ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Columns Electronica Classics ──いま聴き返したいエレクトロニカ・クラシックス10枚  | Alva noto、Fennesz、Jim O'Rourke
  2. Rashad Becker - The Incident | ラシャド・ベッカー
  3. Jane Remover - Revengeseekerz | ジェーン・リムーヴァー
  4. Stereolab ——日本でもっとも誤解され続けてきたインディ・ロック・バンド、ステレオラブが15年ぶりに復活
  5. rural 2025 ──テクノ、ハウス、実験音楽を横断する野外フェスが今年も開催
  6. Columns Stereolab ステレオラブはなぜ偉大だったのか
  7. interview with aya 口のなかのミミズの意味 | 新作を発表したアヤに話を訊く
  8. Ami Taf Ra ──新たに〈Brainfeeder〉に加わったアミ・タフ・ラ、新曲はカマシ・ワシントンがプロデュース
  9. caroline ──まもなく2枚目のリリースを控えるキャロライン、ついに初来日が決定
  10. Shuta Hasunuma ──蓮沼執太フィルがブルーノート東京での2年ぶりとなるコンサートを発表
  11. interview with Nate Chinen カマシ・ワシントンの登場が歴史的な瞬間だったことは否定しようがない | 『変わりゆくものを奏でる』著者ネイト・チネン、インタヴュー(前編)
  12. Hüma Utku - Dracones | フーマ・ウツク
  13. Mark Turner - We Raise Them To Lift Their Heads | マーク・ターナー
  14. interview with Mark Pritchard トム・ヨークとの共作を完成させたマーク・プリチャードに話を聞く
  15. 別冊ele-king 渡辺信一郎のめくるめく世界
  16. DREAMING IN THE NIGHTMARE 第2回 ずっと夜でいたいのに――Boiler Roomをめぐるあれこれ
  17. Columns 特集 エレクトロニカ“新”新世紀
  18. Columns ♯13:声に羽が生えたなら——ジュリー・クルーズとコクトー・ツインズ、ドリーム・ポップの故郷
  19. Columns Electronica “New” Essential Discs ──エレクトロニカの“新”新世紀、シーンを書き換える16枚の注目作  | NHK、Actress、Holly Herndon
  20. caroline - caroline | キャロライン

Home >  Reviews >  DVD+BD Reviews > さかもと しょうた- THE DVD

さかもと しょうた

さかもと しょうた

THE DVD

DE-FRAGMENT

野田 努 Jan 08,2010 UP

 デ・フラグメント=断片化を阻止する......時代に反抗的な、こんな大きな野心を込めた名前を持つ大阪のレーベル(neco眠る、ズイノシン、ボガルタなどのリリースで知られる)から2009年にリリースされたDVD。さかもとしょうたなる映像作家による作品集で、neco眠る、ボガルタ、オーディオ・フード、トリオ・ロス・ヘグシオ、KINKI KIKKIらの音楽をバックに映像を付けた5作品をはじめ、他10編以上の映像作品(主にアニメ)が収録されている。多くが底抜けにバカバカしく、呆れかえるほどナンセンスで、ところがさりげなく毒を放ちながら、しかもまったく笑える。そしてそのすべてがこの国のエキゾティズムをあぶり出している。

 "ENGAWA DE DANCEHALL"はneco眠るの演奏に乗って、江戸時代の町民と農民の踊りをキングストンのダンスホールへと繋げる。"メッ政治"は、ボガルタの演奏とともに、ヤンキー(暴走族)とヘヴィメタとアニメとゲームが渾然一体となって、この国のB級サブカルを思う存分に賞揚する。"dumdumdum"は、オーディオ・フードのダンス・ミュージックとともにNHKみんなの歌のアシッド・ヴァージョンを展開する。"SUMO"は京都の幻のバンドだというトリオ・ロス・ヘグシオの演奏をバックに、実写を使ってスラップスティック風に青春ドラマのゲイ・ヴァージョン(らしきもの)を披露する。"スバルSTYLA"は、KINKI KIKKIによるヒップホップとその壮絶なパロディで、今回の作品集のなかでは確実にベストのひとつだ。人びとが寛容に、この冗談を理解することを祈る。他にも、高校球児と応援団長とヤンキーと秀才が登場するアニメ"野球ドラマー"、Jポップを小馬鹿にしているとしか思えない"もちおフレンド"等々、愛と毒に満ちた作品が続く。

 初期の作品集も押し詰めているために、ぜんたいで70分もあり、すべてを通して観るのは少々根気がいるだろう。それでもここに収録されている半分以上は注目に値する。好き嫌いは分かれるかもしれないが、彼のバカバカしさにはそれなりのリスクがある。それは人畜無害なお笑いとは一線を画するもので、ある意味ではモンティ・パイソンにも通じる危険な因子が潜んでいるのだ。要するに彼の作品はカリカチュア(風刺)であり、モチーフすべてはこの国の文化にある。そしてそれらはときにえげつなく、ときにドープに、ときにアシッディに、ときに気色悪く、ときに奇怪に描かれている。観ている者は笑いころげ、そして笑いの果てに己の姿を見るという仕組みである。が、しかし......重要なのはそのすべてに温かい眼差しが注がれていることなのだ。

 とにかくこれは、この国のアニメ文化に落とされた火薬......というよりもネズミ花火のようなものである。可愛らしいが、間違えると怪我をする。

野田 努