ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. フォーク・ミュージック──ボブ・ディラン、七つの歌でたどるバイオグラフィー
  2. Pulp - More | パルプ
  3. Cosey Fanni Tutti - 2t2 | コージー・ファニ・トゥッティ
  4. Derrick May ——デリック・メイが急遽来日
  5. Theo Parrish ──セオ・パリッシュ、9月に東京公演が決定
  6. サンキュー またおれでいられることに──スライ・ストーン自叙伝
  7. Adrian Sherwood ──エイドリアン・シャーウッド13年ぶりのアルバムがリリース、11月にはDUB SESSIONSの開催も決定、マッド・プロフェッサーとデニス・ボーヴェルが来日
  8. Little Simz - Lotus | リトル・シムズ
  9. MOODYMANN JAPAN TOUR 2025 ——ムーディーマン、久しぶりの来日ツアー、大阪公演はまだチケットあり
  10. 〈BEAUTIFUL MACHINE RESURGENCE 2025〉 ——ノイズとレイヴ・カルチャーとの融合、韓国からHeejin Jangも参加の注目イベント
  11. Terri Lyne Carrington And Christie Dashiell - We Insist 2025! | テリ・リン・キャリントン
  12. interview with Rafael Toral いま、美しさを取り戻すとき | ラファエル・トラル、来日直前インタヴュー
  13. Swans - Birthing | スワンズ
  14. interview with caroline いま、これほどロマンティックに聞こえる音楽はほかにない | キャロライン、インタヴュー
  15. Columns 高橋幸宏 音楽の歴史
  16. Columns 高橋康浩著『忌野清志郎さん』発刊に寄せて
  17. DREAMING IN THE NIGHTMARE 第3回 数字の世界、魔術の実践
  18. GoGo Penguin - Necessary Fictions | ゴーゴー・ペンギン
  19. 忌野清志郎さん
  20. Columns 6月のジャズ Jazz in June 2025

Home >  Reviews >  Album Reviews > The Black Angels- Phosphene Dream

The Black Angels

The Black Angels

Phosphene Dream

Blue Horizon/Pヴァイン

Amazon

橋元優歩   Jun 17,2011 UP

 アメリカにはサイケデリック・ロックの広大な沃野があり、「サイケデリック・ロック」という言葉を狭義にとらえるならば......サーティーンス・フロア・エレヴェーターズやディープ/フリーク・シーンなど黎明期を代表するカルトなガレージ・サイケや、あるいはシルヴァー・アップルズなどの電子サイケ、メジャーどころではグレイトフル・デッドやジェファーソン・エアプレインらいわゆるシスコ・サイケのフォロワーたちとしてとらえるならば......現在でもじつに多数のバンド名を挙げることができるし、現地にはまだまだ数えきれないほど同種のバンドが存在するはずである。
 日本では何に相当するだろう、上方漫才とかだろうか? 歴史を更新するような方法の模索は薄いが、廃れることなく脈々とオリジナルの血を受け継ぎ、変わらぬファン層を抱えている。なかにはぴりっとしたバンドもいて、M-1グランプリの上位に入賞する、華やかでみずみずしいコンビのなかに混じった古風で高度な芸達者のように、ワールド・ワイドにフック・アップされたりするわけだ。ザ・ブラック・エンジェルズはまさにそうしたバンドの嚆矢である。

 ザ・ブラック・エンジェルズ。2004年、テキサス州オースティにて結成、バンド名の由来はヴェルヴェット・アンダーグラウンドの"ザ・ブラック・エンジェルズ・デス・ソング"。2005年にデビューEP、翌2006年にデビュー・フル・アルバムをリリースし、2008年にセカンド・フル、本作『フォスフィーン・ドリーム』は母国では2010年の9月にリリースされた3枚目となる。
 どの作品もそんなに変化はないが、すべて高水準、ヘヴィでブルージーなガレージ・サウンドには壮年のファンも膝を打つだろう。ただ今作ではフラワーなバッド・ヴァイブは和らいでいて、『ピッチフォーク』も指摘しているが"ハウンティング・アット・1300・マッキンリー"にはアニマルズの意匠があり、"イエロー・エレヴェーター・#2"はピンク・フロイドを思わせるオルガン・リフやゾンビーズ的なシークエンスを持ちあわせていて、多分にブリティッシュな品格を漂わせる音になっている。日本のファンにはこの作品がいちばん馴染みやすいかもしれない。
 よってこうしたバンドの作品については「どの曲が好きか」という語りに落ち着いてしまうのだが、これがまた難しい。どれもよいからである。というか、それぞれにいちサイケ・ファン、ないしは自らがサイケの偉大なる伝統の中のいち分子だというようなスタンスから作られていて、まるで歩くサイケ図鑑、どのページを繰っても様々な名盤の影が顕ちあがってくるのだ。そこで各楽曲の参照元を暴いたり、どのバンドのファンだということを述べあうことには私自身さほど興味がない。
 ただ、こうした音は時代の煽りを受けない。それは特筆すべき点である。いずれは消えてゆくポップ・ミュージックのいかなるムーヴメントにもない強度を持っている。そして完成度の高い、彼らのリスナーとしての知識の深さまでが偲ばれる音は、店頭演奏で必ずや多くの問い合わせを受けることになるだろう。いつの時代にも一定のファンがあり、それでなくても多くのバンドによって磨かれてきた方法の数々にはそれだけの遺産とポテンシャルがあるのだ。我々は"ハウンティング・アット・1300・マッキンリー"のファズに一発で心と身体をつかまれたり、表題曲のコズミックなサウンドに脳をとろけさせたり、"ザ・スナイパー"のスライド・ギターがつなぐブルーズとテックス・メックスに酩酊したりするだろう。それは約束されていたことでもあり、しかし卓越した技能によってこそ可能だったことでもある。
 プロデューサーはD.サーディー。ブラック・マウンテンやホーリー・ファックなどを手掛けるその経歴は、時代とサイケデリック・サウンドとの距離感を正しくつかむ人物なのだろうということをほのめかせる。アニマル・コレクティヴディアハンターアリエル・ピンクなどによって広げられてきた「サイケデリック」の今日的な意味や先鋭性のかたわらに、こうした伝統の継承者たちによる迫力あるパフォーマンスがあることをよろこびたい。

橋元優歩