ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Cornelius 30th Anniversary Set - @東京ガーデンシアター
  2. interview with salute ハウス・ミュージックはどんどん大きくなる | サルート、インタヴュー
  3. interview with Martin Terefe (London Brew) 『ビッチェズ・ブリュー』50周年を祝福するセッション | シャバカ・ハッチングス、ヌバイア・ガルシアら12名による白熱の再解釈
  4. Natalie Beridze - Of Which One Knows | ナタリー・ベリツェ
  5. Still House Plants - If I Don​’​t Make It, I Love U | スティル・ハウス・プランツ
  6. High Llamas - Hey Panda | ハイラマズ
  7. Cornelius - Ethereal Essence
  8. The Stalin - Fish Inn - 40th Anniversary Edition - | ザ・スターリン
  9. Columns 6月のジャズ Jazz in June 2024
  10. KRM & KMRU - Disconnect | ケヴィン・リチャード・マーティン、ジョセフ・カマル
  11. ソルトバーン -
  12. Tribute to Augustus Pablo ──JULY TREEにて、オーガスタス・パブロ関連の写真やゆかりの品々などを展示、およびグッズ販売
  13. interview with Yui Togashi (downt) 心地よい孤独感に満ちたdowntのオルタナティヴ・ロック・サウンド | 富樫ユイを突き動かすものとは
  14. interview with bar italia 謎めいたインディ・バンド、ついにヴェールを脱ぐ | バー・イタリア、来日特別インタヴュー
  15. Adrian Sherwood presents Dub Sessions 2024 いつまでも見れると思うな、御大ホレス・アンディと偉大なるクリエイション・レベル、エイドリアン・シャーウッドが集結するダブの最強ナイト
  16. Terry Riley ——テリー・ライリーの名作「In C」、誕生60年を迎え15年ぶりに演奏
  17. Columns スティーヴ・アルビニが密かに私の世界を変えた理由
  18. talking about Aphex Twin エイフェックス・ツイン対談 vol.2
  19. Theo Parrish ──セオ・パリッシュがLIQUIDROOM 20周年パーティに登場
  20. Columns ♯7:雨降りだから(プリンスと)Pファンクでも勉強しよう

Home >  Reviews >  Album Reviews > MAN ON MAN- MAN ON MAN

MAN ON MAN

PopRock

MAN ON MAN

MAN ON MAN

Polyvinyl

木津毅 May 28,2021 UP

 マン・オン・マンのデビュー・シングル“Daddy”のミュージック・ヴィデオには笑った。それは年の差ゲイ・ベア・カップル(「ベア」はゲイ・コミュニティにおいて肉づきがよくて毛深い男性のセクシーさを表現する意味で使われます)が半裸でイチャイチャしているだけのもので、イケてるダディ(「ダディ」はゲイ・コミュニティにおいて中高年男性のセクシーさを表現する意味で使われます)との性的な体験の期待がパンデミックによって邪魔されることの不安を歌った歌詞といい、いま世のなかは大変だけど、こんなに朗らかに過ごしているゲイ・カップルもいるんだな……とちょっと励まされたのだった。
 しかし微笑ましく思っていた数日後、このヴィデオが「過度に性的である」という理由でYoutubeから消されてしまう。え!? いや、ヘテロセクシュアルのものでもっと過激にエロティックなものはいくらでもあるし、ゲイものでも(いわゆる)美青年のものだったらそう簡単に消されないでしょう。「ホモフォビアだ」とゲイのリスナーから抗議が出てしばらくするとヴィデオは復活したが、ダイヴァーシティ・マーケティングが当たり前になった現在、Youtube側にも悪気があったわけではないだろう。ただ、ゲイ度が濃すぎたのだ。ゲイを含め性的マイノリティの表現の受容において世界はこの10年で本当に進んだけれど、世のなかはまだ、ブリーフ姿のおじさんふたりがイチャイチャしているのは見たくないのかもしれないな。だけど僕は子どもの頃から、それがずっと見たかった。本当に。

 ともあれ、当人たちは激しく抗議することもなく、自己隔離のなかでクリエイティヴィティを保つために作ったという音楽をたんたんと発表していく。セカンド・シングルのタイトルは“Baby, You're My Everything(ベイビー、きみはぼくのすべて)”だ。ヴィデオはやっぱり、ゲイ・ベア・カップルが半裸でイチャイチャしているだけのものだった。
 マン・オン・マンはフェイス・ノー・モアのキーボーディストであるロディ・ボッタムが彼氏のジョーイ・ホルマンと組んだユニットで、これがデビュー作だ。ボッタムはハード・ロックやメタル・シーンのなかでは珍しくかなり早くからカミングアウトしており、『アダム&スティーヴ』とのタイトルのゲイ・ラブコメ映画のサウンドトラックを担当するなど、長年飄々とゲイ・コミュニティに貢献してきた人物だ。ただ、ロックのなかでもとくにマッチョなシーンに身を置いてきたために、ホモフォビックな言動は数多く目にしてきたし、実際、カミングアウトは多くのひとに止められたという……ファンを失うことになるぞ、と。それでもボッタムは堂々と「ゲイであり続けた」。元ハスカー・ドゥのボブ・モールドといい、いま60歳前後のゲイ・ロッカーたちが元気に活動していることには、いちゲイとして素直に尊敬の念を抱かずにはいられない。
 アルバムはもっとシンセ・ポップ寄りになるのかと思っていたら、オープニング・ナンバー“Stohner”がもろに90年代オルタナ・ロック調なのを皮切りにして、かなりギター・ロック然とした1枚である。ホルマンは何でもクリスチャン・ロック・バンドのメンバーだったそうで、彼もまた同性愛嫌悪が強いシーンに身を置いていた人物なのだが、彼の音楽的嗜好が反映されたものなのだろう。エレクトロニックなダンス・ポップはゲイ・ポップスとしてはいまやクリシェになっている側面もあるので、ゲイネスをたっぷり表現したロック・ミュージック──1980年代からクィアコアと呼ばれてきた──はいま、かえって新鮮だ。いや音としては新しいものではないが、クィア性があまり目につかなかった90年代のハード・ロックやオルタナティヴ・ロックを新しい価値観から再訪しているようにも見える。そこにはボッタムをはじめとして、少なくないセクシュアル・マイノリティが存在したのだと。

 だから、基本的にボッタムが年下の彼氏のことが好きで好きで仕方ないということが伝わってくるだけの本作は、他愛もないと言えばそうだが、その他愛のなさによってこそセクシュアル・マイノリティの生を祝福する。フワフワとした曲調で素朴に歌われる“It's So Fun (To Be Gay)(ゲイでいることはすごく楽しい)”はそして、21世紀の“Glad to Be Gay”だ。トム・ロビンソン・バンドによるアンセムのように闘争的な姿勢はこの曲にはないが、とにかく楽しく生きることで、マン・オン・マンはセクシュアル・マイノリティの現在と未来をエンパワーメントしているのだ。
 同性愛を「不道徳」だとかトンチキなことを言う人間は残念ながらいつでもいるし、ゲイ度を濃くすると消去されることもまだまだあるだろう。だからこそ、僕たちは自分たちの性と生を謳歌しよう。彼氏のことが大好きなら、人前でイチャイチャしたってかまわない。ゲイ・シーンのパイオニアはかく語りき──It's so fun to be gay!

木津毅