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"モグラ"のベースラインは、パレ・シャンブルグのミニマリズムを彷彿させる。ポスト・パンクにおける早すぎたベルリン・ミニマリズムのアイデアがファンキーに、そして諧謔的に展開されている。"オールモスト・ヒューマン"は初期のカール・クレイグを彷彿させるアトモスフェリックなイントロが印象的な美しい曲だ。ジャジーなベースラインを響かせながらスムーズにチルアウトな空間に連れていかれるが、彼らが歌うのは毒を含んだアイロニー。「鳥は自由だと人は言う/世界はただの鳥かご」......とふたりは流暢なハーモニーを聴かせる。"ミス"や"サウンドトラック・トゥ・マーダー"といった曲ではキャッチーなシンセ・ポップ(ヤマハのRX-5のドラム、コルグのモノポリーやポリシックス)を試みている。ロマンティックで陶酔的なエレクトロニックな響きのなかには深いメランコリー、そしてこれらにも突飛なイロニーが隠されている。
向井秀徳とレオ今井によるキモノスのデビュー・アルバム『キモノス』は、諧謔とエレクトロニックの素晴らしい賜物だ。僕はこの作品を本当に心から楽しんで聴いている。アルバムのひとつの特徴は、細野晴臣の"スポーツマン"のカヴァーが象徴している。「毎日心配/摂食障害/運動しよう/やる気がでない」......こうした日本のニューウェイヴが得意としたシニカルなユーモアはこの音楽のいたるところに散らばっている。ザゼン・ボーイズは「諸行無常」と「性的衝動」のふたつの言葉で日本の本質を捉えたものだが(この国の他の国には見られない巨大なピンク産業がそれをよく表している)、キモノスはもっとリラックスしている。基本的には親しみやすいし、ふたりが楽しみながらこのアルバムを作ったことがよくわかる。ディープ・ハウス調の"Yureru"における歌謡曲風のメロディにも、彼らが真面目に遊んでいる感んじがよく出ていると思う。
アルバムの最後"トーキョー・ライツ"はいわばヴェルヴェッツ・スタイルの曲だ。収録曲のなかで唯一ギターが前面に出ているこの曲は、モーリン・タッカー流のドラミングと一戦交えるように、レオ今井はエネルギッッシュに歌う。「東京電燈が僕をだます/綺麗な街だと思い込ませる」、ロンドンからやって来たこの青年は歌う。アルバムの1曲目の"ノー・モダーン・アニマル"は、ある意味ではアインシュテュルツェンデ・ノイバウテンの『半分人間』と電気グルーヴの"半分人間だもの"との溝を埋める作品だと言える。「俺は超アダルト/大の大人/なんだけどとっても子供っぽいのさ」......この言葉は自分たちにも向けられたモノなのか、これは肯定的なのか否定的なのか、明日のdommuneで訊いてみようと思います。夜の7時からです。遅れないように!
ちなみに、シングル・カットされた"オールモスト・ヒューマン"のハドソン・モホークによるリミックス・ヴァージョンがまた......酔っぱらったクラフトワークである。
野田 努