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Blue Bendy

Art RockRock

Blue Bendy

So Medieval

The state51 Conspiracy

Casanova.S May 29,2024 UP

 サウス・ロンドンのポスト・バンク・バンドを中心にここ数年で大流行した喋るように唄うスタイルは聞くものに新たな感覚を残したのではないだろうか。つまりは芝居がかった演劇的な側面を音楽にもたらして、プレイリスト、曲単位で盛り上がる観賞スタイルが普通になった中で、再びアルバムという物語を意識させたのではないかということだ。歌い手が言葉を使いストーリーを表現し、その主体の感情を描写するように音楽が追従する。ストリングスやサックスがバンドの中にあるというのが当たり前になった編成で、セリフをつぶやくかのごとく唄うバンドの音楽は舞台で行われる演劇やミュージカルに近く、物語性を持った楽曲との相性が非常に良かった。その一番の成功例は高い評価を得たブラック・カントリー・ニューロードの1stアルバム、および2ndアルバムだろう。アイザック・ウッドの固有名詞にイメージを持たせキーワードのようにしてアルバムの楽曲を繋ぐスタイルを1stアルバムでは偶発的に2ndアルバムでは意図的にイメージを喚起させるように楽曲を組み立てたとバンドは言う。
 そうして時間が経って物語を追う感覚がリスナーに浸透したタイミングで違ったアプローチをする流れも生まれて来た。喋るように唄うスタイルではなくもっとメロディアスで、もっと色鮮やかに。HMLTDのデイヴィッド・ボウイ的SF、精神世界の大活劇の素晴らしき復活作『The Whorm』(この作品はエヴァンゲリオンにも影響を受けたという)が昨年リリースされ、今年、24年にはフォークのアプローチをしたテイパー!の傑作『The Pilgrim, Their God and The King Of My Decrepit Mountain』が生み出された。表面の音楽はまったく違うがどちらのアルバムもいくつかの章に分かれ、それらをナレーションで繋ぐという手法を用いより一層アルバムという物語を強調するものだった。

 さて、このロンドンの6人組ブルー・ベンディーのデビュー作『So Medieval』はどうだろう? 僕にはこれが喋るように唄うポスト・パンク・バンドが生み出したシーンのその先に進んだ音楽に思えてならならない。ピアノが鳴りアコースティック・ギターが咲く柔らかなサウンド、楽曲構成にポスト・パンクの気配を残しながら冷たく鋭い音楽から離れ、陽光の差す平原へ。あるいはそれはブラック・カントリー・ニューロードが2ndアルバムで目指した場所なのかもしれないが、ブルー・ベンディはさらにその先へと歩みを進めている。シンセサイザーが奇妙な音を作りシリアスになりすぎないようにバランスを取り、ねちっこく唄うヴォーカルはミュージカルのように熱を持ち、ギターが感情を作り出す。そして現在のロンドンの多くのバンドたちが共有している感覚であるフォークのアプローチを試み、その中に混ぜる。22年のEP「Motorbike」から進化した音楽はまた一つの特定のジャンルとして形容するのが難しい音楽になったが、歴史の流れの中で歩みを進める実験的なポップ・ミュージックとして完璧に機能している。

 粘り気があって艶があるアーサー・ノーランのヴォーカルは喋るようにメロディを唄いストーリーを語る。マコーレー・カルキンにケンダル・ロイ(ドラマの中のキャラクター)、スーパーマンのコミック、超次元ソニックマン、自らを取り囲むポップカルチャーの固有名詞をふんだんに使い、実存的危機にさいなまれる人生がユーモア交じりに物語られる。宗教的な価値観を織り交ぜながら俗っぽく、壮大な物語はしかしミームと物にあふれた小さな生活の中にかえっていく。たとえば“Darp 2 / Exorcism”のインターネットの惑星に漂う孤独は、暖かいギターの音色ともの悲しいヴォーカルメロディ、壮大というには一歩及ばないコーラス、爆発する小さな起伏に彩られ、最後には車の中、鼻で笑うような会話の中に戻っていく。感情を一気に持っていくようなものではなくニュアンスと空気のレイヤーを重ねてシフトチェンジしていくような音楽がなんとも心を揺り動かすのだ。美しい旋律の快感と、それを壊すようなユーモア、静かに積み上げられていく柔らかな興奮、6分を超える冒険“Cloudy”はまさにそんなブルー・ベンディの魅力がつまったもので、ぐるぐる周るピアノとアコースティック・ギターの爆発に彩られドライヴしていく物語は途中で緩み、展開し、まるでミュージカルのようなコーラスを伴った後半へと突入する。柔らかに着実にどこまでも上っていくように、爆発と展開を繰り返すブルー・ベンディのこの柔らかなカオスはたまらない快感を連れて来るのだ。

 「ロンドンで3番目にいいギターバンドであることはどうにかできる」“Mr. Bubblegum”で唄われるこの言葉はおそらくブラック・カントリー・ニューロードの“Science Fair"の「世界で2番目のスリントのトリビュートバンド」のラインを意識した言葉なのだろうが、彼らはその後にこう続ける「でも僕はなにかで一番になりたいんだ」と。
サウス・ロンドンのインディシーンを見つめ続けてきたバンドは見事にその先へと歩みを進めている。極端にならない方法で、カウンターではなく進化するように。そうして作られたこのアルバムはロンドンのポスト・パンク・バンドとテイパー!やアグリーなどのフォークの要素を強めたバンドの中間のグラデーションとして機能する。固有名詞に囲まれた物語と柔らかいサウンドの彩り、ブルー・ベンディのこのデビュー・アルバムはこんな風になったのだと変わりゆく季節、シーンの未来を確かに感じさせ、そしてなんとも胸を揺さぶってくる。

Casanova.S