ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. 見汐麻衣 - Turn Around | Mai Mishio
  2. 別冊ele-king 坂本慎太郎の世界
  3. aus - Eau | アウス
  4. Taylor Deupree & Zimoun - Wind Dynamic Organ, Deviations | テイラー・デュプリー&ジムーン
  5. Isao Tomita ──没後10年、冨田勲の幻のアルバム『SWITCHED ON HIT & ROCK』が初CD化
  6. VMO a.k.a Violent Magic Orchestra ──ブラック・メタル、ガバ、ノイズが融合する8年ぶりのアルバム、リリース・ライヴも決定
  7. P-VINE ──設立50周年記念、公式スタッフ・ジャンパーが発売
  8. Ikonika - SAD | アイコニカ
  9. Julianna Barwick & Mary Lattimore ──盟友2人による共作アルバム『Tragic Magic』の日本盤がリリース
  10. Autechre ──オウテカの来日公演が決定、2026年2月に東京と大阪にて
  11. interview with Chip Wickham スピリチュアル・ジャズはこうして更新されていく | チップ・ウィッカム、インタヴュー
  12. interview with bar italia バー・イタリア、最新作の背景と来日公演への意気込みを語る
  13. interview with Young Marble Giants たった1枚の静かな傑作  | ヤング・マーブル・ジャイアンツ
  14. Black Midi ──ブラック・ミディが解散、もしくは無期限の活動休止
  15. MURO ──〈ALFA〉音源を用いたコンピレーションが登場
  16. Eris Drew - DJ-Kicks | エリス・ドリュー
  17. ポピュラー文化がラディカルな思想と出会うとき──マーク・フィッシャーとイギリス現代思想入門
  18. heykazmaの融解日記 Vol.3:≋師走≋ 今年の振り返り WAIFUの凄さ~次回開催するパーティについて˖ˎˊ˗
  19. Masabumi Kikuchi ──ジャズ・ピアニスト、菊地雅章が残した幻のエレクトロニック・ミュージック『六大』がリイシュー
  20. Geese - Getting Killed | ギース

Home >  Reviews >  Album Reviews > Shinichi Atobe- Love Of Plastic

Shinichi Atobe

Deep HouseDub Techno

Shinichi Atobe

Love Of Plastic

DDS

渡部政浩 Mar 31,2022 UP

 「いまの世界に必要なのは古き良きハウス・ミュージックであり、アトベがこんなにもいきなりフランキー・ナックルズになるとは思わなかったが、このスタイルは似合っている」(拙訳)とは『ピッチフォーク』による評。フランキー・ナックルズなのか……? とさすがに思ったが、このアルバム『Love Of Plastic』を聴いたとき、彼の出自たるダブ・テクノ~ディープ・テクノはありつつ、ハウスの側面をより強く感じたのは事実だ。

 すこし整理しよう。そもそもミステリアスな存在として、ベーシック・チャンネルの傍系レーベル〈Chain Reaction〉から12インチ・シングル「Ship-Scope」をリリースしたのが2001年のこと。それをデムダイク・ステアがコンタクトを取り〈DDS〉から再発。以降はこのレーベルを拠点に活動をしていくことになる。海外のレーベルが主ということで、彼もまた跡部進一ではなくシンイチ・アトベと表記させていただくが、僕も初めてアトベのレコードを買ったのが例によって〈DDS〉からの『Butterfly Effect』だった。リプレスかどうかもわからず中古で買ったのだが、早い話このファースト・フルレングスには衝撃を受けた。〈DDS〉という一線に立つレーベルの名にふさわしいダブが充満しつつ、ハット、スネアやキックなどのビートにはほれぼれするドライな歪み、汚しの加工がなされている。そこにはピアノを大胆に取り入れた切なげなハウスもあり、何よりもタイトル・トラック “Butterfly Effect” にまずは圧倒させられてしまった。

 僕はそこまで耳のいいタイプのリスナーではないが、『Butterfly Effect』がイヤホンではなく、音を立体的に、空間として認識しやすいスピーカーで聴くべき音楽だということは一瞬でわかった。アトベが繰り出す大気的でいまにも空中に霧散してしまいそうな音に、同時に脈打つハットないしキックなどのリズムが拘束具かのごとくつねに音を引き留めようともする。そこにある不安定と安定を同時に抱かせる奇妙な感覚は、彼の音楽そのものから看取できる独特な美学にも思える。それは続く2018年『Heat』、さらなる2020年『Yes』まで少しずつ変わりながらも失われてはおらず、それは僕がアトベにぞっこんな理由でもある。

 新作『Love Of Plastic』はどうだ。曲のタイトルはいつも通り、同名のものにナンバリングがされているが、順序はめちゃくちゃである。たとえば “Love Of Plastic 1” の次にだいぶ飛んで “Love Of Plastic 5” とくるように。しかしサウンドのほうはいつも通りではない。オープナーから2曲目 “Love Of Plastic 1” までを聴くと、過去作におけるアトベの深くへ潜っていく感覚より、もう少し風通しがよい。そしてアトモスフェリックというより、音楽はしっかりとした構造をなしている。もちろん、3曲目 “Love Of Plastic 5” からは少し変わり、神秘的なダブ・テクノ旅行へと誘ってくれるような予感もあるし、続く “Beyond The Pale” や “Love Of Plastic 6” なんかは、過去作と連なるあの独特な美学を感じる。ちなみにマスタリングはお馴染みラシャド・ベッカー。しかし、やはり “Love Of Plastic1” にあるように、今作にはもう少しのすがすがしさと暖かみ、つまり早い話、気軽に針を落としたくなる取っつきやすさがあるのだ。『Butterfly Effect』を初めて聴いたときのひんやりとした寒々しいダブ・テクノよりも、もっと愛らしいハウスがあるのは間違いない。
 今作はダブ・テクノというより、ダブ・ハウスと形容したくなるアルバムだ。ハウスをより強く感じるという意味では、まあ、フランキー・ナックルズもわからなくはない……かな?

 「プラスチックの愛」なるタイトル。かつて黒人ミュージシャンが白人のロック・スターを「ニセモノ」と揶揄するためにプラスチック(≒人工的なまがい物)という言葉を使って軽蔑したそうだが、そんなネガティヴな意味は込められていない。アルバム・タイトルの意味を邪推することは好きだが、海外のメディアの多くは「可鍛性」、「可塑性」といったプラスチックという素材の柔軟さに着目しており、僕もその線で勝手に納得している。しかしアトベのツイッターをチェックすると、「“プラスチック・ラブ” のオマージュですか?」との問いに一言だけ「Yes!」と。ああ、なんてことだ。聴き返すと “Love Of Plastic 1” とかまさにそうだね。これは確実にダブ・ハウスとでも呼びたいアルバムであり、『ピッチフォーク』がフランキー・ナックルズを見出すのもけっこうなことだけれど、いやあ、まさか竹内まりやがいるとはね。

渡部政浩