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暇をセレブレートするための5枚

暇をセレブレートするための5枚

渡部政浩 Aug 30,2021 UP

 音楽を含めたエンターテインメントはたぶん無駄で、意味のない、そしてひまなひとのものだと。だからこそ僕は音楽が好きなのに、いまはそれを楽しむにしても相応の理由が要求され、他方で某企業は「暇は犯罪です」と言っている……。そういう世の中の流れは悲しくすこし怖いとも思う。坂本慎太郎は「役に立たないものが存在できない世界は恐ろしい」と言ったが、まさにいま、役に立たないものがなぜ必要なのか? を突きつけられている。とまあ、シリアスな話になってしまったが、そんな昨今の流れで「いま聴くべきダンス・ミュージック」を紹介しようと思う。僕は役に立つと思って、意味を求めて、ひまを無くすためにダンス・ミュージックを聴こうと思ったことはいちどもないし、むしろ無駄、無意味、暇、それらをぜんぶおう歌するために聴いているのだ。意識したわけではないけれど、イヤホンではなくどれも巨大なスピーカーを通して聴きたくなるような音楽が並んだが、それは僕の気分でもあり、同時にこの状況下におけるアーティストやDJたちのフロアに対する渇望があらわれているのかもしれない。ひまや無駄をセレブレートできるひとならば、以下に紹介する音楽たちをぜひ聴いてほしい。


Disclosure - Never Enough EP Universal

 ポップスのフィールドで大成功を収めているUKのローレンス兄弟だが、主要なインスピレーション元であるフロアへの目配せも忘れないところが心憎い。2018年にゲリラ的にリリースした5曲入りのEP「Moonlight」では、ジャズのサンプリング、あるいはソウルのリエディットなどを取り入れた丁寧で踊れる楽曲が並んでいたが、このEPでも彼らは同じようなことをしている。つまり、そこにアメリカのポップスターのフィーチャリングはひとつもなく、4つ打ちを基調とするフロア志向の楽曲があり、そのどれもが彼らのスタジオ・ワークによってのみ繰り出されるサウンドなのだ。「最初にクラブに戻れた瞬間に聴きたいサウンドは?」「グラストンベリーで午前2時にシャングリラにはいるときの気持ちは?」「レディングでヘッドライナーを務めるのはどんな気持ちだ?」、そんな問いかけをしながら制作されたという。ああ、僕は “In My Arms” や “Happening” をクラブ、あるいはフェスで聴いてみたい。


Y U QT - U Belong 2 Me (Piano House Mix) South London Pressing

 希少なダブプレートをふんだんにスピンした『FACT』でのミックスから、ヴァイナルへのストイシズムをむんむんと感じさせるロンドンはリズ・ラ・ティーフによるレーベル〈South London Pressing〉からのリリース。Y U QT による “U Belong 2 Me (Piano House Mix)” は、サマー・アンセム・ヴァージョンとでも形容したくなるようなヴァージョンのミックスで、原曲はUKガラージだが、このミックスでは豪華なストリングスとともに4つ打ちが絡み合いながらピアノが重ってゆく、王道なハウスを展開。このほかにも “4×4 Mix” と、すこしあとに “Homeless Dub Mix” がドロップされたが、圧倒的にこの “Piano House Mix” が最高。ロンドンのクラブ再開に合わせてのリリースは、「夏のダンスに備えろ」というメッセージに思えてならない。


DJ ADHD - Vortex EP Pretty Wired

 インスタグラムにおける現在のフォロワー数は600人(どんどん増えている)ほどで、まだ謎めいたダークホースかと思ったが、すでにフローティング・ポインツ、D-ブリッジ、ハドソン・モホークやダスキーといった面々にプレイされているようだ。ベアリー・リーガルことクロエ・ロビンソンが運営する〈Pretty Wired〉からのリリースで、レーベル名からもおわかりの通り “かなり変” なダンス・ミュージックに仕上がっている。止まったかと思えば突如として落ち着かないビートが再び展開する “Blem” がいちばんのお気に入りだが、UKファンキーめいたリズムが鳴らされる “Wobble” も外せないし、ベース・ヘヴィーな “Vortex” も……まぁ、すべて間違いのないクオリティということ。DJ ADHD を筆頭に、ベアリー・リーガルによる〈Pretty Wired〉周辺には気になる才能が集まっているので、まとめてチェックしておこう。


Willow - Workshop30 Workshop

 ドイツはロウテックとエヴェン・トゥールによって設立された〈Workshop〉、まずカタログのほとんどがナンバリング・タイトルにスタンプ・ラベルというシンプルなスタイルに僕は惹かれたが、その内容もご多分に漏れず素晴らしい。マンチェスターを拠点とするウィロウことソフィー・ウィルソンはすでに『Workshop 21』や『Workshop 23』(ムーヴDによって見いだされた)で登場しているが、今作『Workshop 30』は実に5年ぶりのカムバック。“Sexuall” における怪しげなヴォーカル・サンプルと不気味なコード、そして背後でまとわりつくように鳴らされるパーカッションはこのEPのムードを要約しているように思う。どこまでも反復されるハウス~テック・ハウスで、山場のようなものはないが聴いているうちに不思議な陶酔感をもたらしてくれるようなサウンド。また、アリーヤのサンプルを取り入れた “Strawberry Moon” はビートのアレンジメントがすこし跳ねるような感じでこれも面白い曲だと思った。というわけで僕はA面よりもこれらB面2曲のほうが好みだな。


Sia – Little Man (Exemen Remix) Long Lost Brother

 最後に新譜ではないが紹介させてください。原曲はグラミーも受賞するオーストラリアのポップスター、シーアによるものだが、これを2ステップ~UKガラージにおける重要人物のウーキーが、その弟とのデュオ・プロジェクトであるエクセメンとして最高のUKガラージ・チューンにリミックス。原曲にあるスムースなムードは鳴りを潜め、このジャンルのシグネチャーといえる独特なビートとスティール・パンめいた音などを追加した至高のアンセムに仕上げている。この手のサウンドを通ったひとならば誰もが愛するクラシックがおよそ20年ぶりにリプレスされたのだから、聴き逃すわけにはいかない。いつ鳴らしても色あせない素敵な響きを持っているので、1家に1枚置いておくべき12インチとして、ぜひどうぞ。

渡部政浩