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♯17:もしもパンクがなかったら

♯17:もしもパンクがなかったら

——その基礎知識と『パンク50周年記念号』刊行のお知らせ

野田 努 Sep 29,2026 UP

 以下、『パンク50周年記念号』の基礎知識として、必聴名盤をいくつか紹介しておきたい。
 というかじつはこの原稿、ほんとうは特集のために書いていたものだった。ページ数が足りずに入らなかったので(泣)、未完成の粗稿に若干の修正を加えた形でここに公開します。特集号と併せてご高覧ください。
 こぼれているものもある。ただ、ここに挙げたものに関しては、誰もが認めてくれるだろう。

■ウォームアップ(青写真たち)

The Modern Lovers
The Modern Lovers

(1976)
毒を抜いたヴェルヴェット・アンダーグラウンドが、じつに魅力的なロックンロール・バンドであったことを証明した、ジョナサン・リッチマンが率いたバンド。1972年、ジョン・ケイルのもとで録音されたこのアルバム(デモ音源集)は解散後の1976年にリリースされた。とくに坂本慎太郎のファンは聴いておくべきだろう。なお、このバンドのギタリストは解散後トーキング・ヘッズに加入している。

Iggy and the Stooges
Raw Power

(1973)
パンクの季節に向けて準備完了といったところ。J・G・バラードの小説世界のように、世界が滅びていくことが、人間の精神にとって究極の救済とでも言わんばかりの、倒錯した美学。「俺は世界に忘れられた少年。探してやる、破壊するためだけに」( “Search and Destroy ” )。「病んだ少年よ、病んだ少年よ、残酷になる方法を学べ」(“Death Trip”)。「俺の夢には何もない。ただ醜い記憶だけ」(“Gimme Danger”)


The New York Dolls
New York Dolls

(1973)
プロデュースしたトッド・ラングレンいわく、チューニングさえあやしいゴミのようなロック・バンドを褒めるには、洗練された耳が必要である。特集では複数の人たちがフェイヴァリットに挙げているが、リアルタイムではもっとも嫌われたバンドだった(『Creem』の読者投票でワースト1位、初英国ツアー時にはロック紙の読者覧をアンチの手紙で埋め尽くした)。まあ、だからこそマクラーレンは支持し、プロト・パンクのひとつになりえたのだろう。そのアドロジニーと生々しいロックンロールは10代だったモリッシーの人生を変えてもいる。ぼくは今回すごい発見をした。ドールズがレコード・デビュー前に演奏した場所に、〈コンチネンタル・バス〉がある。そう、ここは、若きラリー・レヴァンとフランキー・ナックルズが働いていたゲイの発展場なのだ。これをもってパンクとディスコは本質的なところで繋がっているとするのは早計かもしれないが、ぼくはそう考えている。

Patti Smith
Hey Joe / Piss Factory

(1974)
極論として言うが、1万円払ってでも入手したほうがいいシングル盤。 10代のときの工場労働の体験をもとにした曲“Piss Factory”にはこんなフレーズがある。「ああ、ここでラジオが聴けたらいいのに。ジェイムズ・ブラウンの“Lost Someone”、ザ・パラゴンズとザ・ジェスターズ [*ともにドゥーワップ]、ジョージー・ウッズ[*黒人のラジオDJ]、そして“Guided Missiles”[*ドゥーワップ曲]」。ドゥーワップはガレージ・ロックの重要な影響源のひとつである。

Wayne County & The Electric Chairs
Fuck Off(7")

(1977)
元祖ロックンロールにおけるスカトロジー、その下品なブギウギ。ブルージーなピアノ(スクイーズのジュールズ・ホランド)とギターが格好いい。後半でスピードアップ。特集のなかで石原洋と中原昌也が絶賛を寄せる『1976 Max's Kansas City』の1曲目がウェイン・カウンティだった。曲名は “Max's Kansas City 1976” 。マクシズにしても、パラダイス・ガラージにしても、1970年代のニューヨークにはおそるべきアナーキーな場が存在し、革命的な音楽を発信していたのである。

Pere Ubu
30 Seconds Over Tokyo / Heart of Darkness(7")

(1975)
エレクトリック・イールズにロケット・フロム・ザ・トゥームズ——オハイオ州クリーヴランドこそ、真のプロト・パンク・シーンがあった街だと指摘したのはグリール・マーカスである。不穏で奇妙なノイズ、デイヴィッド・トーマスの虚無主義、掻き立てる不安。母国への憎悪。こういう曲こそ、時間が経てば経つほど、その光沢を増していく。曲名は、大戦中のアメリカ軍の日本への爆撃作戦のこと。なお、クリーヴランドからは のちにデッド・ボーイズ(パンクの疾走派、2枚で燃え尽きた)が登場している。

※青写真には、ほかにも、50年代のハードコアなロックンロール、『Nuggets』系のガレージ・ロック、ザ・フー、ローリング・ストーンズ(パンクは敵視したが、どう考えても影響を受けている。ストーンズなしにクラッシュはありえんでしょう)、キンクス、ヤード・バーズ(ほかブリティッシュR&B)、MC5(ザ・クラッシュの歌詞の面での教科書になったバンド)、キャプテン・ビーフハート、ザ・ドアーズ(ジョイ・ディヴィジョンの教科書)、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドからブルー・チアー、T・レックス、デイヴィッド・ボウイなど多数いる。

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