Home > Reviews > Album Reviews > Lorent Dent- Anthropology Vol.1
『アンビエント・ミュージック 1969-2009』(INFAS)が校了した後で、コップを使ったザッハ・ヴァラス『グラス・アルモニカ』やビリー・ゴンバーグ『コム』など悪くないアンビエント・アルバムのリリースは続いていたが、前者は同書で00年代屈指のアンビエント・レーベルとして紹介したつもりの〈インフラクション〉から90年代に揺り戻すかのようなバリアリック系へのヴェクトルを持ったセカンド・アルバム。悠然としていて厳か、あるいは幽玄的なスターズ・オブ・ザ・リッドを思わせつつ、その彼方にはニュー・エイジからの影響を隠さなかったグローバル・コミュニケイションもぼんやりと陰影をちらつかせているといった位置になるか。前掲書でも00年代に主流となっていったドローンやエレクトロニカ系の音から遠ざかりつつあるという含みを持たせて09年の代表作にはヘックスラヴをチョイスしたけれど、これもまたドローンからクロスオーヴァーを仕掛けている1枚といえ、時代が変化しつつあることを予感させる。重くなく、軽くなく、明るくもなく、暗くもない。それこそニュートラルとでも呼ぶしかないウォール・オブ・アンビエント・サウンドが少しずつ表情を変えていくだけ(つーか、なんで包み込まれるような音像のことをフィル・スペクターは「ウォール」に喩えたのかなー?)。
後者はスノウイフェクトやオリエンタル・ホームワードで知られる吉祥寺のレーベルからハロルド・バッドやドゥルッティ・コラムを思わせるポスト・クラシカルのデュオによる座禅系チル・アウト。ピアノとギターを基本に重くのしかかるような内面描写が続き、誰かに重大な秘密を打ち明けられて嬉しいような面倒くさいような......つーか。録り音は非常に綺麗でどこまでもみずみずしく、この季節に聴くといかにも冬景色といった感じです(夏に聴いたらどんな感じだったんだろー)? デザインも表側は寒々しく、内側はいかにも夏といった景色だったりするし、アンビエントというよりも心象風景音楽として申し分ない感じ。......さてと、マンガでも読むかな。沖縄を舞台にした『アンダーカレント』とか?
三田 格