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Shinichi Atobe

Deep HouseDub Techno

Shinichi Atobe

Love Of Plastic

DDS

渡部政浩 Mar 31,2022 UP

 「いまの世界に必要なのは古き良きハウス・ミュージックであり、アトベがこんなにもいきなりフランキー・ナックルズになるとは思わなかったが、このスタイルは似合っている」(拙訳)とは『ピッチフォーク』による評。フランキー・ナックルズなのか……? とさすがに思ったが、このアルバム『Love Of Plastic』を聴いたとき、彼の出自たるダブ・テクノ~ディープ・テクノはありつつ、ハウスの側面をより強く感じたのは事実だ。

 すこし整理しよう。そもそもミステリアスな存在として、ベーシック・チャンネルの傍系レーベル〈Chain Reaction〉から12インチ・シングル「Ship-Scope」をリリースしたのが2001年のこと。それをデムダイク・ステアがコンタクトを取り〈DDS〉から再発。以降はこのレーベルを拠点に活動をしていくことになる。海外のレーベルが主ということで、彼もまた跡部進一ではなくシンイチ・アトベと表記させていただくが、僕も初めてアトベのレコードを買ったのが例によって〈DDS〉からの『Butterfly Effect』だった。リプレスかどうかもわからず中古で買ったのだが、早い話このファースト・フルレングスには衝撃を受けた。〈DDS〉という一線に立つレーベルの名にふさわしいダブが充満しつつ、ハット、スネアやキックなどのビートにはほれぼれするドライな歪み、汚しの加工がなされている。そこにはピアノを大胆に取り入れた切なげなハウスもあり、何よりもタイトル・トラック “Butterfly Effect” にまずは圧倒させられてしまった。

 僕はそこまで耳のいいタイプのリスナーではないが、『Butterfly Effect』がイヤホンではなく、音を立体的に、空間として認識しやすいスピーカーで聴くべき音楽だということは一瞬でわかった。アトベが繰り出す大気的でいまにも空中に霧散してしまいそうな音に、同時に脈打つハットないしキックなどのリズムが拘束具かのごとくつねに音を引き留めようともする。そこにある不安定と安定を同時に抱かせる奇妙な感覚は、彼の音楽そのものから看取できる独特な美学にも思える。それは続く2018年『Heat』、さらなる2020年『Yes』まで少しずつ変わりながらも失われてはおらず、それは僕がアトベにぞっこんな理由でもある。

 新作『Love Of Plastic』はどうだ。曲のタイトルはいつも通り、同名のものにナンバリングがされているが、順序はめちゃくちゃである。たとえば “Love Of Plastic 1” の次にだいぶ飛んで “Love Of Plastic 5” とくるように。しかしサウンドのほうはいつも通りではない。オープナーから2曲目 “Love Of Plastic 1” までを聴くと、過去作におけるアトベの深くへ潜っていく感覚より、もう少し風通しがよい。そしてアトモスフェリックというより、音楽はしっかりとした構造をなしている。もちろん、3曲目 “Love Of Plastic 5” からは少し変わり、神秘的なダブ・テクノ旅行へと誘ってくれるような予感もあるし、続く “Beyond The Pale” や “Love Of Plastic 6” なんかは、過去作と連なるあの独特な美学を感じる。ちなみにマスタリングはお馴染みラシャド・ベッカー。しかし、やはり “Love Of Plastic1” にあるように、今作にはもう少しのすがすがしさと暖かみ、つまり早い話、気軽に針を落としたくなる取っつきやすさがあるのだ。『Butterfly Effect』を初めて聴いたときのひんやりとした寒々しいダブ・テクノよりも、もっと愛らしいハウスがあるのは間違いない。
 今作はダブ・テクノというより、ダブ・ハウスと形容したくなるアルバムだ。ハウスをより強く感じるという意味では、まあ、フランキー・ナックルズもわからなくはない……かな?

 「プラスチックの愛」なるタイトル。かつて黒人ミュージシャンが白人のロック・スターを「ニセモノ」と揶揄するためにプラスチック(≒人工的なまがい物)という言葉を使って軽蔑したそうだが、そんなネガティヴな意味は込められていない。アルバム・タイトルの意味を邪推することは好きだが、海外のメディアの多くは「可鍛性」、「可塑性」といったプラスチックという素材の柔軟さに着目しており、僕もその線で勝手に納得している。しかしアトベのツイッターをチェックすると、「“プラスチック・ラブ” のオマージュですか?」との問いに一言だけ「Yes!」と。ああ、なんてことだ。聴き返すと “Love Of Plastic 1” とかまさにそうだね。これは確実にダブ・ハウスとでも呼びたいアルバムであり、『ピッチフォーク』がフランキー・ナックルズを見出すのもけっこうなことだけれど、いやあ、まさか竹内まりやがいるとはね。

渡部政浩