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Various Artists

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Landscape Painting

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デンシノオト   Jan 31,2018 UP

 現代のアンビエント音楽が生成する「アンビエンス」は聴き手にどういった「イメージ」を与えることになるのだろうか。
 それは抽象的な「ムード」かもしれないし、ときには具体的な景色や光景、あるいはモノなどの「何か」かもしれない。もしくは身体的「効用」を感じとっているかもれない。
 私見だが2010年代以降の「アンビエント音楽」が聴き手に与える「イメージ」は、「環境」「時間」「空気」を取り込みつつも、どこかアブストラクトなアート作品のような「存在感」を放っているように思える。
 ブライアン・イーノの提唱した「アンビエント・ミュージック」から40年以上の月日が流れたのだから現代のアンビエント作家たちが奏でる音が「環境のための音楽」だけに留まらず、さまざまなフォームへと多様化を遂げつつあるのは当然のことだ。そもそもロックもジャズも、いやオーセンティックなクラシック音楽ですらも音のアンビエンスは時代と共に変化をし続けている。であれば「アンビエント音楽」も今と昔では違う響きを放っていて当然ではないか。

 2017年末、国内有数のアンビエント・アーティストであるダエンが自ら主宰するカセット・レーベル〈ダエン・レーベル〉から「風景画」をテーマとするアンビエント・コンピレーション・アルバム『Landscape Painting』がリリースされた。このようなテーマに即した方法論も現代アンビエント音楽の重要な要素である。じじつ、同レーベルは2016年11月にフランシスコ・ロペス、DJオリーブ、ローレンス・イングリッシュ、ニャントラ+ダエンらが参加した『TIME EP』という「時間」をテーマとしたアンビエント・コンピレーション・アルバムをリリースしている。
 前述した『TIME EP』でも国境を超えて才能豊かな音響作家が集結していたが、本作『Landscape Painting』でも同様である。〈アントラクト〉からのリリースでも知られるオランダの電子音響作家マシーン・ファブリック、〈ゴーストリー・インターナショナル〉のアルバムも素晴らしいフィラデルフィアの音響ハープ奏者メアリー・ラティモア、Alive Painting としても活動する中山晃子、ベルギーのフィールド・レコーディング作家リーヴォン・マーティンス・モアーナ、そしてダエンなど、まさに現在最高峰ともいえる世界各国のアンビエント/エクスペリメンタル音響作家たちがトラックを提供しているのだ。さらに音響のアンビエンス感覚を見事に表現したスリーブ・アートワークを手掛けたのは、mihara aya。何はともあれ素晴らしいエクスペリメンタル・アンビエント・ミュージック・コンピレーション作品なので、まずは聴いて頂きたいと思う。

 アンビエント的なムードが横溢していた『TIME EP』と比べると、曲のムードがトラックごとに異なり、それぞれのアーティストの手法がより全面化しているエクスペリメンタルな作品集にも思えるがアルバム全編を聴き終えたときは、不思議と統一したトーンを感じたものだ。多層的な音響の線が交錯し、確かに「風景画」を思わせるアトモスフィアを感じてしまうのである。このあたりは主宰ダエンのキュレーション力の賜物といえよう。そう、手法やフォームが違えども共通するトーン、アンビエント感覚があったのだ。
 1曲め、マシーン・ファブリックの“Metallic”は、その名のとおりメタリックな質感の電子音響サウンドだが、その音の多層的に生成変化していくさまに「絵画的」な表層の美を感じてしまう。続く2曲めのメアリー・ラティモア“Stupid Porches”はハープによるフォークロア・ミニマル・ミュージックといった趣で、その音楽のむこうに風景のイマジネーションを感じた。3曲め中山晃子の“Drawing”は、電子音と環境音のミニマムな音の連なりが繊細な線の集積のようである。アルバム中、もっとも短いトラックだが印象に残るサウンドであった。
 B面1曲め、リーヴォン・マーティンス・モアーナの“A VILLAGE SCENE”は現れては消えてゆく柔らかな音色のアンビエント・ドローン。風景画の全体と部分が同時に生成するような感覚を聴き取ることができた。この淡い感覚は、ダエンによる時間が止まるように美しい静謐なアンビエント・トラック“seeing it self”へと受け継がれ、アルバム全体を風景画と、それが存在する(展示される?)架空の空間の澄み切った空気を生成するような音響空間を鳴らすことになるだろう。アルバムのラスト・トラックとして、これ以上ないほどに素晴らしいアンビエンスを生成している。

 さて、アンビエント・ミュージックは環境音楽でもあるのだが、ではその「環境」は、どのようなイメージで生まれるものなのか。そのヒントに「絵画」などのアート作品との関係性が挙げられると思う。現代アンビエントの複雑にして多用な音の質感は、絵画/アートの色彩のそれに近いものかもしれないし、そのアートがモノとして存在する空間もまたアンビエント・ミュージックの存在を意識するものになるように思える。
 ダエンは昨年2017年、日本の〈きょうレコード〉から2枚組アンビエント・アルバムの傑作『monad』をリリースしたが、このアルバムもまたアートワークと音響が饗宴するかのように存在する作品であった。この「感覚」が本作『Landscape Painting』にも継承されているように思えてならない。それは絵画やアート作品と連携することで生まれる、より具体的な「存在する」音への希求かもしれない。また。「それ」よって身体に「効く」アンビエントの生成を実践しているのかもしれない。
 じじつ、ダエンの音を聴くと耳から身体が綺麗な空気によって「浄化」される気分になるのだ。これはいささかも神秘主義的なものではなく、その音の精度がかつてのアンビエント・ミュージックの何十倍も柔らかく、そして高まっているから、とはいえないか。『Landscape Painting』を聴いて感銘を受けた方でもしも『monad』を未聴ならば、ぜひともCDを手に取って聴いて頂きたい。「アンビエント・ミュージックの現在」が、ここにもある。

デンシノオト