Home > Reviews > Album Reviews > Rene Hell- The Terminal Symphony
ピート・スワンスンとのスプリット・アルバム『ウェイティング・フォー・ザ・レイディーズ』(これが良かった)に続いてジェフ・ウィッシャーによるリーヌ・ヘル名義の2作目。シークリット・アビューズの名義ではドローンに特化し、ここではクラウトロックを完全模写。前作『ポースレイン・オペラ』から大きく変わるところはなく、全体の構成や曲順の良さなどマトリックスとしての進歩を感じさせる。
オープニングの"チャンバー・フォルテ"は曲名通り無骨なインパクトを印象付け、続く"クワイエット・ディテイル・ミューズ"で弦楽の静けさと緊張感のなかへ。以下はいつものクラウトロックにクラシカルな風味を交えつつ、動と静を自在に行き来しながら"バロック・アンサンブル・コーダ"で最初のピーク・ポイントへ。単にクラウトロックを模倣するだけでなく、同時にクラウトロックの根底にはドイツに深く根付いたクラシック・ミュージックの伝統があることも意識させてしまうつくりが非常に光明時博士。あるいはノイエ・ドイッチェ・ヴェレへのベクトルが内包されていることも随所で示唆され、いつのまにかパレ・シャンブールの生誕に立ち会っているような気にさせるなどさまざまな音楽データを時系列に並べて(歴史の流れを把握しようというのではなく)いっきにアーカイヴ・リスニングが可能になったようなコンデンス・ミュージックの可能性。音楽的知識があればあるほどスリリングでクラフトワークをタンジェリン・ドリームなどでフィルター化して聴いているような"ジュリアード・Op.66"など奇妙な立体感が次から次へと立ち上がってくる。エンディングがまたとても柔らかくて美しい"アダージョ・フォー・ストリング・ポートレイト"(それにしてもジャケット・デザインがどことなくイタリアン・プログレの異端、デヴィル・ドールを思わせる......)。
また前作と同じくアナログ盤には『ザ・ヒルトン』と題されたボーナスCDがプラスされ、イーノ&クラスターを思わせる雄大なアンビエント・スケープから実験的な音遊びなど、実際のクラウトロックよりもそれらしいアプローチの曲がどれも優しい響きに包まれてアルバム・サイズで展開されている。電子の波に揺られているような"ベンディング"や重層的な展開を示す"サージェリー"など挑戦的な面では劣るものの、全体のまとまりはもしかしてこっちのほうがいいかも。
さらにトラッシュ・ドッグやラクー-ー-ーンなどに参加するドリップハウスことダレン・ホーと組んだワン・オフ・プロジェクトでも1枚限りだというアルバムをほぼ同時にリリース。これも基調はクラウトロック・リヴァイヴァルで、中期のクラフトワークを思わせるオプティミスティックなシンセ-ポップやアンビエントが4パターン。Bサイド全体を使った"モンテ・カルロ"では70年代後半によくあったダークでドラマチックなシンセサイザー組曲を再現され、どっちつかずの懐かしい気分にも......。
また、このふたりにブレンダ・オキーフを加えたキューティクルの名義でも(〈ノット・ノット・ファン〉傘下にLAヴァンパイアズことアマンダ・ブラウンがスタートさせたダンス・レーベル)〈100パーセント・シルク〉からEP「コンフェクショナー・ビーツ」を前後してリリース。"フレア"のような軽快で洒脱なエレクトロからクラウトロック・ディスコとでも称するしかない"ナーブス"まで幅広く手を広げている。リズム感は悪いものの、しかし、できてしまうんだねー、こういうことも......
太平洋プレートの揺れはこの先、確実にアメリカ西海岸にも伝わるといわれていて(昨2月チリ、昨9月ニュージーランド、3月三陸沖、9月? 10月?)こういった幸せなムードがいつまで持続するかはわからないけれど、音楽の波がそれよりもさらに高くあってくれることを願うばかり。
三田 格