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Ghostface Killah

Ghostface Killah

Apollo Kids

Def Jam

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上神彰子   Mar 15,2011 UP

※読者へ

 最近遊びに行ったパーティでウータン・クランのハンド・サインを高々と掲げる20代前半の若者を目撃した。90年代に「ウータン旋風」を巻き起こしたニューヨークはスタテン島の実力派MC集団ウータン・クラン。カニエ・ウェストのような実験的なヒップホップが話題になっている2011年であるが、相変わらずウータン・クランのようなヒップホップも支持を得ているようだ。
 いや、ヒット・チャートをにぎわしているブラック・アイド・ピーズやピットブルのような、本来の姿とは異なった"ヒップポップ"音楽が、"ヒップホップ"音楽として世間で認知され大流行してしまっているからこそ、逆にウータンのような東海岸系がいま再び支持されているのかもしれない。パーティでDJがヒップホップを流しているにも関わらず、「ヒップホップをかけてください」とリクエストするという事件(!?)が起きる状状況は、ヒップホップ好きとしては正直イヤである。

 ウータン・クランのメンバー、ゴーストフェイス・キラーの本作品は、とくに目新しいことをしているわけではない。何か斬新なことをしているわけでもないのだが、とにもかくにもヒップホップ・ファンを安心させてくれる内容だ。相変わらずウィリー・クラーク、ロイ・エアーズ、ザ・イントゥルーダーズといった往年のソウルやファンクの名曲をサンプリングした楽曲を起用している。そしてアルバム全体に渡って、ブラックスプロイテーション映画を彷彿させるサウンドが展開されている。まるでバッドでピンプな格好をしたゴーストフェイス・キラーが、ジザ、キラー・プリスト、バスタ・ライムス、レイクウォン、メソッド・マンにレッドマン、シーク・ルーチ(ザ・ロックス)といったベテランMCたちや、ジョエル・オーティーズやジム・ジョーンズのような若い世代のMCたちとともにキャディラックに乗って街を疾走しているかのようだ。

 注目すべき曲は、ザ・ルーツのブラック・ソートを迎えた"イン・ザ・パーク"だ。あの頃は......と、ゴーストフェイス・キラーは曲のなかでヒップホップ創世記の日々を回想している。ブロンクスのブロック・パーティ、ザ・ファットバック・バンドのレコードや、地下鉄Dトレインのグラフィティ、アディダスのスニーカーなど当時のヒップホップ・カルチャーに関する小ネタを挟みつつ、「ヒップホップは公園ではじまったんだ。俺たちは真夜中にやっていた」というM.C.シャンの"ゼイ・ユースト・トゥ・ドゥ・イット・アウト・イン・ザ・パーク"のラインをサンプリングしたフックで、ギュンギュン鳴り響くギターの上で力強くラップしている。彼は昔を懐かしんでいるのではない。「俺たちはヒップホップのルーツをみんなに思い出させなきゃいけない! 俺たちの使命だ!」と、良き日々を忘れてしまったアーティストたちへ、またそれを知らない若者たちへ、「俺が知っているヒップホップはこういうものだったんだぜ!」というスタテン島仕込みのヒップホップ教育も含んでいるように思える。

 基本に立ち返っている姿勢を見せているのはゴーストフェイス・キラーだけではない。ウータンの他のメンバー、レッドマンも新作でクール・モー・ディーをフィーチャーし、ヴィデオでは太いゴールドチェーン、グラフィティ、ブレイクダンスなど昔ながらのヒップホップの要素を取り入れている。ここ数年、南部ヒップホップの勢いに押され気味なシーンにおいて、東海岸のベテラン陣も負けてはいられないという意地を感じる。それは、ヒップホップはニューヨークのブロンクスで生まれたんだぜ! という誇りを武器に、自分たちのヒップホップを取り戻そうという動きにもとれる。
 とにかく、バランスが良い作品である。ヒップホップについてラップもするが、難しいことを延々と説教臭くラップしているわけではない。セクシーなお姉ちゃんたちとセックスしたいぜ~ともラップするが、かといって銀行口座にいくら金があるか自慢してばっかりのラップでもない。DJプレミアが2010年度の年間アルバム・チャートで、本作品をナンバー・ワンに選んだことも充分に納得できる内容である。

上神彰子