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センコロール

センコロール

アニメーション 日本 約30分 (アニプレックス)

Amazon

渡辺健吾 Nov 18,2009 UP

 音楽の世界ではもう80年代末くらいから自分ひとりの手でベッドルームの自宅スタジオにこもって作品を完成させることは夢ではなくなったし、そのころに比べてもコンピュータや録音用のソフト、機材が格段に安くなった現在では、もはやかつてのように豪華なスタジオでミュージシャンを呼んで何ヶ月もかけて録音することのほうがレアで贅沢な手法になってしまった感もある。映像の世界だって、昨今のハリウッド映画を観たらもはや"実写"と呼ぶのさえ憚られるようにデジタル合成やCGのオンパレード、かつては表現できなかったことがほぼ何でも実現可能になってポストプロダクションと制作者の創造力にかかる重要性が増している。

 しかし映像の制作は音楽とは比べものにならないくらい金がかかるから、普通は労働集約産業化する。日本のお家芸、セルアニメなどは一枚一枚絵を描いて(フルアニメだと1秒で24枚)動かさなければならないわけで、膨大な人手が必要だ。本作、『センコロール』は、新海誠『ほしのこえ』(02年)など、近年少しずつ増えてきたインディー・アニメの最先端に位置する作品で、マンガでの受賞歴もある宇木敦哉が監督・脚本・作画と制作の主要部分をすべてひとりで行っている。

 正直に言うと、新海誠が彗星のごとく世に出て、高性能のPCと才能、根気さえあれば、アニメだってひとりで作れる時代になったと騒がれても違和感が拭えなかった。たしかに、『ほしのこえ』や『雲のむこう、約束の場所』(04年)は美しい美術(背景)や光の表現、それに作り手の目が行き届くゆえの一貫性が素晴らしい。しかし、セカイ系を地でいくストーリーや設定、もしくはフォークやニューミュージックかという古くさい感覚は、「革命的」というタームが似合わないと感じていた。一方、07年にパイロット版公開と制作発表があり、その後2年半をかけてできあがった約30分のフィルムが09年8月に劇場公開となった本作は、その長い制作期間中に古びることもなく、斬新な感覚でインディー・アニメの基準を大幅に更新した。

 「街に巨大な怪獣が突如現れた」という事件をきっかけに、好奇心旺盛な女子高生ユキのもとにまるでペットのように同様の謎の生物を操る少年たちがあらわれて......と、制服姿のまま話が展開していく『センコロール』。ヘリや戦車、軍人のシルエットは出てくるが、主要キャラ以外の人物は登場せず、かつての怪獣映画ほどには街も破壊されるのに、生活や社会は一切描かれない。短い尺の中で何を描写するのか取捨選択するなか、宇木監督のフォーカスは少女と謎の生物"センコ"との交流、そしてアニメ的な動きの気持ちよさに集約された。その潔い割り切りは鑑賞後の充足感はもたらさないかもしれないが、逆に繰り返し見ても胃もたれせず、テンポやリズムにおいて功を奏している。非常にナラティヴなものや120%伏線も何も説明しきるものばかり見ている一般のアニメファンからは内容に関する不満もあるようだが、ポンっと放り出されるように終わる作りはショートフィルムとしてはむしろセオリー通り。それをいかにもアートな志向でなく、商業作品並の絵柄や動きで実現させたのが、この作品の肝なのだ。トレーラーを見てもらえればわかるように、その独特のセンスのモンスター・デザインと、ひとりで描いたとは思えないすごい動きのアニメーションは、天才の登場を予感させるに十分なものだろう。

 もうひとつ付け加えると、パイロット版のときからテクノっぽい打ち込みの音楽が使われていた『センコロール』は、最終的にニコニコ動画や初音ミクの界隈では超有名な音楽ユニットsupercellのryoが担当している。一般的にはほとんど馴染みがないアーティストだろうが、彼も完全にインディーの出自であり、無理矢理たとえるならギーク/ハッカーの集まりだったブラック・ドッグがプラッドになっていつのまにかビョークと共演したり映画音楽を書いていたみたいなものだろうか。最初は、この音楽がずっと鳴ってPV的な仕上がりかもと心配したが、4つ打ちのダンストラックは重要な一箇所でしか使われず、エンディングのヴォーカル曲も最近の邦画のとにかくタイアップで内容とはイメージあわなくても売れ線歌手を使わせるみたいなものにはない自然なマッチングだ。サラウンド環境のあるひとには、ふつうの映画よりかなり自由に音楽も効果音も配置した5.1chサウンドも楽しみのひとつだ。アニメは所詮全部虚構なのだから、このくらい思い切ったサウンドデザインをしてもいいと思う。

 シナリオ監修で本作に参加した作家の山下卓は、コメントで宇木監督と細田守を比較しているが、斬新なフィールや卓越した作画力を擁しながらも極めてオーソドックスな世界を描こうとしている『時をかける少女』(06年)や『サマーウォーズ』(09年)と本作は、たしかに類似点があるかもしれない。しかし、細田監督のフィルムが貞本義行という強力な絵描きの力で結実しているのと違い、宇木は自らキャラやメカを描き、動かしてしまうという点で別次元の可能性を秘めているとも言える。ベッドルームのクリエイターが大資本や大プロダクションと組んで急にスポイルされてしまうという事例もたくさんあるが、『センコロール』はさらなる革命の第一歩にすぎないと、そんな予感がするのだ。

パイロット版

トレーラー

渡辺健吾