ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Scanner & Nurse with Wound - Contrary Motion | スキャナー、ナース・ウィズ・ウーンド
  2. Swans - Birthing | スワンズ
  3. MOODYMANN JAPAN TOUR 2025 ——ムーディーマン、久しぶりの来日ツアー、大阪公演はまだチケットあり
  4. David Byrne ──久々のニュー・アルバムが9月に登場
  5. OGRE YOU ASSHOLE ──ファースト・アルバム20周年記念ツアーが開催
  6. interview with caroline いま、これほどロマンティックに聞こえる音楽はほかにない | キャロライン、インタヴュー
  7. Mars89 ──主宰レーベル〈Nocturnal Technology〉が初となるパーティーを開催
  8. Columns ♯10:いや、だからそもそも「インディ・ロック」というものは
  9. Young Gun Silver Fox - Pleasure | ヤング・ガン・シルヴァー・フォックス
  10. 忌野清志郎さん
  11. Columns Stereolab ステレオラブはなぜ偉大だったのか
  12. Beatie Wolfe and Brian Eno ──ブライアン・イーノとビーティー・ウルフのコラボレーション・アルバムが2枚同時リリース
  13. Rashad Becker - The Incident | ラシャド・ベッカー
  14. Koshiro Hino ──日野浩志郎による新作が独・Moers Festivalにて世界初演、日本公演も
  15. Laraaji ──ララージが6年ぶりに来日、東京・京都・札幌をツアー
  16. Columns 5月のジャズ Jazz in May 2025
  17. FESTIVAL FRUEZINHO 2025 ——トータス、石橋英子、ジョン・メデスキ&ビリー・マーティンらが出演する今年のFRUEに注目
  18. Honda Q ──降神作品への参加などで注目されたラッパーが13年ぶりのアルバムをリリース
  19. caroline - caroline | キャロライン
  20. 三田 格

Home >  Reviews >  Album Reviews > Alva Noto- For 2

Alva Noto

Alva Noto

For 2

Line

Amazon iTunes

三田 格   May 06,2010 UP

 90年代後半からノト名義でミニマル・ミュージックに手を染め、すぐにも実験的な体質を顕わにするようになったカールステン・ニコライは、いわゆるサイン波とパルス音の鬼と化し、00年代を通じてエレクトロニカからミュージック・コンクレートへの移行を促した重要人物のひとり。自身のラスター・ノートンから『プロトタイプス』(00年)でミル・プラトーへ移り、続いて01年にリリースした『トランスフォーム』ではリズム感でも優れたところを見せたにもかかわらず、そちらに歩を進める気配はなく、ミカ・ファイニオや池田亮司とのサイクロ、あるいはトーマス・ナック(元ジェイムズ・ボング!)とのオプトや坂本龍一とのジョイントを通じて試行錯誤の範囲をいまでも拡大し続けている。

 オピエイトとの『オプト・ファイル』(01年)など、彼の抽象表現のなかにはアンビエントへと向かう感覚もなかったわけではないものの、この方向性が全開になったといえるのが(テイラー・デュプリーの〈12K〉がサブ・レーベルとしてスタートさせた)〈ライン〉から06年にリリースした『フォー』からだった。トッド・ドックステイダーズとの共作で知られるデヴィッド・リー・マイヤーズ(アーケイン・ディヴァイス)まで借り出してきた〈ライン〉は、ミニマルを基調としてきた〈12K〉に対してサウンド・インスタレイションのレーベルとして位置付けられているようで、その筋の先駆といえるスティーヴ・ローダンからマーク・フェル(SND)のソロなど、抽象表現のセンスは非常に幅広く設定されている。つまり、レーベル・カラーがアンビエント表現へと誘ったわけではなく、彼の実験的な感覚が自然と辿り着いたものがそれだったということになるのだろう。しかも、『フォー』の翌年にはアレフ-1の名義でアンビエント専門のプロジェクトもはじめられ、サンプリング(=コピー)を主体とした『ゼロックス Vol.1』(07年)、『ゼロックス Vol.2』も同傾向の作品としてカウントすることができる。

 『フォー』から4年が経過した『2』は、ニコライ流の実験音楽がアンビエント・ミュージックの文脈に近接することで、まるでクラシック・ミュージックのような響きを帯びるに至っている(いわゆるクラシック・ファンには無理だろうけれど)。抑制されたシンセーストリングスや繊細で優しいメロディの繰り返しは即物的な音響表現がすべてだった過去とは(表面的には)まったく異質に感じられ、シルヴァン・シャボーやヨハン・ヨハンソンといった自意識の低いポスト・クラシカルとも距離を置いている。あくまでもエレクトロニカの発展形であり、その成熟したフォームといえる。この穏やかさは癖になる......『フォー』とは「葛飾北斎」や「ジョン・ケージ」などに向けられた「フォー」を意味していた(なぜかコイルのジョン・バランスまで含まれている)。『2』では、しかし、その対象は拡散し、完成度とは裏腹にこれといった焦点は持っていないようである。

 国内盤は『フォー』(06年)とのカップリングで〈インパートメント〉から。

三田 格