスクとしてのドリーミー・ポップだ。この先にはきっと、何もない。だが、来たるべき季節に向けて、ぐっと力を溜めこんでいるようでもある。「僕らの未来には何かがなくはならない」という強迫観念と縁を切って、無目的なピクニックに出掛けてしまうこと――。それはひとつの知恵として、代わる代わる押し寄せる抑圧への抵抗として、ここで鳴っている......とてもサイケデリックに。

竹内正太郎