ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. 別冊ele-king 日本の大衆文化はなぜ「終末」を描くのか――漫画、アニメ、音楽に観る「世界の終わり」
  2. Nídia & Valentina - Estradas | ニディア&ヴァレンティーナ
  3. Bonna Pot ──アンダーグラウンドでもっとも信頼の厚いレイヴ、今年は西伊豆で
  4. K-PUNK アシッド・コミュニズム──思索・未来への路線図
  5. Neek ──ブリストルから、ヤング・エコーのニークが9年ぶりに来日
  6. アフタートーク 『Groove-Diggers presents - "Rare Groove" Goes Around : Lesson 1』
  7. interview with Tycho 健康のためのインディ・ダンス | ──ティコ、4年ぶりの新作を語る
  8. Gastr del Sol - We Have Dozens of Titles | ガスター・デル・ソル
  9. Wunderhorse - Midas | ワンダーホース
  10. Loren Connors & David Grubbs - Evening Air | ローレン・コナーズ、デイヴィッド・グラブス
  11. ゲーム音楽はどこから来たのか――ゲームサウンドの歴史と構造
  12. Columns ノルウェーのオイヤ・フェスティヴァル 2024体験記(前編) Øya Festival 2024 / オイヤ・フェスティヴァル 2024
  13. Overmono ──オーヴァーモノによる単独来日公演、東京と大阪で開催
  14. KMRU - Natur
  15. Seefeel - Everything Squared | シーフィール
  16. Columns ノエル・ギャラガー問題 (そして彼が優れている理由)
  17. interview with Conner Youngblood 心地いいスペースがあることは間違いなく重要です | コナー・ヤングブラッドが語る新作の背景
  18. Black Midi ──ブラック・ミディが解散、もしくは無期限の活動休止
  19. ele-king Powerd by DOMMUNE | エレキング
  20. interview with Sonoko Inoue ブルーグラスであれば何でも好き  | 井上園子、デビュー・アルバムを語る

Home >  Reviews >  Album Reviews > The Black Angels- Phosphene Dream

The Black Angels

The Black Angels

Phosphene Dream

Blue Horizon/Pヴァイン

Amazon

橋元優歩   Jun 17,2011 UP

 アメリカにはサイケデリック・ロックの広大な沃野があり、「サイケデリック・ロック」という言葉を狭義にとらえるならば......サーティーンス・フロア・エレヴェーターズやディープ/フリーク・シーンなど黎明期を代表するカルトなガレージ・サイケや、あるいはシルヴァー・アップルズなどの電子サイケ、メジャーどころではグレイトフル・デッドやジェファーソン・エアプレインらいわゆるシスコ・サイケのフォロワーたちとしてとらえるならば......現在でもじつに多数のバンド名を挙げることができるし、現地にはまだまだ数えきれないほど同種のバンドが存在するはずである。
 日本では何に相当するだろう、上方漫才とかだろうか? 歴史を更新するような方法の模索は薄いが、廃れることなく脈々とオリジナルの血を受け継ぎ、変わらぬファン層を抱えている。なかにはぴりっとしたバンドもいて、M-1グランプリの上位に入賞する、華やかでみずみずしいコンビのなかに混じった古風で高度な芸達者のように、ワールド・ワイドにフック・アップされたりするわけだ。ザ・ブラック・エンジェルズはまさにそうしたバンドの嚆矢である。

 ザ・ブラック・エンジェルズ。2004年、テキサス州オースティにて結成、バンド名の由来はヴェルヴェット・アンダーグラウンドの"ザ・ブラック・エンジェルズ・デス・ソング"。2005年にデビューEP、翌2006年にデビュー・フル・アルバムをリリースし、2008年にセカンド・フル、本作『フォスフィーン・ドリーム』は母国では2010年の9月にリリースされた3枚目となる。
 どの作品もそんなに変化はないが、すべて高水準、ヘヴィでブルージーなガレージ・サウンドには壮年のファンも膝を打つだろう。ただ今作ではフラワーなバッド・ヴァイブは和らいでいて、『ピッチフォーク』も指摘しているが"ハウンティング・アット・1300・マッキンリー"にはアニマルズの意匠があり、"イエロー・エレヴェーター・#2"はピンク・フロイドを思わせるオルガン・リフやゾンビーズ的なシークエンスを持ちあわせていて、多分にブリティッシュな品格を漂わせる音になっている。日本のファンにはこの作品がいちばん馴染みやすいかもしれない。
 よってこうしたバンドの作品については「どの曲が好きか」という語りに落ち着いてしまうのだが、これがまた難しい。どれもよいからである。というか、それぞれにいちサイケ・ファン、ないしは自らがサイケの偉大なる伝統の中のいち分子だというようなスタンスから作られていて、まるで歩くサイケ図鑑、どのページを繰っても様々な名盤の影が顕ちあがってくるのだ。そこで各楽曲の参照元を暴いたり、どのバンドのファンだということを述べあうことには私自身さほど興味がない。
 ただ、こうした音は時代の煽りを受けない。それは特筆すべき点である。いずれは消えてゆくポップ・ミュージックのいかなるムーヴメントにもない強度を持っている。そして完成度の高い、彼らのリスナーとしての知識の深さまでが偲ばれる音は、店頭演奏で必ずや多くの問い合わせを受けることになるだろう。いつの時代にも一定のファンがあり、それでなくても多くのバンドによって磨かれてきた方法の数々にはそれだけの遺産とポテンシャルがあるのだ。我々は"ハウンティング・アット・1300・マッキンリー"のファズに一発で心と身体をつかまれたり、表題曲のコズミックなサウンドに脳をとろけさせたり、"ザ・スナイパー"のスライド・ギターがつなぐブルーズとテックス・メックスに酩酊したりするだろう。それは約束されていたことでもあり、しかし卓越した技能によってこそ可能だったことでもある。
 プロデューサーはD.サーディー。ブラック・マウンテンやホーリー・ファックなどを手掛けるその経歴は、時代とサイケデリック・サウンドとの距離感を正しくつかむ人物なのだろうということをほのめかせる。アニマル・コレクティヴディアハンターアリエル・ピンクなどによって広げられてきた「サイケデリック」の今日的な意味や先鋭性のかたわらに、こうした伝統の継承者たちによる迫力あるパフォーマンスがあることをよろこびたい。

橋元優歩